Trueエンド1、オズの魔法使い、幸福な王子のネタバレを含みます。
ねえ、あなた。アタシの声はもう聞こえないあなた。
心の片隅に思い出を置いていて、なんて言ったけれど。
アタシは出来ればずっと憶えていて欲しかった。
人形ってそういうものでしょう?
誰かに愛されて。
誰かに大事にされて。
誰かに必要とされて。
ずっと、ずっと一緒に居たいって言うのは。
心あるものにとって、当然の事じゃないかしら?
でもね、わかってもいたの。
心あるものは、心があるからこそ。どこかに心を移すこともある。
あの小さな、アタシとあなただけの子供部屋で、あなたが教えてくれたみたいに。
アタシが可愛くて綺麗な心ある理想の姿で、あなたを好きになったみたいに。
何時かは、どこかに心と時間を傾けるものだって、わかっていたの。
誰かを愛するからこそ。
誰かを大事にするからこそ。
誰かを必要とするからこそ。
ずっと、ずっと一緒には居ると言うのは。
心あるものにとって、難しい事なのよね。
そんなことに、自由を縛って、未来を奪って。あなたを閉じ込めてから気が付くだなんて。
心と言うものは本当に、ままならないものよね。
ね。おぼえてる? アタシとあなたの部屋にあった本棚のこと。その中にオズの魔法使いがあったけれど。
心が欲しいブリキの木こりが登場するじゃない。
彼も、勇気が欲しいライオンも、知恵が欲しいカカシも。本当に欲しいものは自分の中にあったんだ! って冒険の中で気が付く。
アタシとあなたの部屋は、アタシにとっての冒険だった。
最初からわかっていた、誰かに愛されたいという気持ちを満たす冒険に出るための、小さなボトルシップだった。
その冒険の中で、誰かじゃなくてあなたに愛されてよかったと思えたのは、一番の幸運……いいえ。あなたが例えみせかけでも、優しく愛してくれたからだわ。
だから。その後にアタシは燃えても良かったのよ。
火は怖いわ。
刃は怖いわ。
牙は嫌いよ。
だけど、あなたに愛されていたから。あなたを、愛しているから。
その思い出を抱えていくのなら。幸福な王子みたいに鉛の心臓が残せなくたって、本当に良かったのに。
汚い袋の中で、そっとその時を待っていたって、良かったのに。
あなたは、アタシを見つけてくれた。独りでは立てないアタシを繕って、治してくれた。
その事がどんなに嬉しかったかを、もう伝えられないのが本当に口惜しいわ。もう、あの部屋には行けないし、行こうとも思わないけれど。それと、もう一つの言葉は伝えたかったわ。
ねえ、あなた。アタシの声はもう聞こえないあなた。
今ならきっと、この声が聞こえると信じて言うのだけれど。
いってらっしゃい。
●
あなたはその懐かしい声に振り向いた。
そこには、かつてぼろぼろだった人形。丁寧だけど少しツギハギと、違う縫い跡が目立つ、可愛らしい人形。部屋の真ん中、どこでも見渡せるようにと置かれた、小さな子供部屋の人形。
ショーティカ。幼心の君。或いは。
そこまで考えて、あなたは、彼女に微笑みを向けて。
行ってきます、と言った。