─────間に合った。
着地と同時に蒼雷を展開し、マシナリーたちの動きを止める。飛び散る弾丸一つ一つに電磁リングを着けて静止させ、蛍へ飛んでいた弾丸は霧切で受け止めた俺は着地の体勢から立ち上がりながら未だに痺れているマシナリーを見据えた。
「迅っ!」
飛びながら見てたけど、どうやら蛍は本調子じゃないらしい。首だけで振り向いた俺は蛍に話しかける。
「よ。なんか大変なことになってるけど、またイタズラとかしたのか?ダメだぞフォンテーヌだとまだ有名じゃないんだから」
「そんなこと言ってる場合かっ!…ま、また増援が来るぞっ!」
見ると増援の後ろからさらに15機ほど現れる。こんなに呼ばれるってことは、やっぱり俺がこの国に来ているってことも相手に知られているってわけだ。
審判も歌劇もとっくに終わったこの時間のエリュニス島には一般人はほとんどいない。周りに影響さえ与えなければいいか。俺は立ち上がろうとしてる蛍を視線で制す。
「蛍」
「…迅?」
「ちょっとそこで座ってろ。まだ本調子じゃないんだろ?」
「…うん」
俺は霧切を翻し、マシナリー達を拘束している蒼雷に圧縮をかける。ギシギシいいながら軋んでいくマシナリー達をナヴィアとクロリンデが信じられないものを見る顔で見てる。
「蛍、俺これと戦うの初めてなんだけど、急所とかある?」
「…えっと、たしか胴体にコアがあった気がするけど…」
道理で壊れないわけだ。もう生物だったら弾け飛んでるくらいの圧力はかかってるのに。関節が反対方向を向いているマシナリー達は、それでも敵を排除しようと動き出す。
俺は止めていた弾丸を地に落とすと左手に蒼雷を集めて薄く圧縮し、そのまま地面に手を当てて一気に放出する。俺を中心に半径100mに、俺の元素が付いてる物を強制的に打ち上げる強力な磁場を形成した。
当然、蒼雷が巻きついてるマシナリーたちは為す術なく空中に打ち上げられた。
「なっ……!?」
「…なに、これ…」
驚くふたりの声を聞きながら、俺は残りの元素を霧切へ集めた。刀身に固めるのではなく、花を咲かせるように毛羽立たせる。
「蒼雷一掃。────廻旋」
俺は霧切を上空へ振り上げた。
直後、霧切から蒼色の元素刃が散らばるように空を登っていく。一発で並の魔物なら吹き飛ばせる威力の刃がきっかり打ち上げたマシナリーの数分、そして元素刃にも磁力が付いているせいでマシナリー達に吸い付くように飛んでいく。
破裂音。
最初に止めた蛍の方とナヴィア、クロリンデの方のマシナリー合わせて53機を空中で消し飛ばした俺は、そのまま増援の15機に向かって地を蹴った。
さっきの技でもう一度やりたいところだけどさすがにあの規模の技は連発はできない。蒼ノ雷光も解除されてしまったので雷元素を纏って残りを倒すつもりだ。
飛んでくる弾を避けると蛍が危険なので向かってくるのを霧切で叩き起とす。自分の命中弾以外も全て斬った俺は、弾が止んだ隙に瞬間移動と間違えられるような速度で身体を倒し、銃を向けるマシナリーに肉薄した。
人じゃないので相手視点はどうなってんのか知らないけど、倒した身体を戻す勢いのまま銃が着いた腕を切り落とす。影さんによってさらに強化された霧切の凱旋の斬れ味は折り紙つきで、金属製のマシナリーの胴体にもバターを切るかのように刃が入った。
両断され吹き飛ぶマシナリーの頭を掴んだ俺はそれに雷元素を込めると横から来るマシナリートにま回し蹴りをした回転を利用して後ろへ投げつける。遠心力と雷元素で加速したマシナリーの上半身は標的となったマシナリー達をまとめて吹き飛ばした。
今しがた回し蹴りをしたやつに肉薄してコアを斬った俺は、飛んでくる弾丸を首を傾けて躱す。銃弾とはいえ速度は普段鍛錬で使う楔よりは遅い。飛んでくるのを目で見て避けれるあたり俺も大概なんだろうな。
