最愛の幼馴染へ 作:有馬かなを幸せにし隊
「まさかマネちゃんが急用出来るとはね」
朝早く、どうしてもマネちゃんに外せない仕事が出来たとあり予備として用意されていた引率者が大急ぎでやってきて昼から浜辺で撮影となった。
まあ大手事務所のマネージャーだし仕方ない事もあるだろうけれど……そんで呼ばれてきたのがまた意外な人物だった。
「なんで警備員の俺がわざわざ引率やら運転やら……」
「まあまあ、その代わり臨時給与出るし俺様としても亮介なら助かるからさ」
「……良いけどさ、別に。でもよりにもよって宮崎とか一番来たくない土地だっただけで」
「そりゃまたどうして?」
「言いたくない。言えるはずねえよ……」
「ん? どうしたんだよ」
「なんでもない。それより着いたら取り敢えず飯だ、食わなきゃコンディションも良くなんねーだろうしさ」
「そうだな」
亮介……昔親父が何処からか拾ってきて暫くウチで暮らしてた謎の男だ。
謎と言ってもボロボロの状態で行き倒れていた上に素性は「話したくない、殺してくれ」の一点張りだったらしいからだが。
そこを親父が説得して、素性は聞かないからウチで一緒に暮らさないかと言って渋々暮らし始めたのが親父との出会いだったらしい。
らしい……というのは俺様が生まれる前にはもう住んでいたから親父から聞いた話になるからだ、もう拾ってから16年か17年になるとか何とか。
「冬の砂浜とかマジかよ〜」
「まだ海に入れと言われないだけマシだろ……」
「水にゃ入れるなって言われてるからそこは安心しとけ、一応業務引き継ぎはしてっからなこれでも。なんで警備員にやらせてんだってとこ除けばマジで有能」
「ウチのマネージャー軍全員多忙だからねえ」
俺様が小学校に上がる前に、何とか定職に就きたいと相談を受けた親父が既に俺様の所属していた神木プロダクションの警備員を紹介して今までずっとそこで仕事をしている。
もう30も半ばから後半に差し掛かろうとしているのに恋愛の一つもしていないのだけ気になるが、それ以外はもう家族同然の仲だし聞こうとは思ってない。
「……そういや和真さんは元気か?」
「世界公演ってやつで海外飛び回ってるけどこっちにゃちゃんと定期的に連絡してきてるからな。あと半年くらいは公演だとさ」
「そうか」
ちなみに俺の親父は世界的な歌手だ。
現在は世界中を飛び回って公演している……母さん? あの人は元芸能人らしい事以外は何も知らないけど今どこにいるかも分からん、何か旅に出るって言ったっきり一年くらい帰ってきてない。
自由奔放と言えば聞こえは良いが親としての仕事どうした? とは言ってやりたい。
「大変と言えば、亮介さんもだけどルビーちゃん……大丈夫かね」
「あー……確か白骨死体見つけちゃったんだっけ?」
そうだ、大変と言えばルビーちゃんの事もある。
あの時急に壱護さんの奥さんが来たと思ったら、ルビーが大変だから来てくれって言われて2人とも消えて。
んで取り残された俺様は速攻で着替えて戻って事なきを得たのだが、朝事の顛末を聞いて同情してしまった。
何せ白骨死体を見つけてショックで泣き崩れてしまったと言う話だったからだ、いくら何でもそりゃキツいよな。
「白骨……死体……」
「どうしたんだよ、亮介」
「な……んでもねえ。ってか、それよりもう着くぞ」
「おーし飯だ飯ー」
「ノブユキはいっつも飯だよね」
「腹が減っては戦は出来ぬ、だからな!」
なんだか少し亮介の様子がおかしかったが、多分気のせいだろう。
それより俺様としても飯食って撮影して今日こそはちゃんと露天風呂入りたいからな、結局昨日はかなのあんな姿見たのとあんな事聞いたのとでまともに入れた気しなかったし。
あと、朝起きてからかなが顔真っ赤でこっち見てたのも眼福だった。
ほんと可愛い奴だよ……
「はーい撮影お疲れ様、これで全撮影終了になりまーす!」
「あざっした〜ふぃ〜さむさむ〜」
「いくら海に入んないって言っても冬の浜風はねぇ……」
「女性アイドルみたいなちょっと水に入ってる絵が欲しい〜みたいなグループじゃなくて良かったと思うしかあるまい……B小町南無南無……」
「ほらさっさと車ン中入れ〜風邪引くぞ〜」
日も暮れ本格的に寒くなってきた……と感じた頃合いに何とか撮影が終了した、季節感無視のMVなだけあって肌の感覚が無くなる様な馬鹿みたいな寒さを実感したがまだ水に触れてないだけマシだろう。
何せプライベート用スマホその1にはかなの「この時期に川入るとか最悪死にそう」なんて言うのが届いていたからな、心中お察しします、ええ。
取り敢えず亮介がさっさと車入れと急かさずとも俺様達は街灯に集まる虫の如く自然と吸い込まれていく。
