最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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『トラウマ』

「はぁ……はぁ……」

 

 俺様はスポーツが得意とはいえ全力疾走で500mも600mも走れば息が切れる、1kmを2分台で走る超人じゃねえんだぞ。

 とはいえあのかなの怯えっぷりはただ事じゃない、間違いなくかなの身に何かしらの危険が迫っている事を示唆する怖がり方だった。

 ともすればそんな文句言ってる暇も無い、胃の中身をリバースしそうなくらい走って何とか着いた先には……

 

「おい……誰だテメェ」

 

「……!?」

 

 黒ずくめの謎の人間、そこまで大柄ではなく寧ろ小柄か、フードを被りその下にはキャップ、サングラスにマスクもしていて如何にも『不審者ですよ』と言っている風貌だ。

 だがそのせいで小柄ではあるものの男か女か分かったもんじゃねえ、さてどうするか……

 

「あ、逃げてんじゃねえぞ! ……って俺様も体力使っててまともに追いかけらんねぇ……てかそれより今はかなの傍にいてやんないと」

 

 全速力で逃げる黒ずくめを追いかけようとするも体力を大幅に使っていた弊害か足が上手く動かず、一旦諦めてかなのフォローに回る事にした。

 何にせよあの子のメンタルケアは優先しないと、俺様の今一番すべき事は無駄足使うよりこっちだ。

 インターフォンを押し声を掛ける。

 

「かな、俺だ。和也だ……心配すんな、変な奴なら追い払ったから、鍵開けてくれると嬉しい」

 

『和也……ほんとに和也?』

 

「ああそうとも俺様だ。この前ハーゲンダッツ奢ると言いつつ何故か最終的にパフェ奢る事になってたこの和也様だ」

 

『……あ、ありがとう……和也ぁ……』

 

 鍵だけ開く音がする、流石に怯え過ぎて開ける事は叶わなかったらしく『は、入ってきて……』とか細い声が聞こえた。

 

「お邪魔しますよっと……っておぁっ!?」

 

「うえええええええん怖かったよおおおおおおおおおお!!」

 

「……よしよし、怖かったな。もう大丈夫、大丈夫だから」

 

 入った瞬間大泣きされて抱き着かれた、柔らかいものが色々当たってるとか至近距離にかなの顔があるとかそういう思考をする前に、ここまで泣いてるかなを抱き締めていた。

 この子は基本泣く事をしないし、泣いていても一人でひっそり泣くくらいだ……俺様がいなければの話だが。

 だからこそ、素直に泣ける俺様の胸の中でくらい、年相応に泣かせてあげるのもまた幼馴染のお仕事というものだ。

 

 震えが止まらない彼女に対し、背中をゆっくりとさすってその震えが止まるまでいくらでも抱き締める。

 その姿は年上と言うにはあまりにも幼く、まるで小学生の時、事務所と母親から見捨てられた時に絶望に怯えていたあの頃の様に小さく思えてしまった。

 

「一旦リビングに行きたいんだが……」

 

「い、いやだ……リビングはまどあるからこわい……アタシのへやがいい……」

 

「ん、分かった」

 

 もう話し方まで幼くなってる……いや、これは恐怖心から一時的な幼児退行をしていると言った感じか。

 かなの中で一番のトラウマが小学校高学年の頃だから、少なくともそれくらいまで精神年齢が退行してしまったのだろう……これは多少なり、一週間から二週間のケアは必要だな。

 

 抱き着いて離れないかなをそっとお姫様抱っこしてかなの自室に向かう……入るのは2年振りくらいだろうか、B小町になる以前でもおいそれと女の子の自室に入るのは躊躇われたから滅多に入った事は無かった。

 

「かずや……きょうはずっとここにいて……」

 

「おう。お前が安心して外に出られる様になるまでここに住むわ」

 

「ほんと……?」

 

「ほんと。でも仕事とかは行かなくちゃなんねーから、その辺誰に見ててもらえるかの相談をしなくちゃならない。ちょっと電話掛けるけど大丈夫だよな?」

 

「うん……かずやがここにいてくれるならねれるとおもうから……」

 

「それなら良かった」

 

 俺様はここに来た瞬間には既にかなを守る為に解決するまでここに住む事を決意していた。

 かなには文字通り家族がいない、俺様しか家族がいない、つまりは無防備な一人暮らしだ。

 だったら俺様が守るのが道理だ。

 スマホを取りだし掛けるのは……かなの家族に一番なれるだろう存在の苺プロ社長夫妻だ。

 

 

『――無道君、本当にありがとう……礼を言っても言い尽くせない』

 

「いえ、当然の事をしたまでですから」

 

『それで、そうなると誰かが付きっきりで見てなくちゃいけねえ訳か……』

 

「本当なら俺様が付きっきりでメンタルケアをしてあげたいんですが、流石に撮影や稽古に支障は出せないもので」

 

『俺やミヤコも何とかしたいんだが、会社を離れる訳には――』

 

『なら私で良いじゃーん☆』

 

 ……社長さんに掛けたはずが何故かアイに乗っ取られた気がした。

 いやまああの人ならやりそうな事ではあるけども。

 

『アイ!?』

 

『だって私明日から丁度夏休み貰うじゃん? なら付きっきりで傍にいてあげられるよ?』

 

「それは嬉しいんですが、アイさんはその……」

 

『ああ、足の事? それならアクアとルビーもこっちに呼ぶし問題無し! 私が1階、2人が2階でサポート! 寝る時は私とアクアとルビーが1階でムドくんとかなちゃんが2階! これなら問題無いよね!』

