最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
「それじゃあ読み合わせ始めるぞ、文京から最後まで通しだからな」
俺様は自慢じゃないがドラマより舞台演劇の方が本来得意だ。
所謂『スイッチが入りやすいタチ』であり、生で魅せる演技でこそそのパフォーマンスが十全に見せられるからである。
ただ、舞台演劇のオファーそのものがあまり無く今回も1年以上のスパンが空いた上での本読みとなった。
まあ、だからと言って俺様が遅れを取るはずなんて無いがな。
ジンの性格は一言で表すなら『素直になれない不良』だ。
最初チーム文京が渋谷に侵入してきた時はそれは粗暴な言葉を繰り返していたが、次第に潜伏調査の傍らで『無駄な事』と言いながら人助けをしたりするのだ。
そういうところが読者にウケたのだろう。
さて、演出達の反応はどうかね。
「チーム文京の3人、上手いですね」
「ああ、神プロも無道や牟呂田は既に上手いのは知っていたが……新橋一希、これがデビューだとは思えんな」
「彼女、子役タレント上がりみたいですよ……有馬ちゃんみたいな実力ある役者になれますね」
「その有馬も安定感があって流石と言ったところだが……俺が気になったのは鳴嶋メルトだな」
「彼ですか? 確か『今日あま』で役者デビューしたっていう」
「あれからまだ1年も経たずにここまでか……あの時も面白い存在だと思ったが、多少格落ちする程度まで喰らいついているのは目を見張る」
特に注目されていたのは歴の短いいっちゃんとメルトか。
社長曰くいっちゃんは秘蔵っ子みたいな立ち位置だったらしいが、それも頷ける実力者だ。
事前にどの程度やれるか把握していなかったら俺様も驚いていたかも知れない。
ところで彼女演じる『イタチ』は少し幼いながらも男勝りな女性キャラだ。
いつものぺこぺこしているお手本の様な後輩じみた性格のあの子からは到底感じられないオーラがある……天性のものだろうが末恐ろしいな。
そしてメルト。
俺様が扱いていただけあり、この時点で及第点。
顔だけ起用なんてこの俺様が言わせない。
しかし俺様には相手するメインディッシュがいる。
「有馬ちゃんと姫川の競演、凄まじい〜! これこれ、こういうのが見たかったんですよね〜有馬ちゃんも競演相手に合わせた適応力抜群の演技が見応え抜群だから映える映える」
「ここからはもう一つのメイン、姫川と無道の競演もある」
「2人とも気迫ありますからね!」
それは姫川大輝、この舞台の主人公だ。
俺様も月9主演や人気映画のメインに抜擢されるのは数あれど姫川の様な世界的権威のある賞に関しては去年取った『ワールドシアター・アクション部門助演男優賞』だけだ。
ま今年はアクション、恋愛、推理モノと立て続けに主演の映画が上映されたからどっかの部門のワールドシアターで主演男優賞取れると思うけど。
で、だ。
現状、当面暫く追い付くのに時間を要するこの日本を代表するエリート俳優と真正面からやり合えると思うとゾクゾクしちまうよ。
「有馬、楽しかった。お前の演技中々良いじゃん」
「そう言ってもらえるなら光栄だわ」
「で……次は無道和也……君だね。来な」
「へぇ、俺様の事は良くご存知の様で」
「将来的にライバルになる可能性のある、数少ない俳優だから。……一度やってみたかったんだよね、真正面から君とぶつかるの」
「そりゃどうも。……そんじゃ、遠慮無しでやらせてもらうぜ」
心地良い痺れが身体を巡るのを感じた。
「――アクアくん、和也くんの演技凄いね……」
「あ、ああ……アイツの演技は言わば『万能型』。適応型や没入型の特化した人間の武器には敵わないが『役に入り込みながら周りにも合わせる事が出来る』、適応型と没入型の利点を同時に脳内処理し瞬時に演技として出力する。天才と自称するだけはあるという事だ」
「なるほどなるほど……間近で和也くんの演技見るのは初めてだったけれどこれは見入っちゃうなあ。……ところで」
「なんだ?」
「かなさんの演技、見蕩れてたでしょ?」
「……さてな」
星野アクアはそっぽを向く。
自分は役者をやりたくてやっている訳では無い、そう言い聞かせる様に言葉を有耶無耶に受け取る。
だが、あかねは分かっていた。
アクアが『根っからの役者である』事を。
姫川大輝と有馬かなの競演に、姫川大輝と無道和也の競演に無意識に見入っていた事に。
