【※】独自解釈しか含みません!森羅万象を許容する心でご閲覧下さい!
─────願わくば、閉じて開いた対称の輪郭が、鮮やかであらんことを。
絶対ね
「開けるわ」
「ちょっと?」
遊び仲間である長友千果と売り言葉に買い言葉のノリで登ってきてしまった山。ペラペラと言い合いながら山頂近くにあったボロボロの祠まで辿り着き、折角だしお参りするかあって話になり。
腰辺りの高さにある祠の前で屈むと、周囲に賽銭箱みたいなものは見当たらない。この中か? と観音開きの小さい扉を開けてみることにした。しかし、中にはボロい札が貼ってあるだけだった、なんやこれ。
「え開けたの!?」
「いや中にそういうのあるんかなて思て……そら折角扉あるんやから開けてみるやろ」
「いやいやいやいやそれ開けちゃダメな奴でしょ!」
「何で開けたらあかんねん! あーノック? ノックしてから開けろとかそういうこと?」
「あー知らないからね! あーあ、あーあ!」
オカルト地味た体験を何回か経験しているからか元からかは区別はつかないが、やたらとうるさい。
結局千果がビビっているようなことは何も起きないまま、登山しましたよ報告の写真を撮り、同じ大学の友人である亜門に送る。
山頂まで大した距離もなかったため、二時間間隔で来ているバスが来るまでまだ一時間以上ある。が、千果が動きたくないと言うのでそのままバス停まで降り、一時間近くを適当な雑談で時間を潰すことになった。
そうして、帰りのバスがきた。行きが二人しかいなかったから当然のことだが、帰りも二人しかいない。Suicaを通して運転手さんに目礼をして、後ろの方の席に腰を下ろす。
「あーでも何だかんだ動いたくね? 疲れたんだけどあたし」
「1時間バス停で座りっぱなしで何処に疲れが溜まるねん。行き30分帰り30分待ち1時間やで?」
「うざ、むしろ登山して疲れてるあたしの方が健康的じゃない? ま帰ったら倫太郎さんのおいしーい手料理食べれるらしいし楽しみにしてますけど〜」
「……やから、別に料理自体はしますけど? でも何か意味わからん条件を付け足すから俺も頷けなくなっとるの分かる?」
「はい? 条件ってもしかして不味かったら許さないって奴? いや料理美味しく作るのなんて普通でしょ何でそれが駄目なワケ?」
「個人の価値観やん旨い不味いは! そんで俺と千果の旨い不味いは違うやん!」
「は? あたしいっつも美味しい料理作ってあげてるじゃん! だったら同じように作ればいいじゃん!」
「同じように作れるなら俺は味覚音痴じゃないのよ!」
「いや待って、じゃあ逆にね? 逆に聞くけど、何をどうする料理出すつもりだったん? てかそもそも倫太郎あたしが料理しないとき何食べて暮らしてんの?」
「……セブンプレミアム」
「あっははは!」
「お前セブンプレミアム馬鹿にすんなや!」
「いや、馬鹿にしてませんけどぉ? 美味しいよね、いやあたしもたまに買うよチーズハンバーグとか」
「なら文句ないやんけ」
「……え今理解遅れたんだけどあたしに提供しようとしてます?」
「は? お前今旨い言うたやんけ」
「え? いやいやいやちょっと待ってマジで引いてるんですけど! え? 今、いや倫太郎の手料理食べたいなあって言ったよねあたし? 手料理食べたいって言って出てくるのセブンプレミアムなことある?」
『えー、バス内は、お静かにお願い致します』
「「……」」
響き渡る運転手さんの声。勿論バスの中には俺等以外いないため、非常にピンポイントな注意である。黙って互いを見やると千果もバツの悪そうな顔をしている。
「「お前/倫太郎のせいで怒られたやんけ/じゃん」」
「あ?」「はい?」
「「……」」
