最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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5章最終話
ここからちょっと重たい話が続きます


『たとえ堕ちようとも』

「おーいかなー起きろー」

 

「うにゅ……あさぁ……?」

 

「そうだよ、下で待ってるから行くぞ」

 

「うん……」

 

 あの得体の知れない少女との出会いから一夜明け、本格的にアイ、アクア、ルビーちゃん、俺様とかなとの生活が始まった。

 幼児退行したかなは、その自覚はあるらしく後ろめたさや申し訳なさを話していたりもしたが唯一恐怖心から来る精神の脆弱性が著しく低いのはアクアもルビーちゃんも長年の付き合いで理解してくれていたのが大きいのか気にするなと言ってくれた。

 アイに至っては優しく抱き締め頭を撫でてくれていたりもしているので非常に助かっている……というかそれ見てるとアイドル時代どうして人気だったのかっていうオーラが見えて当てられそうになってしまう。

 これ間近で受けて壊れなかった旧B小町最終メンバーってもしかしてメンタルバケモンなんじゃないの?

 

「おはようございます、アイさん」

 

「お、おはよう……」

 

「おっはーかなちゃん☆ 2人はお仕事休みだから学校行ってるよ〜」

 

「成程、道理で2人共いない訳だ」

 

「あ、それと。パパから『正式にかなの芸能活動休止が決まったから気負わずゆっくり治してこい』だって。しばらくはお姉ちゃんとゆっくりしようね〜☆」

 

「うん……」

 

「本当にありがとうございますアイさん。俺様も多忙なもので授業にすらまともに出られない日々が続いて中々かなを見てあげる時間が無いもので……」

 

 何度も言っている様に俺様は24時間365日かなの傍で癒してやりたいと思っているし守ってやりたいと思っている。

 だが現実は甘くない、たかが学校程度ならいくらでも休んでやるが仕事に支障をきたす訳にはいかない。

 その中で家に人が残っているというのは大きな安心感に繋がる。

 

「そんな事言わないでよ〜、私にやれる事ならなんだってしてあげたいんだからさ」

 

「ははは、申し訳ないです。それだけ傍にいてあげたいんですよ」

 

「本当にムドくんはかなちゃんの王子様だよね〜」

 

「は、はずかしい……おねえちゃん……」

 

「一応長い事コイツの唯一の家族だったのでね」

 

 こうしているとかなは少し幼くなっただけで精神的にも落ち着いているのだが、外を見るのがどうしても怖くなってしまった様で今はマネちゃんに買ってきてもらった完全遮光カーテンで全て封鎖している状態だ。

 しかし外が怖いとなると芸能活動への復帰はいつになるのか……今まではこんな事無かったし、とにかくあのクソストーカーを排除するしか無いだろうな。

 そうすれば多少時間は掛かっても……恐らく1ヶ月弱後のホットな話題情報局収録までには治ると思っている。

 

 だとしたら……俺様が外道になってでも、人ならざる者に堕ちてでも……

 

「? どうしたのムドくん、ちょっと怖い顔してるよ」

 

「あ、すいませんね。かなをこんな風にしたストーカーの事を考えるとどうしてもこうなってしまって」

 

「うん……分かるよ。私だってアクアやルビー、パパやママに一緒にB小町やってたみんながそうなったら許せないし今だって許せないもん。でも、顔そんなに怖いとダメだよ」

 

「……ほんと、ダメですよね。昔からこうなんですよ、かなを害されたと思うと自分の胸の内で黒い感情が湧き上がってしまって」

 

「そっか……」

 

 本当はダメだと言うのは自分でも分かっている、バレれば事務所で世話になってるみんなやノブ、もっさん、ゆきちやメッちゃん、家族にかなみんな悲しむのは知っている。

 それでも止められない……いや、今回に限っては止まっちゃならないんだよ……この気持ちが無ければかなは……

 

「すみません、そろそろ仕事に向かわないとなので。かな、行ってくるな」

 

「うん、いってらっしゃいかずや」

 

 かなを守る為なら、俺様は壊れたって構わない――

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ和也、今日は送ってくか?」

 

「ありがとマネちゃん、でも良いよ。ちょっと済ませないとならない用事があるからさ」

 

「そっか、送迎くらいいつでも言えよ。かなちゃんとこに早く帰りたいなら尚更な」

 

「分かってるよ、ほんとサンキュな。お疲れちゃん」

 

 仕事が終わり、俺様は薄暗くなった外を一人歩く。

 今日は用事があるというのは本当だ……だがそれは誰にも気付かれてはならない、そうそれは事務所の連中にもだ。

 フードを深く被り慎重に歩き、とある裏路地に着く……周りに人影は無い、見られない内にさっと入り……裏路地に不自然にある建物の前に着く。

 

 人が一人いるがこれは想定内……所謂見張りだからだ。

 

「あ? なんだガキが一人で」

 

「ああ、申し訳ない。ここに依頼しに来たものでね」

 

 フードをここで脱ぐ。

『こういう場所』では『この顔』があれば……

 

「な、アンタ……!?」

 

「案内してもらっても良いだろうか、こう見えて少し急いでいるんだ」

 

「わ、分かった」

 

 そう、顔パスになる。

 本音を言うのであれば、あんまりここには来たくなかったのだが……この際使えるものは全て使う、それがたとえ非人道的なものや組織だったとしても、な。

 

「中で組長が待っている、行くと良い」

 

