最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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色々な人間の過去が交わり始める
それはまるで仕組まれたかの様に…


『彼の過ち』

 あれは……まあ、17年くらい前の話としようか、その知り合いってのはめちゃくちゃとあるアイドルにハマってたんだよ。

 どこのグループか? ……まあそれは流石に言えねえな、そいつのプライバシーに関わるからな。

 そのグループは後から考えれば途中までは不仲だったんだろうな、とある時期を境に凄く仲良くなり始めたんだ、それも含めて全てが上手く行き始めていた。

 そんな時期にリーダーが突然長期休止を発表した、体調不良って聞いてな。

 

 知り合いはその時はそんなもんか、早く治してもらいたいもんだって能天気に思ってらしいんだがな。

 

 だがそいつはたまたま、本当にたまたま目を付けられたのだろう。

 悪魔に目を付けられたんだ。

 

 それが全ての間違いの始まりだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、このアイドルのファンだよね?」

 

「……誰お前、急に話し掛けられても意味分かんないんですけど」

 

「君がいつも大切そうにグッズを持ってるの良く見掛けてるんだ、ライブにも良く行ってるんだよね?」

 

「は? ストーカーか何かかよ……こんな話の通じない変な奴相手にしてても時間の無駄すぎる……オイ、これ以上変な事言うと警察呼ぶぞ」

 

 これは一応知り合いの話を元に作ってるから全てがそうとは言えないしぼかしてるとこもあるんだが、ある日俺の知り合い……仮にAとするがAはとある日のライブ帰りに黒ずくめの小柄な奴に話し掛けられたんだ。

 顔が見えなかったから正確に女か男か分からなかったが、声と体格からして女の可能性が高かった、そう話していた。

 

「へぇ……仮にそのアイドルがファンに隠れて男を作ってて、更に休止理由が妊娠だとしても?」

 

「は?」

 

「嘘だって思うなら見に行く? 知ってるんだぁ、その子の入院してる病院ってやつ」

 

 本当ならこのまま警察にでも突き出してそのまま帰る予定だった、だがAはその言葉を聞き逃さなかった、いや『聞き逃す事が出来なかった』。

 戯れ言だって突き放せばそこで終わった話なんだろう、どこの誰とも分からない人間の話なんて信じられる訳が無いんだよ……普通はな。

 だがそいつは信じちまった、馬鹿な事にな。

 何せそのアイドルはAの心を救ってくれた存在だったからだ、だからこそ乗っちまったんだよ、その話に。

 

「……本当なのか?」

 

「ふふっ、本当さ。何なら見に行くって話なら今なら交通費もこっちで持つよ? 君は着いてくるだけで良い……損は無いと思うけどどうだい?」

 

「……わ、分かった」

 

 証拠の一つも無かった、たかが言葉だけの説得。

 なのにその黒い瞳を見れば見る程……吸い込まれそうな程の謎の、魔法に掛かった様な説得力が生まれた。

 信じてしまうような、カリスマがあったんだ。

 

「それじゃ……そうだね、3日後の朝9時半にここに来て。そうしたら連れてってあげるよ」

 

「本当だな?」

 

「本当だとも。嘘だと思うなら来なくても良いけどね」

 

 3日も猶予があった、思い直すだけの時間なら大量にあった、その時に辞めておけば後悔なんてしなかっただろうさ。

 それでもAは思い直さなかった、思い直せなかった、寧ろ日に日に言われた言葉が脳裏に焼き付いて肥大して行った、日に日にその言葉が真実だと思ってしまって行ったんだ。

 

 

「……おや、来たんだね。てっきり来ないと思ってたよ」

 

「お前の言葉を確かめに来ただけだ、それ以上も以下も無い」

 

「それだけで充分さ。さあ行こうじゃないか」

 

 そう言っていたがAは既に気持ちは固まっていた。

 最早着いていく気しか無かった、思えばこの時点でそいつの思うツボだったと気付けていればあんな事にはならなかったんだろうが。

 

「……お前、何者なんだよ」

 

「悪いけど素性は明かせないね。君が裏切らないとも限らないからね……でも少なくとも君が信じてくれる限り害は与えない、約束しよう」

 

「そうかよ……というかどこに行くつもりなんだよ」

「宮崎さ」

 