バツの悪そうだった千果の目が釣り上がりかけ、途中でふいっとそっぽを向く。賢明な判断に多少感心した、間違いなく二度目の注意が聞こえるはずの流れだったから。
「あ?」
「……」
しばらく無言の空間が続き、窓から山の風景を眺めていると、肩に体重がかかる。見れば千果は寝息を立てていて、頭をこちらに寄りかからせていた。
「おい、おい千果。寝てもええけど向こうに寄りかかれや」
「んんーん」
「マジで疲れとるんか? 何でそんな体力削られとるねん」
軽く脇を肘で突いてもふにゃふにゃした言葉しか返ってこない。まあしょうがないか、と諦めてまた視線を車窓に戻す。
そうして、静かにバスの中で揺られている。何でもない普通の、まあちょっとした休日のお出かけである。そんな毎回毎回変なことが起きるわけも無い、そのはずだった。
「ぅぉ」
バスの前方から、運転手さんの声が聞こえた瞬間。けたたましいブレーキ音と共に、思いっきり身体が揺さぶられて浮くような感覚を覚える。
なんや、と声を出せたかも分からない。視界に己と同じように傾き始めるバスと、同じように宙に浮く千果の姿が見える。そうしてそのまま、このバスがガードレールをぶち破って横転してる、ということを理解し、迫り来る衝撃に備えるように目を強く瞑る。そして、
────────
「ちょっと?」
目の前には、観音開きの小さい扉があった。
「……あ?」
「え開けたの!?」
「いや開けとらんけど、あ?」
「え? 何?」
「は?」
後ろを振り返ると、自分を見つめる千果の姿。周囲は木々に囲まれていて、自分は祠の前に立っている。
「……は!?」
「は!? 何倫太郎怖いんだけど!」
「あ!? いやお前……何も覚えてないんか? いや、違うか?」
脈絡も突拍子もなく、気づいたら山頂にいた。千果の反応を見る限り、おかしいのは自分か?
携帯で時刻を確認する。行きのバスを降りた時刻から三十分程度しか経っていないし、ついでに圏外になっている。
「いや、あーーーーーそうか。なるほど」
「……ねえ一人で納得するのやめてもらえる? キモいんだけど」
「なあ千果。何も覚えてへんのやな?」
「はあ? …………何が? 倫太郎が何でもするって言ってたのは覚えてますけど?」
「ああもう分かった分かりましたわもうどうでもええわ」
「ウッザ!」
千果はこういうの隠せるタイプじゃないし、隠す理由も今ん所ない。じゃあ自分の方がおかしなことに巻き込まれてそうなのかな、と思ったところで、先程の最後を思い出す。
────けたたましいブレーキ音
────身体が浮く感覚
────同じように、宙に浮く千果。
1D8→4 1D8→3
「「痛った!!」」
二人揃って大声を出す。唐突に左手に痛みが走り、声を上げて抑えると千果も同じように左足を抑えていた。
お互いの声に顔を見合わせ、少しの間空白が開く。そして、また揃って「「え?」」と首をかしげる。
「え、なんか急に右足痛いんだけど、何?」
「いや俺も左手が痛いねんけど」
「……いややっぱ祠触ったからじゃない!? バチあたったでしょこれもう!」
「は、触っただけでそんなバチあたってたまるか! そもそも、いやちょっと待て」
「何?」
「……バチか?」
"神様"に良い思い出は基本ない。この異変がバチじゃないとは正直言い切れない。
「うわ絶対倫太郎のせいじゃーん! めっちゃ足痛いんだけどどうしてくれんの!?」
「うっさいわ俺も左手さっきからビリビリすんねんもう!」
「いやあたしこれから山降りなきゃいけないんだよ!? この足引き摺って!? 超萎えるんですけどもう!」
「いやだから話聞けって! なんか知らんけど俺二回目やねんこれ!」
差し込むように叫んだ声に、無言の時間がまた落ちる。千果がこちらの言葉を咀嚼するまでの数瞬に、風が吹いて木々がざわめいた。
