最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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四章最終話


『曇天の日』

『最近、ママの様子がおかしいんだよね……』

 

 ワールドシアター受賞式典の一週間前、そうやって心配そうに俺様に相談を持ち掛けてきたのは意外にもメッちゃんだった。

 これに関しては宮崎旅行後少ししてからずっと俺様に相談していたからそれとなく聞いていたのだが、今回は今までのストレスからか熱を出してしまったというので更に輪をかけて心配そうだったのだ。

 

 そんな訳で、偶然にも苺プロに来ていた……というよりもドラマの共演でアイに絡まれてそのまま事務所に連行されていた俺様はメッちゃんと2人きりになるタイミングが出来てしまったのでどうせならと聞いてみる事にした。

 

 ……しかし今日に限っては、そのメッちゃんもどこか相当落ち込んでいる様子だった。

 

「元気無さそうだな、メッちゃん」

 

「そうかな……」

 

「ああ、いつもならハイテンションだったりそうでなくても明るめのテンションのメッちゃんがここまで沈んでるのを見るのは初めてだ」

 

「ちょっと……色々あってね。あ、かなやルビーと喧嘩したとか、そういうのじゃないからね」

 

「それは大丈夫だ。メッちゃんはどっちかと言うと仲裁してくれる方だろ。周りの事良く見てるし」

 

「にゃはは……」

 

 話していてもいつもの明るさが無かった。

 喋り方にも力を感じず、どこか上の空……そんな雰囲気を感じずにはいられなかった。

 気軽な関係性ではあるが、今ガチの頃からの友人だけあってどうにも気にせずにはいられなくなってしまう……友人の想い人というのもあるしな。

 

「なんかあったのか? ルビーちゃんやアクアに話すのが親しすぎて無理ってなら俺様みたいな気軽なご友人に話してみるってのはどうだい?」

 

「……ふふっ、カッコつけ過ぎだよ〜」

 

 ちょっとおちゃらけで少しでも場の空気を軽くしようと足掻く。

 多少は良かったのか、困った様な顔で笑ってくれたので及第点とする。

 だが、話してほしいのは事実だ。

 ここまで露骨に落ち込まれるといたたまれないんだよ。

 

「も〜……確かに和也はアクたんとかに話すより気軽に話せるかもね。仕方ない、帰り空いてる?」

 

「今日は生憎とかなとのスケジュールもズレちまってるからな。女の子をエスコートして送っていくという口実も作れるから自然な雰囲気でいけるはずだ」

 

「エスコートって……まーたゆきの時みたいに誤解されても知らないぞ〜」

 

「そん時は『事務所側から送っていけと言われた』とでも言えば良い。流石に事務所がそれを肯定してるのに反論出来るバカは少数だろうさ」

 

「よし、この前よりは言い逃れ出来るね」

 

「まるでこの前の発言が苦し紛れみたいに言わんでくれ」

 

 多少元気を戻してきただろうか、それでもいつもよりは格段にテンションが落ちているのは明らかだが。

 何はさておき、話を聞いてみない事には始まらないからな。

 

「あ、どうもっす斎藤さん。今日はちょっとメッちゃん送ってくんで」

 

「おお、そうかすまんなアイに引きずり込まれた上にそこまでしてもらって」

 

「構いませんよ、アイさんも楽しい人ですし。……では」

 

「しゃちょーお疲れ様」

 

「おう。なんかあったか知らんが、無理は禁物だからな」

 

「ありがとーしゃちょー」

 

 しかしかな以外の女性と2人で歩くというのはあまり経験がないんだよな、実のところ。

 興味が無かったというところが一番大きいが、それにしても俺様のキャラ付け的に果たしてそれで大丈夫か……? とは何回か思った。

 毎回「かながいるから良いや」で終わってたけど。

 

 外は相変わらず寒いし曇っている、2月下旬とあり寒さは最高潮を越え何とか少しずつ暖かさを取り戻しているのだろうが寒いもんは寒い、さっさと春になれよと言いたい。

 

「……誰にも聞かれない場所、用意してんだけどどう?」

 

「……2人きり?」

 

「無い無い。東ブレの飲み会でちょっと主宰や姫川達と飲んだ会員制BAR。役者なんかも事務所に秘密で働いてるから口はかてーぞ」

 

「それなら安心」

 

 そう、俺様は失敗を繰り返さない事で有名だ。

 この前のゆきちとのアレは無防備な外だったからこの目の前の人間に見られてしまったが会員制BARなら問題無い、見られていてもそれで何かアクション起こす人間はいない。

 何せ自分がそこにいたという事実が出来るのを不都合と考える人間が働いているからな、上手い事芸能人の隠れ蓑になっているという訳だ。

 

 あの日会員になっておいて良かったと心底思う。

 酒は飲めなくても隠れ蓑としては最適この上ないからな。

 

「いらっしゃい……無道君じゃないか、まさかまた来てくれるとは」

 

「どうも。未成年なんで酒は飲めないですが、ここは『話しやすい』ですから」

 

「成程、ウチは事務所に黙って働いてる様な子しかいないからね。漏らすメリットが無いし確かに最適だよ」

 

「ほんと、この前会員になっておいて正解でした」

 

「それは有難い。ささっ、席へご案内してあげて」

 

