最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
「新宿の連中を……皆殺しにしてやりなさい……」
「うーん……あかね、そこの演技はもう少し強く出て良いぞ」
「え……で、でも原作だと鞘姫はもっと落ち着いた子で……」
「そうか……しかし脚本では割かし好戦的なキャラとして描かれてるからな。悪いが、頼む」
「……分かりました」
東京ブレイド稽古3日目。
俺様は天才マルチタレントとあり最初から最後まで稽古には出られないが、それでもかなと会える事、姫川と談義を交える事、メルトに教える事と楽しみがあるからか少しでも出られるなら出る事にしてある程度スケジュールを更に調整してもらっている。
そして今日も気分良く出てきたのだが……
「新宿の連中を、皆殺しにしてやりなさいっ!」
「OK、その感じで行こうか。次場転で新宿有馬から行くぞー」
「はーい」
現在行われているのは俺様演じるジンが死に、チーム文京が新宿クラスタに統合された後の渋谷クラスタとの戦闘前。
原作ではあかねちゃんが言っていた通り、鞘姫は戦闘を嫌う優しい……それこそあかねちゃんみたいな性格だ。
だが、この『舞台東京ブレイド』は何かがおかしい。
まずこの鞘姫、戦闘に前のめりになる様なちょっと狂気の入った役柄になっている、まるで真逆だ。
「……これで良いのかな、私」
ジンに関しても不満がある。
このキャラ、というか文京は昔読み込んだものに加え役に入る為に更に読み込んだのだが不良ではあるが仁義や人情を大切にするキャラだ。
だからこそ最後まで報われず、つるぎを庇いながら死んでいく様に読者達は胸を打たれ、アニメでも単独OVAとして収録され、こうして舞台演劇でも他の章を押し退け採用されるくらいの魅力がある。
だが、この舞台でのジンは違っていた。
使える物は全て使い、誰を何を殺してでもつるぎを手に入れようとする執念深いキャラになっていた。
そういう、キャラの相違があまりにも不満だった。
「あかねちゃん、ちょっと」
「あ、うん」
現状手の空いてる、それでいてこのキャラ設定改変に不満を一番持ってそうなあかねちゃんを呼び寄せる。
「……どう思う『この鞘姫』」
「あんまり……好きにはなれないかも。私の好きな鞘姫は、戦う事に心を痛める優しい子なのに」
「だよなあ……俺のジンも散々だよ」
「ジンも優しいところがあんまり目立たなくてどうなんだろうって思うところもあるよね……でも、仕方ないよね。原作の先生がOK出したんだもんね……」
やはりか、あかねちゃんは相当この舞台のキャラ付けに不満を抱いている様子だった。
この舞台の脚本を手掛けているのは『GOA』と呼ばれる敏腕脚本家だが、どうやらこの人も原作のファンではある……らしいのだが、尺の都合上どうしても対立構造を簡略化させたいのかキャラ立ちが単純で極端になっている。
まあ、本当に原作の先生……鮫島アビ子先生がOKを出していればいくら不満を持っていても仕方ないだろうが……
だが、本当にOKを出しているのだろうか。
俺はそこだけが気掛かりだった。
「……果たして本当にOKを出しているのかな?」
「え?」
「鮫島アビ子先生は実に22歳と若い。アニメ、映画は分かりやすいが演劇の特殊な尺短縮等を理解されているのか、それでOKは出したのか、ちゃんと脚本は見たのか……思うところは多々ある」
「た、確かに……?」
「そこでだ。俺様は独自で少し鮫島先生に話を聞きに行こうと思っている。本当にこれで良いと判断されたのか否か。あの方はとても拘りが強いと聞いているからもしも目を通していなかったら……」
そう、万が一鮫島先生がこの脚本に目を通していなかった場合先生の性格上0から脚本の書き直しをする可能性がある。
この作品のファンでもある俺様は色んなイベントや先生のインタビュー記事を見てその人となりを見てきたから、これで良しと言っている先生のイメージが全く湧かない。
だから聞きに行くのだ、明日にでもマネちゃんにアポを取ってもらって、な。
「今日はここにするか」
「え、居酒屋なの?」
「ここは飯も美味いんだ、酒が飲めなくても和食料理屋としての評価が高い。メルトのモデル仲間と一度行ったから俺様が保証してやる」
「ふーんそうなの。和也がそう言うなら大丈夫ね」
その日の解散後、俺はかなを連れて2人で、今日あまで共演した1人と来た事のある居酒屋に来ていた。
居酒屋とはあるがこの店のメインはなんと行っても飯、店主拘りの季節の色とりどりな和食料理が芸能人からのウケも良く密かに隠れスポットとして人気らしい。