「あったけぇ~マジで助かる〜」
「ほい、これそこのコンビニで買ってきたお茶だから飲んどけ」
「うわ〜助かりますほんと」
「染み渡るぜ……」
しかし気が利くなあ……タイミング見計らって熱い飲み物買ってきてくれるとか最高。
マネージャー業務でも働けるんじゃないかと思うくらいだ。
「……なあ。さっきB小町がどうって言ってたけどよ、偶然一緒になったってのは……そういう事か?」
ふと、こちらに背を向けながら語り掛ける亮介。
その背中はいつも見ている、気だるそうに見えてその実頼り甲斐のある背中ではなく、何だか凄く小さく見えてしまって。
理由は分からないが正直に答えないといけないと思わされてしまった。
「まあな。一緒になるとは思わなかったんだが偶然に偶然が重なりまくって行く県、日時、スタジオに使用日時、宿泊施設と日程まで全く同じだそうだ」
「B小町がねぇ……」
「なんか思うところでもあったか?」
「……いんや。ただ、昔好きだったアイドルグループの名前が継承されてるって思うとしみじみしちまったんだよ」
「そういや旧B小町は丁度世代か」
「とはいえ、名前は同じでもメンバーが全く違うんじゃ関係ねえか。売れてるみたいだからそこは感心するけどな」
……本当にそれだけか、とは聞けなかった。
もしかしたら何かある、と思わせる様な発言ではあったが気のせいで追及出来ないし気のせいでなかったとしても亮介の素性や昔話を聞かないのは『暗黙の了解』だったからな。
「全く違うっつってもアイに良く似た子はいるけどな、ルビーちゃんって言う社長夫妻の子ども」
「ああ、確かにあの目とか雰囲気は似てるよな。不思議なオーラみたいなの? あるよね」
「……アイに似てる? まさかな……まさか……有り得ない……そんなはずが……」
「おーい大丈夫かー?」
「い、いや大丈夫だっ。しかしアイに似てんなら当時のファンも多少はいんのかもなっ」
しかしこの誤魔化しぶり……本当に何も無いと思って知らんぷりすべきなのか……?
それとも俺様は何か言うべきなのか……だとしてもまだ……きっと時じゃない、直感だがそう感じさせた。
「……ま、確かに当時応援してただろう世代はかなり集まってる。若いのとその年代とで二極化してる珍しいグループだよ、でもそうやって応援してくれてんのも努力あってこそだからな。頑張ってるよ、今のB小町も。当時のメンバーに後押しされてな」
だから、そうやって思わず今のB小町の頑張りをせめて知ってもらおうと話してしまったり。
「なら良い。頑張ってんならそれ以上何も言う事はねえわ。んじゃ帰るぞ、明日の夕方の便で帰るから多少はゆっくり休め」
「うぃーす、てかB小町は昼前の便で帰るみたいだしそこはズレるんだなー」
「本当なら同じ便だったんだが、予定がズレちまったからな。その分の詫びだとよ」
「んじゃあ有難く受け取っとくか」
何だかんだあったものの、こうして宮崎旅行という名のPV撮影は俺様視点としてはそこそこ楽しめて終わる事が出来たのだった。
……かなのあの発言は色々とどう反応して良いか未だに分からないがな、取り敢えず一旦例の作戦は白紙に戻すとしよう。
「ほら温泉行くんだろ、さっさと行ってこ……俺まで引っ張んじゃねえよ」
「良いじゃ〜ん和也のマネージャーの代わりに大変だったんだから一緒に入ろうぜ〜」
「まあ頑張ってくれたんだから遠慮すんなよ」
「そうですよ」
星野アクアは妹が自らの前世の白骨死体を見つけた事で少し気疲れをしていた。
まさか見つけるとは……と、ショックで笑顔があまり見られない事を気掛かりに思いながらもこれが自分の前世への精算、全てこれで終わったのだと言う安堵感にも包まれていた。
だから、だろうか。
その隣の部屋から聞こえてくる聞き覚えのある声にも迂闊に近づいていってしまったのは。
「……確かマネージャーの代わりに代理が来たんだったな」
憑き物が落ちて、イタズラ心からだった。
しかし……
「…………なんで……」
そこに居たのは。
『良いから逃げろ! そこに居たらお前殺されっぞ!』
『なんで俺なんか庇った!? お前は――』
「なんで、お前がここに居る……亮介……」
それは『まだ物語は終わっていない』と告げる始まりの合図だった――
無道和也
亮介の事は親戚のタメ口で話せる兄貴みたいな感覚で見ている
亮介(34)
苗字不明の謎の男、無道家に昔から世話になっている居候で現カミキプロダクション警備員
現在の無道家実家唯一の住人なので一応『無道』を名乗っている
アイの2個上で旧B小町のファンらしいが…?
星野アクア
亮介とは知り合いっぽい…?
無道和真(36)
和也の父親、世界的歌手