職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしました。2章最終話です。

モンドに続き、璃月の1連の騒ぎを片付けて帰ってくるまで22話もかかってしまった……。お付き合い頂き、ありがとうございました。

さて、3章は国外配達先のお話。舞台となる国がコロコロ入れ替わりながらのお話が多くなると思います。意外なキャラが登場したり、璃月で行われるあのお祭りに参加したり、満を持してあのキャラが参戦したりとさらに賑やかになっていくと思いますので、ぜひお楽しみに。



こちら、私が新しく投稿を始めた新作になります。

タイトルで察する方も多いと思います。はい、あの踊り子さんがヒロインのお話です。しょくねことは違って1対1の少しすつ進展する系のラプコメになっていますので、箸休めに読んでいただけると嬉しいです。

<【急募】低カロリーなタフチーンの作り方を教えてください>

https://syosetu.org/novel/336642/

感想、評価、お待ちしております。


22話 お土産選びは慎重に

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「ふん、旅立つ時には流石に顔を出したか」

「そりゃあ来ますよ。またちょこちょこ配達で璃月来た時に顔出しますよ」

 

今日は死兆星号に乗って稲妻に帰る日。俺は奥蔵山で師匠たちに挨拶に来ていた。この前とは違って鍾離先生以外の仙人は勢揃いしていて、挨拶に対して頷きを返してくれる。すると今まで腕を組んで話を聞いていた魈様がおもむろに懐からあるものを取り出した。

 

「迅、餞別だ」

「これは…」

「降魔大聖、これは……夜叉の面か?……それにしても面妖な見た目だが」

 

魈様からお面を受け取る。魈様が使っている面とはデザインがまるっきり違う。上の方から伸びた2つの大きな角が夜叉だと辛うじてわかるくらいで、口の部分や目の部分は能面の様にシャープで無機質な印象を受ける。そして何も書かれていない黒色の顔前面の部分は明るい水色で丸模様が描かれていた。こういっちゃなんだけど、ちょっと怖い。

 

言うなればあんまり璃月らしくないデザインで俺と削月築陽真君、理水畳山真君は首を傾げるが、その横の閑雲さんはふふんと胸を張った。

 

「迅の種族はもうテイワットに知れ渡ってしまったからな。妾が最近の若者の流行りを取り入れ降魔大聖と共同で作った特製のお面だ。着けると内蔵された仙力によって動体視力、嗅覚、聴覚の向上、望遠機能まで備わっているぞ?」

「……これ若者の流行りなんすか?」

「我に聞くな」

 

言われるがままに面をつけてみると、視界確保の穴なんか空いてないのに何故か視界がクリアに見える。外側は真っ黒なのに内側からはガラス越しみたいに向こうが見えた。聞くとそういう材質なんだとか。すっげぇ。

 

「ど、どうですか?」

「悪くない」

「我らには善し悪しがわからぬが……留雲、これはどうなのだ?」

 

頷く魈様と首を捻る削月築陽真君と理水畳山真君。横の閑雲さんは満足げだ。

 

「うむ、よく似合っているな。夜な夜な寝ている迅の顔写真を撮影したり寸法を測ったりして色を合わせた甲斐があった」

「あんた何してんだ」

 

だいたい隣で綺良々が寝てたんだけど、よくバレなかったなと思ったが、しっかりバレてたらしい。俺のカッコイイ仮面を作ってるから内緒にしてくれと口止めをしたらしいが。

 

奥蔵山の池の水面に顔を写してみるが……おぉ……ちょっとカッコイイ。

 

「…で、これをどういう時に付ければいいんですか?」

「お前の名は広く広まったが、顔は知られてないからな。自分の顔を隠したい時に使うのもよし、本気で戦う時につけても良し。それをつけて『靖妖儺舞!!』と叫べば降魔大聖が喜ぶやもしれんぞ?」

「…ふん、くだらん」

「…靖妖儺舞ッ!」

 

呆れた顔をしてそっぽを向いた魈様に早速やってみた。若干ポーズも真似てみて、掛け声と共に蒼雷を纏ってみる。

 

「……どうすか?」

「……業障が無いお前は靖妖儺舞を使えないからな。だから……自分の真似をされるのは見ていられないからやめろ」

「すみませんでした」

「…その仮面のまま土下座してるのは面白いな」

「全く、仙人が土下座とは情けないぞ?」

「人前でするでは無いぞ」

 

やかましいわ!特にあんた(閑雲)は振っといて途中で梯子外してんじゃねぇよ!