「宮崎!? ……いやそうか、アイドルが隠れて出産ともなれば田舎でこっそりやるのはお約束ってか……?」

 

「そういう事。だから金はこっちで出すって話……悪くないんじゃないかい?」

 

「……嘘じゃなかったらな」

 

 東京から宮崎、飛行機を使った移動手段でわざわざ案内されたそこはとても東京とはかけ離れた田舎と言うべき場所だった。

 そう、アイドルが隠れ蓑にするには丁度良いと言われたら鵜呑みにしそうなくらいには、な。

 

「さて、この山道を登った先が件の場所……宮崎総合病院さ」

 

「こんな山奥にか……どうやって確かめるんだよ」

 

「そこは君が喉の調子が悪いとかの仮病を使って受診しておけば問題無いと思うよ。薬を貰うにしても貰わないにしても、診察を受ければ君は客、ある程度闊歩していても問題は無いはずさ。妊婦と言えど病室にずっといる訳が無いんだから遭遇出来る」

 

「……本当か?」

 

「信じて着いて来たんじゃないのかい?」

 

「……分かったよ、やりゃいいんだろやりゃ」

 

 山道を登った先には確かに宮崎総合病院があった、こじんまりとした如何にも辺鄙(へんぴ)な場所にある病院だった……ってAは言っていたか。

 実際、適当な仮病を使って受診すればすんなり入れたし不審者に間違われる事も無かったくらいにはザルだった……まあどんな感じなのかは本人じゃないから知らんが。……いやだから俺は本人じゃねえって。

 ほ、本当だからな?

 

 ゴホン、そんでササッと侵入した後は適当に診察されて購買やら何やらで時間を使いながら院内をくまなく探した。

 ここまで来て妥協なんてできる訳が無い、ギリギリまで探していなきゃ嘘って事にすりゃ良いだけだからな。

 そんな、決意した割にはどこか軽い気持ちで探していたんだが……まあ結果から行きゃ見つかっちまった訳だ。

 

「…………うそ、だろ」

 

 事前に奴から貰ったメガネとキャップを着けておいて良かったと心の底から思う、顔を見られれば動揺していたのがバレていただろうからな……

 そしてAは絶望しちまった訳だ、少し大きくなったお腹を幸せそうに擦る推しの姿を見てな。

 

 

「その顔、会えたみたいだね」

 

「あの子が……そんな……うそだ……」

 

「だから言っただろう、本当だって。……それで、君はどうしたい?」

 

「どうするって……」

 

「担当医は始末したいんじゃないかい? 少しでもその子に不幸になってもらいたいんじゃないのかい?」

 

「……不幸に……俺を、ファンに黙って……裏切り……幸せになんて……させるか……」

 

 こうなったら後は簡単だっただろう、そいつは『宮崎で住む場所を与える』『出産予定前日になったらまた教える』なんて言って……それからのAは何かに取り憑かれたかの様に復讐だけを、その担当医を殺す事だけを目的に生きていた。

 

 ……まあ、そんな中でも出会いはあった。

 

「くそっ、ここどこだよ……だから田舎は嫌なんだよッ」

 

「おい、どうしたんだ君? 道にでも迷ったかい?」

 

「え……あー、まあ。最近東京からやってきたもんだから……」

 

「僕はここの人間だからね。良かったら案内するよ」

 

 馬鹿みたいに親切な奴だった、当時30前後の気の良さそうなイケメンだったと話してたか。

 復讐を目的にいるとは言えど全く知らない土地では誰かの手を借りないと生きていけない、恥を忍んで助けを求めたら助けてくれたよ、しかも無償でな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ亮介」

 

「なんだよ」

 

「やっぱりそれお前の話なんじゃ……」

 

「…………そう思いたきゃそう思えば良い。だが『あくまでもここでは俺の知り合いAの話』だからな」

 

「……分かったよ、『そういう事にしとく』。暗黙のルールだもんな」

 

「分かったなら続けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてまた東京から宮崎なんて来たんだい? 言っちゃ悪いがここには何も無いぞ?」

 

「……まあ、色々と」

 

「そうか。深く事情は聞かないよ、代わりにちょっと昼飯に付き合ってくれないか? 話し相手がいないとどうにもつまらなくてね」

 