「は〜い」

 

 店主店員は勿論、ここに来るのは所謂『シャッターから逃れて気楽に過ごしたい』芸能人達。

 何かとんでもない秘密を聞いたとしても自分の心の内で飲み込んでおく、憩いの場を自ら無くすなんて以ての外だからだ。

 

 席に案内され、食事がまだだった事もあり俺様が奢るという事で色々注文してあげた。

 落ち込んではいるがやはり現役アイドル、激しいレッスンやアイドル活動をすれば腹が減る、生理現象には勝てないものだ。

 俺様も注文し、パスタやピザ、サーロインステーキ丼に黒胡椒の効いたハムと席が凡そBARらしくないバラエティ豊富になったところで店主が「今日は接待いる?」と聞いてきたので「今日は友人の悩みを聞いてあげるので無しで」と返し、店員は言葉通り他の客の接待だけになった。

 

 取り敢えずは心のロックが外れてパクパク小動物の様に食べてるメッちゃんを見つつ俺様も舌鼓を打ち、粗方食べ終わってドリンクで落ち着いた頃合いで話し掛けた。

 

「そんで、今日の落ち込み様はどうしたんだ? 友人として流石にほっとけないレベルだったぜ?」

 

「あはは、ごめんね〜ほんと。……ね、その前に聞いてほしい話があるの」

 

「今日は心行くまで話すと良い。その為に俺様がいるんだから」

 

「ありがと。私さ、宮崎旅行の時に撮影以外でも単独行動してたのは多分聞いてるよね」

 

「ああ、あったな」

 

 確かにあったと思い出す。

 二日目の撮影終了後、メッちゃんだけ遅れて帰ってきたんだった。

 撮影でも無かったからてっきり観光でもしてたのかと思っていたが。

 

「……あれね、実は私が小さい頃友達だった女の子のお墓に行ってたの」

 

「小さい頃か……同年代?」

 

「そこそこ年上だったかな……まあこの際だから言っちゃうけど私実は18でもなんでもなく25歳な訳ですけど」

 

「ちょっと待てめちゃくちゃ重要な事サラッと言ってるけど大丈夫か?」

 

「和也なら話しても良いと思ったからね」

 

「……まあ、秘密は守るけど」

 

 まさか既に知ってたとは言えないからはぐらかす。

 知った場所が温泉になるからな、バレたら自害だ。

 

「で、話戻すけどもう20年くらい昔の話」

 

「あーだから年齢開示と」

 

「そゆこと、この事で嘘とか誤魔化しとかしたくなかったから。その時でその子が11〜2歳くらいかな、名前をさりなちゃんって言って難病でずっと病室暮らしだったみたいで」

 

「仲良かったんだ」

 

「分かる?」

 

「とても懐かしそうに話してたからな」

 

 今まで見てきたどの顔でもない、昔の大切な思い出、タイムカプセルを開けるかの様にそっと掘り出して紐解いていくかの様に話す彼女には不思議と人の心を掴む、そんな穏やかな表情をしていた。

 

「さりなちゃんとは一年も交流出来なかったんだけど、明るくて楽しいお姉ちゃんだったんだ……家族の話をする時だけは寂しそうだったけど」

 

「まあ、簡単に言うと宮崎旅行での単独行動ってのはさりなちゃんのお墓に行ってたって事になるんだよね。人生で初めての友達で、人生で初めてのお別れだった」

 

 もう割り切ってはいるのだろう、目を閉じて自分を納得させるかの様に語る彼女になんて声を掛けるべきかと悩んでしまう。

 だが、そう考えた時ふと一つ疑問が浮かんだ。

 

 ――何故、そんな難病の子どもとメッちゃんに接点が出来たのか?

 

「そっか。……そう言えば、なんでそんな難病の子とメッちゃんが交流してたんだ? メッちゃんも子どもの頃病気がちだったとか?」

 

「ううん、そういう訳じゃなくてね。……この話が本題になってくるの」

 

 先程まで少し戻っていた元気がまた鳴りを潜める、ここから一体何故メッちゃんがここまで落ち込む事になったのか。

 さりなちゃんと言う子の事は割り切っているはずな上に既に20年が経過している、この子の事では無いはずだ。

 だとすれば一体彼女は何に心を痛めているんだ?

 何故苦しんでいるんだ?

 

 ――彼女の重たい口が、ゆっくりと今開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 次章予告

 

「あはは……ほんと、なんで私の思い出ってこんななんだろ……」

「……んな、悲しい事……あんのかよ」

 

 

「そいつはな……償えない罪を犯しちまった」

「人を一人……見殺しにしたんだよ」

 

 

「無道和也、君は本来存在しないはずの『イレギュラー』なんだよ」

「どういう……事だ……?」

 

 

「ああ、やっと気付いた」

「この感情に」

「俺様の役目に」

 

「そう、俺様の役目は――

 

 

 

 

 

 

 

かなを守る事(お前を殺す事)だ」




ワールドシアター
本作に置ける、アカデミー賞のワンランク下に位置付けられている世界二番目の権威ある映画受賞式典
各最優秀賞受賞者には『ゴールドシールド』、各総合最優秀賞受賞者には『クリスタルシールド』が贈呈される
十代でアカデミー賞は現実味が無く断念
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