前傾姿勢で疾走した俺は、下段から霧切を振り上げで腕を切断。袈裟斬りでコアごと胴体を両断して、続いて近づいてきたマシナリーの足に着いたブレードに、蒼雷を纏わせた霧切を思い切り振り抜いた。
霧切の凱旋の斬れ味はハッキリ言って異常だ。蒼雷を纏わせた状態で地面に落としたら石畳に唾までぶっ刺さる。女性型と思わしきマシナリーのブレードとかち合うが、鍔迫り合いにもならずにズバッとブレードごと脚部が切断された。
脚が片方無くなりバランスを崩すマシナリーに、俺は振り抜いた勢いで蒼雷を打点に乗せた肘打ちを叩き込む。ちょっとした破裂音を響かせ、肘が胸部にめり込んだ。攻撃がてら試しにマシナリーの背中側に仙力を固めた結界を貼ってやる。
突き抜けた威力が結界に止められ衝撃が滞留。余すことなく通したため後ろに吹き飛ばずにその場に少し浮いて、コアが内部から弾け飛んだ。これ人にやったらとんでもないことになりそうだな。使うのやめとこう。
人型の機械相手だと技の威力に気を遣わなくていいから楽だ。踏み込んできた同型のマシナリーの外を取るように同じく踏み込んだ俺はちゃちゃっと手首と胴体を切り落とす。
あと3体。俺は少し回復した元素を迸らせ蒼雷を纏うとそれを元素視覚で飛ばしてやる。飛んできた20発を超える弾丸をさっきみたいに止め、弾と残りのマシナリーに磁極を付与。撃った時の速度を遥かに超えて戻ってきた弾丸達に蜂の巣にされているマシナリー達へ、床に落ちてた脚部ブレードを蒼雷の脚でシュートした。
カッ飛んで行ったブレードが蜂の3機を串刺ししたのを尻目に、俺は息を吐く。蒼雷を消し、血は付いていないが癖で霧切を払うと鞘へ納めた。
「………45秒くらいか、……ちょっとグダったな」
そう呟いた俺をナヴィアがらちょっと引いた目で見ていて、俺はちょこっとだけ傷ついた。
突然の自体に驚きはしたけど、怪我はないようで良かった。合わせて58機のマシナリーを破壊した俺は、ひとまず蛍へ歩き寄る。
「…蛍、大丈夫か?」
「…………」
「蛍?」
見たところ大丈夫そうだけど、なんかすごい蛍が見てくる。どうしたん?
じーっと俺を見てくる蛍は置いといて、ナヴィアたち棘薔薇の会にも安否を聞いていると、パイモンが話しかけてくる。
「って、迅おまえ、どうやってここまで来たんだよさっき飛んでなかったか…?」
「ポアソン町に行ったらナヴィアが蛍を追いかけに行ったって聞いたからだよ。ナヴィア、今日の夕食にフォンタあったろ?」
「え?…うん、あったけど…」
「あれに原始胎海の水が入ってたんだと。だからもしかしてそっちが危ない状況なのかもって飛んできたんだ」
ナヴィアは俺の言葉に驚き、飲まなくてよかったぁと胸を撫で下ろした。
「…迅、…その、ありがと」
「ああ、怪我なくて本当に良かったよ」
体調ももう大丈夫なのか、顔色も問題なさそうだ。なんだかあちこち目線が散らばってる様子。どうしたと顔を覗き込むと、パッとそらされた。
そこに短銃と剣を腰に納めたクロリンデが近付いてくる。
「…どうやら、助けは不要だったようだな」
「クロリンデ…。ううん、そんなことは無かったよ。ひとまず感謝はしてる。……でも、なんであんたがここにいるの?」
彼女を見るナヴィアの視線に少し敵意が混じっている。ナヴィアに問われたクロリンデはなにか思うところがある様子で彼女を見て、目線を逸らした。
「…私は、あなたが危険な目にあっているのではと思って、気にかけていただけだ」
「気にかけてた、って。随分出てくるタイミングがよかった気がするんだけど」
「……あなたを危険から守って欲しいと、カーレスさんからの頼みだからな」