「それくらいなら……」

 

 んで、それからその男とAとの奇妙な交流は続いた。

 外を出歩けばバッタリ出会って、話をしたり食事をしながら駄弁ったり、その時だけは復讐する事を忘れられた。

 

 だから、だろうか。

 

 しばらく経った頃、ふと話しちまったんだよ。

 濁してにはなるが、何故宮崎に来たかを。

 

「これは仮の話だが」

 

「うん?」

 

「もしも、俺が殺したい程憎い相手を殺す為にここにいる……そう言ったらアンタはどうする?」

 

「うーん……話は見えないけど、僕は折角仲良くなった君にそういう事はしてもらいたくないかな。命は……無駄にして良いものじゃないからね。それでも殺したいと言うなら、本当に殺すに値する理由かどうか考え直す事だ。その人間を殺す事で何が守られる? 何を成せる? 何が残る? それを考えてそれでも殺したいって言うなら……僕は止めない。そこまで人の人生に踏み込める程僕は偉くないからね」

 

 そしたらこれだ、本当なら情に訴えて止めてくるような安っぽいので失望出来たら良かったんだがこうも冷静に言われちゃ考えるしか無かった。

 

「……俺のやってる事は本当に何かを得られるのか?」

 

「ああ、君のやる事は正義さ。だから何も考えなくて良い。もしも失敗したらこっちで片付けといてあげるし」

 

 だが、アイツにそう言われたら信じるしか無かった。

 

 そんで当日、Aは夜間ノコノコと出てきたその担当医を不意打ちしようとしたんだが……

 

 

「……やっぱり、君だったか。亮介」

 

「なっ……なんでアンタなんだよ……!」

 

「僕だって君とは思いたくなかったさ。そして……あの子の事だとも。……殺すのかい?」

 

「なあ、アンタ言ったよな。何が守られる、何が成せる、何が残るかって。アイツはな……俺達ファンを裏切ったんだよ、妊娠を隠してたって事で。だから……その『裏切りを消し去る』それを成すんだよ……アンタは……どうすんだよ……大好きなアイドルに裏切られたら」

 

 それは何の運命のイタズラか仲良くなったイケメン野郎だった。

 そうでなければ良かったのに残酷な話だよな。

 思わず問い掛けた、なんの意味も無いのに。

 

「……馬鹿言うなよ。確かにあんな歳で妊娠出産は馬鹿だが、それは決して裏切りなんかじゃねえよ」

 

「……え?」

 

「『嘘はとびきりの愛』あの子はそう語っていた。たとえ作られた、虚像だとしてもファンに幸せになってもらう為に付く嘘は愛だからって。だからな、少なくとも妊娠を隠していた事は嘘じゃない。あの子なりのファンへの謝罪なんだよ。絶対隠すからっていうな」

 

「そんな……そんな事、が……」

 

 だからそう返されて、殺すなんて出来る訳がなかった。

 それはこの担当医も、アイドルの事もだ。

 

「だからどうか、見守ってやってくれないか」

 

「嘘は愛……じゃあ俺は、その愛をぐちゃぐちゃにするところだったのか……? あ、あぁ……」

 

 瞬間自分の事が怖くなった。

 あと少しでAは取り返しの付かない事をするところだったと思い返して震えちまった。

 

「大丈夫だ、今からなら引き返せるから」

 

「引き返せ……!?」

 

「どうした?」

 

「理由は聞かずに良いから逃げろ! そこに居たらお前殺されっぞ!」

 

 だが直後にもっと震えた、それは実行前に聞いた『失敗したらこっちが片付ける』その言葉があったからだ。

 

「ど、どういう事だ!?」

 

「なんでも良い! 早く――」

 

 

「あーあ、殺してくれると思ったのに。じゃ2人揃って死んでね」

 

「しまっ!?」

 

「クソッ」

 

 

 逃がそうとした、それはAを改心させた恩人であり最早友人と呼べる存在だったからだ。

 

 だが、全てが遅かったんだ。

 

 

「なんで俺なんか庇った!? お前はアイツの担当医なのに!!」

 

「……無事……みたいだな。なに、言っただろう……命は無駄にしちゃいけない。そして……救える命があるなら救うのが医者の務めだ……」

 

