今度は宙を舞う。
それは正しく、きりもみ回転と言える動きだった。
地面をピチピチと跳ねる鯉ですらこれほどまでに綺麗には飛べまい。いや、その姿は走高跳のオリンピック選手並みに美しく、高く飛び上が……いや、高く舞い上がったと言っても過言ではない。
しかも、スクリュー回転を加え、綺麗な放物線を描いている。仮に、ここに採点者が居れば、それはもう満場一致で3人立て続けに10点を掲げ、金メダルを獲得する事は間違いない。
そう、華鏡よさりは今日も今日とて夢を見ていた。
遡る事数秒前までは相も変わらず手抜きというか、予算が無いというか、殺風景極まりない空間に立たされていた。
具体的に言えば一面が白の世界。前回は書割式だったとはいえ、曲がりなりにもしっかりと背景があったというのに、今回は本当に真っ白な世界だった。
低予算映画でも、もう少し頑張ろうという物だろうが、一体どういう予算体系なのかは不明だが、真っ白い空間という事は、今回も予算が下りなかったに相違ない。
「……え? えええ⁉」
前言撤回、Vtuber華鏡よさりはその光景に驚愕と共に、予算の行き先を理解した。
正確にはその光景を受け入れたわけでもないし、理解したわけでもなければ、理解したくも無いのだが、何かしらのギミックに予算を投げ捨てたようなこの手の悪夢には、大抵、ろくでもない物が出現する。
今回は、スピードスケート団体エビフライ部門とかいう訳の分からない物だったわけで……
華鏡よさりは全力疾走した。それは一種の恐怖体験だ。何せ、足を生やしたエビフライ達がスピードスケートの要領で地面を滑り、猛スピードでこちらへ近づいてくるのだから。
付け加えておくと足の生やしたエビフライ達の足は、エビの足のそれではなく、逞しい人間の足を生やしている。趣味が悪いことに、脚部は彩り豊かなぴっちりタイツであり、3人なのか、3尾なのかはさておき、虹色、アロハ柄、黄色と黒の某トラ柄と、無駄に色がうるさい。
「いやいやいやいや‼」
エビフライに惹かれた華鏡よさりは空を舞った。きりもみ回転しながら。
衝撃的体験と言えるのかもしれないが、そもそも衝撃を受けてきりもみ回転しながら宙を舞っている訳で、衝撃のある体験だったと言えるのかもしれないのかもしれないが、こういう時に見るのが、世間一般でよく言われる走馬灯と言う奴だ。
そう、脳裏に色々な物が……
過らなかった。いや、今過っているのはもっと別の物だ。過っているという表現すら不適切なのかもしれないそれ、空を泳ぐエビフライ。わざわざそうでなくともいいはずなのに、別の物であってもいいはずなのに、エビフライが物理的に空を泳いでいて、きりもみ回転している為、視界の端に捉えるというより、視界の端から端へと、宙を泳ぐエビフライ達が流れて行く。
エビ尽くしと言えば聞こえはいいだろう。エビフライがオリンピック選手並みの速度で地面を疾走し、空にはエビフライが泳いでいる。まさにエビフライによって形成された空間だ。不景気な昨今、こんなにも油がギットギトで揚げ物に溢れた空間も稀だろう。
しかし、これが毎度毎度残念な予算の使い方をする悪夢だと思うと、とてつもなく残念な気がしてならない。いや、ろくでもないにも程がある。
そして今、数秒の内にエビフライに跳ね飛ばされ、空中を舞っている彼女は思う。
そう、これは悪夢だと。
放物線を描きながら、まるで時間が引き延ばされているかのように、ゆっくりと、ゆっくりと減速してゆく。それは感覚の拡張……などではなく、どこから吊るしているかもわからない、さらに言えば何時から、どうやって吊るしたのかもわからない垂れ幕に『ゆっくり』と達筆な字で書かれていたのだから、そういう空間なのだろう。たぶん。
そして、まるでスライドしてくるかのように、大きな画面が垂れ幕の反対側にやってきて、ある光景を映し出してくれる。
そこには、エビフライに跳ね飛ばされる美少女の姿が映っていて……
「よさりじゃん‼」
そう、フィギュアスケート選手もびっくりの綺麗なきりもみ回転で跳ね飛ばされる決定的な瞬間をとらえた映像が、1カメ、2カメ、3カメとしつこいと言わざるを得ない程に繰り返し見せられ、綺麗な放物線を描いている今を否が応でも見せられた。
「んなもん、見せるなぁあ‼」
しかし、そう言うと画面は素直に切り替わり、一糸乱れぬ動きで地面を滑る足の生えたエビフライ3尾を見せられた。
悪趣味なタイツを履いた三人組ならぬ、三尾組の二足歩行型エビフライ達は一切統一感のないタイツの割に、妙に息の合った動きで、華麗なカーブを決め、同じ足運び、同じ間隔、同じ速度で走行する。さながらジェットストリームアタックなのだが、こんなにもろくでもないジェットストリームアタックも無いだろう。
少しの間そのエビフライらを見せられ続けていたが、画面の移動が止まり、垂れ幕がいつのまにやら『ふつう』と書かれたものに変わっていた。
すると、加速するかのように体のきりもみ回転は加速し、カタパルトから射出されたかのように体は吹き飛ばされる。
元の速度に戻っただけのはずが、体感としては、加速したかのように思えた。
華鏡よさりは綺麗な放物線を描きながら飛んで行き、地面に激突……したところで夢から覚め、跳ね起きた。