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「迅くーん!こっちのお店、いっぱいお土産置いてあるよっ!」

「お、マジか」

 

うーん、綾華ちゃん達へのお土産は何を買おうかな……?

 

今わたしと迅くんは午後に迫った出発の前に稲妻の人達に送るお土産を買いに来ている。宵宮ちゃんのお土産の話になった途端にふらりと璃月港の武器庫に足を向けそうになってる迅くんにチョップを入れて止めながらチ虎岩を練り歩いた。本当に火薬買ったら船に積む前にわたしが爆破するからね?女の子のお土産にそれはどうかと思うよ?

 

「実は、綾華のお土産は当てがあるんだよ」

「え?そうなの?」

「おう。前に街歩いてたらいい感じの扇子を売ってるところがあってさ。綾人兄さんの分と一緒に買おうぜ」

「さんせー!」

 

綾華ちゃんの扇子、結構使い込んでてそろそろ替え時ですねって前に言ってたからちょうどいいかも!

 

「宵宮ちゃんのは?」

「それならこれにしようかな」

 

そういい迅くんが取ったのは璃月の色々な香料が練り込まれたハンドクリーム。

 

「前に手の肌荒れが気になるって言ってたからな。これなら持て余しもしないだろうし」

 

ほんとこういうところだよね、迅くんがモテる要因。ハンドクリームも少し試して使ってみたけど、どれもいい香りだし。ちゃんと相手のことを気遣って貰って嬉しいものを的確に選んでる。これで無自覚なんだから、勘弁してよねもうっ。

 

その後は迅くんが言ってたお店に行って蝶々の模様があしらわれた白と青色の扇子と、紺と白菫色の扇子、赤色と黄色の扇子を買った。それぞれ綾人さんと綾華ちゃん、トーマさん用でイメージと扇子の色がピッタリ。喜んでくれるかな?

 

結構な量を買っちゃった。当たり前のように荷物を全部持ってくれる迅くんに全力でときめきながら横を歩く。彼の横顔を見るわたしの視線に気がついて目が会う度に嬉しくなってニコニコしてるとちょっと頬っぺを赤くした迅くんがそっぽを向いた。

 

どうやらもうひとつ綾華ちゃんにお土産を買うみたい。綾華ちゃん、詩を読むのも好きだそうで、璃月の詩集を買いに来た。なんか綾華ちゃんだけお土産の量多くない?どんだけ綾華ちゃん好きなの?

 

「ん?」

「あっ!」

 

本屋さんに入ると、黒髪をふたつ縛りにした不思議な瞳の女の子……たしか胡桃ちゃんっていったっけ。その子がこちらを見て声を上げた。その隣に青い髪色の男の子もいる。

 

「あれ?迅さんも本を買いに来たの?」

「おう、稲妻にいる妹のお土産にな。詩集を探しているんだけど当てはないか?」

「詩集っ?私もよく読むけど、多分行秋坊ちゃまの方が詳しいよ?」

「胡桃……外でその呼び方はやめてくれないか?」

 

ぼ、坊ちゃま……?行秋って呼ばれたその男の子が顔を顰めるとこっちに向き直りお辞儀をした。

 

「これは、お初にお目にかかります。蒼夜叉殿。飛雲商会の行秋と言います。こんなところで璃月の英雄達に会えるとは」

「初めましてっ。狛荷屋の配達の綺良々です」

 

飛雲商会っ?たしか璃月で有数の大商会って聞いたけど……もしかしてそこのおぼっちゃま!?そりゃおぼっちゃまだよ!(?)

