最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
でもその先に和かなはあるからよ…止まるんじゃねえぞ…(自戒の念)
俺様はかなが輝いてくれるなら、その横にいるのが自分じゃなくても良い……この東京ブレイド舞台稽古が始まる前までなら何の躊躇も無くそう言っていただろう。
今でもこの舞台でアクアに託した事に後悔は無いし、アイツなら大丈夫だと信用してかなを託したんだから心配はしていない。
「いつから俺様って、こんなワガママになっちまったんだろうな」
何も問題は無い……それとは別の感情が渦巻いているのを除けば。
嫉妬だった、俺様とのシーンだって輝いてはいた、輝いてはいたんだ。
それでも……
「かなにスポットライトを当てるのが俺様じゃなくてアクアなのが、気に食わないと思う様になるなんてな。全く哀れなもんだよな。気付くまでは相手の幸せを願い続けていた、十数年ずっとそれだけを想い続けてたってのにいざ自分の気持ちに気付いた瞬間アイツの笑顔は、輝きは、俺に向けてほしい、俺がそうさせたいと思ってしまう。全くもって逆の気持ちになってしまう。これが恋ってやつかよ……やってらんねえな」
『今』何もしてやれない事に憤りを感じてしまって、そしてその輝きは俺が作ってやりたいなんて考えてしまって。
「どうしたら良いんだろうな……」
俺は今正にスポットライトを浴びようとする幼馴染に向けて、誰に拾われるでもない呟きを一つ、落とした。
――私のママはその昔、芸能人になりたかったんだって聞いた事がある。
もう小さい頃に良く聞かされた話だから今でも脳裏にこびり付いてる程、溜め息を吐きたくなるくらい聞かされた話だった。
そしてだからアタシにそのなれなかった夢を託したんだって事も何度も聞いたし何度も周りに触れ回っていた。
私が売れて、憧れの芸能人と会って話したり。
ホームパーティにも何度も呼ばれたり。
一端の業界人を気取れてご満悦だったらしい……アタシだってママが笑顔になってるならそれで良いなんて思っていたし楽しかった。
そう、最初は。
「ったく、まーた調子乗ったな? ちゃんと謝っとけよ? おれさまはな、かなが悪い子になってみんなから嫌われるのは悲しいからな」
「うぅ……分かったわよ。和也がそこまで言うなら……」
でもいつだってアタシの隣にいた和也が天狗になるアタシを優しく止めてくれて。
そうやってされる度に、自分が意地を張ってツンツンするのを辞める度に、本当にママはこれで良いのかって感じるようになっていって。
「ねぇママ。ママはほんとにこれで良かったの?」
「良いに決まってるじゃない! 私は憧れの芸能人と会えて、順風満帆な生活を送れて、かなは売れっ子で、これ以上に何を望むの?」
「……そっか」
いつしか分かってしまった。
ママはアタシを見ていないんだって、ちゃんと愛して、自分の子どもとして見てくれていたと思っていたものは全部嘘だったんだって。
売れてるアタシしか見えてなくて、売れてるからアタシの事が好きで、きっと売れなくなったら捨てられてしまうのだろうって。
パパは……分からなかった。
何も言わなかったし、良く頭を撫でてくれた。
でも派手に遊びまくるママに愛想尽かして出ていっちゃったから今じゃ聞く事も出来ない。
だからなのか、その頃からアタシは和也にベッタリくっ付く様になっていった。
誰にも愛されていない事が怖くて、生きる意味が欲しくて、縋る様に、それでいてそれを表に出さないようにして。
「……? どうしたんだよ、急にくっ付いたりして」
「ご、ごめん……」
「……ううん、大丈夫だ。何かあってもおれさまが守ってやるから、だからくっ付きたいならいくらでもくっ付け。おれさまがかなの……そう、居場所ってやつだ。一人になんて絶対させねーからな」
「……ありがと」
でも、多分和也にはバレてたんだと思う。
何も聞かずに全てを受け入れてくれて、まだ小学生の頃の話だったのに、年下だったのに、まるでお兄ちゃんの様に抱き締めてくれて。
それだけで、そうしてくれる時だけは怖い現実から目を逸らす事が出来て、何もかも忘れて和也の為に笑顔になる事が出来た。
だから、その後ママが居なくなった後もボロボロに傷付いても傍にいてくれたから立ち直れたし、和也以外にも手を差し伸べてくれる人がいると分かって。
「……お前、少しでも見返したいって気持ちあるか?」
「あるってなら……教えてやる。この業界で生きてく為の演技ってやつをな」
「この世界は面倒で残酷な事だらけだ」
「……俺は見放さない。それとこれとは話は別だからな。有馬を見捨てたところで俺に得がある訳じゃないし。……なんだその目は、誤解するな。大体俺は――」
「まあ……私も喧嘩ばっかだけど悪い人だとは思わないしなあ」
曲がりなりにもこの世界で一度見放されたアタシがここまで耐えて来られたのはずっと傍にいてくれた大好きな、大切な幼馴染や見捨てないでいてくれた昔からの人達。
……だから、これで良い。
本当はもうずっと前に潰れて消えていたはずのアタシを支えてくれたこの演技さえあれば、大切な人達がいるこの世界にいられるなら、全て捨てたって構わない。
生き延びる為の、周りに合わせる演技があればそれで。
……全く、みんな楽しそうに演技しちゃってさ。
そんな姿見せられたらアタシも楽しくなっちゃうじゃない。
……だから、アタシは
その方がみんなの為になるんだもの。
共演してるみんなも、ママも、周りの大人も、それで喜んでくれるんだからそれで良い。
アタシは主役じゃなくて良い。
良いはず……なのに。
『演りたい演技やれよ、有馬かな。フォローは俺がする。――俺も有馬の演りたい芝居、見てみたい』
ほんっとにコイツは……
もう……もうっ、あーもうっ!