「は? 二回目? ……なにそれどゆこと?」
「いやだからな? この後写真とって亜門に送って、そんで降りんねんこの山。まだ次のバスまで一時間あるのにお前がさっさとバス停戻りたい言うからずっとハチクロとかブルーピリオドの話しながらバス待ってたんよ」
「……はあ」
「そんでバス乗って、お前がまた料理しろとか変なこと言うから論破しとる間に」「いや絶対論破されてないでしょそれに関しては」「うっさい聞け。……話しとる間に、事故った」
自分の記憶にある分の話をする。理解出来ていない分もあるが、間違いなくさっきあったはず。あのブレーキ音も、身体が浮く感覚も、覚えている。
「……え? 事故?」
「なんか分からんけど」
「いやいやいや、え? 事故? 誰が?」
「俺とお前。……とバスの運転手さんがや」
「え? ……あたしたち死んでるってこと?」
「いやそうは言うとらんけど」
そして、千果は覚えてない。なんでや。
「……いや悪趣味だってそういう冗談」
「いや冗談ちゃうわ俺だって何がなんだか分かっとらんねん!」
「ええぇぇぇええ??」
腕を組んで顔中、というか身体全体で疑問を形作る千果。うーんうーんっていう吹き出し見えるもんなもう。自分以上にワケわかってない奴を見ると落ち着くわ。
「マジで意味わかんない、今も意味分かってないんだけど。もし、もし仮にね? 仮に倫太郎の言ってるのが本当だとして、どうするの」
「……いや、どうも出来ひんけど」
「は? キモ」
「何がキモいねん意味分からんわ。まあ、とりあえず、この俺の記憶が白昼夢とか予知夢の可能性があるわけやんか」
「あー予知能力者に目覚めちゃったと」
「で、そうなら簡単よ」
「……何が?」
「バス一本ずらせばええ」「あー倫太郎かしこーい!」「うっさいわ!」
楽観的な観測を言うと、目に見えて表情が明るくなる。本当に自分が予知能力者に目覚めたならそれでもういいが、そうじゃない可能性もある。
「で、今のがどうにかなる方のあれや」
「え? さっきのでいいじゃんバス一本ズラしてー、あーでも運転手さんが事故る可能性あるのかそれはちょっとやかも」
「いや、もっとどうにもならん可能性もある」
口にはしなくても、本命の予想はこっち。
「もう現実世界では事故起きてて、この場の俺と千果が本物じゃないってことや」
「……は? どういうこと?」
「いやまあ。……適当言ってるだけやけどな、少なくともこの手の痛みはさっきは無かったんや」
そう言って自分の右手……? 違う痛いのは左手か、左手を挙げてみる。まだ痛い。
「さっきまで無かったものがあると怪しいやん。だからこの痛みは何の意味があるんかなーって思っとんやけど」
「うん」
「ここ事故でパーンなってる可能性ないか?」
「……え?」
「いやパーンは言い過ぎかもやけど。まあグシャ……まあ怪我「いやいやいやいや!」うるさ!」
「え!? いやいやいや! うそうそそんなんあるわけないじゃん!」
「いや可能性の話やから!」
「いや倫太郎、え!? 手!? 手でしょ倫太郎だめだってそんなん!」
「いやダメとかダメじゃないとかそういう話じゃないって! ていうかそんなん言うたらお前の足もダメやろ!」
今までで一番取り乱している千果と話しながら、自分の中でも思考を整理する。……やっぱこっちの予想の方がありえそう。ただ、それを確かめる方法もない。
「一旦落ち着け、な? とりあえず俺等が出来るのは、俺の突発的予知夢能力開花説を信じてバス一本ズラすか、もう事故起きてる説を信じてー、あー……」
「……起きてたら、どうすんの」
「……なんか出来るかぁ?」
「ねえもう最悪! なんでそんな不安煽っといてなんもないの!?」
