最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
俺は星野アクアの事が嫌いだ。
いつも何考えてんのか分からねえ面してる癖にやたら人気で、俺の人気の何割かを間違いなく食っている。
このマルチに活躍する俺様の人気を、だ。
それがどうにもいけ好かねえ、しかも俺が挑発しても見向きもしない。
ほんと、何だってかなはわざわざあんな奴の事なんか気になっているのやら……ま、別に構わないが。
「よ、初日お疲れー」
「ノブもお疲れちゃん、成果はどうよ?」
「いやアハハ、それが思ったよりガチであっちゃって……」
「へーマジで? 誰よ」
「……だ、誰も聞いてねえから話すが……ゆきちゃんだ」
「ほほう、そう来たか」
今はそんなダルい事考えるより取り敢えず一旦初日やり切った事を友と分かち合うとするかね、イライラするが。
熊野ノブユキ……とある歌番組で歌手のバックダンサーを務めていたコイツとソロで出演していた俺とで出会った事で交友を始めすっかり意気投合した仲だ。
今回偶然にも今ガチで共演する事になったのだが、気軽に話せる知り合いが男陣営の方にもいたのはラッキーだった。
しかし初日から成果を出すとは……しかも今回の中心になりそうな鷲見ゆきと来たか。
中々見る目があるじゃないか。
「……か、和也はゆきちゃん狙わないよな? お前と争うとロクな目に遭わなさそうだから嫌なんだけど」
「無いね。元より俺様はかなを弄りに来ただけだから。あ、何なら俺達二人でお前らの事引き立ててやっても良いぞ」
「あーうん、和也にはかなちゃんがいたね……」
「ま、俺達はただの幼馴染だから何一つ弊害は生まれないがな。……いやしかしノブがいてくれて助かったよ」
「いや本当にただの幼馴染か……? って、なんだよ藪から棒に。そんなに息苦しい現場じゃないだろうに、ほらかなちゃんもいるし」
あーやっぱりダルい事でも我慢するよりやっぱり吐き出したくなった。
なんか無性にイライラするんだよな星野アクアの顔思い出すと。
特にあの初日のかなの動揺の時から。
やっぱりよりにもよって過ぎるだろ、男見る目無いのかよ。
「俺さあ、星野アクアって苦手なんだよ」
「アクアくん? どうして?」
「何考えてんのか分からない様な顔しやがって、その癖演技は手堅く小手技に頼った技巧派。飛び抜けて上手くは無いが安定感があり女性人気高め。……クソ、あのいけ好かないイケメンめ……この俺様の人気を何割か絶対持って行ってやがる……ああ忌々しい忌々しい……」
「いや私怨かよ、女々しいなオイ」
けっ、女々しくて結構だよ。
自分の才能を客観的に測って的確に自分に出来る最善を尽くす、役者としての知識は俺よりも高い。
演技は平々凡々としている癖にそこだけ達観なのか諦観なのか、研ぎ澄まされたったその一つの武器だけで俺を食う時がたまにある。
そんな卓越された、ある種老獪とも言える技術が年齢不相応過ぎでいけ好かないのだ。
まるで俺をガキ扱いするかの様に……ええい考えるだけで虫唾が走る。
「あの男にだけは主役を張らせて堪るかってんだよ。ノブ、お前絶対ゆきちゃんにアピールし続けろ、他の女には行くな」
「ええ!? いや俺もそうしようとしてたけど急にどうしたんだよ」
「鷲見ゆき、アイツはこの回の『主役』だ。一番フィーチャーされるだろう。その主役に真っ先にアピールしたお前が継続すれば男側のメインはお前だ。少なくとも星野アクアに取られる事は無い。そんで俺はお前を引き立てる名脇役としてお前のお零れに預かる。どうだ? 最高だろ?」
「和也って本当に貪欲だよなあ……俺は役者は専門じゃないからそういうフィーチャーどうこうは別に良いけど、それはそれとしてゆきちゃんの事は気になるし仲良くなりたいとは思ってるからな」
「んじゃ決まりだな。近い内あっちからも自分がメインなのを理解した大きなアクションを起こすはずだから逃すなよ〜?」
