最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
「ここが予約しといた旅館だから宜しく。小さいけどちゃんと露天風呂もあるしご飯も美味しいから」
「サンキューマネちゃん、こういう秘密スポット的な場所が一番自由にやれるから助かるんだよね」
「地元の隠れ家的な? 良いじゃん面白そー」
「他に予約客いるとかは聞いてるんですか?」
この日のMV撮影も終わり、日も落ちて時刻は22時を回っていた。
やはり旅行と言えば旅館と温泉という事で今回の保護者担当マネちゃんお墨付きのスタジオ近くの小さい旅館にやってきた、2泊3日はここで過ごすらしい。
無駄に有名なとこよりこういう小さめのところの方が自由に色々動けるだろうという配慮の元で選んでくれたらしく、凄く気が利いていて流石だと感心してしまう。
「そう言えば一組だけいるみたいだね。同じくプロダクション所属の芸能人団体客らしいから鉢合わせたとしても秘密はお互い守るだろうって思って心配してないけど……まさか?」
「なあマネちゃん、今芸能プロダクションの団体客って言ったか?」
「あー、まあそうなるとそうなるんだろうなあ」
「和也は最近フラグ建すぎじゃ無い? 面白いから良いけど」
そしてその感心はこの一瞬で全て吹き飛んでいた。
一般客一組くらいなら何とか口止め出来るだろうが、スタジオから近いこの旅館に芸能プロダクションの団体客一組いるとかどう考えてもアイツらしかいねーじゃねえかよ。
そんな偶然ある? 旅行日時、宿泊日数、使用スタジオ、スタジオ使用時間、旅館まで全部合うとかある?
……いやまだだ、まだ分からんぞ。
「ま、まだだ。まだ確定した訳じゃないから……」
「あ、やっぱりもう一組の芸能プロダクション関係ってアンタらだったのね」
「確定、したみたいだな」
「はえーよ」
開ける前になんか勝手にかなが出てきて確定した。
ほぼほぼ知ってたが本当にそうなるとは聞いてないだろ。
本当にどんな偶然辿ったらこんな天文学的確率で重なるんだよ。
「というかメム達はいないんだな」
「メムは居残りで撮影だからもう少し掛かるっぽい。ルビーとあかねちゃんは……何やってるのかしらね。まあ良いわ、アタシ達はご飯も食べたしゆっくり温泉にでも入ろうかしら」
「居ないんだ……メム……」
毎度思うがもっさんは分かりやすすぎやしないか。
どう足掻いてもこれで惚れてないとは言えない、言い逃れ出来ないレベルだろこんなの。
「まあ重なっちまったもんは仕方ないからなー、俺達も腹減ったし飯にしよーぜー」
「だな。……まあ、なんか困った事でもあったら俺様にでも言え。折角同じ旅館にいるんだからな」
「はいはい、ありがとね」
「メム……」
取り敢えず意気消沈してるもっさんの首根っこを掴んで部屋へと向かっていくのだった。
というかもっさん俺様達3人の中だと一番年上なんだがなあ……
「はー食った食った、やっぱり宮崎と言ったらチキン南蛮だよな」
「これで明日も頑張れそうだ……ノブともっさんは温泉どうするよ」
「俺はパース、朝風呂にする」
「俺もそうするよ、疲れたし」
「りょーかい、俺様は入ってくるわ」
食事も終わり、時刻は23時になろうとしている。
朝はそこまで早くないからゆっくり温泉にも入れるだろうと、既にダウンした2人を横目に伸びをする。
俺様としてはこの食事と温泉が一番の楽しみだったからな、少し疲れていても温泉に入らないなんて事は無い。
かなもそろそろ出る頃合いだろうし起きてる人間自体俺様だけになりかねないが、それはそれで悠々自適に過ごせるから願ったり叶ったりだしな。
「さて男湯は……こっちか」
最近は東京ブレイドの舞台稽古から舞台千秋楽まで、台本変更の空白の数日合わせてもほぼオフ無しだったし終わったら終わったで社長が勝手にネットアイドルとして活動させてくるし。
いやそれよりメッちゃんとかアクアのアレの方が疲れたが。
何にせよこうして色々あったと振り返れるのもこの温泉あってこそ、ここで一旦全て洗い流して――
「…………はぇ?」
「はい?」
幻覚だと……思いたかった。
やっとリラックス出来そうな空間、何も考えずにのんびり月夜でも眺めながら疲れとか諸々削ぎ落とそうでした訳ですよ。
だと言うのに、だと言うのに……
「なっ……ななな何でアンタが女湯にいんのよっ!?」
「いやいやいやいやここ男湯の暖簾掛かってたけど!?」
なんでかながいるんですかね……
というかほんとにちょっと冷静になって考えてみたい、どうしてここにかながいるのかという事に付いて。
だって男湯の暖簾掛かってたんだぞここ、だから俺様はまず悪くないはずだそうだからセクハラとか痴漢では決してない。
「は!? アタシが入った時は女湯の暖簾だったわよ!?」
「赤の暖簾?」
「そう」
「……今青の暖簾掛かってんだよ」
「…………はぁ。もう、分かったわよ。和也がわざとセクハラとか覗きする様なヤツじゃないってのは昔から知ってるからね。何がどうしてそうなったかは分かんないけど許してあげるわ」
「す、すまん……恩に着る」
しかし取り敢えず長年の付き合いが功を奏したか許して貰えた。
流石生まれた時からの付き合いだ、お互い理解力が半端じゃないって事だな、そこは本当に誇れる。
……ホッとしたら何かかなの、その、そういう姿を落ち着いて見てしまってめちゃくちゃドギマギしてしまっている。
小学生までは一緒に風呂入る事もあったが、流石にこうして女らしくなってから入るなんて事しなかったからな。
ったく、ほんとめちゃくちゃ可愛くなりやがって……目のやり場に困るしさっさと退散するか。
「そ、そんじゃ俺様は改めて男湯に――」
『ふんふんふーん、はーやっと居残り撮影終わった〜』
「MEMちょ!? 暖簾は男湯なんじゃなかったの!?」
「待て待て!! 本当に男湯だったんだって!」
詰んだ――と瞬時に悟った。
脱衣所から聞こえてくるのはメッちゃんの声、そうまだ撮影の終わってなかった18歳が来るという唯一にして最悪のパターンが起きてしまったのだ。
ここを見られればいくらメッちゃんと言えど許してもらえる可能性はほぼ0に近しい、どうする……?
