最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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『こんなクズ相手にも感謝している事くらいある』

 あー、どこから話そうかね。

 まずは俺様が明確に自我をいつ持ったかの話からしてやるか。

 アレはまだ2歳の頃の話だ、当然知っての通り俺様も生まれながらにして芸能界の仲間入り、だがウチの親は無理な演技指導や負担の掛かるスパンでの仕事はさせなかった、そうどっかのクズ親とは違ってな。

 

 それはさておきだ、自我が芽生えた理由を話してやろう。

 

 ――お前がかなに暴力を振るったからだ。

 

 

 

「なんでそんな事も出来ないの!?」

 

「あうっ……ごめんなさい……」

 

 そう言ってかなの頬を叩くお前を見たこの瞬間に、自我がほぼ無いながら『いつも傍にいてくれた人が泣いている』『泣かせたのは誰だ』と感じたのかも知れないな。

 気付いた時にはアンタを睨みつけていたのを良く覚えているよ。

 

 そう、俺様が初めて自覚した感情はアンタへの『怒り』『憎悪』だったんだよ。

 こんな自我の芽生え方、小さい頃は良く自己嫌悪もしていたものさ……え? そりゃ当然だろ、最初に芽生えるべきはかなへの愛であるべきだと感じたからに決まってる。

 だが成長するに連れて感謝に変わったがな。

 

 それからと言うものの、俺様はかなへの愛すると守りたいという感情も芽生えた。

 んで最初にした事がまずアンタとかなを観察していく事だ、周りがどういう反応をしているか見定めて動いていこうと思った。

 

 取り敢えずかなは『自分(俺様)には優しいが周りには傲慢』だった。

 生まれてすぐの俺様を見ていたお陰で補正があったんだろうがそのお陰でかなを愛する事が世界で何よりも幸せな事だと気付けた。

 だからこそ、この人が不幸になる行いは止めようと決心出来た。

 周りがかなの一挙手一投足に不満そうな顔をしているという事は『売れなくなればいつ干されるとも分からない』。

 俺は親父にまだ歩けない頃から聞かされてきた、『世界に笑顔や感動を届ける仕事だからこそ、身近な人から笑顔にしなくちゃならない』という言葉がこの頃既に魂に刻み込まれていた。

 

 

 

「かな、みんなこまってるよ」

 

「なによ! かずやももんくゆーの!?」

 

「ちがうよ。とーさんいってたんだ、やくしゃさんはみんなをニコニコにさせるおしごとだからまずはおせわになるひとにもニコニコになってからおしごとしないとねって。それがいちりゅーのしごとだって」

 

「……むぅ。かずやがゆーなら……わかった」

 

 そしてかなは俺様の言葉ならしっかり耳を傾けてくれる事も生まれながらにして魂に刻まれていたかの様に知っていた。

 だから俺様は2歳にして『この世に生まれた意味はかなを幸せへと導く為』『それを行うのであればどんな犠牲をも厭わない』と脳内にインプットされたんだ。

 そこからは『かなの為』と思ってした全ての事がある程度身に付いた、勉学もスポーツもトーク技術も演技も演奏もな。

 だからかなと話す時の説得力も増して諭すのも年々上手くなったしこんな汚い女の影響も徐々に受けなくなっていった。

 

 今やお前の見る影も無い程にアイツは良い女になったよ、俺様が恋しちまう程にな。

 

 だが、そんなアイツでもお前は唯一の母親だって認識だったんだよ。

 本来なら10歳くらいになった時点でこんなゴミ社会的に抹殺すべきだと動いても良かったんだがな、どうしてもあの子にしてみたら母親は母親だったんだよ。

 

『あの日』まではな。

 

 

 

「和也……和也ぁ……お母さん……いなく……なっちゃった……」

 

「かな……大丈夫だ、俺様がいる。まだ10歳のガキで頼りないかも知れないけれど、俺様だけは何があってもかなの事を見捨てない、裏切らない。ずっと傍にいる、いつまでも傍にいる、世界が誰も彼もお前の敵になっても絶対に俺様は味方で居続ける。……だから、今は弱虫になっても……良いから……」

 

「うん……うんっ……」

 

 ああそうだ、お前が居なくなった……あんなに最後までお前を母親だと言っていたかなを裏切った日の事だよ。

 知ってるか? かなはな、失敗して事務所から切られて、アンタにさえ罵倒されてもそれでもアンタを母親だからって悪く言った俺を咎めてきたんだぜ?

 そんだけ、どれだけ罵倒されても傍にいてさえくれればかなはそれで良かったんだ。

 なのに見捨てたんだよ、この意味がお前に分かるか? まあ分からないだろうな。

 

 しかしあの後は少し対応にてんやわんやとしたな。

 何せ世間としては子役時代トップスターの有馬かなが数年後に解雇だ、忘れていたとしても驚かない訳が無い。

 そうなれば関係者へのインタビューが殺到するだろう。

 ただ事務所関係者も親族もいなかったせいで記者会見として駆り出されたのがかなと一番親交のあった俺様と当時まだ設立2年目の俺様の所属事務所神木プロダクションの社長であるカミキさん、この2人という歪さだ。

 

 

 

「まずは今回、何故クラウンプロダクション関係者でもお母様でもなく関係の無いカミキ社長と無道君がここにいるのか、説明してもらっても宜しいでしょうか」

 