『それじゃお互い二日目も頑張りますかね』なんてハイタッチを交わして解散する。
正直な話最悪俺は全くフィーチャーされなくてもそれはそれで問題無いと思っている、お零れを貰えるなら積極的に貰うが。
俺の目的は星野アクアをメインにしない事、そうすれば後は快適にかなと漫才が出来るからな。
……しかしかなはどこ行ったのやら。
俺は今実家にいないとはいえ途中までは道同じなんだから送ってってやろうと思ったのに。
「……で? アクアは『ああいうの』が良い訳? 黒川あかねみたいな……」
「……別にそういう訳じゃない」
「…………は?」
そうして何気なく待っていた俺の視界に入ってきたのは、かなと仲睦まじそうに話す星野アクアの姿だった。
思わずブチギレかけて……止まる。
「いや待てよ、別にアイツが誰と恋愛してようが関係無いよな。それが偶々俺の気に入らない奴なだけだったってだけなんだから」
どうせ二日目以降もかなを独占するのは俺なんだしな。
大丈夫なはず……そう思いながら一人帰路に着いたのだった。
「私……もう『今ガチ』辞めたい」
ある程度期間が経った時、遂に鷲見ゆきが大きなアクションを起こした。
間違いなくこれは盛り上げる為のアクションだ、ここでのムーブ次第で注目される男も変わってくる。
ここまでは順調だったんだ、頼むぞ。
「こんな途中で!?」
「なんでそんな事言うんだよ!」
森本ケンゴ、ノブの順でアクション。
良い感じだ。
「最近ね、学校の男子とかが絡んでくるんだ。お前こういう男が好きなんだーとか。自分の好きって気持ちをみんなに見せるって、こんなに怖い事無いよ……」
「始めるまで全然分かってなかった。大勢の人に注目されるって良い事ばかりじゃない……」
この言葉に女性陣営のMEMちょ、黒川あかね二人が反応、どちらも当たり障りは無かった。
かなはと言うと……
「分かるわ~学校で弄られるのが嫌な気持ち、アタシも役者やってるから悪役や死体役もやるんだけど学校でその設定持ち出してきて弄られるとしんどいのなんので……」
ここぞとばかりに共感しながら愚痴を漏らしていた。
ま、役者ならではの苦労話か。
ちなみに俺は敢えて反応しない、ここまで影の薄かった森本とここまで鷲見ゆきに一番絡みにいってたノブを目立たせる事で星野アクアの存在感を削る考えだ。
「俺がいつでも話聞くからさ! ゆきが辞めるなら俺も辞めるからな!」
「ノブくん……」
「そんな事言わないで続けようぜ!」
「私は――」
と、ここでこの日の収録は終了。
良い引きを見せた鷲見ゆきと、積極的なアクションを起こしたノブに手応えを感じる。
完全に現状この二人が主役だ。
この間に当人の話が入ってくるが、やはり盛り上げるためにある程度誇張した表現だったらしい。
上手くて助かるぜ。
「なっ、和也とかなちゃんもどうだー? メッさんが焼肉奢ってくれるってよ!」
「言ってないよぉ!?」
「お、良いねえ。親睦会って名目でいっちょ行っちゃいますかぁ?」
「アタシも行きたーい!」
「つーか知ってるよ? 最近登録者増えてウハウハなんでしょ〜?」
ふむ、ノブにしては考えたな。
全員と仲を深めてあわよくば本命との距離も近付けていく……恋愛リアリティショーと言いつつ本気で気になってる相手へのアプローチとしては良い切り口だろう、と俺も乗ってやった訳だ。
ちなみに焼肉はメッちゃんが折れて奢ってくれる事となった。
よしよし、ここまでは俺の想定内だな、ガハハ!
「アクアさん、カイノミ焼けましたよ、どーぞ」
「自分のは自分で焼くから良いよ、さっきから黒川さん全然食ってないだろ」
「そーいうのは素直に受け取っとくもんよーアクア」
「そ、そうです! 私精進の身なので!」
「ノブ……やっぱり俺なんかムカつくわ」
「いや俺に言われても……」
どこまでも俺の想定外を行くいけ好かない男を除いては、な。