「馬鹿言うなよ!! 俺なんか生きてて何になるってんだ!!」

 

「折角……僕が改心させた友達なのに死なれるなんて……そんなの、嫌すぎるってーの……」

 

 2人揃って崖下に落とされ、そしてそいつはAを庇って致命傷を負っていたんだ。

 

「何とか俺が助けるから!!」

 

「それこそ……馬鹿だろ……僕の事は良い、それより亮介だけでも逃げろ……頼む……友人からの、最後の頼みなんだ……」

 

「チクショウ……!! なんでだよ……」

 

「……あと、さ。これ……持っててよ」

 

 最後の頼み……気は動転しててもそう言われて断れるくらいの薄情ではなかったらしいな。

 震える手を抑えて聞いたんだ。

 

「……ああ」

 

「それ、な……娘から貰った……大切な推しアイドル仕様のペンなんだ……」

 

「アンタ……娘なんかいたのかよ。しかも……推しアイドルって……」

 

「ああ、同じだよ……お前とな……あと娘は……今……9歳くらいかな。『千代田恵美』って言うんだ……もしも……会えたら……」

 

「分かった、必ず……必ず渡すからッ……!!」

 

「ゴホッゲホッ……はぁ……どうにももう……無理みたいだ……ほら、さっさと行け……僕の死に顔なんて見ても……面白く……ねーぞ……」

 

 そんでそいつは託されたそれを持ってボロボロの身体で走ってったんだ、その後そいつはどこ行ったんだか分からず終いらしい。

 

 全く呆れた話だよな。

 

 でもまあ、分かる事が一つだけあるんだ。

 

 そいつはな……償えない罪を犯しちまった。

 

 人を一人……見殺しにしたんだよ。

 

 

 

 

 

 

「……『まだそいつはそのペンを持ってるのか?』」

 

「『それだけは肌身離さず持ってるんだとよ』……さて、これで話はおしまいだ。つまりは親しい存在相手にゃ後悔してからじゃ遅いって話、後悔する前にちゃんと自分の気持ちに正直になっとけよ」

 

「……善処する」

 

 それ以上、俺様は何も聞けなかった。

 どう考えてもその話はアイの休止期間と合致する上に、まさか雨宮吾郎の死を間近で見ていて拾われた理由が『そういう事』だったとは……そりゃ、話せるはずが無い。

 

 時が来るまでは必ず内に秘めよう、そう決意するのだった。

 

 そしてただ一つ、たった一つだがメッちゃんに救いが出来た事にほんの少しだけの安堵も添えて。

 

 だがまだ交渉する訳には行かない、兎にも角にもまずはご本人に連絡取らなくちゃなんねーからな。

 

 何せ全くもって関係ねえ話だが、聞いた話と話が繋がって、それを知ってるのが俺様だけだなんて、こんなのお節介だろうが何だろうが繋げてやるしかねえだろ?

 

 だって、こんな悲しいまんまじゃ……嫌だろ。




亮介
原作のリョースケ
生前のゴローとは宮崎に行った時にターゲットと知らずに親切を受け仲良くなるも後にターゲットと知ってしまうという地獄展開
ゴローと話してる内に「自分のする事は本当にアイの気持ちを考えているのか」と思い直し始めるも今更辞めようにも「これが正義」だと言われそのまま当日を迎える
そして殺そうとした医師がゴローと知り動揺するも彼から「あの子の嘘は愛だった」と言われ逃げる様にゴローに言うも2人まとめて黒ずくめに崖下に突き落とされる
その際庇われ自分だけ生き残ってしまった事に深い後悔を覚えている
アイに対しても「一度は殺意を抱いてしまった自分がもうファンに戻る事はしちゃいけない」としている
和也に話したのは「察するには察するだろうがアイまでは辿り着かないだろう」という考えの元
なお、当の和也はこれで確信を持ってしまったもよう

MEMちょ
本名『千代田恵美』はオリジナル設定
ちょ→ちよだ
MEM→ME(GU)M(I)

Q.『嘘はとびきりの愛』なんて使ったら知らなくてもバレるのでは?
A.細かい事を気にしたら首から上がぴえヨンになるぞ
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