「いやだから俺にも分からんねんて! そういう千果さんは何か思いつくんです、か!」
「いや不安煽ってきたのそっちでしょ!? というかそもそも二回目とか覚えてるの倫太郎だけなんだから他に覚えてることなんかないんですか!?」
「さっき言ったやん! 亜門に写真送ってハチクロの話してブルーピリオドの話して、あとはブレーキ聞こえてすってんころりん宙浮いてバーンや!」
「キッッッッッッッモ! え? すってんころりん宙浮いてバーン? 死ぬじゃんそんなの」
「…………死ぬかもなあ」
「え、いやいやいや。…………どうすんの」
どうすんの、と言われても。結局何がどうなってるのかさっぱり分からない現状で出来ることなんて多くはない。
携帯を取り出してみる、とまだ圏外だ。さっきは亜門に写真送れたのに。まあやっぱりそういうことなんだろうか。あの世なのか何なのか、とりあえず異空間という感じに見える。その上でどうするかと言われると、
「ま、一旦山降りてみるか。電波通じひんみたいやし、ここで待ってるよりかは建設的やろ」
「……え電波ないんここ? 山過ぎるでしょ流石に」
「さっきは通じてたけどな」
「さっき? 麓の方ってこと?」
「いや、俺の……"予知"の中や」
「かっこつけないでもらっていいですかキモいですやめてください」
「あーほらもう行くで」
「あっねえちょっと待ってよ! あたし足痛いの分かってます!?」
「歩けてるやんか!」
「頑張って歩いてんでしょ! もーマジこれで倫太郎嘘ついてたらボコボコにするからね!?」
そう言いながらも素直に千果は着いてきたので、適当なことを話しながら山道を下る。とりあえずバスが来るかどうかは確認しないといけないし、まあ降りきれずに祠に戻るとかもありえそう。
……本当は調べてなんか分かることがないか山の周囲を見て回りたいけど、俺しか覚えてないしなあ。千果を置いて自分だけ調べに、はいけないだろうな。まあ何もなければそれが一番だし一旦何もせず降りてみるか。
で。
「あっバス停見えてきた」
「降りれるんか」
「え? 降りれないと思ってたの?」
「いやもしかしたらこう場所でループするんかなあって」
「あーナルホド? なんか映画であったよね『パラドクス』とか」
「まあそんな感じや」
その映画は知らないけど多分合ってる。
「今のところ別に普通だけどね。なんか本当にただのデジャヴにビビってたんじゃないの?」
「何も無いに越したことないけど、じゃあこの痛みは何やねんって話やろ?」
「まあ、ね。いやもう本当にこのズキズキするのイヤ。え、これもし帰れたらずっと痛いままだったりする? 最悪なんだけど」
「俺だって手ェ痛いままなんは嫌やけど、まあ一旦何事もなく帰ることが一番ちゃうか」
「あー、倫太郎さんは手足に痛み残り続けるのは何事もない判定の方なんですか。ちょっとその価値観分かんないかもなー」
バス停のベンチに腰を下ろす。時間を確認すればさっき来たときよりもさらに早く着いてしまっているので、また時間を潰さないといけない。一本ズラしてどうにかなるのであれば多分追加で二時間分。
「暇や」
「ねえちょっと話聞いてる? これ本当に待ってるだけでいいの?」
「お前が足痛いんならそんなに無理出来んやろ」
「別に、歩こうと思ったら歩けるけど」
「なんかすれば解決するって分かってたら頑張るけど、本当にまだ何も分からへんからなあ。一旦待ってみようや」
「……うん」
会話が途切れる。木々のざわめきが大きく聞こえる。
さっきまで分かりやすくテンションを上げていた千果だが、今は足を抑えて俯いている。今、千果からするといきなり足痛くなって俺が変なこと言い出してるって状況か。俺も何も分からんのに輪をかけて何も分からんのは流石にしんどそうだ。