 

「ああ、飛雲商会の次男の…。こちらこそ、冒険者時代は色々お世話に……って、今なんて?」

「え?迅さん知らないの?自分の異名が変わったの」

「はい?」

 

初耳だと言わんばかりの顔の迅くんを見てわたし達3人で首を傾げる。あれ?この前発表されてなかったっけ?あ、たしかあの時迅くん出かけてたんだっけ。たしか甘雨さんを探しに行ってたって言ってたや。

 

「この前迅くんが出掛けてた時に、凝光さんが迅くんの異名を変えたんだ。だって前の蒼閃迅雷って名前嫌がってたでしょ?」

「そ、それはそうだけど……ってそもそも俺に異名なんていらないだろ!俺配達員なんだけど……?」

 

「まぁ、前よりはマシか……」としぶしぶ納得したけどまだ唇がとんがってるのがかわいい。……あっぶない、ここが本屋じゃなくて宿だったらそのまま唇に突撃してたよ。

 

「ええと、それで詩集だったね?色々な種類があって読み手によって勧めるものは変わるけど、誰が読むのかな?」

「あ、ああすまん、脱線してたな。読むのは稲妻の社奉行のお嬢で向こうの詩は読むけどこっちのは初めてだ」

 

迅くんがそう伝えると行秋くんは棚から1冊の詩集を出した。

 

「ならこれがお勧めだね。璃月の詩の他にもモンドの詩も少し乗っているから外国のを初めて読むならこれがいいと思うよ」

「ありがとう。これにするよ」

 

笑顔で詩集を受け取る迅くんに胡桃ちゃんが話しかける。ちょ、ちょっと近くないですか!?肩がつきそうだよ!?

 

「ねぇねぇ、迅さんは詩とか読まないの?」

「うーん、俺はそういうのはからっきしだなぁ。たしかたおはよく読んでんだっけ?部屋にも沢山あったし」

「読むのも好きだけど、書くのも結構好きだよー?今度聞かせてあげようか?」

「……霊がどうのとか葬儀がどうとか書いてないなら」

「書くかぁ!!」

 

…………んん?なにその距離近めな呼び方。「たお」?

 

あと、部屋にも沢山あった?……迅くん胡桃ちゃんの部屋に入ったことあるんだ?へぇ?ふーん?

 

「ひっ」

 

胡桃ちゃんがわたしのオーラに気がついたのか、わたしをみるとちょっと悲鳴をあげる。こりゃあ胡桃ちゃんの警戒レベルを上げないと……。この前会った時は迅くんがあんまり絡みたがらなさそうだったから気にしてなかったけど、やぁーっぱり伏兵だった。油断も隙もない。

 

まぁ、まだ付き合ってないわたしに迅くんを縛る資格はないし?別にいいけど?でも心の中で思うくらいは許してほしい。そんだけ好きなんだもん。会計をしてくると歩いていった迅くんを尻目に胡桃ちゃんがカタカタ震えながら小声で言ってくる。

 

「き、綺良々ちゃん?べべべ別にわたしと迅さんはなんにもないよ?」

「ん?どうしたの急に?そんな心配別にしてないから大丈夫だよ?」

「え、でもさっきとんでもなく黒いオーラが……いやなんでもない」

 

その後詩集を買ってきた迅くんが戻ってきて、2人とはそこで別れた。胡桃ちゃんとの仲をそれとなく聞いてみると往生堂の客卿さんの方と仲が良くて、何度か顔を出す内に知り合ったんだどか。それで「たお」呼びは胡桃ちゃんの下の名前らしい。「胡桃」でフルネームだなんて、璃月ならではだなぁ。そ、そういうことなら警戒レベルは……やっぱそのままにしておこう。胡桃ちゃんをからかってる時の迅くんはわたしが見たことないような顔だったし、警戒警戒っ。

 

 

 

もうお土産はあらかた買い終えたから一旦宿に戻ろうとしたんだけど、迅くんはまだお土産を探してる。おばあちゃんへのお土産も買ったのに、誰にあげるんだろう?

 

「迅くん、なにを探してるの?」

「ん?…ああ、ちょっとうちの飼い猫にな」

 

えええーーー!!!

 

わ、わたしに!?う、うれしぃぃぃ!!

 

「そ、そうなんだ……。何を買うつもりなの?」

 

まさか自分にもお土産をくれるなんて夢にも思ってなかったから、ニヤつく顔を見せないようにしながら尋ねると、もう決まってるんだと彼は言った。

 

「うちの猫、ずっと飼ってるのになんにも飼い猫ってわかる物をしてなかったからな。首輪を買おうと思ってさ」

「くびっ」

「ん?どうした?」

「イヤ!?なんでもないよ?」

 

そう言いながら見つけたお店に入っていく彼を見送ったわたしだけど、心中は全然それどころじゃなかった。

 

……く、くびわぁ!?

