ダンジョンに英雄を、伴侶を、名声を、正義を、混沌を。果ては出会いなどを求めるのは間違っている   作:七海香波

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 たまには平日の更新です。
 今週もあと一日、頑張っていきましょう。


リヴィラの街

 

 ――それは別に懐かしくもない、クレスの記憶の中の話。

 かつての人の時代、『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』が『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』と呼ばれるより遥か前。

 彼がまだ、テラティアリエの姓を名乗っていた頃のこと。

 

 この『モンスターが自然発生しない』特性を持つ迷宮(ダンジョン)第18階層に人類史上初めて到達した彼は、更に深く潜るための中継拠点として一軒の掘っ立て小屋を築いた。

 初めは独りで――正確には『精霊』も連れていたが――地上から建築資材を運び入れる彼の『酔狂』を笑う民衆ばかりだったものの、時が流れるにつれて後続の『傭兵』たちが現れるようになると、彼らは真面目な顔でクレスに一言断ってから、次々にその小屋の近くに彼の構築した輸送ルートを使って自らの拠点を拵えていった。

 更には取引所、管理組合、食事処、教会等々……様々な社会的要素が加速度的に構成されていき、やがてギルドの前身による投資も加わって、その場所は一つの街と呼ばれるまでの規模に発展した。

 それから幾つもの変遷を経て、その街は今、『リヴィラの街』と呼ばれるまでに至る――。

 

 

 

 

 

「……さて、換金所は何処だ?」

 

 手始めにここまで集めてきたモンスターの素材や魔石を手っ取り早く処分するべく、クレスは街中に当然設置されているであろう換金所を探す。

 看板こそないが、それらしい店はすぐに見つかった。

 禿頭の男性が勤める、分かりやすく売り物(サービス)を表に見せていない店。

 何かを売るそぶりを見せていないと言うことは、つまり何かを買い取る場所であるということだ。

 

「素材と魔石の引き取りを頼む」

「……売りたいものは全てカウンターに出せ」

 

 売られた喧嘩は全て買う、とばかりに顔を合わせたモンスターをほぼ全て屠ってきたクレス。

 それなりの量が素材・魔石構わず雑多に詰められた荷物袋の中身をひっくり返してカウンターにぶちまけると、どしゃり、と良い音が鳴った。

 しかしそれを一瞥した店主は、気に入らなそうに鼻を鳴らした。

 

「フン、二束三文だな。ここじゃ『上層』の素材なんざ有り余ってるんだ」

「だろうな。俺も値段に文句をつけるつもりはない、邪魔な荷物を処分できればそれで良い。で、いくらだ?」

「ちっ……まあ、しめて300コルだな」

 

 ――バベルの換金所に行った方がまだ儲けが出るだろうが、どうする?

 確かめるようにじろりと睨みつけてくる店主にクレスが文句なしに頷くと、彼は嫌そうな顔をしながらも奥から引っ張り出してきた埃塗れの貨幣をクレスの手に握らせた。

 

「言っとくがな、ウチの店はゴミ箱じゃねぇ。次からはもっと価値のあるモンを持ってくるんだな」

「善処しよう」

 

 手に入れたコルを懐に入れ、肩が軽くなったクレスはそのまま宿を探すついでに現代の『リヴィラの街』を探索する。

 冒険者の街らしく、そこには冒険者が必要とする全ての要素(サービス)が詰められていた。

 酒場があり、鍛冶屋があり、商店がある。

 薬屋があり、魔道具屋があり、情報屋がある。

 ――そして、「どれも質の割に値段だけがバカ高い」というのが彼の感想だった。

 一時期は冒険者を護衛に雇った地上の商会が店舗を出張させていることもあったらしいが、今はそういうこともなくなったようで、腕自慢の冒険者たちが見た目を真似ただけのサービス擬きが横行している様子だ。

 一目見ただけで分かる。

 水で薄めたエールや回復薬(ポーション)、誰かの遺品らしき傷だらけの剣や鎧、賞味期限の切れかけた食べ物のビン詰め……そういったものが、地上の何倍もの値段で平然と並んでいる。

 紛れもないぼったくりばかりだが、商売が成立している以上、需要はあるのだろう。

 

 彼はここで何かを購入する気にはなれなかったが、それでも見ていて思うところはあった。

 

「……平穏も過ぎればこうなる。競争がないのも考え物だな」

 

 ――『良くも悪くも世界は変わり続け、動いていく』とはよく言ったものだ。

 クレスは知り合いの女魔法使いの弟子の言葉を思い出し、ぼそりと呟く。

 長い年月を生きる彼だからこそ、その変化の良し悪しを俯瞰して判断することが出来る。

 過ぎた平穏による停滞、過ぎた競争による激変。

 いずれも程々に持てばいいものを、人々は常にどちらかの両極端に偏りがちだ。

 今のリヴィラの街はどちらかと言えば、前者の悪い方向へと動いているように見える。

 この様子では、彼らがクレスの進行速度に追いつくのはまだまだ先のことになるだろう――。

 

「俺には出来ないが、もしもお前が生きていたら。今のこの街の光景も楽しめるのか? なあ、フランメ」

 

 街の様子見を終えた彼は、適当に見つけた岩窟内に部屋を設けている形式の安宿を選んだ。

 大人しく最低等質の藁のベッドの上に寝転がって、外套を毛布代わりにして早々に眠りにつく。

 モンスター相手に苦戦こそしなかったものの、実のところ彼の身体はこの階層に至るまでに相当に疲弊していたのだった。

 精神力(マインド)の回復も悪く、入り組んだ地形を超えてきたせいで節々が痛みを訴えている。

 それは表には見えない、常人の身体を見誤った彼の失敗であった。

 本来なら三日四日かけなければならないはずの道程をわずか一日で踏破してしまった、経験に頼り過ぎてしまったが故のペース配分の過ち。

 その反省を心に刻みながら、半ば気絶するようにして、彼はこの日の自らの意識を夢の中へと落としていくのだった――。

 

 

 

 

 

 ――夢を、見た。

 過去を思い起こさせる現実に、彼の記憶を司る脳細胞が触発されたのか?