「なんか話すか」
「……なんかって何」
「いや暇やから。圏外やしスマホ使わずに三時間待つのは流石に現代っ子には厳しいものがありますねぇ」
「その言い方何? ってか、そういえば倫太郎って普段スマホで何してんの?」
「いや、別に」
「……何別にって」
「いや、別に」
「話の広げ方下手すぎでしょ! あー分かったあれだ、やっぱオカルト板とか見漁ってる系の民なんだ!」
「それは別に、今日はたまたま見てただけや」
「なんか倫太郎万物に対してたまたまで片してない?」
「いや、たまたま言ってるだけや」
「ほら絶対たまたまって言っとけばいいって思ってるじゃん! 話適当に済ませようとかそういうのすぐ分かるから! めっちゃ失礼だからねそれ」
「じゃあ千果は何しとんねん」
「え~? まあ普通にインスタとか、」
千果の声を切り裂くように、甲高い耳障りな激音が周囲に響く。いや、この音の正体は知っている。聞いたことがある。ついさっき。
フラッシュバックする光景。けたたましいブレーキ音とともに、身体が浮く感覚、同じように、宙に浮く千果。
ダメだ。この音を終わらせてはいけない。
────────
「ちょっと?」
目の前には、観音開きの小さい扉があった。
「……おお」
「え開けたの!?」
「いや、あー」
「え? 何? 何かあった?」
後ろを振り返ると、自分を見つめる千果の姿。周囲は木々に囲まれていて、自分は祠の前に立っている。
「んんーーーー……成程な」
成程。とりあえずどうにもならない方のようだ。
1D8→3 1D8→2
「「痛った!!」」
痛い。今度は右手だ。千果を見ると、右手を抑えている。痛む場所は変わるのか。意味があるのかこの痛みに。
「……え、急に左手めっちゃ痛いんだけど、何?」
「……んで、お前は覚えてへんねんなあ。めんどくさ!」
「は急に何!? 意味分かんないんだけど!」
「俺だって別に分かってないけど、まあとりあえず覚えてるところは話すわ」
「……じゃあ、今が倫太郎視点だと三回目?」
「せやなあ。覚えてる限りは」
「……え、なんであたし覚えてないんだろ」
「知らん」
「意味わかんなーい……」
俺の言ったことを飲み込めてるのか飲み込めていないのか、ううんと唸っている千果。
「まあでも前回で分かったこともいくつかある。とりあえずバス一本変える作戦は実行不可能で、場所が関係するかは分からんけど時間が来たら多分最初のブレーキ音と同じ音が鳴る。で、よくよく考えるとこれが一番謎なんやけど俺が目瞑って開けたらループするわ」
「えっ、それって倫太郎が時間遡行の能力者……ってコト!?」
「テンションおかしないかお前。まあ何かシュタゲってしまったなあ」
ただ試しにパチパチさせてみても特に何も起こらない。時間が来たら使えるのか、はたまた意思の力とか。まあまだループ出来そうな感じはする。そのうち試してみるか。
「あと、痛い場所がさっきと違うわ。俺は左手だったのが右手になったし、さっきの千果は足痛めてた」
「へえー。それ何か意味あるの?」
「いや分からんのよだから。とりあえずその内ブレーキ音が鳴るから、そしたら多分ループせんと……まあ、多分というかあくまで予想やけど事故った現実に行くんちゃうかな」
「……最悪じゃん」
はあ、と溜め息と一緒に千果が言う。最悪か。まあ、このまま行けば二人共右手がアレなことになったりするんだろうか。悲観的な観測はいくつも出来るけど、情報が圧倒的に足りてない。
「とりあえず。まだこの山全部見たわけじゃないから、周りにこの状況をどうにかする何かがあるかもしれん。見てみるか」
「……分かった」
そうして、2人で周囲を探索することにした。
