ダイビート設立2.5周年に熱狂する人々の、その影で。
「何がめでたいの?」
…どこか冷めた目で、イノリはライカに問う。
(ダメだ…、こいつ何とかできんかな…!?)

そんな中、夜勤シフトの2人に下される、出撃命令。
踏み込んだビルの広間、イノリは閃光に包まれ、爆発音に包まれる。
イノリを待ち受け、取り囲む忍びたちの真の目的は…!

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※原作第2部11章(2023年6月現在最新章)までのネタバレが含まれます。


蒼月の下、運命の地で…出会い、交わり、そして時を刻む

ダイビート設立2.5周年。

閂市ではビートアイドルたちの記念ライブを皮切りに、前夜祭から後夜祭まで1ヶ月の間、記念イベントが週替りで催され、市民はノロイ討伐の余韻と相まって、つかの間お祭りムードに包まれていた。

そんな熱狂の、ほぼ中心で。

 

「ライカー、ライカー。」

「おう、どうしたイノリん?」

 

「2.5周年って、何がめでたい?」

「…はああっ?!」

平和な女学生トークは、秒で凍りついた。

 

 

  誰かの決めた暦が、切りよく巡っただけ。

  みんな昨日と変わらず、今日を過ごしている。

  昨日と今日に、違いも差も無いのに。

  なんで今日だけは、ことさらに祝うのか。

 

(…とか考えてんだろーな、こやつは…)

「ライカ? 答えられない?」

答えられないのではなく、呆れて二の句が継げないライカ。

 

「無理もござらん。そりゃあ、お主のような天然鈍感無神経生命体には、未来永劫わからぬでござろうなあ〜。」

「『?!』」

嘆息と鈍感に割り込むは、イノリの天敵。

 

「周年を寿ぐは、人が絆と縁を重んじ、互いに巡り会い、永らえたことを喜びあう、命の営み。

左様な疑問が出るのは、お主に周囲が見えておらぬからでござるよ、この朴念仁。」

「ぐぬぬ~! わからん! こっちをバカにしてることしか、わからん!」

「ほうほう、それが解るだけ、まだお猿よりはマシでござるな。成長、成長。」

「びしょうじょのあほおーーっ!! 表に出ろっ、殴る!」

 

ムツカのいつものからかいと、挑発に乗って模擬戦に向かうイノリ。

今や日常の1ページですらあるが…

(あっ…!)

その中に含まれた、核心をズキンと突く真実。

ライカは得心し、そして一つひらめく。

(確か…3日後は…!)

 

……

 

びーっ、びーっ、びーっ。

《緊急警報、緊急警報。エリアB-8、市街地のビル内から滅忍反応。

閃忍イノリ、および閃忍ライカに出動命令。繰り返す。…》

 

後夜祭の熱狂も醒めやらぬ、数日後。

ユーノの基地内放送で夜勤シフトの二人に出撃命令が下ったのは、日付も変わろうかという深夜。

「よーしライカ、出撃だー。」

「うええ~っ、空気読まない滅忍めえ~っ!」

 

このとき、イノリは気づいていなかった。

力の解析が進むまで、イノリの出撃は極力控えると言っていたトキサダやユーノが、わざわざ夜勤シフトに自分たちを入れ、出撃命令を出したことの意味を。

 

……

 

『滅忍反応は1体。そのビルの2階、広間から。2人なら十分、対処可能よ。

建物の見取り図を端末に送るわ。ライカちゃんは裏口から、イノリちゃんは正面入口から突入し、速やかに対象を殲滅せよ。』

「了解。イノリ、配置に着いたら知らせるから、あんたが3つ数える。ゼロで突入!」

「おお…ライカがやる気出してる…?」

「バッ…早く終わって帰りたいだけ!」

 

さらにイノリは見落とす。

ホール内に、もっと大勢の忍びが気配を殺して待ち構えていることも。

ピンチでもないくせに、ライカが前のめりな理由も。

 

【イノリ? こっちは突入オッケー。】

「おお…それじゃあ突入いくぞー。3、2、1、ゼロ、ゴー!」

 

  ばんっ!

  カッ!

 「うわあーーーーっっ!!」

 

扉を蹴破り、正面突入のイノリを待ち構えていたのは…

四方八方からの、閃光弾とも思えるほどの、スポットライトの乱舞。

「うぐうっ…?!」

 イノリは本能的に身構え、瞬時に五感を研ぎ澄ます。

 光に紛れてどこから襲われようと、絶対に防いでみせる。

 本気で生き延びるなら、この場で全開フルパワー…ビルごと吹き飛ばすことも可能だったが、ムツカと模擬戦を繰り返すうちに、極限状態でも自制できる冷静を備えたイノリ。

(…アイム、閃忍。)

 

 目が慣れてきた、次の瞬間。

 

  ぱんっ! ぱぱんっ! ぱんっ!

