ゆゆゆ世界にダクソの主人公をぶち込んでみた。(未完) 作:イロマス
では第九話どうぞ。
「──こんばんわ」
「"鷲尾"か。珍しいな、こんな所で飯なんて」
「その言葉、そっくり返しますよ。
「……暇かと問われれば暇だ。だが別に良いだろう、一人レストランぐらい。あと、千景達はうどん屋に行っている」
「……省かれたんですね?」
「省かれてなどいない。………多分」
手元にあるパスタを食べながら目の前で水を飲む鷲尾に視線を送る。出会った頃からズカズカと言ってのけるその姿勢には一周回って尊敬を抱く。
そのままパスタを黙々と食べ、半分を切った所で鷲尾が何か思い出したようにあっ、と呟く。
「そうだ。前回の襲来の防衛、お疲れ様です。今回も被害は無く、四国の人々は一層勇者に対して尊敬と畏怖を抱いていますよ……って、あまり嬉しそうではないですね」
「当たり前だ。勇者達も一人の人間だぞ?しかもまだ年端もいかない子達だ。そんな子達を勇者勇者ともてはやして四国の人々の憧れの的にする?これじゃあまるで人柱ではないか」
「……まぁ、それもそうですね。ですが、人柱を立てなければ四国は保てないのも事実。やるせない現実ですよ。あっすみませんトマトパスタ一つお願いします」
さもありげに言ってのける鷲尾に一瞬理不尽な怒りを抱くがすぐさま鎮める。灰自身も人柱は今もっとも必要とされているのは分かっている。分かっているからこそ人柱の存在に一切の疑問を抱かない四国の人々に対してやりきれない、晴れぬ雲のようなもどかしさを感じているのだ。
「鷲尾。お前家族はどうした?今頃家で妻と飯を食べている時間だろう」
「え、何で知ってるんですか?もしかしてストーk……そんなに睨まないで下さいよ、すこし揶揄っただけじゃないですか。妻は大社の方でやり残した事があるらしく、私に先に食べてくれって言ったんですよ」
「……」
まったくこいつは──。烏丸とは別ベクトルで頭を痛ませる存在に空いている左手で己の額を揉む。たまに鷲尾が良い奴なのか分からなくなる。それも一つの魅力と捉えればそれで良いが、鷲尾相手にそう考えるのは灰としては些か癪に思える。
「………今回。奴らが襲来した時、千景が精霊を使った」
「郡様が?」
「あぁ。今回も奴らの進化体が現れたんだが、その際に……な」
パスタを食べ終わった灰はコップの水を一気飲みした後そんな事を言う。
「えぇ、それは我々も知ってますが。一体何が?」
「……初めの襲来の際にも一瞬、たった一瞬だが、とても身に覚えのある感覚がしたんだ。バーテックスから感じる紛い物の混沌ではない。アレよりももっと淀んで、暗く、ハッキリいって関わりたくない感覚。………
「……人間性、とは?」
「詳しくは言えない。だが、簡単にいえばどの人も持つ暗くボンヤリとしたソウル、に似たもの……だろうか。すまない、人間性に関しては私ですら分からない事が多い。しかし、人間性の暴走によってある街が壊滅した事がある。それもたった一人の人間性によって」
「………」
馬鹿げた話だ、とは笑い飛ばせなかった。逆に、自分自身に対する一種の恐れが現れたのだ。
「この世になってからは一切の気配を感じなかった。あの時代の記憶と共に消し去れたのだと喜んだ」
そう言って黙り込んでしまう。目の前で黙る灰は、何か思案するように額に深い皺を作りながら何処か一点を見続ける。
「──トマトパスタをお持ち致しました」
「あ、あぁ。ありがとうございます」
隣からかけられた声にハッと気がついた鷲尾は慌てたようにパスタを受け取る。
「……精霊。推測だが、人間性が一瞬活性化したのは精霊に原因があるのかもしれない」
「精霊が……?」
「良く考えてみろ、今勇者が使う切り札の精霊は源流を辿れば神樹だ。神の力の一端だ。それを年端もいかぬ少女がその身に降ろせば必ず影響は出る。その影響が人間性の活性化だとしたら……」
「早めの対策はしといた方が良いですかね?」
「した方が良いだろう。だがこれはあくまで推測だ。もし精霊を撤廃したその後にやっぱり精霊と人間性の活性化は関係ないですとなったら大変な事になりかねん。故にこの事は頭の片隅にでも置いててくれ」
「分かりましたよ……オッ、このパスタ美味しい。たかがファミレスと侮ってましたけど、認識を改めた方が良いですね」
お前なぁ……。と呆れた物言いで鷲尾に注意を掛けようとすると。