「「何にもない!」」
「あんな意味ありげな洞窟もあったのに中に何もないとは思わんかった……」
「ちょっと開けたとこにもなんも無かったし、山頂まで言ったけど何もなかったね」
「一応祠の中見て御札の文字反転してたのに気づけたのは良かったか」
「良く見たらお互い自分で痛いって言ってる手と抑える手逆だったしね。でも結局なんなんって話だけど」
「分からん」
「あたしも分かりませーん」
祠の前で2人で座り込む。手がかりと言えるほどの何かが無さ過ぎる。どうすりゃええねん。
「そもそもなんで千果は覚えてへんねん」
「いや知らないし。やっぱ倫太郎が祠触ったからじゃない? バチ当たったんでしょ多分」
「縁起でもないなあ」
「……いや、分かんないけど。でもその、最初事故ったんでしょ? そこから何か神様の所為とかだったりしないかな」
「祠開けて賽銭入れて帰る人間のバス横転させる神様とか想像したくないけどね。みみっちいにも程があるわ」
「分かんないよ~? 日本の神様割りと神経質だったり陰湿だったりみみっちかったりするんだから」
「何を根拠にお前は日本の神様語っとるねん。もし神様の仕業だとしても、事故起こしてから謎空間に監禁とかそれはもうどっちかでええやんって思いますけどね」
「そのさあ、監禁ってのがよく分かんないよね。あたしはまだ降りたことないからあれだけど、反転してる以外何も変わってないんでしょ? 意味あるのかな~賽の河原的な拷問?」
「せやなあ。まあその場合俺だけ拷問に合ってるのはなんでって、」
言い切る前に、空気が変わった気がして立ち上がる。「倫太郎?」千果はきょとんと、いや違うこっちの顔見て怯えてるな。「大丈夫や」もう時間か。こんなん分かるようになったか俺は。
ブレーキ音が響き始める。しょうがない。賽の河原なのかも知れんけどこのまま進むのは良くはない。「またな」千果も耳を抑えて、怯えた目でこちらを見ている、ああ千果にもこの音は聞こえるんか、聞かせるのはあんまり気分良いもんじゃないな。目を瞑る。次は少し早めに戻ろう。
────────
「ちょっと?」
目の前には、観音開きの小さい扉があった。
「……おお、開けるわ」
「え開けたの!?」
「いやまだ開けてへんけど」
「いやいやそれ開けちゃダメな奴でしょ!」
「そうかあ」
1D8→7 1D8→1
「あ痛った!」
「え、なに倫太郎大丈夫!?」
今度は頭か、手よりもキツいなこれは。頭を抑えてうずくまると、千果がこちらに走り寄ってくる。
「まあ大丈夫じゃないけど大丈夫や」
「え、頭大丈夫? 痛いの? どっか打った?」
「もう少し言い方ってもんがあると思いますけど、とりあえず大丈夫や。それよりお前は?」
「は? いや頭痛いのは別に大丈夫じゃないでしょ、ちょっと診せて」
「いやお前はどこが痛いねん」
「どこも痛くないですけど?? ねえ強がんないでさっさと診せて!」
「……は!?」
「もう倫太郎うるさい! しゃがんでほら早く!」
無理矢理屈まされて診察されている間に考える。痛くない? そんなことあるのか? あの事故で?
……あるか。よく考えれば手だけ痛いとか足だけ痛いってのも変な話だ。もしかしたらこのループ、意味があるのは痛みだけか。
「うぅん? どこも悪くないなあ、酒まだ残ってたりする?」
「その場合頭よりも肝臓心配した方がよさそうやなあ」
「……ねえ何かあった?」
「……別に?」
「……絶対何かあったじゃんそれ。何隠してんの」
「いや、隠してはいないですけどね」
「絶対嘘じゃん! どうしたの? あの祠で変なの見えたりした?」
だったら、今戻れば千果は無事か? そういうタイミングを貰うためのループなんだとすれば、今が帰り時なのか?
