『梟』の時は常時警戒しているみたいなものなので、少し口調が厳しくなります。なのでそこに違和感を持つかもしれません。
とはいえ目上の人とかと話す時は普通に敬語使うので余計混乱します。
というか筆者が一番混乱してます。
しのぶのことが呼び捨てになったにはそれは関係なく、あくまでも約一年を過ごした信頼関係によるものです。
「ったく、にしてもここまで見つからないものか」
場所は葦名、金剛山。梟はあるものを探しにこの地へときていた。二ヶ月後の柱合会議に向けてお館様から準備をしておけと言われたため、梟は自分に足りないものを探しにきていたのだが、その
季節は冬を過ぎ春に移ろい変わろうとする時期というのもあるのだろうか、秋には美しい紅葉をみせる金剛山の枯れ木の中からは徐々に新たな芽が出てきている。
そんな新たな芽がたくさん生えた場所の中にひとつ、瓢箪が生えた木を梟は見つける。
「ようやく見つけたぞ」
梟は実っている瓢箪の実をひとつとると、周りに落ちていた瓢箪の種をに少し力を加える。するとその種の中から水分がでてきて、それを舐め味を確認する。
「…間違いない。これが傷薬瓢箪のもととなったものか。種の数こそまだ少ないがこればかりは地道に集めるしかないか…。」
梟は求めていたもののひとつである傷薬瓢箪を見つけると金剛山を下山する。
「それにしてもまさか本当にこんなものがあるなんて…、まだまだ葦名に関しては調査する必要がありそうだ。」
梟が傷薬瓢箪の存在を知ったのは『
梟の葦名に関する知識もここから得たものであるが、知識として知っているのと実際に体験するのでは大きく差がある。それゆえに梟は気になっているもうひとつのもの、とある情報についての信憑性が上がり、詳しく調べる価値があると思った。
「怨嗟の鬼。やっぱり調べて見る価値はあるか…」
梟は葦名伝に書いてあった1つの名について興味をもった。それが怨嗟の鬼である。葦名伝は葦名の内容に関してはかなり深いところまで記載されているのだが、この怨嗟の鬼に関しての記述は少ない。その身体的特徴、修羅になり損ない怨嗟の積もる先となってしまった者の姿ということ、狼に討伐された。この三つしか書かれていない。情報が少なかったのだろうか、あるいは書きたくない、思い出したくない理由でもあったのだろうか。
この本を書いた当人たちの気持ちこそ今を生きる梟にはわからないものであるが、かつて葦名に現れた鬼ということで直接の繋がりこそない可能性もあるが、無惨に繋がる手がかりになるかもしれない。調べない理由はなかった。
「だけど、今はそれじゃないな。」
確かに怨嗟の鬼は気になるが、今の梟の体はしばらくの休養によってまだ本調子ではない。調べるのは万全の状態になってからでも遅くはないだろう。そう思った梟は山を下山しようとする。しかし、そんな梟を狙うものがいた。
「ウォォォォォォォ‼︎」
目が赤く染まった巨大な体躯を持つ男が突進してくるが、これを梟は危機察知で避けた。
「こいつが赤鬼⁉︎生き残りなのか⁉︎」
存在こそ知ってはいたがこれもまた実際に見るのは初めての存在。しかし、梟はすぐに戦闘体制へと入る。
赤鬼は無闇矢鱈に殴りつけてくるが湊はそれを刀を用いて弾いていく。
(ッ!一発一発が重い、しっかり弾かないと体幹が持ってかれる!)
