幕間しか書けないダメ作者でごめ(略)
ぱちぱちと暖炉から音があがる。
その灯火に照らされながら、俺は抜き身の霧切の刀身を布で拭う。
光も反射しないほどの漆黒の等身に青い波紋が入った俺の愛刀、霧切の凱旋は布で拭われる度に、綺麗になったことを喜ぶように煌めいた。
普通、刀の手入れをする時は油を拭き、打ち粉を打って新しい油を引くのな大まかな手順だ。しかしこの霧切の凱旋は影さん特製の神器と言っても差し支えない刀。普通のものとは少し手入れの方法が違う。
拭き終わった霧切に、俺は雷元素を伝わせる。すると紫色のスパークが刀身を通り、そこから煌めき増していく。最後に光が治まり、元の漆黒へ戻った霧切を確認した俺は1人頷いた。
「…何度見ても綺麗ね」
「だな。…手入れが元素を馴染ませるだけとはいえ、コントロールがすごい難しいんだけど」
俺の隣、剣の長さの関係でソファの端に座り自分の相棒の手入れをしているエウルアはくすりと微笑むと自分の剣へ視線を戻した。
エウルアの大剣「松韻の響く頃」。両手剣にしては細身で空色の刀身に刻まれた楽譜のような模様が特徴の美しい剣だ。鞘から抜いたそれを膝に乗せて布で拭っているエウルアは、剣の美しさと彼女の美貌も相まってそれだけで絵になる。
「…どうしたの?」
「いや、なんでもない」
しばし見蕩れてしまったのを隠すように、視線を戻し霧切を鞘に納める。それをソファに立て掛け、もう一度エウルアの方を見ると、剣を納めてこちらににじりよってくるところだった。
「ふふっ」
エウルアにはいつになっても敵う気がしない。ホントに、自分の可愛さを自覚してください。
エウルアがソファの上でくっついてくる。俺の視線を釘付けにしたのが嬉しかったのか、甘えるように腕を触ってくる。
「……エウルアさんっ、私もいることをお忘れになったのですか?」
「…いえ?…あんまり忘れてなかったわよ」
「ちょっとは忘れてたんじゃないですかっ」
対面に座り、愛刀「磐岩結緑」の手入れをしている、先日19歳の誕生日を迎えた妹様が俺とエウルアの距離感を見て頬を膨らませる。ちゃきんと磐岩結緑を鞘に納め、こっちにやってくる。
エウルアと俺を挟むように隣に座り、ずいっと顔を寄せてくる。19歳になり、少女感が少し抜けて大人の女性な感じが出てきた整いすぎてる顔を、ぷくっとふくまらせて俺に迫る。当然威力は計り知れず。
「私も構ってください…」
「綾華は昨日十分構ってもらったじゃない。誕生日会の後、迅と2人で何してたのよ」
「そ、それは………少々、踊りを…」
嘘は言ってない。うん。神里屋敷を二人で抜け出して、川辺で綾華の踊り「は」見たしね?うん。それだけったらそれだけなのだ。帰ってくるのが朝になったけど、それだけなんです。
しっとりエウルアとぷくぅ綾華。どっちにしても俺に毒なので苦労して立ち上がる。2人の武器も持って部屋に霧切を立てかけて戻ってくると、台所が「…迅さんっ」と呼ばれる声が。
台所を覗くと、冷蔵庫の中に顔を突っ込んで何かを物色している雷神様の姿が。
「…なにしてんすか?影さん」
「このケーキ…食べてもいいやつでょうかっ」
「実家かな?」
親が買ってきた食べ物見つけたみたいなテンションで言ってくる影さんがお可愛い。ちなみに指さしてるのは俺がエウルアに習って作ったシュークリームなので「どうぞ」と頷くと笑顔になった影さんが皿を取り出し、台所の椅子に座って食べ始めた。
3日に1度くらいの頻度で洞天に来るようになった影さんは、よくこうやってスイーツを食べてることが多い。
「俺が作ったんですけど、どうですか?」
「たいっへん美味ですっ。中のクリームがくどくなくて、舌触りがとても滑らかです」
「良かったです。……てっ、影さん反対側からクリーム出てますよ?」
「…おや、後ろに穴が空いてるんですね」
「はい、そこからクリームを入れたので。……影さん?」
「…このまま返したら、食べたところからクリームが落ちてしまいます…手についてしまいました…ん……れろ…」
「っ」
手に着いたクリームを舌で舐めとる影さんを数秒ガン見してしまった俺は悪くない。
「口にも着いちゃってますよ」
「むぅ、食べ方が難しいですね。……ん」
「……はいはい」
