最愛の幼馴染へ   作:有馬かなを幸せにし隊

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『束の間の平和は、簡単に壊される』

「ごめんねゆき……収録翌日で疲れてると思うのに一緒に来てもらっちゃって」

 

「ううん、心配しないの。あたしはあかねと出掛けられるならそれだけで幸せなんだから」

 

「ありがとう……」

 

「あたしにとってあかねとのお出かけはデートみたいなものなんだからね〜」

 

「も、もう照れるなあ……」

 

 黒川あかねは鷲見ゆきの事を心の底から親友だと思っている。

 一つ年下であるにも関わらず自分より物事を良く見て、冷静に対処して、必要とあらばサラッと嘘も付き、愛想も良く、強かに生きる術を熟知している、自分とは真逆の『上手い』人間。

 あかね自身上手く生きられず、ズブだと自負しているだけあり、劇団ララライのエースと言われながらもイマイチ信用を得られていない事も分かっていた。

 

 そうである為、そんな自分を支えてくれて、あまつさえ大親友とさえ豪語してくるゆきにはあかねもゾッコンであり、外出時の変装もゆきプロデュースの『違和感無く素顔を隠すコーディネート』になっていた。

 

「で、今日は何買いに行くんだっけ」

 

「あ、うん。お母さんが手離せないって言ってたからちょっと足りない食材をね。お肉と野菜、お豆腐とか、鍋に出来るならなんでも良いって」

 

「食材選びなら任せなさい! 料理だってお手の物なんだから!」

 

「ゆきの料理美味しいもんね~」

 

 最近、あかねはネットに触れていない。

 それでいて家族と良く話す様になった。

 全てはあの日来たゆき含む三人からの言葉から得たものだった。

『逃げたければ逃げて良い』あまり仕事の話を話してこなかった母からの言葉だった。

 

「それを言うならあかねだって負けてないじゃん」

 

「そうかな……」

 

 心配を掛けたくない、傷付けたくない、そんな想いから殆ど話さずにいた事も全て飲み込んだ上で彼女の母親は何も言わずに抱き締めてくれたのだ。

 そしてその後に、言ったのだ。

 

『親ってのは、子どもが苦しんでいればそっと手を差し伸べてやるべき存在、道を示してあげる存在なのよ』と。

『だから逃げたいと思ったなら逃げて良いと示す事も大切なの』だと。

 全てから目を背けない事が、いつも正しい事では無いのだと。

 当人同士で解決したのなら、後は何も気負う事は無いのだと。

 

「あ、大根も入れない?」

 

「うん、入れたいかも〜」

 

 だから、黒川あかねは救われていたのだ。

 台風の日に自殺を図ろうとする様なメンタルには無く、全てを背負おうと負のスパイラルに陥る事も無く、立ち直るキッカケがあった。

 

 そしてそこに至るまでに精神がギリギリ保てていたのは、数少ない擁護コメントのお陰でもあるのだと彼女は感じていた。

 元は自分のファンだっただろう人間が離れていく様も見て辛かった時、某匿名掲示板では擁護コメントが割と見られた。

 と言っても、そのコミュニティ内での割合ではあるが、それでもいつもは自分が気に入らないと断定した人間には敵意剥き出しのその匿名掲示板が冷静に自分を庇っていたのだ。

 

 それが、彼女を踏み留まらせていた。

 

「沢山買っちゃったわね〜」

 

「付き合ってくれてありがとう」

 

 彼女は決意する。

『私を支えてくれたみんなの為に頑張って復帰しよう』と。

 温かい、優しい人達に、共演して仲良くしてくれた人達に報いようと。

 

 だからこそ彼女は失念していたのだ。

 

「あ、ちょっとコンビニ寄るけどあかねは?」

 

「私は良いかな。外で待ってるから」

 

「ごめんね、すぐ戻ってくるからー」

 

 鷲見ゆきが黒川あかねから外れたその数十秒後に

 

「え……んぐっ!?」

 

 ほんの少しでも目を離せば、彼女は未だ毒牙に掛かる可能性のある危うい中にいる事を――

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ二人共ありがとう、良い撮影になったよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「ありがとうございマース! 俺様のイケメン振り、どうでした?」

 

「そりゃあもう、イケメンを自称してるだけあって自分の活かし方を全力で分かっててもうほんっと最高! カメラマン冥利に尽きるね! アクアくんも、良い顔してたよ! 本職じゃないとは思えなくて僕もビックリしたよ〜! それじゃ、またよろしく!」

 

「は〜い、ヨロ〜! ……はぁ」

 

「どうした溜め息なんて吐いて」

 

「どう考えてもお前と一緒だからだよ星野アクア」

 