赤鬼が疲れ、攻撃が止んだところで湊はしかける。
鳥の呼吸 巴流─ 守 浮船渡り
流れるような動きと手数で攻める湊だが赤鬼はまるで効いていないかのようにカウンターをから出してきた。それすらも弾く梟だが、今の梟は相手の分析に入っていた。
(日光の中でも活動できているということは無惨由来の鬼ではなく、あくまで葦名の異端ゆえの鬼ということか…。血鬼術など特殊なものこそ使ってこないが単純な膂力が桁違い、これが赤鬼か。)
湊は日輪刀での攻撃の他に錆び丸での攻撃を入れたりするなど攻撃にバリエーションを増やしていく。その中で最も効果的だったのは爆竹を混ぜた攻撃であった。
怯んだ隙に湊は心臓目掛けて刀を突き刺した。
忍殺
「首を落とす必要はないのか、やはり全く別の由来の力と考えたほうが良さそうか。」
(葦名と無惨の作り出す鬼は別物、となると怨嗟の鬼も葦名由来と考える方が自然か…。)
赤鬼を倒した梟は山を下山して捨て牢を通り外に出て、雄大にそびえる葦名城を見る。
政府に立ち入りを禁止されている葦名だが、歴史的価値があるのは間違いなく、政府によって密かにこうした建物は維持されている。しかし異端を恐れてかあくまで維持のみ、調査などはしていない。何度も出入りしている梟からすればそんな心配はないのだが、実在する異端の力というものは知らないものにはただの恐怖の存在でしかないのだろう。
そんなことを思いながら梟は屋根を伝って、天守までのぼり御子の間へと入る。状態こそ悪化しているがこの部屋には当時の書籍が多く残されている、調査をするにあたってはこれ以上にない都合の良い場所である。
梟は埃っぽい本棚の前へと立ち壁にかかりながら本を読見始めた。
葦名は異端ゆえに様々な事象が細かく記録されている本が多くあった。
例えば、落ち谷に響く呻き声、城の水堀の中に怨霊のようなものを見たなど普通は記録もされないような事も残っている。そしてその記録の中には、日の光で焼き殺さなければ死なぬ生き物もいたという。
記録によるとそうした生き物は寄鷹衆によって確保され処理されたそうだ。今の鬼殺隊が呼吸法を用いて鬼を殺すのに対して葦名の者はそれすら使わずに捕獲するというのだからその異常さが伝わる話の一つと言えるだろう。
(これはおそらく無惨由来の鬼だろう。しかし無惨らしき記述は見えないな…、せめて無惨の見た目だけでもわかったらまだ調べやすいんだが。)
それにしても、と梟は思う。
(これだけの異常さなら他国から恐れられて攻められるはず、たしかそれをたった一人の圧倒的な武力で抑え込んでいたとか。確か名は……葦名 一心。案外、無惨も一心殿を恐れて葦名に来なかったのかもな。)
梟はその後も書籍も読み漁るもなかなか無惨に繋がるような記述は見つからない。鬼殺隊創設以来でもなかなか見つからないのだ、この程度で見つかるとは梟も思っていない。まずは地道に情報を集めようと思い直す。
しかし収穫0というわけでもなかった。梟が興味を引いたのはこの葦名の地より北にあるという
(今日はもう遅い。一度準備をしなおしてから向かうとするか。)
梟は産屋敷家から支給された山奥にある屋敷に一度戻り、準備を完全なものとしてから薄井の森へと向かうことにする。この地では何が起こるのかわからない、備えに備えを重ねる必要があった。
翌朝、葦名を北へと進み薄井の森へと梟は向かう。段々と霧が出始めて視界が悪化していく。先へと進んでいく梟だがしばらく歩いたところで後ろから何かが迫ってくる気配を感じ、振り向くと槍を持った農民のような幻影が迫ってきていた。
忍びの目 見切り
咄嗟に呼吸で相手の動きを読み、攻撃を踏みつける。これにより体幹が崩れたところを一撃で仕留めるが、この事で梟はこの森の本質を理解する。
「これが薄井の森、実体のある幻影が24時間襲い続けるというわけか…確かに修行にはもってこいの場所だな。」
そう言った梟の周りにはすでに何人のもの幻が生み出されていた。
攻撃を弾き、攻め、忍殺する。始めの2、3時間はこれを繰り返していたが、常に警戒していると集中力もだいぶ落ちてくる。このままではまずいと思い、縛り糸を木と木の間に張り巡らせて糸の結界を作り始めた。
ある程度の広さまで広がった糸の上に、その脅威的な体幹でのった梟は落下忍殺で周りの敵をまとめて一掃する。