神様だよね?この可愛いの。口のクリームを拭いてあげると、影さんは満足げに続きを食べだした。
満足気な影さんが料理に挑戦しようとするのをエウルアと全力で止めたあと。お昼ご飯の時間に。今日の当番は宵宮らしい。
「ん、なんか手伝うか?」
「んー、あんま無いで?おにぎり握りだけやし」
宵宮はなれた手つきで手に塩を馴染ませながらにっと笑う。
「お、今日はおにぎりか。やった」
「迅、うちのおにぎり好きやもんなぁ」
「なんだろ、宵宮の握ったヤツめちゃくちゃ美味いんだよ」
「昔から握っとるからなぁ。迅は中身何がええ?」
「鮭」
宵宮は、潮を馴染ませた手に米を乗せ、鮭を乗せると包み込むようにして追加で米を重ねた。それを今日に握り始める。
「……でも、うれしいわ」
「ん?」
味噌汁を作っている横で聞こえた宵宮の言葉に顔を向けると、おにぎりを握りながら、微笑んで流し目を送ってくる。
「迅、あれから色々な国行って、自分で料理も上手なって。いろんな美味しい料理を食べても、うちのおにぎり美味しぃいうてくれるんやもん」
「うん、例えが適切かわかんないけど、稲妻茶みたいな物かもな。特に、外国とか行くと無性に食べたくなる」
「…えへへ、…その顔、ずるいわぁ」
「結構こっちのセリフだけどな?」
顔を赤らめた宵宮は、握り立てのおにぎりを口元に持ってくる。彼女の手の大きさで握られた、おにぎりと言えばこれ!みたいな絶妙な大きさ。齧り付くと程良い塩加減と、米の旨み。そして米が進むように味噌と酒で焼かれていてもう一口かぶりつきたくなる。
「……どうや?」
うまいやろ?みたいな顔で言ってくる宵宮。俺は口の中の米を飲み込むと、いつもオムライス作る度に言われてる決まり文句を返してあげた。
「……ああ、ホント、結婚して欲しいわ」
「………ぇ、……ふぇ!?」
めっちゃ騒ぎになった。
「…た、ただいま…」
「おかえりー」
みんなが帰って行ったの夜。お仕事から刻晴が帰ってきた。出迎えた俺を見ると、家の中をきょろきょろ見回す。
「…今日は迅だけ?」
「ああ。みんな明日予定とか仕事とか任務とかで」
「…そう…」
刻晴は、そのまま俺の前を通り過ぎ自分の部屋へ。荷物を置いた音と、上着を脱いだ音が聞こえ、部屋から出てきた刻晴は一直線に俺のところへ。
「…迅…なでなでして?」
「はいよ」
刻晴はグイグイ俺を押してソファへ座らせ、その膝の上に向かい合うようにして乗っかってきた。俺の胸に若紫の頭をぐりぐり。
それをぽんぽんと撫でながら、刻晴を甘やかすのだった。
俺が今まで出会った人の中で、オンオフが激しい人は誰かと問われたら、俺は刻晴と答えるだろう。
みんなが洞天にいる時はしっかりしてる。ちゃんと年上のお姉さん(とは言っても俺とエウルアと同い年)として綺良々の面倒を見てることが多いんだ。
それなんだけど、刻晴はご存知ほとんど洞天に住んでるようなもん。当然週に2、3回俺と完全2人きりの時間ができる。その時にめちゃくちゃ甘えてくるんだ。
刻晴は、俺の脇に腕を回し、首筋に顔を埋めて深呼吸。いつもの事なので頭を撫でてあげると、安心したようにへにゃりと俺に身体を預けてくる。
「迅……もっと撫でて?」
「もう撫でてるよ?」
「…ほかのとこ…」
撫でる手を下に降ろしていく。刻晴も、顔を蕩けさせながら身体を揺らして俺に「もっと」と無言で抗議する。
「……風呂、入るか?」
「……ええ。……今日は、のぼせないようにしないとね」
「……のぼせたら、俺が介抱してやるよ」
「……」
当然、この会話には裏の意味がある。完全密室どころか密家の洞天で、2人きりの時間が増えたせいで発生した当然の関係と、当然の行為。刻晴は、俺の手を取ると、指にキスを落とす。
「……そう言って、お風呂まで持たなかったのは迅でしょ?」
「…1番悦んでた癖にな」
「っ!」
刻晴のツインテを解く。印象が変わった彼女の若紫色の髪が肩や胸にかかり、景色の威力が数段上がった。
理性が旅立つのが意識の端に自覚しながら、刻晴ごと立ち上がる。…その身体を引き寄せてながら、耳元で囁いた。
「じゃ、今日は玄関まで持てばいいな?……行きの方の」
「……ぇ、…それって…………ぁ…」
…玄関の扉はギリ空けられるところまで持った。
温泉に入れたのは2時間後でした。