どうしていつもいつもアンタはこうなのよ!
いつも和也と一緒になって助けてくれるのよ……
素直になれないの分かってんのか分かってないのかも分かんないのに!
だからいつまで経ってもこの気持ちが恋なのか親愛なのかも曖昧なんじゃない!
……こっから先は全部全部アクアのせいなんだから、アンタが悪いんだから。
アンタはいつもいつもアタシを……困らせるんだから!
「ああ……これだよこれ、これがかなの真骨頂だよ。全てを灼く様な巨星の演技、ギラつく様な身勝手な太陽。それでいて何もかもを飲み込んで虜にしていく。それでこそ俺様が恋した有馬かなだ」
かなの瞳には満天の星空があった。
一番星ではない、星の集合体だ。
きっと本人は気付いていないのだろうが……星では無く星空である理由を想像し、俺様はフッと笑みを浮かべる。
「なるほどね。かなは今まで無数の『星』を照らし出してきた。だと言うならこれは……」
幾人もの輝かなくてはならない人間達のスポットライトになってきた。この瞳の星空は……そうして照らし出してきた、努力の証。経験の証。そしてまた、かなもそうやって少しずつ輝いてきたという証。その結晶が集まって、かなの力になって、今度はかな自身を輝かせているのだろう。
この光は、今まで見たどのかなよりも眩くて。
――間違いなく、嫉妬していた。
俺様が何年掛けても取り戻せなかった本当の光を取り戻したどころかもっと進化させやがった。
それが堪らなく悔しかった。
「あーあ、だから俺様が輝かせたかったのに」
だが、同時に諦めも付いた。
『きっとかなの隣に居るべきはお前だからよ』
あのファーストステージでアクアに言ったこの言葉。
恋を自覚してからまだ1ヶ月も経っちゃいないが、こんなの魅せられたら勝てっこねーよ。
「……完敗だよ。ファーストステージの時と同じ、かなを救えるのはやっぱり俺じゃなくてアクアが適任だ。ほんっと、最後までいけ好かない奴だよ、お前は」
最初からアクアの事を『いけ好かない』と思っていたのも、結局はかなを取られて嫉妬してただけなんだろうな。
そうと割り切ると、悔しいながらも清々しい気持ちになってきた。
かなもアクアも『恋なのか親愛なのか友情なのか分からない』って言っていたみたいだが、まあ何にせよ適当に焚き付けてやればあの調子ならどうあってもくっ付くだろう。
……あかねちゃんには悪いがな。
「そうと決まれば俺様も少しずつ、かな離れして行かないとな」
あかねちゃんの気持ちを聞いた手前フェアじゃないのは分かってる、それでも……いや、だがちょっと待てよ。
「アイツ別に死ぬ程女誑しな訳だし、倫理観とか今更過ぎるし無視しても良いか。俺様のかなをやるんだからそれくらいハチャメチャ好き勝手動いても許されるだろ」
別にこの世の中、倫理観とか結婚とか無視してしまえば男と女が1対1である必要も無いと気付いてしまった。
……これが俺様から贈れる最大にして最後の贈り物だろうからな。
一世一代の大花火、打ち上げちゃいますかね。
無道和也
かなが人生で一番輝いた瞬間を見てアクアへの敗北を悟り身を引こうとしている、引くんじゃねえよボケ
黒川あかね
一方その頃黒星を宿らせながら圧倒しようとしていた彼女は目の前で巨星の大演技を魅せられて完全に(良い意味で)ノックアウトされていた
星野アクア
知らぬ間にとんでもない事に巻き込まれかけている事をこの時はまだ知らない