 

首輪って、あの首輪!?わたしの首に巻く、あの首輪ですかぁ!?

 

わたしはバッと迅くんに背中を向けると、店の中にあった立ち鏡で自分の首に首輪が着いているのを想像した。…つ、つまりわたしは迅くんのモノってことだよね?………えへへへへへへへ。

 

ひっどい顔になってるのを鏡越しに見たわたしはハッと我に帰った。な、何想像してんのわたしっ!違う違うっ!迅くんが買うのは猫の首輪っ!人のわたしに巻くやつじゃないからっ。………でも、ちょっと興味あるかも……。

 

迅くんはどういうのを選ぶのかな?迅くんの背中にこっそりと近づいて、後ろから見てみると、彼は顎に手を当てて真剣に悩んでるみたいだった。

 

「……うーん、ここはやっぱりシンプルに黒か…?いやでもこの水玉模様のやつもいいし……。リボン付きのもいいけど外で遊んだら邪魔になるよな……あ、そこの赤色もいいな。…おいマジかよ。この肉球模様最強じゃねぇか。しかもこれめっちゃカラーバリエーションあるじゃん」

 

めっちゃブツブツ呟きながらああでもないこれでもないと物色してる迅くんに笑いそうになった。もう、首輪選ぶのにこだわりすぎでしょ。わたしは何貰ってもすっごく嬉しいんだよ?

 

ああもう、こういうことに真剣に悩んでる迅くんが可愛くてしょうがない。

 

ほんとは後ろから抱きつきたいけど、貰う柄をその時まで知りたくなかったから頑張って店の外で待つことにした。ほんとのほんとは抱きついて押し倒して色々しちゃいたいけど我慢我慢。わたしは自制ができる猫又なのですっ(どの口が)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「うっし、荷物はここに置いておくか」

「そうだね。わざわざ荷物を持ってかなくて邸宅に置くだけなんて、ほんとに便利だね、洞天」

「同感」

 

お土産を全て買い終えた俺たちは、旅の荷物と合わせて洞天に置きに来ていた。いや、こうして使うと本当に便利すぎる。これで出す時は向こう着いてから邸宅から引っ張り出せばいいからな。家ごと持ち歩いているようなもんだから寝床にも困らない。最高かよ。

 

時間は昼前といったところで出港にはまだ時間がある。璃月港から稲妻の離島まで船で約1日の距離なので今日の夕方に出たら明日の午前には向こうに着いてる計算だ。

 

「うーんっ、なんかあっという間だったなぁ」

 

部屋を移動して敷いてある布団にダイブする綺良々に苦笑する。俺も腰を伸ばすと近くに腰を下ろした。

 

「特に璃月着いてからは早く感じたなぁ」

「それは迅くんが3日も目を覚まさなかったからじゃないの?……死ぬほど心配したんだからね?」

「ごめんて」

 

すんごいジト目で言われて平謝りをする。いやほんとに色々あったなぁ。あり過ぎた。急変したエウルアに続き、死を覚悟した跋掣戦、そして綺良々や刻晴の告白。他にもみんなに種族がバレたり宵宮や綾華が遊び来たり、蛍と秘境行ったら……ってあの記憶は消えたことになってんだわ。頭の中でも思い出したら秘境30回とか理不尽すぎん?

 

中でも1番変わったのは、この猫又先輩に対する気持ちだろうな。

 

初日とか同じ部屋で泊まるだけで心臓バクバクだったのに、今となっては普通に一緒に寝てるし(毎度抵抗はしてるけど連敗中)お風呂に突撃してきた時は本当に死ぬかと思った。

 

最初は大きめの猫と一緒に寝てると妄想して凌いでたんだけど、全然ムリでした。猫は俺の首に腕を回して抱きついて「大好きっ」って言いながら頬にキスして来ねぇもん。反則だよそんなん。

 

「ね、迅くんっ」

「ん?どうしたって、……わっ」

 

俺が物思いに耽っていると、寝転がった綺良々がくいっと俺の手を引いた。油断してたのもあって簡単に体勢を崩した俺は綺良々の上に覆い被さる形に。慌てて離れようとするけど首に回された腕がそれを許さない。