その姿はまるでかつて幻お蝶が平田屋敷で見せた動きと、狼が仙郷で白木の翁たちをまとめて一掃した姿と重なる。
幻たちを一掃した梟の前に1匹の鳥が現れる。
「…なんだ?こいつ、梟か?」
現れた1匹の鳥の見た目は梟に近かったが、その姿は青白く光っており透けて見える。
気になって触ろうとしたがその手は鳥に触れる事なく終わる、それどころか。
「アチッ‼︎」
その場に羽と炎を残して消えたのである、そんな不思議な鳥はその場所から少し離れた木で留まっていた。
梟はこんな現象を起こす羽、ひいては鳥を知っていた。
(ぬし羽の霧ガラス…、ということはあの鳥は霧ガラス…しかもこの森の主か。)
霧ガラスはその羽を羽ばたかせると、梟にこっちへ来いとでもいうようにゆっくりと飛び去っていった。誘われていると思った梟は霧ガラスを追いかける。
そうしてたどり着いた先には一つの祭壇のようなものがあった。
その祭壇の周りには大量の羽が落ちていて、その中心には
「両刃造りか、珍しいな。」
物珍しさにその刀に梟が触れると、辺り一面の景色が暗闇へと変わる。
「…なんなんだこれは」
周りは黒一色、端を観測することさえできない。今まで経験したこともないような事象に梟は困惑する。
「あれは…火か?」
そんな黒一色だった景色の中に一つの炎が生まれる。
梟が見つけた時点では焚火ほどの大きさしかなかった炎だが徐々にその勢いはまして、この暗闇を喰らい尽くさんとするかのごとく広がっている。
その勢いを見て流石にまずいと判断した梟はその場から離れようとする、が
「動けない‥‼︎」
なぜかその場をはなれることができない。
しかし更なる事が梟を完全に動揺させる。
「しのぶ⁉︎なぜここにいる、早く逃げろ‼︎」
そう、梟の目にはその場に立ち尽くすしのぶの後ろ姿が見えたのだ。
いや、しのぶだけではない。カナエや九水、更には妹を除いた殺されたはずの家族など今まで関わってきた全ての人たちがいた。
彼らはまるで梟の声が聞こえていないかのように立ち尽くしたまま動かない。そして炎をはだんだんと人の形を成していく。
「あの炎の形は…!」
その炎の成した形に梟は見覚えがあった。今まで梟が殺してきた者たち、それが例外がなく、かつて自身の手で殺した妹さえも炎として形をなしてしのぶやカナエ、九水たちを襲う。それだけではない、炎として現れた殺してきた者たちの背後には普通の人たちもいた。
そんな多勢の炎がしのぶたちを包み込み、彼らがもがき苦しむ様を梟は何もできずに見ているしかなかった。
「やめろ……やめてくれ…。」
しかしその炎が止まることはなかった。その炎の手は梟にも迫り、彼自身の体をも……。
「ハッ‼︎」
そこで梟の意識は現実へと戻る。
息は大きく乱れ、体中から冷や汗が出ていた。
「気がついたか…」
そんなところに背後から一人の老人のような声が響く。
さっきのようなものを見た後に見知らぬ老人の声、梟は最大限の警戒をもって抜刀し振り向く。
そこには一人の幻影がいた。だがそれが普通の幻影ではないことはすぐにわかった。こうして話かけてくること、そして何よりその隙のなさがそれを物語っている。
数多の戦いを勝ち抜いてきたような威厳で話しかけてきた老人は梟の警戒を解くように言った。
「カカカッ、そう警戒する必要などあるまい。見ての通り儂は丸腰じゃからのう。」
確かにその老人の格好は和服を着ているのみで武器や防具は見られない。だがその歴戦の佇まいが湊に警戒を解くことをさせなかった。
が、老人はそんなことを気にする様子もなく話しかけてくる。
「先ほどまでの幻との戦い、見ておったぞ。お主、忍びの技を使っているじゃろう。それだけではない、葦名流、巴流もじゃ。その3つを修めたものを見たのは儂は今までに一人しか見た事がない。」
この言葉を聞き梟は疑問に思う。
「なぜ葦名の技を知っている。今となってその技術を持つのは伝書を持つ俺だけのはずだ。」
「伝書とな…。あぁなるほど、隻狼め、律儀にあの本を受け継いで行ったのか。ということはお主は隻狼の……。カカカッ、人の縁とは、つくづく面白い!」
その老人は高らかに笑ったかと思うと梟の双眸を見て何かを見定めるかのように言った。
「お主、名は…」