「はい。まずクラウンプロダクション代表及び役員とかなさんのお母様は連絡が付かず。またプロダクション自体も『お引き取りください』の一点張りでどうにもならなかったので、傷心の本人に代わり傍にいた和也君が受け答えしたいと立候補したのでこうした歪な記者会見となりました。申し訳ありません」

 

 あの時のカミキ社長といったらいたたまれなかったな。

 俺様の保護者代わりに出ると言ってくれたのは嬉しいが何せ本当に全く何も関係の無い人間だ、分かっていたが酷いプレッシャーに脂汗をかいていたのを覚えている。

 周りは必死に止めたんだがお人好しでな、神プロにも良く遊びに来ていたとあって何とか助けたいという一心で記者会見という場に立ったんだ。

 

 

 

「では最後になりますが、かなさんのファンへ向けて無道君から何かお伝えする、又はしたい事はありますでしょうか」

 

「では一つだけ。傲慢な言い方になる可能性もありますし、こんなガキ一人に何が出来るのかと思われる方もいるかも知れません……ですが必ず俺様が傍にいるのでファンの皆さんは心配しないで、かなが帰ってくるのを待っていてあげてください。どうか、お願いします」

 

 おっとそう言えば言い忘れていた事があったな。

 俺様はアンタに感謝している事がもう一つだけあったんだよ。

 何かって? そうだな、冥土の土産に教えてやるか。

 

 お前みたいなゴミクズが居なくなってくれたお陰で、俺様はかなと明確に家族になれたんだよ。

 それまでも薄々家族みたいな関係性とはお互い感じていた、だが唯一の肉親が消えて一人ぼっちになった事で今までノイズになっていた壁が消えて俺様達は家族になった、なれたんだよ。

 そこは感謝してるんだ、本当にな。

 2人で過ごしたこの8年間は何ものにも変え難い幸せだったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……本当に幸せだったんだぜ?」

 

「う……ぐ、ぅ……」

 

 未だ、逆さ吊りになっている件の人間に話し掛ける。

 そろそろ苦しくなってきたか顔が青ざめ始めている、その無様な顔を拝むと本当に笑えてきてしまって困る。

 もっとだ、もっと苦しめよ、かなが苦しんだ分お前が苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いた末に無様に死にやがれよ。

 

「知ってるかー? 人間って長時間逆さ吊りされてると死ぬらしいんだ、大体24時間あれば逝けるらしいけどどうだ? このままずっとぶら下がってるのとすぐ殺されるの、どっちが良い?」

 

 分かってて聞いている。

 このクズはどちらも選ばない、それでいて生きたいと宣うに決まっている、そういう女だという事を嫌でも熟知している。

 熟知しているからこそ少しでも恐怖感を煽る為に言ってる訳だが。

 

「……どっちも、選ぶ訳ないでしょ……わ、私は生きるのよ……死ぬ訳にいくもんですか……」

 

 ほらな、やっぱりこれだ。

 これだから馬鹿は嫌いなんだよ。

 自分のした過ちを棚に上げて、自分は生きようとする。

 そんな人間がこの世にいて良いはずが無い。

 裏切った人間は殺さないといけない。

 

「ほんと、根っからのクズだなあ……どっちか選べばその通りに殺してやったのに。一応はかなをこの世に生み出してくれた存在だからラストチャンスとしてどっちか選ばせてやる(なんて言うとでも思ったかよバーカ)。そういう事だったんだけどなあ?」

 

「く、クズ? それはあなたもでしょう……こんな人殺しで良くもぬけぬけとかなの傍にいたいだなんて言えるわね……あなたこそ馬鹿なんじゃないの?」

 

「あー……それだが、お前は一つ勘違いをしている」

 

 心底呆れたという風に溜め息を吐き出す。

 実際そうだ、コイツは何も分かっちゃいないんだ。

 

「お前はかなを見捨てた時点で既に外道に落ちてるから人と思ってないんだ、悪いね。まあそれでも法律上は人間だから殺した後に隠蔽して永遠の行方不明になってもらうんだけどさ。分かる? 人間未満なの、アンタ。……はぁ、時間掛けると面倒だしもう殺しちゃうか。おーい取り敢えず引き上げてー」

 

「了解」

 

 実際嬲り殺す方が愉悦感はあるんだろうが、帰るのが遅れるとかなが心配するだろうからな。

 仕方ないから引き上げてもらう。

 

「さて、あとはどうやって殺すか――」

 

 引き上げた後どうやって殺すかを検討しようとして……スマホが鳴った。

 これは唯一、幼児退行しているとはいえ万が一にもかなから連絡が来た時怪しまれない様に持っていたプライベート用スマホの片割れだが……着信はかなからだ。

 

「……アイツ、あんな状態で……?」

 

 だが出ない訳にはいかない。

 何せ出ないと割と怪しまれるからだ、かなは俺様に対する勘だけは良いからな。

 

「はいはい、どうしたんだよかな?」

 

 

 

 

『……い、今……な、何してるのよ、アンタ』

 

 幼児退行を抑え込みながら話してくるかなの声に、俺様は既に一歩上を行かれている事を薄々感じる他無かったのだった。




無道和也
転生者でもチート持ちでもなく2歳にして確立された自我を持ち始めた
全ては何があってもかなを守る為という純粋にして狂った想いからだった
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