 ファッション雑誌の撮影、と聞けば俺様のイケメン振りを遺憾無く発揮出来る仕事の一つであり大好物だ。

 自分の良さを分かっている俺は、取り分けNGが少ないのもあり気持ち良く撮影をさせてもらえるからだ。

 だが今日来てみればこれだ、星野アクアも同じ現場とかツイて無さすぎる。

 折角上機嫌で来たってのにさあ……

 

「……そうか」

 

「ま、でもお前が上手かったのは事実だからな。そこは言っといてやる。礼なんて要らないからな、事実をそのまま言っただけだし」

 

「ツンデレ……?」

 

「ちゃうわいっ! どこで頭ぶつければそんな言葉が出てくんだよ!!」

 

 しかも調子を狂わされてばかりだ、これだから嫌いなんだよ。

 もうほんと嫌になる、事務所帰ったらマネちゃんに全身マッサージしてもらって菓子食って帰ろっと。

 ……その分マネちゃんにお小遣い出すけど。

 

「あーあーもう良いよ、俺様帰るから。今日は厄日だよ」

 

 振り返る事も無くダルげに手をヒラヒラ振りその場を後にする……

 

「ま、待てっ!」

 

 と、その時アクアが大きな声をあげ俺の腕を思いっきり掴んできた……もう片手にはスマホを握っている。

 俺は一瞬固まったと同時に目が点になる。

 何せこんな感情的になる星野アクアを初めて見たのだ、それも一番想定していない俺様という対象に。

 

「……は?」

 

「っ……ここでは話せない、外に出ても良いか?」

 

「はぁ? 外に車待たせてるんだけど……」

 

「少しで良い、頼む」

 

 本当は弄り倒してから断ってやろうと思っていた。

 だが、アクアの目は、口調は、そんなふざけた俺の思考を中断させるにはあまりにも充分だった。

 奴は、見た事も無いような動揺した表情をしていた。

 

「……チッ、ほら行くぞ」

 

「良い……のか?」

 

「……今回だけだからなっ」

 

 だから、いくら嫌いな奴でもそんな顔をした人間を前にして見過ごすなんて真似は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「んで、なんだよ」

 

 外には俺のマネちゃんが待機させてあるワゴンタイプの車……正確に言えば高級外車があるが、どうしてもアクアが緊急の用事で話す事があるから少し待っていてほしいと頼んである。

 何かしら万が一の場合があった時にはその車で現場まで急行してもらう為だ。

 

「……『黒川のスマホからゆきが連絡をしてきた』。――黒川が行方不明になったと。恐らく誘拐、コンビニに入った数分の間を狙われたらしい」

 

「はぁ!? ……クソッ、わざわざそんな事してまで外野が傷付けるのかよ……!!」

 

「世間は叩いてるからアイツは悪人に決まっている、だから悪人には何をしても正義――そう言う連中は、どこにでも存在している。行動に移さないだけでそう思ってる連中は多い。そして……その中の数%は、実際に行動に移す……」

 

「ふざけてやがる……!!」

 

 思い切り壁を殴ろうとして……思い留まる、そんな無駄な事をしている暇は無い。

 状況を考えればあかねちゃんが一人で何処かに行く訳も無く、また待つと言った時に手に持っていたスマホを落として気付かない可能性もほぼ無い。

 状況証拠からしてほぼ間違いなく誘拐だろう、だが断定はしない。

 あくまでもこれは可能性の高い行方不明という事実だけ伝えるべきだろう。

 

「オイアクア、乗れ。確かにお前の事は嫌いだ、だが今は二人で協力すべきだ」

 

「……済まない。力を借りる」

 

「マネちゃん! 悪いけど緊急事態! あかねちゃんが行方不明っぽい! しかも誘拐の可能性ありだ!」

 

「ええ!? ……いや分かった、そんで俺は何する?」

 

「運転して! 一旦ゆきちゃんと合流して話聞くから……このコンビニ! アクアは警察に連絡しろ!」

 

「ああ」

 

 下らない世間に、あんなに頑張ってた子が負けて良いはずが無い。

 だから頼む、間に合ってくれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハハ! 黒川あかねも無様ね〜、呑気に笑顔なんて浮かべて外出歩くなんて……暴力女が、死んじゃいなよ〜」

 

「たす、け、て……っクア……く、ん……」




無道和也
無力感と世間への失望が強まった
緊急事態には好き嫌いを取っ払う協力も辞さない

星野アクア
早く助けろアクえもん

某匿名掲示板
和也のネタ的人気が高かったお陰で途中ソロ絡みのあったあかねを正常な目で見れた連中が多かった
陰のMVP
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