最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
「頑張ってこいよ、メルト」
「しょ、正直さっきの和也さんの演技見てたらめちゃくちゃ手が震えて来ちゃいまして……俺にあんな上手い演技って……」
「バーカオメェはんなの気にしてんじゃねえよ。鴨志田さん見返すんだろ? お客さん喜ばせたいんだろ? 吉祥寺先生に認めてもらいたいんだろ? だったらこんな緊張くらい吹き飛ばすくらいの演技して来い! んで、鴨志田さんに認められてこい!」
「……わ、分かりました。この日の為にめちゃくちゃ頑張って来たんだ……今やらなくてどうする、俺」
俺様の出番……幕間が終わり、ここから始まるは第二幕。
客が一番楽しみにしていた渋谷抗争編だ。
ここの始まりは新宿組の日常と次なるターゲットを定めるところから始まり、舞台が新宿から渋谷に移る。
この2つのグループの入り乱れる思惑、野心、葛藤を描き……渋谷で2つのクラスタは出会い、それぞれの想いの元戦い合う。
そしてその火蓋はメルトと鴨志田さんの演じるキャラの対峙、戦闘から始まる。
メインの開幕を務める重要な役回りだけあって緊張するのも無理は無い、特に慣れてない人間がそういったメインキャラをやると言うのは重圧も凄いだろう。
だが、メルトなら……俺様達が鍛え上げて、やる気を、演じる事の楽しさを理解出来たコイツなら、やれる。
そう信じている。
「行ってきます、和也さん!」
「おう、俺様はここで見守っといてやるよ」
そして今ここに残っているのは……俺様と、出番を直前に控えている鴨志田さん。
「さて……鴨志田さん」
「フン……俺はまだ認めてねえからな」
「そう言って、ちょっと悪役に回って焚き付けてたでしょ」
「何の事だか」
「そういうとこがあるから俺様はアンタと友人やってるんすよ」
「チッだーから嫌なんだよこういうの苦手なんだよ」
この人は基本的に何でも出来る器用な人だ。
それこそこの前得意げに話していた通り、日夜女遊びをしていたとしても演技能力は完璧、本職の2次元キャラをリアルに落とし込む2.5次元俳優としては俺様より格上。
更に感情演技から躍動感のある動きもサラッと熟し歌も透き通った清涼感のあるタイプで通りが良くまた上手い。
普通の舞台俳優・テレビ俳優としてもララライ上位陣や有名事務所勢に引けを取らずどこにいても活躍が見込めるオールラウンダー。
だが唯一弱点があるのだとしたら、それは『やる気の出させ方』だろうか。
下手な俳優に対し高圧的な態度を取りながらも決して見捨てる事はせず背中で演技を見せ『ここまで這い上がってこい』と物言わず語る。
そんなだから周りからはプライドの高いいけ好かない奴と思われがちだが、ララライの同僚達や俺様の様な付き合いの長い人間はそれを知っているから毎度フォローに回れる。
そうしてこの人の評判を守っている、女遊びの面以外は。
そして今回もそうだ。
わざと悪役に回り、メルトを焚き付けた。
そうする事で『見返してやりたい』と熱が籠る、目に闘志が宿る。
メルトは元より伸び代が無い訳じゃない、何なら伸び率なら化け物クラスだと断言出来る。
それを焚き付けたとすれば……
「……鴨志田さん」
「んだよ」
「アイツ、メルトは……この舞台で覚醒しますよ。そしてそれを目の前で見るのは、一番の特等席で見るのは……鴨志田さん、アンタになるんですよ」
「どうだかね、買い被り過ぎなんじゃねーの?」
「さて、どうでしょうかね……」
『最下位の覚醒』は目の前だ。
俺はそう、確信していた。
「どうしても戦わなきゃダメなんですか……?」
俺は演技の下手な奴が嫌いだ。
共演するだけで周りがレベルを下げないとそいつだけ悪目立ちして作品の質が落ちるからだ。
そうなれば客は楽しめず、俺も楽しめず、お通夜状態。
だから棒演技のコネでねじ込まれた様なゲスト俳優なんか大嫌いだ。
そんな奴はまず『本業』があるから演技なんて適当にやって自分が売れればそれで良いと思ってやがる。
やる気の無い様なヌルい奴とやる演技なんぞこちらから願い下げなんだよ。
「親から無理矢理剣を与えられ、こんな戦いに巻き込まれ……」
――鳴嶋メルト、16歳でモデル本業のペーペー。
最初見たコイツの演技は『素人にしてはまあまあ』程度だった。
正直こんなので良く東京ブレイドの舞台に選ばれたものだと心底軽蔑したもんだ。