「……それを、あんたが言うのね…?」
何やら不穏な空気。重くなった空気をマルシラックとシルヴァが仲裁する。
「…クロリンデ殿。この度はありがとうございました。……ですが、今は…」
「…ああ。わかっている」
クロリンデはそのまま振り返り、歩いていった。その途中で俺の横を通る。
「加勢、感謝する。……貴方の実力、噂以上だった」
「いや、こっちこそ持ちこたえてくれてありがとう。また近いうちにパレ・メルモニアに行くと思うから、その時に」
「ああ」
クロリンデは頷き、そのまま去っていった。
「…で、とりあえずどうする?」
「旅人は?フリーナ様に逢いに来たんだよね?」
「うん、…でもちょっと、その前に話しておきたいことができたの。一旦、落ち着ける場所に戻らない?」
「そうだな。旅人もちょっと休んだ方がいいぞ?」
それに、人気がないとはいえ戦闘があったのだ。騒ぎが広まる前にここを離れた方がいい。
俺たちは頷き合うと、ちょうど棘薔薇の会の船が近くに到着した。
「一旦、ポアソン町にもどろっか」
戻ってきた俺に、棘薔薇の会のメンバーたちが詰め寄ってきた。びっくりしながらも何とかなったことを伝えるとなんかめちゃくちゃ感謝された。いや俺マシナリー倒しただけなんだけど……。
俺達はポアソンの奥の本部に案内される。椅子に座った俺達に、蛍が襲撃に会う前に何があったのかを教えてくれた。
「…っていうわけ」
「…ルキナの泉に純水精霊が…。…そのヴァシェって人物が今回の事件のキーマンってことか」
「ヴァシェ…、ナヴィアは聞いたことあるか?」
「…ううん、あたしは1度も。マルシラックは?」
「私も覚えがありませんね。聞くに冒険者だったのでしょう?キャサリン殿なら何か知っているかもしれませんね」
話を聞くと、その純水精霊の彼女も原始胎海の水に溶かされたのだという。
「…原始胎海の水に溶かされると、純水精霊になるってこと……ってのは安直か」
「どうだろう。ルキナの泉はフォンテーヌの全部の水が集まるところだし、あそこだから純水精霊とて成れたのかも」
話を聞く限り、ヴァシェなる人物が犯人かどうかはわからない。聞いた感じ被害者っぽいし。ただその人と話せれば、原始胎海について理解が深まるだろう。
「……よし、とりあえず明日からはそのヴァシェって人を探してみよう」
「それなら、ヌヴィレットに聞くのがいいかもな」
「パイモンの言う通りだな。じゃパレ・メルモニアに行こうか」
パイモンの提案に全員頷いたところで今日は解散に。伸びをしていると、ナヴィアが俺に尋ねてくる。
「旅人はここに泊まるって言ってるけど、迅はどうするの?一旦洞天に帰る?」
「いや、俺もここに残るよ。まだ何かないとも限らないし」
ナヴィアに一応「既製品の物は口にしない方がいいぞ」と言っておく。頷いた彼女に部屋は空いてるのを好きに使ってと言われたので了承していると、くいくいと袖が引っ張られた。
「迅」
「ん、どうした?」
「一緒の部屋に泊まろ?」
俺はぱちくりと瞬きをして蛍を見るが、その顔は真剣だ。
「今日の襲撃、狙われたのは私でしょ?…ナヴィアにはマルシラック達がいるし……その」
「…まぁ、それもそうだな」
確かに言ってることは筋が通ってるし、そっちの方が何かあった時に対応しやすいだろう。割とさっきのが堪えたらしいパイモンが激しく頷くの笑いながら、俺と蛍は同じ部屋に入った。シャワーやらそこら辺はここに来た時に頂いてある。
……部屋に入った次の瞬間。
「…迅〜!」
「うわっ」
ドアを閉めた途端に、飛びついてきた蛍に俺はびっくりする。パイモンを見ると「オイラしーらない」と言いたげな顔でとっとと布団に戻り始める。お前そんなにドライなやつだったっけ?
