瞳に蝕むもの   作:亜楽


原作:仁王2
タグ:仁王2 一話完結
ゲーム「仁王2」の二次創作小説です。
短編1話完結。

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飛翔篇「虚ろなる魔城」が開始する前の斎藤義龍と竹中半兵衛です。


瞳に蝕むもの

 座して深く頭を下げる。止まる空気を感じてから顔を上げた。竹中半兵衛の所作には、自然と知性が見出される。

 肩ひじをつき、不遜な態度で半兵衛を見る斎藤義龍も、対面すると、手放すには惜しい家臣と思った。

「お目通りお許し、ありがとうございます」

 稲葉山城天守閣。織田と決着が近付く斎藤の本陣に、半兵衛は会見を申し入れた。

「いまさら何用かと思ってな」

 わずかに笑う。少しだけ見えた歯が、刃のように光った。

「やはりこの城は織田に渡したいか?」

「元より私は、稲葉山城を奪ったとは、思っておりません」

 当時、義龍の軍師を務めていた半兵衛は、わずかな手勢で挙兵。稲葉山城を占拠した。謀反かと思いきや、半兵衛は義龍に城を明け渡し、返還する。自身は家臣の責として隠居した。

「霊石などという外法を用いずとも、戦はできるのです」

 諫言だった。

 義龍は武力を拡張するために霊石を集めた。家臣と民の命を糧に、妖怪が増える。美濃は衰退していた。

「外法、か」

 そばに置かれた霊石を手に取る。

「生命の石で戦う俺と、生きた人間を戦わせるお前。どれほど違う?」

「さほどの違いは……ございません」

 半兵衛の顔が曇る。

「戦争は殺し合いです。いかようにしても、多くの命が現世を去ります。ですが、いえ」

 半兵衛の明晰をもってしても言葉に詰まる。兵法に正道を求めると、辿り着く葛藤。

「だからこそ、見失ってはならないものがあると、考えます」

「命は命。死は死であろうよ」

 義龍は霊石を見た。石に映る顔と目が合う。虚ろな瞳が、不意に赤く光った。

 

 奇妙な光景を見回す。

「また、この夢か」

 霊石に触れていると、意識が途切れる瞬間がある。自身の瞳に吸い込まれる。日ごとに増えていた。曇り空の下で、覚えのない風景が切り貼られている。荒波と船。燃え上がる城門。ただずむ山林の峠。

 現れる錫杖の男、果心居士。義龍はその名前すら知らないまま、たびたび対峙していた。

「お前も飽きないな」

 刀を抜く。天守閣では着ていなかったはずの鎧にも、違和感はない。

 果心居士は錫杖を太刀に見立て、薙ぎ払う。二度、三度。弾き払う義龍を、切り刻もうと振るわれる。

 間合いを詰めて防いだ。振り切った胴が眼前に来る。根本深くまで刀を突き刺した。

「今日で終わりだ。俺は信長と戦うんだよ」

 霊石の悪夢は、吹き飛ばして力にする。父親の斎藤道三からも殺して奪い取った。道三はなにを追い求めていたのか。その先に誰がいるのか。知りたかった。

 蝮を喰らう龍になる。

 家臣を失い牙が生まれた。民を苦しめて角ができた。国が荒れるたびに爪が鋭さを増す。狂気すら超えて、人は龍になろうとした。

 果心居士の姿が消えた。かすれた荒魂が四散する。

 刀を下ろそうとした義龍に、風より小さな音が聴こえた。空中。荒魂が集まり、再び果心居士が姿を現す。構え直し、見上げる瞬間、気付く。囲まれていた。

 数えきれないほど分身した果心居士が、義龍に襲いかかる。上空から背を貫かれた。追って四方から、次から次へと、錫杖を突き刺してくる。

 ひざをつく。際限なく続く痛みも、すぐに感じなくなった。

 

 手から霊石がこぼれ落ちた。

「義龍、様?」

 天守閣に戻る。稲葉山城に流れた時間は、わずか一瞬。立ち上がろうとした半兵衛。畳に落とした霊石。

 義龍は笑った。

「俺を案じてどうする」

 意識は明瞭だった。感覚も研ぎ澄まされている。今までにない力が、全身に満ちていた。

「話は聞いているぞ。織田に士官したそうだな」

「信長様ではなく、興味深いご縁ですが、間違いではございません。今は織田方におります」

「あの時とは違う。稲葉山城も、俺も」

 義龍は織田信長との戦いを前にして、稲葉山城に大幅な改修を加えた。

 地形にも手助けされた堅牢な城塞。より強固になって、織田軍を阻む。どこからか奇妙な技術も導入していた。いかなる侵入も許さない。

「もう、他の道はございませんか」

「たった今、なくなった」

 真に離別する瞬間。半兵衛は義龍に言う。

「来る稲葉山城攻めには、私も参加します」

「同じ手が二度も通用するとは思わないことだ」

「同じではございません」

 そこにいるのは、斎藤家の武将と、織田家の軍師。

「稲葉山城の天守閣まで、ある一人を差し向けます」

「一人、だと?」

 義龍の顔がこわばる。

「適任者を選出して、仲間と計画を立てました。これ以上は申し上げられません」

 沈黙が、すなわち話の終わり。

「最後に」

 ともに最後となる会話。

「深芳野様については、その後ご存知でしょうか」

「知らんな」

 一言に万感をこめる。

「俺に斬られたい奴がいるなら、ここまで連れて来い。来れるものならな」

 感じられた。天守閣で戦う。同じ命を抱えて生まれ、血と名を分けた。道が重なる時が来た。

 因果の邂逅は近い。




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