 当時の光景が、妙に鮮明になってクレスの無意識の中に投影される。

 

 迷宮(ダンジョン)の中に初めてとなる『街』が出来た……そこまでは、順調だったのだ。

 

 だが、小さくとも『社会』が生まれたのなら。

 そこに『格差』が芽生え、『権力』が花開き。

 やがて真っ赤な『政事』の果実がなることは、歴史に向ける目を持つ者ならば皆が知る通り。

 

 人類の春を示す相互扶助の地であったはずの『街』は、いつしか当初の目的から離れて、政争と粛清が吹き荒ぶ厳冬に鎖された。

 引き起こされる数多の惨劇と、語るに悍ましいその顛末。 

 今では優に300回を超えるという、この地の偉大なる再建築の歴史。

 その前に訪れた無様なる(・・・・)299弱の崩壊のうち、実に半数以上が、『同じ傭兵/冒険者の手によって引き起こされた動乱』である事実。

 それを覚えているのは、彼を含む当時から生きている者たちだけ。

 

 やがてその中で立ち上がったリヴィラ・サンティリーニという冒険者の()に終わる一つの『英雄譚』を以て、古の住人たちはようやく自らの罪を知り、その戒めを以て、以降この地を『リヴィラの街』と呼称するに至ったのだと、その時には既に『街』を捨てていたクレスは後に風の噂で聞いた……。

 

 ……とはいえ、当然のことながらその人々の殊勝さも長続きすることはなく。

 彼の経験上、おおよそ人類は世代を二つ進めるごとに『血肉によって得た学び』を『古紙のインク染み』へと変えていく。

 この地が『リヴィラの街』となってからも、彼が勝手に呼んでいるところの『平穏期』と『動乱期』の季節は度々繰り返されている。

 

 今がその『動乱期』の時期(サイクル)でないのは幸いだった、とクレスは微睡の中に思う。

 なにせそういう時は決まって必ず、周辺の柵に元の形の分からない死体(にくかい)がかけられていたり、鼻をツンとつく紫やら黒やらの呪詛薬物(カース・ドラッグ)の澱んだ煙が薫ってきたり、何処からか誘拐されてきた哀れな『恩恵なし(どれい)』たちの競り(オークション)が下卑たヤジと共に公然と行われていたりしていて、ロクに休むことも出来ないのだから……(※実体験)。

 

 

 

 

 

 その翌朝。

 

「――人殺しだ!」

 

 不愉快な目覚ましによって瞼を開いたクレスは、目をしょぼしょぼとさせながらむくりと起き上がった。

 やけに宿の外が騒がしい中で朝の支度を済ませ、「何事か」と宿の外に出て状況を把握しようとする。

 しかし、何故か大勢の人々が入り口を取り囲むように塞いでいるせいで外へ出られない。

 

「なんなんだ、いったい……?」

「――あ、貴方はあの時の!」

「……む」

 

 その時のクレスの顔は、彼の姿を見つけたエルフの少女曰く。

 「とても機嫌の悪そうな、寝覚めの悪かった時の顔」をしていたのだとか……。

 

 




 なんと、本日ようやくこの作品初めての評価☆0がつきました。
 「流石に原作無視しすぎ」とのことです。少し前にR-15タグの付け忘れで運営様に怒られちゃいましたが、今回はちゃんと元からつけてたタグ君が活躍出来たようで満足です。
 立華薫さん、貴重な☆0をありがとうございました♡
 ……むしろなんで50話超えるまでつかなかったのか、作者には分からないよ。
 そして気づいたけど、いつの間にかもう50話超えてたことにも驚きですよ。

《Tips》
・『天使の血(エンジェル・ブラッド)』事件
 一時期『リヴィラの街』に流行った、オラリオ外の違法薬物『天使の塵(エンジェル・ダスト)』にまつわる事件。
 『神の恩恵(ファルナ)』の対毒スキルを超える強力な覚醒作用を持つために低レベル帯の冒険者を中心として愛用されたが、例にもれず中毒を引き起こす作用も持っており、更にその服用者の末路は死を迎えると同時に黒い粉塵(・・・・)になって散ってしまうという最悪なものだった。
 その根絶を成し遂げた当時の顔役は「売人だろうと服用者だろうと発覚次第、裁判にかけるのを待たずに〇す」という徹底的な施策で以て見事『天使の塵(エンジェル・ダスト)』の排除を成し遂げたという。
 クレス曰く「かつてウルサス帝国において、劣悪な源石(オリジニウム)加工場で働く労働者たちが学を持たずして偶然生み出した薬でもなんでもない粉末」とのこと。

今後の展開どうするべ?(参考程度に)

  • ①本編にちまちま関わる
  • ②これまで通り『深々層』攻略
  • ③ファミリアクロニクル:クレス
  • ④カオス・レコード
  • ⑤迷宮神聖譚:『冥洞一灯伝』
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