 

『アイお前今決めたなそれ』

 

『え、うん』

 

 完全に勢いだけ……とは言い切れなかった。

 そう、社長夫妻が厳しい今一番家族に近しい存在はアイ、そして長年好意……恋愛か親愛かは知らんが……な幼馴染アクア、もう一人の幼馴染ルビー。

 この布陣ならかなのメンタルケアには最適と呼べるだろう。

 

「アクアとルビーちゃん次第とはなりますが、それが実現出来るならそれに越した事は無いです……申し訳ないですが確認してもらっても大丈夫そうですか?」

 

『おっけー! 今家にいるし聞いてくるね』

 

 うんまあ遊びに来てるって事にしとこうそうしよう、そうじゃないと亮介の時みたくSAN値が一瞬で削られるからな。

 

『おい無道その話本当なんだろうな』

 

『かなちゃん泣かせるとか許せないんだけどそいつ。本当の話で良いんだよね?』

 

「勿論だ。少なくともかなの事で嘘を付く事は後にも先にも永遠に無い」

 

『分かった、なら信じる。そしてその案に乗る』

 

『私も。いつも言い合いばっかしてるけど……それでもやっぱ大切だし』

 

 2人も食い付き良いな。まあ付き合いは長いからこうなるだろうってのは知ってたけどな。

 アクアだって一年前までは嫌って……まではいかないがいけ好かないと思ってたと言えどかなとくっつかせる為に長年色々見てきてたから分からない事の方が少ないし。

 

「アイさんも、アクアもルビーちゃんも、それに斎藤さんも、ありがとう……」

 

『我が妹の為だもん! 一肌脱がさせてよ!』

 

『……アイツに何かあったら流石に耐えられない』

 

『そうと決まれば早速準備しないとね! お兄ちゃん! マ……アイ!』

 

 あーあー俺は何も聞いてない聞いてない、何の情報も得てなければ何も気に留めない様な一言で冷や汗が流れてくるけど何も知らないって事に今からする事って出来ないんですかね。

 

 あ、無理……そうですか……

 

『それじゃ遅くても明日の昼前には着いてると思うから!』

 

「了解です、何から何までありがとうございます……はい、はい、では」

 

 長くなってしまったがまだ電話しないといけない人間は存在する、ここで気を抜く訳にはいかない。

 ちょっと迷惑掛けるかも知れないが、そこは謝るしか無いだろう。

 

「あ、マネちゃん?」

 

『和也か、どうした?』

 

「実は――」

 

 簡単に事情説明し、今から自宅に戻る事は不可能だから合鍵を持ってるマネちゃんに言って置いてきたプライベート用スマホ二台、いつも使ってるバッグ、授業の為のパソコンと教科書類等々をこっちに持ってきてもらう。

 暫くこっちにいるなら授業もこっちから出ないとならないからな。

 

「てな訳で、申し訳ないけど頼める?」

 

『お前は本当に優しい奴だよ。分かった、持ってくのはかなちゃん家で良いんだな?』

 

「それで頼む、ほんと悪いね」

 

『良いって。大切な人守る為に躊躇しないなんて偉いじゃねえか』

 

「……当たり前だよ、当たり前」

 

『そんでもだよ』

 

 そう言ってるマネちゃんもマネちゃんで優しいけどな。

 もう結構夜も遅いのに今から来てくれるとか、優しくなければやれる事では到底無い。

 

「まあ……そう言われて悪い気はしないな。そんじゃ悪いけどかなの事見ないとだから」

 

『おう、じゃあすぐ向かうから』

 

 よし、これでやるべき事は全部終わらせた。

 警察関連は社長夫妻の方で一旦しといてくれるらしく、特徴も伝えといたから明日俺様が具体的な事をすれば良いだろう。

 後はかなのフォローに全ツッパで良い、寧ろそれをしないといけない。

 俺様はその為にここまで来たんだから。

 

「悪ぃ、電話長引いた」

 

「ううん……だ、だいじょぶ」

 

「なら良かった。これからちょっとしたら俺様のマネちゃんが来るから、チャイムにはビビらなくて良いからな」

 

「わかった……でもくるまでだきついてていい?」

 

「おう、いくらでも抱き着いとけ。何があっても俺様がかなを守ってやるから……悪い奴なんて全員俺様がぶっ潰してやるから……」

 

 まだ震えの止まらないかなを、優しく抱き締め……俺は、自分の思考が徐々に徐々にドス黒く、狂気に染っていくのを感じるのだった。




無道和也
最早どちらが年上か分からないという意見を貰いそうだが、彼が『血の繋がりを持たない人間』で甘えるのはかなと亮介にだけ
だが亮介には滅多にそういう姿を見せない上に家族含めても一番甘えてるのはかなである為そういうところはかなにも姉みがあるのかもしれない
ちなみにだが抱き着かれた瞬間取り敢えず玄関の鍵は閉めていた、そりゃ防犯もあるが「かなのこんな弱った姿を他人に見られる訳にはいかない」という和也らしい行動だった
着替えや歯ブラシ、バスタオルや食器、シャンプーボディーソープ等生活で必要な物は全て当たり前の様にかなの家に専用のものが存在しているし何ならかなが当たり前の様に買っている、どう見たって同棲だろこれ

有馬かな
まあ女の子で一人暮らしなのに不審者に玄関ガンガン叩かれてたらそりゃトラウマにもなるでしょうよ
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