最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
「ふ〜ん、ここが新宿クラスタのいるとこか。この俺様に掛かりゃすぐにでも攻略出来ちまいそうだな。カマジ、イタチ、偵察ヨロシク。どんなもんの強さか力量測ってこい」
「ヘイ、ジンさん!」
「あいよ!」
「但し安全第一だからな! 死ぬんじゃねーぞ! 危なくなったら逃げる事、良いな!」
舞台東京ブレイドが開演した。
第一幕はブレイド組……新宿クラスタが出来上がるまでの成り立ち、所謂ブレイドが覚醒しつるぎ達を仲間に加えるまでの物語だ。
俺様達神プロ組で構成されたチーム文京の出番はその第一幕とメインの第二幕の間に当たる。
それぞれの幕が一時間程なのに対しこのチーム文京というのは原作でも幕間として描かれた、幕間連載開始当時からして他のクラスタやチームより扱いの影が薄い事で有名だった。
だがファンの間では瞬く間にこの幕間は人気を博した。
まず何よりこのチームリーダー『ジン』がつるぎの幼馴染で、長い間片想いしていたからだ。
「……待ってろよつるぎ。俺様はきっと、この刀で……」
その想いが一途過ぎて、つるぎに男の影がチラつくのを最初嫌っていたガチ恋勢までもが一気に虜にされていた、この男の想う気持ちに。
そして第二に、つるぎを手に入れる為には手段を選ばないと言いつつ悪役になり切れない不器用さと優しさにある。
「だーもう! ほれ婆さん、おぶれ! 見てらんねーんだよ!」
本心の心優しさと、野望の為に人を欺き時には殺さねばならないという葛藤の中にあるジンの心情描写には誰もが目を奪われた。
今でも『つるぎのカップリングは刀鬼なのかジンなのか論争』が日夜白熱している程だ。
……刀鬼がアクア、ジンが俺様、つるぎがかなというのは今になって思うがあんまりにも仕組まれていたのでは無いかと思う程だ。
笑っちまうな、全く。
だが、コイツの気持ちは優しさを塗り潰し、押し潰し、殺してでも、つるぎにしか向いていない。
正確に言えば仲間達への想いはしっかりと強く、大切にしている描写も散見されている。
それでも内心では『何時でも切り捨てられる様に情だけは湧かせない』という一点に集中していた。
好きな女を、愛してしまった女を手に入れる為なら仲間でも捨てられる覚悟を出来る様にと。
不器用な男なりの優しさを捨てる覚悟にはファンも幕間と分かっているにも関わらず全力で後押しする声が続出した。
「……やっと会えたな、つるぎ」
「ジン……!? ジン兄ちゃんなんか!?」
「……最初に聞いとくが、俺様と来る気は? 来たらいくらでも幸せに――」
「……それは無理だ。ウチは約束したからな、ブレイドの王道を切り開くって。――見てみたいんだ、この人の描く王の道ってやつを」
「――ああ、やっぱりそうか。この男か、この男のせいでお前は狂っちまったんだなァ!! 俺様ならつるぎにこんな怪我させる真似も、盟刀に関わらせる事もさせなかったのに!! 俺様なら!! コイツに人並みの、人としての幸せを与えられたのにぃ!!! クソォ!! クソクソクソクソクソォ!! カマジ、イタチ!! ぶっ殺せ!!」
「アハッ! アハハハハハハハハハハハハハハ!!! 殺してやるよォ!!! ブゥレイドォ!!!!!!」
そしてそう言ったジンの綺麗な部分、心と野望との葛藤を見せたところで『狂っていく様を見せつける』。
鮫島先生も上手くやったもんだ、これを最初見た時は思わず世界観に飲まれそうになった事を思い出す。
『悲しい狂気』、鮫島先生がこのシーンのジンに付いて聞かれた時の一言だった。
妹の様に可愛がって、一人の女として守りたいと願い、危険な目に遭いそうになればいつでも心配し、止めに行き、過剰なくらいフォローをして。
そして何より恋焦がれていたつるぎがある日突然姿を消したと思ったら命の危険がこの世で最も高いとされる21刀の一人になっていたと知った時のコイツの気持ちは……狂気に塗れても尚、本質には『つるぎには一人の女の子として幸せになってほしかった』という心から大切な人間の幸せを願う優しい気持ちがあったからこその一言だったのだろう。
……コイツはどれだけ苦しかっただろう。
もしもかながそんな事をしていたと知っていたら、誑かしていた男がいたと知ったら……俺もまたこうして壊れてしまうのだろうな。
「グッ……クソがぁ……! どうしてお前が自ら戦おうとする!? お前は……戦わなくても幸せになれたのにッ……」
「ジン兄ちゃん! ウチは兄ちゃんみたいに強くなりたかった! いつも背中ばっか追いかけてた憧れの人の隣に立ちたくて、それで……だからッウチの気持ちを受け取りやがれえええええ!!」
ジンと相対したつるぎは、狂ってしまった彼相手にそれでもと想いをぶつけ続け、そして遂には超えた。
憧れの人みたいになりたくて……その気持ちを聞いてしまったら、優しさから狂気に落ちたコイツが勝てる訳も無かった。
「……負け、か」