「いやホンマに何もないよ。むしろ、良い神様って世の中にいるのかもしれんって思ったくらいや」
「……キモ。いや絶対何かあったよね、むしろ素でその発言出てるんだったらガチで一回病院行ったほうがいいよ」
「失礼な奴やなあ! ええやん別に俺が神様に感謝したって!」
「タイミングがキモすぎなんだって! 今頭抑えて痛がってた人が唐突に神への感謝に目覚めてたらとりあえず最初に洗脳疑いますけど!?」
「……まあ、たまたまや」
「ウザ、話の逸らし方雑過ぎでしょ。で何? 素直に言いなって何かあったんでしょ?」
ううん。
「雑に聞いてほしいんやけど」
「うん」
「お前……あー、そうやなあ」
聞き方を考える。でも、思い浮かぶ質問のそれぞれが全く持って自分らしくない。帰ったとき俺死んでたらどうする、とかどっちかしか生きられないならどうする、とかどう考えても何かありましたって質問しか出来ない。
「亜門に泣かれても困るしなあ」
「は? かねちがどうかしたん?」
「いやじゃあまあいいわ。誤魔化してふわっとした質問しようと思ったんやけど思いつかんから一から説明するとやな、……
……で、今回お前が痛くなさそうだからそのまま帰ろかなとか」「ダメに決まってるでしょバカなんじゃないの!?」「おう」
途中まではうーん? うーん? うん、と分かってなさそうな相槌しかしていない千果だったが、結論まで言うと烈火の如く怒り出す。
「いや色々言いたいことあるけど! 覚えてられなくてゴメンとか、何事故起こしてんの運転手とか色々あるけど! でもその判断だけはマジで無い! 何いつからそんな自己犠牲精神見せるようになったの本当バカでしょキモすぎ!」
「おう」
「いや、ていうか毎回痛むところ違うんでしょ? だったら二人共痛くないときとかあるかもしんないじゃん! 神様が良い神様ならそれくらいやってくれるよきっと!」
「おう」
「ねえちゃんと聞いてる!?」
「聞いとるよ。まあ、そうやなすまんかった」
まあ俺が悪いか今のは。あと何回ループ出来るのかは分からないが、千果が言う通りもしかしたら二人共痛くないときが来るかもしれん。限界がどうとかも分からないのに今死にに行くのは流石に時期尚早かな。
「……何素直に謝ってんの。別に倫太郎が悪いわけじゃないじゃん」
「何で謝ったのに文句言われるんですかね」
「だってさあ、……ごめんね倫太郎、覚えてらんなくて」
「いやお前こそ何に謝ってんねん! それこそ千果のせいちゃうやろ!」
「だって!」
千果が大きく声を上げる。どこも痛くないと言っていたはずなのに、胸元を抑えて苦しそうにしていた。瞳は潤んでいて、俺がその顔を見ていることに気づくと慌てて俯いた。
「だって、これさあ。あたし覚えてらんないってことはさ、倫太郎がずっと一人で頑張らなきゃいけないってことじゃん」
「……」
そうだろうな。どんな確率で無傷が来るかは分からないが、2人でループして三回やって1人しか無傷を引き当ててないってことは、高い確率ではないんだろう。バス横転事故で無傷って意味分からんもん。
千果は乱暴に目元の雫を拭って顔を上げ、目を釣り上げてこっちを睨みつけるように見る。
「あのさ、あたしなら別に手、左手とか足とかなら大丈夫だから。2人共痛くないの狙ってても終わらないかもだしさ、もし倫太郎が痛くない時あって、流石に死ぬのは嫌だから頭とかならごめんだけど、手とか足痛いだけならそのまま帰っていいからね」
「……おう」
手足の怪我軽く見積もりすぎじゃないかこいつ。
「あと、絶対話してよマジで! 嫌だからね倫太郎一人で抱え込んで頭おかしくなっちゃうとか! あたし覚えてないかもだけど、でも今みたいに相談なしに悩んでたらすっっっっごい気になるから! おとなしく最初に話してね!」
「まあ、バレたしなあ」