「良いですか?ご飯を食べるときは心静かに、日頃の雑念や怒りなどを一切感じない幸せな空間で食べるべきなんですよ。身と心を固くしたままご飯を食べたってなんの満腹感も幸福感も味わえませんよ」
なんて、至極真っ当な事を言ってくる。これは遠回しにこの話は終わりだと言っているようなもの。灰もそれは察しているようで、これ以上は何も言わなかった。
「あれ、帰るんですか?」
「あぁ。これ以上ここに居る理由がないからな」
紙ナプキンで口元を拭き、その場を後にしようとする灰に鷲尾は待ったをかける。
「──なんですからもう少し話しましょうよ。こんな機会滅多にないんですから」
今度こそ灰は嫌な顔を隠そうとしなかった。業務上の話ならば多少反りが合わない人でも話せるが、プライベート……つまりオフの時はそういう人とは余り関わろうとは思わないのだ。実際ニコニコと笑顔で見てくる鷲尾に対し灰は眉間に皺を寄せていかにも嫌ですよみたいな表情をしている。
「なんなら奢りますよ?さっき食べたパスタ代と後は……デザート代も」
灰の体が固まる。今更ながら、灰は大の甘党だ。羊羹やケーキ、お菓子全般も好んで食べる。勿論、外食でもデザートは基本頼む。しかし今日は手早く去ろうとしたためデザートを頼んでいない。なので鷲尾の言葉は今の灰にかなりキクのだ。
「──要らん、デザートはコンビニで買う」
「あっ、そうなんですか?……残念です。今は期間限定パフェがあるというのにそれを要らないなんて」
再度体が固まる。鷲尾は微笑む、灰は拳を握る。多分、この時の二人はとても笑顔だったのだろう。しかし、その笑顔は人を震え上がらせる程に恐ろしいモノを秘めていた。
「どうしました?帰らないんですかぁ?」
「貴公……少し時間をくれないか?……いや……ちょっと面をかせ、鷲尾」
「嫌です」
「………」
「………」
沈黙。心なしか隣に座る客の体が震えている。
「……今回だけ乗ってやる」
「そうこなければ……!」
数分、いや数秒の睨み合いの末、灰は観念したように席につく。流石の英雄も期間限定スイーツの前には無力らしい。それにデザートの欲には誰も勝てないって古事記にも書いてある。
「本当に鷲尾の奢りなんだな?気分を上げておいて一気に落とす真似はやめてくれよ?」
「安心してくださいよ!驚きました、そこまで信用ないんですか?」
「今まであると思っていたお前の頭に私は驚いているよ」
食えないやつめ、と心の中で零しながら席につく。いつの間にか店内は元の雰囲気に戻りつつあった。
心底楽しそうに食事をする鷲尾から視線を外し、灰はデザートを待つついでに前回の戦いの振り返りに勤しんだ。
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「───ふぅ、犬畜生よりも楽とはいえ流石にこの数は、疲れるな」
「灰さーん!大丈夫ですか」
「友奈、千景。私は大丈夫だ。二人こそ大丈夫なのか」
二人の姿を見れば、土や軽い擦り傷はあれど、大事へと繋がる傷は無くホッと安堵の息を吐く。
「……灰さん。疲れてるように見えるけど」
「そうらしい……歳か?」
一旦こちらの戦闘が落ち着いたからこそ分かる、確かな疲労。今まで感じることのなかった重さを全身に感じながら樹海の幹に背を預ける。
「……。あとは私達がやるから……灰さんは休んでて」
「バカを言うな。お前たちが戦う中一人戦線離脱は出来ん。それに、この疲労は精々短時間の疲れだ。心配することはない」
「でも……」
誰よりも長い付き合いの千景だからこそ分かる灰の些細な変化に、言いようのない不安を覚えるが、当の灰は剣片手に戦地に戻ろうとする。
それがどうも千景の目には老体に鞭を打ってでも戦おうとする老兵に見えて仕方がない。しかし今の千景には灰をどうこうすることはできない。
「それに……アレを見ろ。また進化体だ」
視線の先に目をやれば、前回の戦闘に現れたバーテックスの進化体が優々と神樹に向かって移動している。しかし、その体表には赤黒いナニカがマグマの様に巡っている。
見る限り別行動の若葉達は見えない。他にいるバーテックスを相手どっているのか、なんにせよアレを相手するのはコチラの3人だと灰は理解する。
「……無理をさせるかもしれんが、アレを殺すのは千景達にやってほしい。私ではあの高さを飛ぶことはできんのでな……」