快活な店員の声と共に店内に入る。
今日はどうしても他の連中を誘えず2人切りになったからな、一応個室に入ろうか……
「ん? え?」
チラッと見渡し……お手洗いから見覚えのある癖のある黒髪の女性が出てきた、というかアレは……
「……あ」
というかあっちもなんかこっちに気付いた。
かなも即座に分かったのだろうが咄嗟に取り繕っていた。
「君達……もしかして、私の舞台の?」
「はい、まあ……そう、なりますね」
それは紛れも無く鮫島アビ子先生だった。
こんな偶然あるのかよ……
「……丁度良かった、舞台の事で誰かに相談したい事あったから。当事者がいるなら助かるかも」
「成程、俺もお聞きしたい事があったので助かります」
「え、そうなの?」
「ああ、まあな。という訳で……」
店員さんに鮫島先生達と同席する旨を伝え、個室へと通される。
そこには……
「えー、和也くんにかなちゃん!? 撮影振りじゃ〜ん!」
「お久しぶりです、吉祥寺先生」
「ご無沙汰してます」
吉祥寺頼子先生……今日あまの原作者だ。
ちなみにこの人、俺様達がある程度ちゃんとした現場に整えた事に死ぬ程恩義を感じているらしくめちゃくちゃフレンドリーである。
というか鮫島先生は吉祥寺先生の元アシスタントなのでいてもおかしくはなかったが、とんだ偶然に偶然が重なったものだ。
「まさかこんなとこで会うなんてねえ。しかも2人とも『東ブレ』にも出るんでしょ?」
「俺はジンで」
「アタシはつるぎで」
「きゃ〜もう! 幼馴染の2人が舞台でも幼馴染、それも久々の再会を果たしたと思ったら死に別れる関係とかもう……」
なおこの人、重症レベルの『関係性オタク』でもあるが今回は割愛する……ここに来たからには話しておきたい事があるからな。
「……そう言えば和也、鮫島先生に話したい事あったのよね?」
かながシレッと話を元に戻してくれたので助かった。
丁度場が整ったところで料理も来たので舌鼓を打ちつつ話すとしよう。
「先に先生のお話を聞かせてくれませんか? 『俺達なら丁度良く相談出来る』というのも気になりますし」
「そうね……あの、私自分の作品が舞台化するなんて初めてで……色々、その、言いたい事って言うのはあるんだけど……どこまで口出しして良いのか分からなくて」
ビンゴ! 心の中で俺様のしたかった話と全く同じ共通の話題が出た事に感嘆を覚える。
これでこちらとしても話を切り出しやすくなるというものだ。
「鮫島先生……実は俺も、その事について近日中にアポを取って伺いたいと思っていたところでしてね」
「え、そうなの? ……理由聞いても良い? あ、無道くんだったよね」
「ええ、無道和也です。理由は簡単です。……あの脚本に本当にOKを出したのか否か、それをお聞きしたかった」
「あ、そういう事ね……」
俺が切り出すや否やかなは全てを察したのかボソリと呟く。
相変わらず理解が早い幼馴染で助かる。
「脚本……あんまり原作者が関わるとノイズになると思って任せっきりにしてた」
「やはり。こちらにその脚本があるんですが……読んでもらっても?」
「うん」
そしてこの時点で吉祥寺先生がかなり冷や汗をかいていた。
言わずもがな、鮫島先生の拘りの強さはこの人が一番よく知っているからだ。
そして、当事者たる役者が『明らかに不満を持った声色』で脚本を見せる事がどういう事態に繋がるかも知っていた。
「……どうです?」
「…………見せてくれてありがとう。このまま舞台化されたら私、一生後悔するところだった。君達でも、思うくらいなんだから」
表情は変わらない。
だが明らかに言葉からしてこの脚本が根底から変わりそうな匂いがした、哀れGOAさん、俺様はまだ右も左も分からない原作者の先生にアドバイスをしただけだから悪くないからな、何とかしてくれな。
「そうですか。やはり今日お会いできて光栄でした……今度、直々に稽古見に来ませんか? そこで率直な意見を述べてもらえればと思っています。……吉祥寺先生、お願い出来ますか?」
「もう……こうなった以上この人絶対行かないと止まらないんだから。予定取り付けとく」
「アンタ好きだったものね、東京ブレイド」
「まあな。好きなものには特に拘りを持ちたいもんでな」
取り敢えず心の中でGOAさんに合掌しておこう、南無南無。
ちなみにお会計は男の俺様がやろうとしたら年長の吉祥寺先生にぶん取られた、そこは年功序列でやらせろとの事らしかったが……
とにかく、脚本がどうなるか楽しみだ。
無道和也
脚本がどうなるか楽しみらしい(他人事)
この騒動お前が始めたんだよなあ…
鮫島アビ子
脚本は爆破させます
吉祥寺頼子
今から胃痛がしている