蛍は俺の胸に顔を埋め、ぐりぐりと頬擦りをしてくる。……ってなんかすごい匂い嗅いでない?めっちゃ深呼吸してる音が聞こえる。
「蛍?」
「……すぅ〜……ん、……はぁ……生き返る…」
「俺は危ない薬かなにかか」
口ではそう言いつつも、蛍の頭を優しく撫でる。蛍は気持ちよさそうに目を細め、回した腕を俺の脇の下から首へ変更する。
「……助けてくれて、ありがと。……惚れ直した」
「…そ、そうですか。……間に合ってよかったよ」
立ちっぱなしなのもアレなので、一旦離れてもらって荷物だけ降ろす。2つあるベッドの、パイモンが寝てない方に腰を下ろすと、そのすぐ隣に蛍も座った。
「あの、距離感」
「なんで?……こうして会うのは久しぶりだし、いいじゃん。……会いたかったんだよ?」
そう言い、蛍は俺の片手を取って指を広げたり閉じたりして遊び始める。好きにさせてると、手の甲に柔らかい感触がしてバッとその方を見ると、蛍がしたり顔で唇を落としていた。
パイモンは……ってもう寝てるしっ!
俺は無言で蛍の頭を撫でる。そのまま撫でられていた蛍だったが、だんだんこっちへ身を乗り出してきた。
「……ね、迅…」
「なんだ?」
「…群玉閣で言ったこと、…覚えてる?」
「…また、あの時と同じことしてね。だっけ?」
「うん」
蛍は、ベッドの上で女の子座りすると、俺の顔をじっと見つめてくる。
蛍がやる、その「おねだり顔」の破壊力は凄まじく、俺も一瞬ぐらついた。
蛍は俺の手を取り、自分の頬に当てる。すべすべ、つるもちほっぺ。優しくつまむとよく伸びる。
そのまま次は耳へ。形のいい耳の縁を触ると、女の子座りしてる蛍の脚がきゅっと閉じた。
「…あ、…んっ…」
耳の裏や、耳たぶを優しく触っていると、蛍の息が荒くなってきた。そういえば前も耳触ったら効果てきめんだったよな。
……ってこれはもう、する流れになってしまった。だけどこの前みたいに遅くまで続ける訳にもいかない。蛍もそれはわかってる模様。
「…今日は、1回だけな」
「…うんっ…いっかい、気絶させて?」
「え、そういう1回?」
蛍はまるで覆いかぶさって欲しいと言わんかばかりにベッドへ寝転がり、俺を手招きする。そこ俺の寝床なんだけど。
このままだとパイモンと蛍に寝床を潰されてしまうので、この邪魔者を排除しなくては。
俺は黙ってベッドに乗る。膝を乗せてベッドのスプリングが軋む度に、蛍の息が荒くなる。身長差的に跨ったりすると顔の位置が合わないので、蛍の脚の前に移動する。そのまま彼女の脚の方から覆いかぶさろうとすると蛍が顔を赤くして、そっぽを向きながら脚を開いた。
ちなみにだが、今の蛍の格好はいつものドレス。つまり下はスカート。それでもまぁ見えてもドロワーズだしと気にせずにいたところに、俺は思い知った。
コイツの癖というか、特色というか。キャラってやつを。
「……おい」
「…なに」
「いや、さすがに。……それはワザとだろ?」
「……なんのこと?」
俺は、見えてしまった「蛍」から目を逸らし、天井を見上げた。こいつどうしてくれようマジで。
「……あの、履いてもらってもいいですか?」
「わ、わたし、寝る時は履かない派だし」
「ズボンの話ししてんじゃねぇんだよ。この世のどこにノーパンスカートで寝るやつがいるんだ?」
あと脚閉じろや。恥じらいの心を持って強く。
「迅のせいだもん。私、あれから変なんだよ?」
「お前はとっくの前から変だったよ?」
「そういうんじゃなくて……、わかってるくせに」
蛍は見られていることに何かを感じているのか、息が荒い。……やばい、このままじゃまた前みたいに流されてどこまでも行ってしまう。
さすがにいたたまれなくなったので、俺は蛍を引っ張り起こす。立ち膝の状態にしてあげてらそのまま優しく唇を重ねた。
「ん…」
5秒ほどで唇を離す。名残惜しそうな顔で見てくる蛍をパイモンの横に寝かせた俺は、そのまま隣のベッドに入った。
「……足りないんだけど」
「ここ人んち。……後でな」
もう、こいつにはいつになっても振り回されてばっかりだ。
同じベッドに蛍が潜り込む感触がしたし、手がなにかに挟まれた感じもしたし。元素視覚しなくても手のひらに水元素を感知もしたけど、俺は気にしないことにして目を閉じた。
つづく。
ノーパン蛍とかいうこの作品読んでない人以外には伝わらない属性。