しかし、梟は名を捨てた。この質問に答えることはできない。
「…名はもう無い。が、『梟』として目的のために動いている。」
その答えを聞いた老人は小さく笑って言う。
「狼の末裔が梟を名乗るとな…。不思議なこともあるものよ。」
そしてもう一度双眸を見て言う。
「お主のみが名を名乗ったのでは不公平であろう。儂の名は葦名一心。国盗り戦の葦名衆よ!」
聞いたことのある名前に梟は思わず息を呑む。
(それが本当なら、この方がかの剣聖…。葦名一心、葦名が閉ざされてもなお消すことが出来ぬほどの圧倒的な武勇の歴史…。彼の逸話は全国各地に残っている、知らない方がおかしい…。だがしかし)
「あなたは既に亡くなっている、そんな幻影のような姿とはいえその話を信じろと?」
ほぉ、といい少し上機嫌な一心は答えた。
「儂のことを知ってるなら話が早い、その通りよ。確かに儂は死んだ身じゃがお主が先程ふれていた黒の不死斬りと、この森の性質が相まってこうして姿を表せておる。」
「黒の不死斬り…」
聞いたこともない名に梟は聞き返す。
「そうじゃ。尋常の術では死なぬものすらも殺すことができる刀、それが不死斬りよ。そしてこの黒は転じて生となす、今となっては叶わぬが竜胤を供物として捧げることで黄泉帰りすらも成すことができる刀よ。」
ここで一呼吸おいて一心は続けた。
「既に竜胤は無いが、この刀から滲み出る力がこの森の幻と相まって、この刀の最後の持ち主であった儂の姿を不完全ながら形作っておる。それが儂がこうしてここにおる理由よ。」
この説明を聞いて梟は納得するしかないと思った。
一心の言う黒の不死斬り、その性質が本当かどうかなど知る術はないが、彼が本当に一心ならこの威厳も納得できると思ったからだ。
「…あなたが一心様であることは信じましょう。それでわざわざ話かけてきてくださったのですから何か用があるのではないのですか?」
「話が早くてたすかるわい。儂はお主に忠告をしにきた。」
「忠告?」
梟が聞き返すと一心は頷いて答える。
「もう一度言うが、今この場所は不死斬りの力によって黄泉と繋がりやすくなっておる。おそらくじゃがお主が見ていた幻も何か黄泉のもの、詰まるところ死者にまつわるものを見ていたのであろう?」
少しの沈黙の後、梟は口を開いた。
「…はい、その通りです。私は今、鬼狩りをしています。それは葦名の赤鬼のようなものではなく、ある一人のものによって生み出されたものですが。その今まで狩ってきた鬼たちが…私の大切な人たちを炎となって焼く幻を幻を見ました。」
そのことを聞いた聞いた一心は嫌なことでも思い出したかのような顔をする。
「だから儂が忠告しにきたのよ。…梟、今のお主がその刀を振ればその光景は現実の物となる。儂は一度、その刀により修羅に堕ちた者を知っておる。忍びは業を引き継ぐと聞くが、お主の殺す者は鬼ときた。それならば受け継ぐ業の多さは通常とは比べてものにならないじゃろう。お主に修羅の影は見えぬ…しかしその刀を振ればお主の持っている業が解き放たれ怨嗟の炎に焼かれるであろう。そしていずれはお主自身も鬼となってしまうであろうな」
「私があの光景を…」
梟の声は震えていた。あの光景を作り出すのは自分だと伝えられたからだ、それはつまり自分自身のせいで彼らを、梟が守りたいと思っている人間を傷つけることになる。その事実に驚愕したからだ。
「そうじゃ。じゃが儂も、何度かお主の言う鬼を斬ったことがある。その戦いにおいて不死斬りは貴重な手段となるじゃろう。故に儂はこの刀をお主が持っていても良いと思っておる。」
この言葉に梟は驚く。確かに死なない者を生きているもののように殺せる手段、すなわち鬼でさえも心臓を貫けば殺す事ができる刀、それが手に入ると言うのだ。しかしながら、一心はその刀を振るのはやめておけとも言っている。そんな矛盾したような発言に驚かない方が無理だった。
「もちろん無条件でとは言わん。その刀の横に置いてある袋を見てみよ。」
そう言われて黒の不死斬りの方を見ると、かなり汚れてはいるものの確かに一心の言う小さい布でできた袋があった。
「それを不死斬りの前に捧げ、祈ってみよ。さすれば試練は現れる。その試練に打ち勝つ事ができたのなら、お主にもあの刀を持つ資格があるじゃろう。」
