最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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『ゴミにはゴミらしい末路がお似合いだろ?』

「……テメェがストーカーなら、尚の事生きて帰れるとは思うんじゃねえぞ」

 

「かなの母親の癖に娘を捨ててあまつさえストーカーなんてしてる奴に、生きる価値なんて無いんだからよ」

 

 目の前の目隠しと猿轡を付けられた女を見据えながら、心底見下す様に吐き捨てる。

 そこにいたのは大分老けた様に思える、だがそれでいて間違いないと思わせる程脳裏に焼き付いているこの世で最も嫌いな顔だった。

 

 かなの母親……そう呼びたくもない、無責任な頭お花畑女。

 

 ずっと道具としてしかかなを見てこなかった上に売れなくなればまだ小学生の彼女を見捨てて何処かに逃げていったどこまでもクズであり何があっても許す事などするはずの無い存在。

 

「おやおや、まさかお知り合いだったとは」

 

「……報酬ならアンタの部下に渡したから後で回収すると良いさ。しかしよりにもよってこうなるのか。コイツは……ま、芸能界見てきてるアンタらなら聞き覚えもあるだろ。傍若無人で自分の娘さえ道具として扱ってきた有馬かなの母親だ。……母親とすら呼びたくないがな」

 

「成程。通りで見覚えがあると思った訳です」

 

「取り敢えず目隠しと猿轡を外して貰って良いか。コイツとはじっくり話をした上でジワジワと痛め付けながら殺さねえとなんねえんだ」

 

「言うと思いましたよ。おい、やれ」

 

「はっ!」

 

 遅れてやってきた便利屋(掃除屋)の代表を横目に、手と足の拘束具以外を外してもらう。

 コイツには死ぬより辛い目にあってもらわないと困るんだよ……かなが今日まで苦しんだ分を味わってもらってから死んでくれないと、今まで苦しんできたかなが無意味になっちまうだろ。

 俺はあの子の為なら人の命なんてゴミの様に扱える。

 そう、かなの幸せを願う為叶える為なら俺様は24時間365日動き続けてやるし自分の恋愛感情も捨てられるし自分を傷付ける事も出来るし命を投げ出す事もするし誰かの命を奪う事だって厭わない。

 

 ……まあ流石に友達とか親族殺せって言われたらかなりダメージ負うだろうけどな。

 

「よう、久し振りだなあ? 8年ぶりかァ?」

 

「はぁ……はぁ……なんであなたが……」

 

「何でも何も、俺様が依頼してかなのストーカー捕まえさせたんだよ。まあまさかアンタが捕まるとは思ってなかったがな」

 

「ストーカー!? 馬鹿言わないでほしいわ! 私はかなの母親なのよ!? 確かに面と向かって会うには時間が経ちすぎたから少し強引な手を使ったのは認めるわ、でも母親が娘に会っちゃいけない理由が――」

 

 口を開けば言い訳、言い訳、そして言い訳。

 そしてかなの心情なんて全く理解してない様な言い草に、あまつさえ『母親』と宣った、もう8年も見捨てておきながら、だ。

 許せるはずがなかった。

 やっとかなも俺様無しで色んなオファーが来る様になって再ブレイクしてきていたのに、こんなクソ野郎のせいでまた8年前を繰り返す?そんな事認めて良いはずが無い、あの子が再ブレイクするのにどれだけ苦労を積み重ねたと思ってやがる、どれだけ泣いてきたと思ってやがる。

 それを知らずに良くも抜け抜けと……

 

 そう思うと頭に血が上るのを感じた。

 恐らくもう止まれないだろう。

 

「母親なら!!!」

 

「ヒッ」

 

「母親なら子どもの事捨ててんじゃねえよ!!! 道具として見てんじゃねえよ!!! 自分の夢勝手に背負わせてんじゃねえよ!!! なんでちゃんと愛してやらなかった!? なんでちょっとでも『有馬かな』という人間を見てやらなかった!? アイツがどれだけアンタから褒められたかったか分かってんのかよ!!!」

 

「あ……あなたに何が分かるのよ! ずっと輝いてきたあなたみたいな成功者に私の何が分かるって言うの!? 必死にもがいてもがいてもがき苦しんでそれでも芸能界への道を諦めきれなくて、無理だと分かっても諦めきれなくて! 娘が、かながラストチャンスだって思うのは当然の事でしょ!? だから私は悪くない!! 悪いのは勝手に失敗して勝手に精神病んで勝手に休止したあの子じゃない!!」

 

 本当はほんの僅かながら期待していた。

 俺様にビビって、今までの事反省して、謝ってくるコイツが何処かにいるんじゃないかってほんの少しだけ思っていた。

 だがそんなもの幻想に過ぎなかった。

 俺様が見たのは、惨たらしく自分の行いを正当化しかなが全て悪いのだと目を血走らせながら否定してくるもう母親どころか人間と呼ぶのさえ烏滸がましいレベルのナニかだった。

 

 そんなのを見せられたら、最早『甘過ぎた』と自分に呆れ返って笑うより他なかった。

 

「は……ハハハハハハハハハ!!!」

 

「な、何がおかしいのよ、ふざけるのも大概に……」

 