「り、リーダー!」
「ジン、だけどアンタずっとあの子の事を……」
「良いんだよ。ご本人様からここまで強い気持ちを受け取っちまったら、少なくとも今は……俺様の出る幕じゃなかった。そういう事なんだろう」
「兄ちゃん……」
「強くなったな、つるぎ」
「ありがとう、兄ちゃん……!」
そして2人、ひいてはブレイド組と文京は和解し文京は新宿クラスタの仲間に加わる事になり。
傷を癒す為にジン達を運んで一件落着――と、ならなかったからこそこの幕間は伝説として今も尚語り継がれている。
「へへへっ、手負いの新宿クラスタ……コイツらを殺れれば……まずは女から……殺すッ!!」
「ッ!? つるぎ、上だッ!!」
「え、なにブレイド……ヒッ!?」
近くに潜伏していた、漁夫の利を狙った別クラスタの下っ端。
身勝手な独断行動でつるぎを不意打ちし、殺す算段……そう、ここで出てくるのが……
「クソッタレが!! がぁっ!?」
大切な人を守るように背中から抱き締めるように庇ったジンは、背中を深く斬られ致命傷。
瞬時に自身が助からない程の傷を負った事を察したコイツは、わざともう一度腹部を刺された後に油断した敵を斬り相討ち。
「ふざけんなよ……やっと……出世出来ると、思ったの、に……」
「へっ……俺様がいる限り……つるぎに、手出しはさせ……ねえ……ごほぉ! が、あぁ……」
最早虫の息のジンに駆け寄るのはつるぎ。
やっと会えて、和解も出来て、これから仲良くやって行けると思った矢先の悲劇。
全ての読者、並びに視聴者を釘付けにした本作最高の悲恋のシーン。
「兄ちゃん! 兄ちゃんしっかりしてよ!」
「つ、るぎ……」
「うん、そうだよ!ウチだよ!つるぎだよ!」
「あぁ……そっか……守れた……」
「やだよ!!やっと仲直り出来たのに!!死んじゃやだ!!」
このシーンは『つるぎが一番女の子になっているシーン』としても有名だ。
刀鬼相手でもなく、幕間のジン相手にだ。
――とある考察をしている人間がいた。
『つるぎも本当はジンの事が異性として好きだったのではないか』と。
そして『ジンも今際の時にそれを察していた』のだと。
ああ、だとするなら。
あまりにも皮肉過ぎるだろう。
俺は『かなの幸せ』の為なら自らのこの気持ちだって犠牲にする。
どれだけ自分を苦しめる事になろうとも、構わないと。
この気持ちは、正に『自分を盾にしてでもつるぎを守り抜いたジン』と重なってしまう。
この選択をした事で自分が後戻り出来なくなってしまうと、分かっていても。
その気持ちを考えると……皮肉にも、俺はジンの気持ちが痛い程分かってしまって。
「カ、マジ……おれの刀……おまえが……持て……」
「……ッ! は、はい! リーダぁ!」
「……つるぎ」
「な、なにっ!?」
「しあわせに……なれ……あい、して……る……」
今までのどの稽古でしてきた演技より、この今の演技が何よりも『ジン』だったと演ってて感じてしまう。
気持ちがリンクしてしまうから。
「兄……ちゃん?ねえ、起きてよ……ねえ、ねえってば!!いやあああああああああああああ!!!」
せめてどうか、
「慎吾さん、いっちゃんお疲れ様〜」
「お疲れ様。いやぁ〜和也くんの演技には驚かされちゃったよ。今まで見てきたどれよりも凄かった」
「本当に凄くて、私魅了されちゃいましたよ!」
「そう? そりゃ有り難い話だよ。でも2人だって凄かったぜ、特にいっちゃんはほんとに今日がデビューなのか疑うくらい堂々としてたし」
舞台裏、出番の完全に終わった文京組の俺様達は一旦役から開放され少しの談笑をしていた。
未だにあの舞台の上で感情がリンクした事が忘れられないのか、熱が抜けないのを感じてしまう。
……かなは、この演技をどう思っていたのだろうか。
俺様の気持ちが伝わっていたら良いな、なんて言う矛盾と柄にも無い想いを抱いていたのは、ここだけの秘密にしておきたい。
東京ブレイド・文京編(幕間)
文京編は原作では勿論存在せず、和也の感情とリンクさせるその一点の為に作られた舞台になりました
その為仕様上(ここ大事)つるぎがめちゃくちゃ可愛く描かれていたり、何ならつるぎが実質主人公の話と言われても否定出来ない背景があります
悲恋として終わらせたのはそれ以上出すと原作通り進めるに当たって蛇足になると思ったのでジンには死んでもらいましたが
推しの子に出てくる『東京ブレイド』との相違点
第二幕にはつるぎがジンを想うシーンが散見され刀鬼とのシーンでも2人への想いに揺れ動くと言った、今作での『和也とかなとアクアの構図』になるシーンに設定上なっています
まあ、あんな想われながら死んでてこの後何も出てこないんじゃ意味無さすぎですからね…
文京組・アフター
カマジはジンから受け継いだ刀を持ち無事最後まで生存
コミカルでお茶目な役回りがメインなものの決める時は自らを犠牲にしてでもというジン譲りの覚悟に覚醒していく
イタチはそんなカマジに惚れ込んでいき、所々で2人の関係性の進展もある