 

「えへへ ……ふたりっきりだね」

「言い方っ。…どうしたんだよ急に」

「なんにもないよ?ただわたしがこうされたいだけ」

「自由なやつだな」

「だって猫だもん」

 

布団に放射状に広がった綺良々の亜麻色の髪がなんか扇情的だ。何となくその髪をひと房とって触ってみるとさらさらとした感触で触っている手の方が気持ちいい。

 

「迅くん」

「ん?」

「すき」

 

目をじっと見つめられながら言われたものだから頬が熱くなる。

 

「迅くんは、わたしのこと、すき?」

「…それは……」

「…ってごめんね?いじわるなこと聞いて」

「いや、綺良々が謝ることじゃないよ」

 

俺の頬を撫でながら謝ってくる綺良々に首を振る。

 

「……しっかり答えを出すから、もう少しだけ待っててくれ」

「……うん」

 

ここだけの話、気持ちはちょっと決まってはいるんだ。でも、これを出す前に1度皆と会って話してみたい。その上でこの気持ちを表に出したいんだ。

 

俺が言葉に込めた意味に気づいていない様子の綺良々の頭を優しく撫でていると、瞳をうるませた綺良々が唐突に俺の首を抱き寄せた。同じ目線で見つめ合うように話していたので、一直線に近づいた俺たちの距離がゼロになる。

 

「…んっ」

 

視界いっぱいに映る目を閉じて顔を朱に染めた綺良々の顔。唇に広がる信じられないくらい柔らかい感触。鼻腔をくすぐるさっき2人で飲んだベリージュースの香り。

 

どれくらいそうしていただろうか。綺良々が目を開けてゆっくりと離れるが触れていた唇は未だに熱を持ったままだ。

 

「迅くん、わたしにちゅーされるの慣れてきてない?」

「お前ね。そりゃ毎日のようにされてたら耐性もついてくるよ」

「……でもすごくドキドキしてる」

 

綺良々は俺の胸に手を当てて嬉しそうに言う。綺良々みたいな美少女にキスされて心拍暴れないやつなんてこの世に居ねぇよ。

 

「そりゃそうだろ。…そういう綺良々はどうなんだよ?」

 

直後、俺はこの発言をした事を末代まで後悔することになる。

 

「…そ、それなら、確認してみる?」

「え、おいちょっと待てって!」

 

綺良々は俺の手を取るとなんと自分の心臓の位置に手を置きやがった。

 

別に猫又だからといって心臓の位置が人間と変わったりしない、当然胸部、つまり胸だ。心拍を感じさせるため押さえつけられた俺の手の平が綺良々の左の丘を悩ましい感触と共に押し潰した。

 

やっぱり結構大きい、とかいう感想が思考の前に脳に到達するが、トクトクと鬼早い鼓動を感じとるや否や俺は手を引き剥がした。

 

「ちょ、おまっ、なにしてんの!?普通脈測るとかあるだろっ」

「……そっちの方が喜ぶから……」

「俺がっ!?」

「………わたしが」

 

こいつ、風呂の時も思ったけど好きな人にエロくなるタイプだ!1番相手にすると厄介で攻撃力が際限なく上がっていくタイプ。上目遣いでとんでもないことを言っている綺良々に戦慄の表情を浮かべる俺。

 

「……お、お前、自分で凄いこと言ってんぞ?気がつけって」

「だって、久しぶりに完全に2人きりになれて嬉しかったんだもん……。宿だといつも刻晴さんか申鶴さんがいるし」

「寝てる時は2人きりじゃないのかとすごくツッコミを入れたいんだけど」

「あれはノーカンだよ」

「うっそだろ」

「死兆星号に乗ったら今夜は一緒に寝れないし、部屋も別々だから………充電させて?」

 

そう言い腕を広げる綺良々に俺は頭を搔く。なんだよその可愛い頼み方……ここで断ったら俺が悪者じゃんか。

 

「はぁ、わかったよ。満足するまで好きなだけやってけ」

「えへへっ、やったっ…………んんっ」

「ん〜!(抱きつくんじゃないんかい!)」

 

その後も綺良々は存分に俺の理性をゴリゴリ削って行った。これ手を出さずに耐えれるのマジで世界で俺だけじゃねぇの?