ただ、モデルじゃ最近売れっ子らしいがそれを差っ引いたとしてもこの稽古に使う時間の長さだけは内心認めていた。
肺活量を0から鍛え直す為の有酸素運動、反復練習に原作も穴が開くんじゃねえかと思うくらい見直していた。
だが、だとしても素人にゃ限界がある。
俺はこの業界に身を置いてもう十数年、来る日も来る日も磨いてきたこの演技力は今や女遊びにかまけていても効率良く練習が出来る程この心身に染み渡っている。
「僕は……戦いたく、無い……」
いくら素人が努力したところで
今めちゃくちゃ遊んでたとしても、俺はガキの頃に死ぬ程努力して手に入れたこの才能があるからこそそれが出来ているだけだ。
俺はガキの頃にした事を信じてるから今ヘラヘラ出来るんだし、その努力を知らずにこの世界でちょっと遊んでやろうと思っているナメたクソ野郎が大嫌いなだけだ。
……その点コイツは、そこだけは嫌いじゃない。
俺や和也と比べると何段も落ちるしコイツとやり合うのが俺というのは単純に貧乏クジ引かされたと思ってるし今でも認めるなんざ何が何でも嫌だと思っているが、ゲスト出演で作品をぶち壊して行くクソみたいな素人と比べりゃ万倍マシだ。
努力だけは認めてやる、努力だけはな。
『アイツ、メルトは……この舞台で覚醒しますよ。そしてそれを目の前で見るのは、一番の特等席で見るのは……鴨志田さん、アンタになるんですよ』
とはいえ、たった1ヶ月かそこらの努力だ。
それでこんな事を言われて、はいそうですかなんて言える訳ねえだろ。
それが長い付き合いのある和也だったとしても、だ。
俺には俺のプライドってもんがあんだよ。
「負けねえぞゴラァ!!」
一瞬、肌の灼ける感覚がした。
――気迫だと? コイツから?
いや、だが一瞬だけだ。
下手では無い、結構デケーアクション立て続けにしてる割に息もそこまで上がっちゃいねえ。
俳優経験一年未満の人間がやるものだとすれば上等だと言えるが……やっぱこれは和也の買い被り過ぎ――
瞬間、空気が変わる。
刀が空中へと放り投げられ、回転し、キザミがキャッチする、派手で盛り上がる、それでいて2.5次元俳優の中でも『高難易度』とされるキャッチアクション。
それを鳴嶋メルトはやってのけた。
いや、それだけじゃない。
まるで『原作のキザミが目の前にいるかの様な』そんな錯覚に襲われる気迫が目の前にあった。
そして客席も完全に『飲まれていた』。
「うあああああああああ!!!! おぅれはぁ!! 誰にも負けねえ!!!」
たった一分、されど一分。
この時間は、完全に
この俺が、十数年積み上げてきて2.5次元舞台の界隈を牽引する俺が、たった一分とはいえ、負けた。
素人だと思っていたペーペーに、完全に圧倒された。
……だと言うのに、だってーのにさ。
俺、何か知らねーけどワクワクしてきたんだよ。
素人同然の奴に負けたってのに、悔しさよりもっと戦い合いたい、もっと演り合いたい、そう思っちまうんだよ。
今まで見た誰よりも、今まで演ったどの舞台よりも、楽しい。
……ああ、そうか。
俺は、生まれて初めてライバルと呼べそうな奴の誕生を目の前で見て、感じて、魅せられて……
こんなおもしれー奴の覚醒見せられて、俳優として気持ちが昂らない訳が無いんだ。
「良くやったわ! 後は私達に任せなさい!」
この舞台は『ハズレ』なんかじゃなかった。
とんだ大当たり掴まされたよ、そう心の中で礼を言うのだった。
――鴨志田さん、アイツの演技どうでした?
帰ってきたらそう聞くつもりだったんだけどなあ。
「メルトお前すっげーじゃん!! こんなに楽しめたの俺初めてだぞ!! 見直した!! 良く頑張ったじゃねーか!!」
「あ……ありがとう、ございばずッ……!!」
……全く、すっかり仲良くなっちゃってさ。
だから言ったじゃないですか、この覚醒を、脳を焼き切る程の『一般人としての殻を破る瞬間』を一番間近で目撃するのは貴方だって。
一応長く付き合ってきてるんですから、貴方がどれだけ演技への情熱とプライドがあるかくらい、俺様だって分かってるんですよ。
だからこそ、メルトの活躍に目を奪われた事も。
ま、何はともあれ……だ。
「良かったな、メルト」
そう思わずにはいられなかった。
鴨志田朔夜
目の前で才能開花させたメルトに脳みそを焼かれた
ここから先メルトの兄貴分になる事が確定
鳴嶋メルト
今日あまでゴリゴリに扱かれたのが覚醒へと繋がった
原作比五割増しの演技力