 「『【〈イノリっ! ダイビート所属1周年、おめでとうっ!!〉】』」

 

 煙玉のような連鎖爆発は…クラッカーの雨あられ。

 イノリを囲むあまたの忍びは…滅忍にあらず、閃忍たちだった。

 

「…何、これ。」

「頭領とお前が出会ったのが、1年前の今夜だろう? 今日はイノリの記念日。上弦衆みんなで祝ってやろうって話しになったのさ。」

「イノリちゃんをダシにして、美味しいお酒が飲めるって下心もあるけどね、炎の。」

「それはお前だろ、風の。」

ゴウカとフウカが…先日は執拗にこちらを討とうと閃忍たちに命じた二人が、今日は優しくイノリを慈しむ。

 

「イノリちゃん、イノリちゃーん! お誕生日、おめでとうっ!

 チルカもチルカも、イノリちゃんに出会えて1周年、すごく嬉しいんですっ!」

「…誕生日じゃないでしょ、チルカ?」

「あっ…でもシズカちゃん? 今日はイノリちゃんの、閃忍としての誕生日よ?

 だから…やっぱりおめでとう、イノリちゃん。」

「…まあ、一理ある。イノリ…おめでとう。」

シリカの機転にシズカもはにかんで応え、雪月花揃い踏みの祝辞。

 

「おうおう、ハッピーバースデーだ、こんにゃろお!

 こんなでっけえ1歳児は、このマユリ様がたっぷり祝ってやんねえとなあ!」

「当店自慢のホットドッグ、出来たてデリバリーで~す! どんどん食べてくださいね~!(できれば毎年っ)」

「いつも自然と一緒のイノリちゃん、まるでカブトムシみたいね。たくましく成長するのを、楽しみにしてます!」

「イノリちゃんの記念日、最高のお祭りだねっ! 渾身の暴れ太鼓でお祝いするよっ!」

昨日の敵たちも、今日はイノリを言祝ぐ。 

 

……

閃忍勢揃いのバースデーサプライズは、まだまだ終わらない。

「オトナの階段、登り始めたイノリちゃんに!

 この上弦衆色事指南役が! 渾身の!

 猫屋敷家厳選・オトナの遊具と房中術無料体験チケットをプレゼン…」

 

 ごすっ。(打突音)

 

「ふぎゃあっ!」

「誕生日にいたいけな閃忍を毒牙にかけないのっ!

 …イノリ、Dチャージをご所望なら、日を改めて。今日はおめでとう。」

「せ…せつにゃちゃ~ん…!」

ばふっ、ばふっ。

「あ、官兵衛さんも、イノリちゃんにおめでとうって言ってます! …わ、私も…だけど…。」

天誅てきめん、にゃんことせつにゃのどつき漫才に添える、こいぬの控えめな同級生代表祝詞。

 

「イノリさん、お誕生日おめでとうございます。

 久世上弦衆の皆さんを代表して、私と余命さんが参りました。

 こちらは斗羽さんからのお祝い、七雄プロのファンイベントのチケットです…(原価ゼロですが)。」

「…じゃんけんで負けた。」

「よ…余命さあ~ん! それは言っちゃダメですうっ!」

「…でも、お前とは正義の話が終わっていない。次に会ったときは、決着させるぞ。」

「おお…いいよ。」

「終わったらお前、斬っていいか? 私に斬られていいな?」

「ダメですっ! …はあ〜っ…。」

誕生日祝いで予告斬り捨て御免…安定の余命と、もうこうなる覚悟のできていたくさり。

 

「さあさあ、人魚衆総出で今朝獲ってきた、旬の真鯛だよっ!