出来るか?と目線で問えば、間髪入れずに力強い首肯が帰ってくる。
「そうか……なら、早めに終わらせるか。合図はこちらで送る」
腕や足を動かし身体に疲労が残っていない事を確認すると早速臨戦態勢に移る。
「作戦と呼べるものはないが、強いて言えば私が囮となって隙を作る。その隙を狙って二人同時か、どちらか一人が奴を殺す。やれるか?」
大弓片手にそう言えば、二人は至極当然と言わんばかりに頷く。ならば行動あるのみ、足早に二人と別れた灰は一際高く聳える幹の上にあがり、侵攻を進める進化体を狙い定める。
ギリ、ギリ、と灰の身長にもなる弦をゆっくりと引く。矢尻に添えられた人差し指が穿つべき相手を確実に定める。
「フッ……!」
剛、と放たれた矢は周りの空気を巻き込みながら進化体の外皮を抉る。標的を神樹から灰へと切り替えた進化体は体表に流れるマグマの様な何かを一点に集中し始める。
「……不味いな」
今までの戦いからくる経験が灰の脳内で警鈴を鳴らす。来る、確信にも近い予感が来ると同時に、灰の視界は真紅に染まる。
左腕が持ってかれたか。爆風と炎塵に揉みくちゃになりながら自分の身体を冷静に分析する。
幹から落ちないよう右手のロングソードを突き立てながら進化体の猛攻を耐え忍ぶ。
(この熱量、混沌の大火球に近しいものを感じる……天の神はやはりあの時代に関係しているのか……)
兜の下で舌打ちしながら立ち上がる。周りを見渡せば先程までのあったはずの樹海の根が悉く焼き尽くされている。不死の身体で良かったものだと安堵する思いの他に、これが千景達に向けられたらと思うと奴の注意を尚のこと自分へと逸らさねばならぬと固く決意する。
しかし、大元のの火球を放った進化体は悠然と灰の前で止まっており、既に二発目の発射の用意は出来ている様子だった。
「……嘘だろう?」
二度目の爆風。エストを飲む暇すら与えずに二発目の火球を放つ進化体は絶えず火球を放ち続ける。
(これは……思ったより熱いな……だが、本来の混沌の火の方がもっと熱く、苦しかった……それに、こんな紛い物の火で倒れるほど落ちぶれてはいないのでな!)
「『ソウルの結晶槍』」
業火の中を突き破って現れた結晶の槍に進化体は反射板を周りに展開する。しかし、元来より貫通性能を持った結晶槍には通用せず、一切の拮抗も許さずに展開された反射板の何枚かを破壊していく。
少しでも進化体の注意と体力を削り、二人の負担を軽くするために持ちうる限りの飛び道具を出し惜しみなく撃ち続ければ、やられまいと進化体も火球の数を増やして応戦する。
その光景は正に神代の戦いの一端。只人が近づこうものなら魂ごと消されると錯覚するほど、壮絶だった。
「ぬ……うぅ……!」
灰にとって体感数十分にもなる拮抗の末、先に根を上げ始めたのは灰だった。火耐性の強い黒騎士の盾の影にいたとはいえ、ジワジワと蝕む熱と消耗していくFP(集中力)に流石の灰も劣勢に立たされる。対する進化体も崩れている箇所はあれど、持ち前の再生力により浅い傷は治りかけていた。
想定以上に力の入らない自分の身体に苛立ちを覚えながらもどうにか幹から吹き飛ばされないでいると、絶え間なく襲いかかる炎の波の隙間から見知った影が進化体向けて飛翔する姿が見えた。
それは進化体も察知したようで、己の身に迫る一つの脅威にその巨体を向ける。
それは彼岸花を思わせる勇者服に身を包んだ少女─千景の姿だった。
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千景が現れる数分前。
灰が幹へと昇る姿を確認した千景と友奈は言われた通り進化体の視線の外に待機し、その機を待ち続けていた。
少し時間が経てば、灰と進化体の戦闘音が聞こえ、二人は一層気を引き締める。
「大丈夫かな、一人でバーテックスの囮なんて……信じてないわけじゃないけど、やっぱり……」
「……」
大丈夫だ、灰さんは負けない、死なない。死のうにも死なない体を持つ灰の事を知っている千景でさえも気持ちが揺らいでしまう程に、目の前で広がる戦いは苛烈であった。
(おかしい、今までの灰さんはけっして疲れた様子がなかった。私達の前では見せなかったのかもしれないけれど、もしそうならそこまで徹底して疲れを見せようとしなかった灰さんが何故今私達の前で疲れをみせたの?)