「ふざけるのを大概にすんのはお前の方だよ。ああそうだ俺様はずっと輝き続けてきたさ、でも努力は惜しまなかった。まあそれはどうでも良い。でも自分の夢をまだ話す事すら不可能なくらい小さいかなに強要して押し付けて、そんで失敗したらフォローもせずに芸能人の家で飲み明かして知らんぷりして、全部あの子のせいだって言うお前のどこがふざけてないんだ? ん? それとも何だ?もう死にたくなったか?」

 

「ふん、馬鹿ね。私を殺せばあなたは人殺しになるのよ。そんな人間を許容する世界なんてどこにも無いわ」

 

「ああ、確かにそうだろうな」

 

「なら――」

 

「それが表沙汰になれば、の話だが」

 

「なっ……!?」

 

 露骨に顔を青ざめさせるのが見えた。

 威勢の良さは鳴りを潜めこれから何が行われるのか、或いは自分が死んだ後どう世間から扱われるかを予測したのか突然もがき出す。

 こんなところで死んで堪るか、表情からはそんな風に読み取れるが俺様からしたらそんなものどうだって良い、どうだって構わない。

 

「追加料金100万は掛かりますが、いっちょ『遊んで』みませんか?」

 

「んー? そっから椅子ごとバンジーさせるとか?」

 

「まあそんな感じですねぇ」

 

「……100万で無制限ならな」

 

「勿論ですとも!」

 

「よーしそんじゃ頼むわ。後払いになるけど良いよな?」

 

「構いませんとも。追加オプションが入った、やれ」

 

 誰もいない廃工場地帯に悲鳴が響き渡る。

 残念な事にそれは夕暮れの虚空に飲み込まれて誰にも聞こえる事無く消えていくがな。

 2人掛りで椅子の両端にロープを巻き、それをそれぞれフェンスに巻き付け……椅子を落とす。

 

 勿論落ちはしない。

 地上10階建てのビルの屋上から真っ逆さまになっているだけだが、それでも多大な恐怖を与え、更には身体を傷付ける事無くジワジワと死に至らしめる事が出来る優れた拷問方法だ。

 

「組長ー? コイツ気絶しちゃいましたぜー?」

 

「はぁ……全くこれくらいで気絶とは情けないですね。水でもぶっかけてあげなさい」

 

「へいへい、何の為にここまで水入りタンクなんて持ち運ばせたのか不思議でしたがこれは合点が行きましたわ……オラ起きろ!」

 

「ブバッ!? ゲホッ……ヒュー、ヒュー……」

 

「惨めなもんだなァ……」

 

「私、は……悪くない……悪く、ない……」

 

「あーあコイツ壊れちまいましたね。どうします?」

 

「まだ殺しはしない。一応コイツにゃ一つだけ礼をしないとならないからな」

 

 フェンス越しに吊るされて目が虚ろになっている馬鹿を見下す様に見つめ、わざと目を合わせながら口角を上げる。

 そうだ、コイツには一つだけ感謝をしなければならない事があったのを思い出す。

 

「アンタは……いや、これに関しちゃだーれも知らない話だから良く聞いとくと良い。これは『俺様はアンタがいたから自我を持つのが早かった』そういう話だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日はムドくん帰ってくるの遅いね」

 

「遅くなるとは言ってたからな。流石に日は跨がないと思うが」

 

「でも早く帰ってきてほしいね、和也くん。かなちゃん寂しがってるのに」

 

「もう二度と、親しい人間が傷付く姿は見たくないからな。……万一があったら俺が何とかする」

 

「ほんと、もう……誰も好きな人は……失いたくないよ……」

 

「……」

 

 一方その頃、有馬かなの家ではここ最近のいつもの様に有馬かなと星野家で過ごしていた。

『今日は仕事で遅くなるから先に食べていてほしい』という和也の伝言通り4人で食卓を囲っているが、やはりというべきかかなの元気が無い。

 無道和也という一番安心出来る存在がいなくて不安なのだ。

 

 ……しかしそれとは別にかなはもう一つ思考している事があった。

 

 それは『本当に和也の伝言がその通りなのか』というぼんやりとした、それでいて彼の事については間違えない自信がある直感が本能的に告げている事だった。

 

 彼女は確かに幼児退行をしている。

 だがそれとは別に『自分が幼児退行をしてしまっている』という分離した意識が存在している。

 その元の意識は現状表層に出にくくなっているが別に塗り潰されている訳ではない、自己防衛の為に幼い部分の精神が表に出てきているだけでありしっかりと生きている。

 

 だからこそこの思考に至る事が出来た。

 

「それじゃ明日は5人で何か豪華なものでも食べよっか☆」

 

「良いね! さっすがアイちゃんほんと天才かも!」

 

「……たまにはそういうのも悪くないかもな。かなもそれで大丈夫そうか?」

 

「う、うん……」

 

 普通の人間であれば『思い過ごし』『心配し過ぎ』そうしてスルーしてしまうその直感。

 しかしそれは『普通の人間であれば』だ。

 有馬かなは、こと無道和也相手のそれだけは無視しないタチだった……それが彼、無道和也唯一の誤算に繋がる事はこの時はまだ誰も知らない。




無道和也
2億までなら投げ捨てる様に扱えるくらいの貯蓄はある
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