――それでいて彼女は知っていた、星野アクアはこれ以上踏み入ってもうんともすんとも言わない事を。
実際に踏み入った事は無い。
だが、黒川あかねは知っている。
天性のプロファイリング能力で性格をトレースし、事前に把握していたのだ。
だから彼女は言わない。
そしてそんな言わない状況が一番心地良い時間である事を当たり前の様に享受している。
「ふふっ」
「……?」
星野アクアが彼女に性格を知られているという事に気付くのは、もう少し先の話である。
「有馬かな、無道和也。この後メシどう」
読み合わせも終わり、一通り全員が役を掴めた感触を感じる。
何せここにいる役者はメルトを除けば一流しかおらず、そのメルトも必死に喰らいついてきていたのだ。
当たり前と言えばそうなのかもしれない。
何かしらかなやメルトと語り合いながら帰ろうか……そう計画していた時に姫川大輝に話し掛けられる、しかも食事の誘いだ。
これはつまり『個々の役者としての演技や理論』を語り合いたいと、俺様達を『認めてきた』事に他ならない。
そういう認識をされるのは、こちらとしても大歓迎だ。
「フッ、良いだろう。共に語らいたい事もあるのでな」
「良いわね~私も聞きたい事が山程あるわ! メルト、アンタも来なさい!」
「え、俺もッスか? 良いんですか俺とか場違いな気が……」
そしてそこに敢えてメルトも連れて行く。
コイツは本職がモデルであるのにも関わらず演技に勉強熱心だ、ならばそれ相応に応えてやるのが先輩の努めだろう。
今日のこれはそれにはおあつらえ向きだ。
「共演シーン多いんだから当然よ! それに折角姫川大輝の理論を聞ける大チャンスなんだからアンタの成長にも繋がるでしょ?」
「分からないところがあれば俺様が分かりやすく解説してやろう、この俺様がな!」
「あ、ありがとうございます!」
「んじゃ、行くか」
姫川も俺様達の意図が読めたのか、すぐ戻したとはいえ少しだけ面白そうな顔をしていた。
これは……面白い相乗効果が期待出来るかも知れない。
「あ、あの〜……」
「あかねちゃん? もしかして来たい?」
「その、共演シーンは少ないですけれど……」
おっと、もう一人追加か。
あかねちゃんもあかねちゃんでララライの現エース、一流役者揃いの団体でトップスターというのはメルトの勉強相手には過剰かも知れないがこの際取り込んでしまって良いだろう。
「……ま、黒川なら学べる事も多いし良いよ」
「ありがとうございます、姫川さん!」
「メルト、着いてこいよ。今日はあの現場以上に学ぶ事が多くなるぞ」
「分かりました! 皆さん、学ばせてください!」
結局この日はこの後、2時間以上に渡り語り合う事になった。
超一流の技術と信念を持つ俺様達4人の語らいにメルトも終始混乱していたが、そこは俺様のフォローで何とか着いてきていた。
親交も深まり、この日は非常に益になったと言えるだろう。
……あかねちゃんはアクアと一緒じゃなくて良かったのだろうかとか、そこは多分気にしては行けないんだろうな、うん。
「今日は凄まじいもの立て続けに見ちゃいましたねえ」
「ああ。これが俗に言う『怪物対決』というやつだろうな」
有馬かなと黒川あかねの競演を女優同士の天才vs天才とするならば、姫川大輝と無道和也は男優同士の天才vs天才、とはこの日の読み合わせが終了した直後の劇団ララライ主宰金田一敏郎の談だ。
そして更に語る。
役者とは潜在的に負けず嫌いの集まりである。
そんな連中が、姫川大輝vs有馬かな、姫川大輝vs無道和也と言う天才の競演を連続で見せられたらアイツらとどう戦うか必死になって考えてしまう、無意識にでもな……と。
「だが、俺が一番楽しみにしている事は他にある」
「と、言うと?」
「これに感化される『素人』が、化学反応を起こす人間が出てくるかどうか……『新しい才能の誕生』俺が求めるはそこにある」
彼は思い馳せる。
その『怪物達』に感化される新たな才能の息吹を。
そしてその針の音は、着々と近付いていた。
無道和也
サラッと世界的権威のある賞を受賞している自称天才
とにかく強い役者との競演になるとスイッチが入りまくる『戦闘狂』
有馬かな
和也程でないにせよ『戦闘好き』の天才役者
ただ適応型の宿命か戦わない事多数
鳴嶋メルト
おや、メルトの様子が…?
姫川大輝
和也、かなとは意気投合し結構気に入ったらしい