てかその前になんで暖簾が機能してねえんだよ!!
「っ! 和也、あそこの岩の裏に隠れてなさい! 最悪それでも不味かったら悪いけど潜水よ!」
「助けてくれるのか……?」
「和也はアタシの唯一無二のずっと一緒にいてくれた幼馴染じゃない! 暖簾の事は後で聞くからまずは言った通りにしなさい!」
「悪ぃ!」
幸いかなが見捨てなかったお陰で何とか打開策は見いだせた。
いやしかしあって良かった露天風呂の謎の岩! 良く分からんがありがとう謎の岩!
急いで入って迅速に身を隠す、だがなんでこんなギャルゲーかラブコメでしか見ない様な展開に俺様が巻き込まれてるんだ……
「あ、かないたんだ〜」
「まあね。疲れたしのんびり温泉入りたかったのよ。てか撮影お疲れ様〜」
「ありがと〜いやぁ流石に20も半ばだと体力がねぇ」
「そ、そう……」
あ、これ絶対聞いちゃいけなかったやつだ。
メッちゃん……お前成人済みだったのかよ……いや所々高校生と言うには何かしらの違和感を覚えてきたり話が少し年上っぽい気はしたけどよりにもよってここで聞きたくはなかった。
しかも21とかじゃなくて半ばとか言ってますけどそれ24とか5って事か? まずいまずい女性の年齢とか絶対一番繊細な問題じゃねえかよ……と、取り敢えず素数を数えよう……
「あ〜疲れに染みる〜」
「おばあちゃんみたいな事言わないでよ、まだ若いでしょ」
「でももう25だよー? 結婚適齢期ももうすぐなのに恋愛もこれと言ってしてこなかったし……てか恋愛と言えばかな、アクたんと和也どっちにすんのよ」
「ちょ、いきなりなんて話の切り替えしてんのよ!?」
「でもここには私とかなしかいないし良いかなーって。で、どう?」
「そ、そうは言われても……」
……今度は何の話かと思えばそういう。
しかしかなは何を困る必要があるんだか、そこは『和也はそういう対象じゃないし』とか言えば良いだけだろうに。
「……正直、どっちにどういう感情抱いてるとか分かんないのよ」
ちょっと待て、もう訳分かんなくなってきたんだが俺様にそういう感情抱いてないと勝手に確定してたけどもしかしてワンチャンあるの俺様?
いやそんなはずは無い、だってアクアの隣での方が輝いてたんだから。
変な希望は持たないに限る……でもちょっと期待してしまっている自分がいる、現金で済まない……
「へぇ、アクたんはいつも聞いてるけど和也に幼馴染以外の気持ち覚えたんだ?」
「うぅ~、今日会うまではそんな事思ってなかったのよ〜」
後ちょっとそれとは別件で待ってもらいたいんだがこれ俺様いるの忘れられてない?
かなさん? これ以上行くと多分大事故起きますよ?
「ほうほう、というと?」
「ほら……今日、和也がアタシの服装直してくれたじゃない?」
「あったねぇ、カッコよかったよねササッと直してくれるの」
「……ほんと、カッコよかったから困るのよ……しかも耳元で囁かれて……アレからドキドキしっぱなしでアタシの気持ち更に分からなくなっちゃたのよ……」
「ほわぁ〜青春だねえ。しかも幼馴染の真のカッコ良さには些細な事で気付くってのがまた良い!」
なあ、これ聞いて俺どうすりゃ良いんだよ。
反応に困り過ぎるというか……いやめちゃくちゃ嬉しいんだけど、アクアとの方応援してただけにこれからどうすべきなんだこれ……
うへぇのぼせそう……でもちょっと幸せかも……
「あ、いたいた! 貴方達! ちょっと来てもらえる!? ルビーが……」
しかしそんな時間は、何の前触れも無く唐突に終わりを告げるのだった――
無道和也
MEMの年齢を知って絶句しているのと同時にかなの本音を聞いてちょっと嬉しいとか何とか
ただまだ自分への可能性は低いと思っている
有馬かな
この後の騒動も含めて色々忘れかけていたが寝る直前に和也がいた事を思い出してめちゃくちゃ悶絶している
温泉の暖簾
おばあちゃんの女将が暖簾の清掃後間違えて掛けてしまい(和也の来る前)、それにあとから気付いて(和也が入った後)訂正した(MEMちょの来る前)のがこの事件の真相だったりする