単純な疲労ではない別のナニカなのか?何にせよ灰を囮としたのはもしかすると間違いだっかのかも知れない。そんな疑心が浮かぶも時すでに遅し、今更灰を止める方法などありもしなかった。
「──っ!不味い灰さんが!」
隣で切羽詰まったように叫ぶ、見れば灰の姿をもみ消してしまうほどの熱量が灰のいる幹を襲っていた。
(どうするべき、助けるべきだ、いや、灰さんの合図がまだ……でも……)
「──ッ!」
気づいた時には既に足は動いていた。今すぐにでも目の前の害虫を鏖殺せねばならぬ、と揺れる千景の心の中でハッキリとその殺意だけは千景に命令を下していた。
大葉刈をしかと手に持ち目一杯の殺意を込めて千景は友奈の静止も聞かず、進化体の元へ飛んでいった。
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「よくも灰さんを……鏖殺……してやる」
鬼気迫る表情で迫る千景にバーテックスは灰に定めた火球を即座に分裂、全方位に展開し、一斉に射出する。
威力は多少半減するが、回避困難という圧倒的なアドバンテージを得たバーテックスの攻撃は勢いを殺さずに千景へと襲いかかる。
千景は大葉刈を振るい火球を弾いていくが、滝のように迫る火の海には流石の千景も耐えきれず、飲み込まれていく。
「千景……!!」
火だるまになり堕ちていく千景に必死に手を伸ばす灰。しかしその手は落ちる千景に触れることなく、空ぶる。
「ぐんちゃーーん!!」
呆然とする灰の耳に友奈の悲痛な叫びが聞こえる。その時だった。
死んだ筈の千景が幹の影から現れたのだ。しかも何人も。脳の処理が追いつかない灰を置いて進化体へと迫る千景。
一瞬幻術の類か何かと思ったが、灰の目に映るソウルは7人の千景を本物と断定していた。
後々灰は知ることになるが、現在千景の使用している力は『七人御先』と呼ばれるもので、その力を使用した千景は七つの場所に同時に存在し、その全てを同時に殺さなければ決して千景を殺すことは出来ない代物だ。
一人、二人殺した所でまた新たな千景が補充され決して『七』という人数は減らない。つまり、奇しくも今の千景は事実上の
「報いを……受けると良いわ……!」
炎の滝の中を掻い潜りながら進化体に接近した七人の千景はその大葉刈を振るい、進化体を切り裂く。
今度はコチラが受けることになった絶え間なく続く攻撃に遂に再生の余裕が無くなった進化体は砕けるようにして消滅した。
粉微塵になって消えていく進化体を見つめながら静かに千景は七人御先を解除する。
空を見れば極彩色の世界が薄まってきている。
──勝ったのだ。
何百にもなる大群を退けた千景達。今日も誰も死なずに終わったのだ。
元の現実に戻る瞬間、灰だけはどこか難しい顔のまま千景達の姿を見ていた。
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ここに来るのも何時ぶりだろうか。
大社の奥に設けられた小さな空間の中心で灰は腰を下ろしていた。
「……漆黒の空間に篝火か、全く……悪趣味だ」
前でパチパチと燃える篝火に安らぎを感じる反面、この音一つない深淵の様な空間に寂しさを感じてしまう。
嗚呼、自分で思っているより外の世界に感化されていたみたいだ。自嘲気味に笑う。
(今まで意に返さなかった事が今では不安に思ってしまうほど、弱ったか?俺は)
女々しくなった自分の姿を彼女達が見たらどう思うだろうか。
「──戻るとするか」
身体の調子を確かめる様に腕を動かし、大事ないと分かると腰を上げる。
いつもの様に兜を被る。気弱になった灰の心を隠す様に。
「………」
少し名残惜しそうに篝火を見た後、迷いを払うように頭を振り、部屋から去っていった。
誤字脱字や感想があったらどんどん下さい。
我々ぐんちゃんを幸せにする会はぐんちゃんのこれからを応援します。