ここで疑問に思っていたことを梟は聞いた。
「何故こんな事をするのですか?あなた自身がその刀を振るなと言ってきたのに。」
一心は満面の笑みで答えた。
「お主の戦いぶりに興味が湧いたからよ。そのまだ全盛を迎えていない体で既に葦名の技の数々を修めてある。そんなお主があの刀を使えたらもっと強くなれる、儂はただお主が強くなっていく様が見たいだけよ。」
「どうしてそこまで?」
「無論、お主と立ち合うてみたいからじゃ。お主が全盛となったその時にこそ、隻狼以来の血が滾る戦いができるやもしれぬ。ただそれだけよ。」
梟はこの男が剣聖と呼ばれ、今でも伝説として語り継がれる由縁を垣間見た気がした。そんな剣聖から与えられた機会、無駄にはできない。
「その試練受けましょう。その刀を必ず手中におさめてみせます。」
「カカカッ、その意気よ。よいか梟よ、迷えば敗れるぞ。」
そうして幻影の一心は消えていった。
梟はもう一度不死斬りの前に立ち、その布袋を不死斬りの前に置いた。
そうして坐禅を組み手を合わせて祈る。
この間、梟は目をつむり、ただひたすらに祈った。
かつて狼が鬼仏に祈ったように。
そうしている間に梟は頬で風の流れを感じた。そうして目を開けると目の前から不死斬りや祭壇が消えていた。風の流れる方向を感じ後ろを振り返ると、そこには霧が流れていっている。その霧はやがて人の形を作っていく。
そして形作られた瞬間に、その幻影は梟へと突いてきた。
鳥の呼吸 参ノ型 忍びの目【見切り】
梟は瞬時に呼吸をしてその突きを見切った。
ここで初めて梟はこの幻影の姿を視認する。
大柄な体躯、編み込まれた長い髪、巨大な太刀、鳥の羽で作られた羽織。
まさしく、過去を生きた類稀なる強者。大忍び梟の幻影である。
時はかの国盗り戦から二十余年。
葦名から脱出した、ある忍びと主君の残影である。
「ついにできたぞ!狼よ、これを見よ。」
一人の少年がそう言って一冊の本を忍びに渡す。
「は…」
それを忍びが受け取った。その忍びの顔の右半分にはかつてのような白い痣はない。それは彼が竜胤の呪いから解放された事を意味していた。
「これは風土記じゃ。…葦名は内府によって閉ざされてしまうそうだ。ならばせめて何か記録には残さぬかと思うて書いたのだ。私は地理や植物には疎い、だからお主の意見も聞きたいと思うてな。ほら、今回お主は私のために様々葦名の他を駆け巡ってくれたであろう?だから地理については私より詳しいと考えたのだ。植物に関してはエマ殿に聞こうと思うておる。どうじゃ狼、手伝ってはくれぬか」
「御意…」
「そうか、ありがとな、狼よ。ところで仁は何をしておるのだ?先ほどから姿が見えぬようだが。」
「エマ殿の元へ薬学を学びに行くと聞いておりまする。」
「そうか。内府との戦の後でお主があの子を拾った時はどんな子になるのかと思うたが中々聡明な子じゃな。あの年にして薬学とは。」
「は。念の為、護身の術は教えておりまする。」
「それなら安心じゃな。狼よ、もしかしたらあの子の子孫はいずれお主のような、誰かを助けるような忍びになるやもしれぬな。…無論、そんな世の中にならないのが一番なのだが…」
少年はこれまでにそんな世を見た事があるのだろうか。悲痛な表情を浮かべていた。
「故にこの葦名の歴史を後世に残さねばならぬ。この葦名のような戦火を生み出さないためにも。」
「御意。」
ここで残影は終わっている。
以下の文章はこの忍びが主君から譲り受けた完成した本の詳細である。
『葦名伝』
剣聖、葦名一心の国盗りより以前の歴史の記録すらも記されている書物。
葦名の地理、歴史などを事細かに記録してある貴重な資料。
これは薄井家に受け継がれ、後世に残されていく。
筆者は何を思ってこれを書いたのか、今を生きる者たちにとってはわからない。
ただ歴史に葦名の名を残したかったのだろうか。それとも、この記録が誰かの糧となり、人の心中に息づくのを願ったのだろうか。
湊に忍び義手つける?
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つけてくれ
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別にいらん