 最高の一本をイノリに食べてもらうんだって、みんなで頑張ったんだから!」

疲れを押して尾頭付きを差し出すウミ。

(…じゅるっ。)

その見事さに、食事に執着が無いイノリにしては珍しく、今にもかぶりつきたそうな表情になる。

「イノリちゃん、ほぐして食べさせてあげますから、ちょっと待っててくださいね~?」

「アヤカ、誕生日に子ども扱いは、良くない。」

「ええ~? オウカちゃんのお祝いだって、ゴボウ・人参・蓮根…成長祈願の根菜ばっかりだよ?」

「えへへ~。厳選素材の筑前煮だよ~。」

上弦衆の誕生祝いは、海の幸も山の幸も御膳の和食だった。

 

「イノリさん、今日はおめでとう。」

「この1年、目覚ましい成長を遂げたな。手ほどきした甲斐があって、私も嬉しい。」

「今日はイノリちゃんの好きなお豆腐料理、い~っぱい作ったから!」

ハルカ・スバル・ナリカ…レジェンド閃忍にも助けられた1年を思い出すイノリ。

そして。

 

「イノリ…ようこそダイビートへ。

 もう…あれから1年か。」

「トキサダ頭領…。」

「次の1年も、その先も…俺たちはイノリと一緒に成長していきたい。

改めて、よろしくな。」

 

「あ…うん。」

イノリの淡白な返事に、その場の大勢が拍子抜けするも…

 

(……あれっ?)

「…どうした、イノリ?」

 

「トキサダ頭領…。どうしよう、私…おかしくなっちゃった…!」

(…?)

 

「1年経っただけなのに…お祝いされて…。

なんでもない、普通の1日のはずなのに…。

今、私…胸が熱い。

Dチャージのときのムズムズとは違う…でも同じくらい心臓がバクバクして…頭までじんじんして溢れそう…?」

「イノリ…!」

「頭領…! どうしよう、こんなの…!

私、どうすればいいの?

何これ、私、知らない…!」

 

「イ、ノ、リー。」

感極まるイノリを囲む沈黙を破ったのは、裏から出てきた相棒。

 

「その気持ちを、みんなにそのまま言えばいいの。簡単よ。」

「ライカ…?」

「あんたのアニバーサリーならぜひともお祝いしたい、ってさあ、こんなにみんな…ゴウカ様たちまで、ド深夜なのに集まって、みんなノリノリで準備してたんだから。

…イノリ、そんなあんたは今、どんな気持ちなの? その気持ち、ちゃんと皆さんに言葉にして。」

 

「…ん〜…?」

 

ごくっ…

みんなが固唾を飲み、イノリを見守る。

 

「……は…。」

(は…?)

 

すうう…っ…!

 

 

  「ハロおーーーーっ!!!」

 

「【《『〘だあああーーーっ!!?〙』》】」

 

渾身のシャウトを至近距離で喰らったライカとトキサダは仰け反り、囲む上弦衆、総崩れ。

 

「ハローっ、ハローっ、ハローっ…、ハロおおーーーっ!!」

「やめんかいっ!! ボキャ貧かお前は!!」

「まあ、正解でござろう。」

「ムツカ様…?」

「これが、こやつなりの『嬉しい』と『ありがとう』でござるよ。」

夢中で、必死で。

この例えようも無い感情を伝えようと、精一杯のイノリ、1歳。

 

「オラあっお前等、今日の主役をおもてなしだああっ!」

「『【《はいっ! せーのっ!》】』」

イノリの謝辞に満足げにうなずいたマユリの合図で、閃忍総勢でイノリを担ぎ上げ…

「『【《わーっしょい! わーーっしょい! わーーーっしょい!!!》】』」

「おおっ…おおおおっ…、おおおーーーっ!!」

 

閃忍にとっては決して高くない、バンケットホールの天井すれすれまでだったが。

上弦衆一同の手で宙を舞い、手荒く歓迎されるイノリ。

シャンデリアの虹光に、ひとしずくの輝きが重なっていた。

 

「…あの娘はいま、初めて気づいたのね。

誕生日を嬉しい気持ちで迎えられるのが、とても幸せだってこと。

…まあ、そんな気持ちは若いうち限定だけど。」

「リコリス様…それを初誕生日のイノリ様におっしゃるのは…どうかと…?」

「サイカはおだまりっ。」

約370歳のリコリスしか言えないひとことは、内心の祝意を照れ隠しするひとことだった。

 

……

 

「ハローーーーっっ!!!」

「うぎゃあーーーすっ!?」

「ライカライカライカっ、ライカーっ!

 行くぞーっ、表に出るぞーっ!!」

「な…なななっ、何よおーーーっ!?」

 

イノリのサプライズバースデーから2日後、やはり深夜。

日付が変わり、そろそろ寝るかとライカが支度を始めた瞬間、部屋に乱入した相棒。

 

「ライカっ、ダイビート出向1周年、おめでとーー!」

ダイビート基地中央広場、午前0時。

両の拳を夜空に突き上げ、マンツーマンでお祝いを叫ぶイノリがいた。

「『おめでとーー!』って…あんたしかいない…。」

「むう…みんな誘ったのに…来なかった。」

(ぐはああっ!?)