「バレバレだから! ガチで本当にぜっったい頭痛い時とかに帰ろうとしないでね! かねちと一緒にブチギレるから! ていうか今死んだら佳衣君と二人っきりだよ最悪でしょ!?」
「分かった分かった、別に俺だって死にたいわけじゃないから! どうせこの世界お前しか話す相手おらんし、嫌でも話すから安心せい」
無言でバチバチループしてたらそれこそ頭おかしくなりそうだしな。話すことは話す。それこそさっき聞けなかった映画の話とか、あとハチクロもツイスターゲームの話しかしてなかったし。
「……マジで絶対だからね」
「おう。……じゃ、頭も痛いしな。そろそろ次行くわ」
目を瞑る。
話してもどうにもならんことを聞かされても、苦しいだけやろ。
「ごめんね」
だから何でお前が謝るねん。
何回か繰り返した。とりあえず今のところまだまだループ出来そうだ。
段々ループする時間が短くなるとかあるかなと思っていたがそういう感じでもない。大体やっぱり次のバスの時間くらいになれば空気が変わる。
で、そうなると本当に痛み以外なんにも変わらない。毎回違うところが痛む。右手左手右足左足、頭、胸、痛みなし。今のところこの7パターン。そんなに繰り返したわけでもないから他にもあるかもしれんけど。
大体二時間弱で1ループの時間切れ。ループが終わらんでも目を瞑って戻ろうと思えばループ出来る。徒歩で道路を下ったりしてみたが別にどこか行き止まりがあるわけでもないし、人も誰もいない。無性に家に帰りたくなるがここから徒歩で二時間ではさすがに無理。身体には疲労も眠気もないけど精神的にはクる。
分かったのはそれくらい。こんなことになるなら山なんか登らなきゃよかったなあ。悪ノリで行って良い場所と悪い場所がある、って思いたいけど助けてくれてるならここの神様が悪いわけでもないし。運転手さんにキレようにも何で事故ったのかも分からんから何も言えん。
千果は変なことに巻き込んでしまったな。たまに亜門がいたらと思う時があるが、三人でいたら何か変わるかと言えば変わらん気がするし、このドキドキ痛みガチャの確率が更に下がるだけな気もする。ただまあ、こう誰にも会えないとまあしんどい。これもし仲が悪い奴とだったら最悪やな。いや仲が悪かったら俺が痛み無い時点でもう行くか。……どうしてたかな。
「ちょっと?」
目の前には、観音開きの小さい扉があった。
1D8→1 1D8→8
何度目かのループ。自分に意識を向ければ、痛くない。が、「いっ……!」と引き攣った声が後ろから聞こえた。
振り向けば、自分の身体を自分で抱きしめるようにしてしゃがみ込む千果がいた。
「おい千果! 大丈夫か!?」
「わっ……かんないけど、痛い! 全身痛い! ごめん大丈夫じゃない、っ~~!」
全身。そういう痛みもあるんか。今までで一番苦しそうなそれは、どう見ても良い兆候じゃない、次に行く。
「……すまん」
「……? どうしたの、倫太郎」
ふう、と無意識に溜まっていた息を吐いて、謝る。謝ってしまう。話せないのに。
何も話す必要ない。罪悪感も心にしまうだけでいい。事情を話しても何も変わらないし、さっさとループして千果をこのキツい痛みから変えた方がいい。
ダサいなあ。何も出来ん。
「いや。……痛くないときに、また話そうや。付き合わせて、すまん」
「倫太郎……? 泣いて」
目を瞑る。
「ちょっと?」
目の前には、観音開きの小さい扉があった。
1D8→6 1D8→4
「痛った!!」
後ろから大きな声と、自分の胸の痛みを感じる。中の下って感じの結果。今回もループしないとやな。
「……泣いてへんよ。さっさとお前を無事に返さなあかんし」
「ねえちょっと何かいきなり足痛いんだけど!」
「はあ? なんやどうした」
まだ行ける。そのうちいい結果が揃うはず。
どうにもならん苦労話をされても困るだけ。だから、知られないまま終わらせよう。
いつか。この閉じた世界で作られた影が、無事の実体を取り戻すまで。