「助かるよ。これ、口止め料だから」

 

「……流石一流芸能人サマは支払う額が違ぇな」

 

 非人道的……まあ、ここは所謂そういうところだ。

 外の見張りには口止め料として100万の札束を放り投げ絶対に漏らさない様に信用させ(金で黙らせ)中に入る。

 中では如何にもと言った恰幅な出で立ちの壮年の男と、幹部クラスだろう大柄な男2人が立っていた。

 

「これはこれは天下の現役高校生トップスタータレントサマがわざわざこの様なところにお出てとは。貴方は芸能界の中でも特に黒い関係というものは好んでいないとお聞きしていましたがね。ああそれでも名刺は配りましたが」

 

「御託は結構、そうでもしないといけない事態があったというだけですよ。まあ名刺を取っておいて良かったとは思いましたがね」

 

 芸能界と反社会的勢力は昔から繋がりがある。

 今でこそ薄れてきてはいるが、それでも昔ながらの付き合いをしている有名なベテラン俳優や歌手などは存在している。

 そんな人達のお零れで名刺を貰った俺様は、必要無いとは思いつつもかなに危険が迫れば四の五の言わずにこのカードを切る事もあるだろうと残しておいたのだ。

 まさか本当に使うべき時が来るとは思わなかったがな。

 

「分かりました、依頼を聞きましょうか。我々は文字通り金さえあればなんだってしますよ」

 

「2日前の深夜23時頃、有馬かなの家の周辺を歩いていた小柄な黒ずくめの人間を探してほしい。身長は推定155cm前後の華奢な体格、どこから来たかは知らんが俺様が来た頃には西に逃走した。防犯カメラに映ってた写真がこれだ」

 

「成程成程やはり幼馴染への肩入れは相当なものですねぇ……時間は掛かるかも知れませんがやれない事は無いでしょう。して、見つけたらどうします? 金は掛かりますが殺す事も可能ですよ」

 

「いや、『それ』は俺様の獲物だ。生かすにしても殺すにしても俺様の手で決める。見つけたら捕まえてどっか手頃な廃倉庫にでもぶち込んどいてくれ。金は前金がこれくらいで足りるか? 成功したら前金と同じだけ渡そう」

 

 カバンから粗雑に1000万の束を出して捨てる様に置く。

 どうせそこまで使う予定も無かった自宅保存していた金の一部だ、この程度なら痛くも痒くも無い。

 

「おやおや……殺人の依頼でも無いのにこれは……失敗出来ませんね」

 

口止め料込みだからな(喋ったら殺す)

 

「ご安心を。我々は義理と人情と金には弱い人間なものですから……ヒヒッ」

 

「こっちとしても利口な人間に依頼出来た様で何よりだよ」

 

 お互いに悪どい笑みを浮かべる。

 あまり分かり合いたくはないが、この男もきっと世の中を時には手段を選ばず邪魔者を排除しながら生き残って来たのだろう。

 何せここは小さい事務所ではあるが都内でも有名な組織の直下組織だからな、全く嫌なもんだよ。

 

「ではこちらから専用のスマホをお渡ししますので。連絡はこちらの方にメールでさせていただきます。ああ、メールを確認するのと送信する以外は決して触らないでくださいね、どこからどうバレるか分かったもんじゃありませんから。どこで落ち合うか等を記載していただければお望み通り成功報告をさせていただきますよ」

 

「フン、流出防止にも抜かりないといったところか。分かった、くれぐれも失敗しない事を祈ってますよ」

 

「ええ、お任せを。金には誠実であるのが『こういう組織』なので」

 

 しかしこの組織はどうにも本当に芸能人御用達らしいな、流出防止対策もしているとは。

 道理でちょくちょく芸能界の裏に触れようとした記者やキャスターが不審死を遂げている訳だ……こればかりは俺様も消されかねないから心の内にしまっておくとしようかね。

 使い方さえ間違えなければただの有能な便利屋(掃除屋)だからな。

 

「ふぃ〜……にしても夜だってのにあっちぃなぁ……」

 

「おい」

 

「あ、おお、終わったのかい」

 

「まあな。あとんなとこで突っ立ってたら暑いだろ? ――これやるよ、精々冷たいもんでも買って健康に気を付けるこった」

 

 

「……いや冷たいものって……50万束投げ渡して言う言葉じゃねえって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 動悸が止まらない、もしかしたらこれから命を握り潰すかもしれないと思うと、この手が汚れるかも知れないと思うと。

 

 だが――

 

「ああ、やっと気付いた」

 

 あの組織を使った以上、恐らくもう戻れない。

 だが、そうする事で気付けた感情がある。

 

「この感情に」

「俺様の役目に」

 

 ショッピングモールのウィンドに映る自分を見つめる。

 そこに映るのは

 

「そう、俺様の役目は――

 

 

 

 

 

 

 

かなを守る事(お前を殺す事)だ」

 

 間違いようもなく、黒い瞳の自分だった。




組長
『そういう組織』の暖簾分け組長
ずる賢い性格で利益に繋がらない他人を出し抜き、利益に繋がる人間には全力で擦り寄って生きてきた
普段は便利屋を装っているが実態は芸能界御用達の掃除屋

有馬かな
症状としては『自分が幼児退行している事を自覚している』『窓を見るのすら怖いくらい外への恐怖心がある』
めちゃくちゃ無理をすればいつもの話し方に戻れるがかなりダメージを負うのでしていない
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