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「それで、2人して仲良く寝坊かましたってことかい?」

「「すいませんでした」」

 

存分に迅くんの唇を味わったあと(変態)、そのまま2人して眠っちゃったみたいで気がついたらもう出港時間だった。

 

2人で飛び起きてダッシュで港に向かったんだけど、わたし達待ちだったみたいでみんな勢揃いしていて、額に青筋を立ててた北斗さんに綺麗なお辞儀と謝罪を炸裂させた。

 

視界の端に映る刻晴さんと凝光さんに呆れた目で見られながら、璃月の人たちに挨拶をした。見送りの中には蛍ちゃんとパイモンちゃんもいて、これからスメールに旅立つみたい。

 

「それじゃあ、また近いうち配達で来ると思うから」

「ええ、またね。綺良々も、次配達に来る時は顔を出しなさいよ」

「うんっ、色々とありがとうね」

「蛍も、またな」

「うん。またどこかで。綺良々も、また会おうね」

「迅も気をつけて帰れよー!」

「うんっ!またねっ!」

 

わたしが蛍ちゃん達と抱き合ってしばしの別れを惜しんでいると、甘雨さんが手提げ袋を迅くんに渡していた。

 

「迅、神子にこれを渡して頂けますか?」

「それはもちろん良いけど……何が入ってるんだ?」

「璃月と稲妻の貿易再開の書類などです。昔は私と神子でそのやり取りをしていたのですよ?」

「そうだったんだ、了解したよ。八重宮司には個人的にも用があるし、向こうに着いたら直ぐに渡しに行く」

「頼みましたよ」

「おう、こちらこそ、色々とありがとな、甘雨」

「気にしないで下さい」

 

んん?ちょっとまって?刻晴さんもおかしなところに気がついたみたいで眉を潜めている。

 

「ねぇ、迅。なんだか、甘雨と距離が近い気がするのは気のせいかしら?」

「迅くん、いつの間に甘雨さんとそんなに親しげに話すようになったの?」

「えっ、あっ、……それはだな……」

 

わたしと刻晴さんがズンズン詰め寄るとしまった!って顔になって目をそらす。い、一体何が二人の間に!?

 

「私から迅に頼んだだけですよ。それに今は同族、ですので堅苦しい喋り方はよそうと言う話になったのです」

 

甘雨さんはにこやかに答えるけど今「同族」って所を強調しなかった!?

 

い、いつの間に迅くんとそんな距離に……甘雨さんは安全圏だと思ったのにぃ!

 

「確かに、弟が姉に敬語というのも不可解だからな」

「申鶴の言う通りです」

 

なんかそこの2人で同盟っぽいもの組んでません!?じ、迅くんもなんとか言って……って、あ、ダメだ、迅くんが遠い目で地平線見ちゃってる。現実逃避してるよ…。

 

「別れの挨拶はそこら辺にしておきなさい。出港時間、過ぎてるわよ?」

 

と、凝光さんの一言で騒ぎは収まって、わたし達も船に乗り込む。北斗さんの声で動き出す船の上から璃月港の人達に手を振った。

 

「んじゃ、またなー!」

「色々ありがとうございました〜!!」

 

わたし達は岸が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

腕を下ろして伸びをした迅くんが夕焼けが売り込んで橙色に染まった海を見ながら呟く。

 

「…さて、帰ったらまた忙しくなるぞ?」

「うんっ、そうだね!本格的に国外配達が始まるから、わたし達……別行動が増えちゃうね?」

「そのための洞天だろ?」

「うんっ」

 

そう、配達が別で会えなくても迅くんに洞天通行許可証も貰ったから好きに出入りができるのだ!えへへへ、わたしと迅くんの愛の巣……!って思ったけど、通行証はわたしの他にも刻晴さんと甘雨さんに蛍ちゃんが持ってんだぁ。ちっくしょー。

 

その悔しさも込めてらわたしは迅くんの背中に飛びついた。

 

「迅くんっ」

「わっ、どうした?」

「これからも、よろしくねっ!」

「……ああ、こちらこそ」

 

 

 

 

……わたし達の配達はまだまだこれからだっ!

 

 

 

 

2章 【完】





迅くんが貰ったお面の見た目が知りたい方は「サイバーパンク仮面」と調べると出てきます。
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