自らの人徳の無さをえぐられる一言に、クリティカルダメージで悶えるライカ。

 

「あ…あのなあ…イノリ。ソレ言うだけなら、あたしの部屋の入り口で呼び鈴鳴らせば済む話し!

こんな深夜に、拉致同然に広場まで連れ出して…」

「おおっ、それだ。ライカ、いくぞー。」

 

 がしっ…ぐわあっ。

 

「えっ…うえええええええっ!?」

「わーっしょい! わーーっしょい! わーーーっしょい!!!」

「ぎゃあーーーーーす!!!」

 

天井など無い、ダイビート基地中央広場。

昇格1周年の閃忍が、夜空の彼方、橙の花火と化した。

 

 

「アホかああーーーーっっ!!?」

フライトレーダーに映りかけるほどの胴上げから生還し、今なお半死半生のライカ。

「ライカ…嬉しくない?」

「あんたが! パワー全開で!! 胴上げしたら!!!

嬉しい以前に生命の大ピンチっ!! あんたとは違うのっ!!

TPOをわきまえろっ!」

「…そっか。ゴメンなさい。

おととい、ライカに嬉しくしてもらえたから、おんなじようにしたかった。けど…」

(げっ!? バレてるううっ!!)

 

一昨日のサプライズは、ライカがトキサダに提案。

トキサダはライカ発案だということは上弦衆に伝えはしなかったが…。

 

「私は…今日がライカと会えて1周年だから…。」

(あ…!)

ライカは気づいた。

小学生の男児が友だちの女児に、宝物をあげると言って、純粋な気持ちでセミの抜け殻をプレゼントするような。

イノリにとっては、これが渾身のアニバーサリーセレモニーなんだ。

 

「…イノリ。」

「…なに。」

 

「…ありがと。明日からも、よろしく。」

照れ隠しに、目線を夜空に向けながら、相棒への謝辞をつぶやいた。

 

……

「むう…、ライカらしくない。」

「じゃあ、どないせいっちゅーんじゃーーーっ!!!」

 

駆け出し閃忍二人は今なお道に迷い、暗中模索の日々を送る。

だが、仲間との絆を繋ぎ、導く師を得て。

そして相棒との合縁奇縁をよりどころに、明日も歩むことだろう。

二人の…そして閃忍たちの明日に、幸多からんことを。

 

~超昂大戦 エスカレーションヒロインズ 第2部封切1周年に祝意を寄せて~

 




【あとがき】
筆者の環藍河です。ギリ1周年当日(6月8日)間に合いましたーー!!
いつもは一晩おいて推敲しますが、今回はこの日に出すことが至上命題なので…粗い部分はご容赦を。

環は昨年5月に初ログインなので、第2部からはリアタイ追っかけですが…。
当初は「コレ大丈夫? ホントに面白くなるの? 超昂閃忍ハルカに負けないキャラになれる?」と不安もありました。

あれから1年。環なりの主役評を。

イノリは1年前よりキャラが濃ゆく、深くなり。
喜怒哀楽の幅が出るたび、魅力が増してきた…と思っています。
…エロくはならないでしょうけど、そっちはライカに(こらあーーっ!?)

ライカは主役陣のエロ担当…もとい策謀担当、そしてイノリと違う意味で、未来が見えない娘。
僕のSSでは…のび太くん的に、ひみつ道具で調子に乗って最後に自滅するポジで重宝してます。
(ヒビキに、ゴウカフウカに、トキサダに…成敗する天敵にも事欠かないし。)

ムツカも…レジェンドなのに包容力大で、でもイノリ虐めができる希有のポジで。
2.5周年イラストではムツカとイノリに板挟みのライカでしたが、本編ではムツカが逆にイノリとライカに振り回されるポジが多いような…。

どたばたコメディと、閃忍の宿命・忍び寄る最終決戦の刻。
この緩急織り交ぜで、今後も楽しませていただけそうで…期待しましょう!

※あ、閃忍オールキャストを目指しましたが…異世界召喚組(キッカとユキノ)は混ぜられませんでした。
あと、ヒビキはじめエスカチームは…オトギノクニ出向中、ということでご容赦を。

【追記】しまったああああっ!! りるかを書いてねえええっ!!
「おどりゃあああっ! 成敗っ!!」ごすっ。(軍配脳天唐竹割り)

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