銀髪美少女なAIロボットちゃんはヤンデレ過ぎて僕を殺したい   作:崖の上のジェントルメン

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3.雨の中のリピート

 

 

……シトシトと小雨が降る9月の暮れ。

 

僕たちはみんな湿気た空を恨めしく仰ぎながら、学校へとやって来る。

 

今日、突然に寒くなったものだから、僕を含め、多くのクラスメイトたちが学ランを着ていた。

 

「おはよう」

 

「おはよー、中村くん」

 

教室に入り、クラスメイトたちと挨拶を交わす。自分の席に座って、教科書を机の中に入れ込んでいく。

 

「おはようございます、中村さん」

 

その時、隣に神崎さんが立っていた。彼女は少しだけ、髪や肩が濡れていて、制服が湿っていた。

 

「……!」

 

濡れた制服の下にある、彼女の白い肌がほんのりと透けていた。色の具合といい艶やかといい、普通の人間とまるっきり遜色なかった。

 

(すごい、本物の人間みたいだ……)

 

僕は真っ先にそんな言葉が思い浮かんだが、その後まじまじと彼女の裸を凝視してしまっていることを自覚し、なんだか恥ずかしくなって彼女から眼を逸らした。

 

「お、おはよう、神崎さん。大丈夫?少し濡れてるみたいだけど……」

 

「はい、」

 

いつものように薄笑いを浮かべながら、彼女は自席についた。

 

「……中村さん、ひとつお尋ねしても構いませんか?」

 

「ん?なに?」

 

彼女は僕の方へ顔を向けて、ある質問を投げ掛けてきた。

 

「今日の朝方のことなのですが」

 

「うん」

 

「私は、電車にて通学を行っています。その際、電車の座席に座って過ごす者と、つり革に捕まって立つ者がいます」

 

「う、うん。それはまあ、僕も知ってるから、そこまで説明されなくても大丈夫だよ」

 

「今朝の電車は、座席がほとんど埋まっており、つり革に捕まって立つ者が多くいました。そんな中、推定年齢80歳程度の女性が電車に乗車されました」

 

「なるほど、おばあちゃんが乗ってきたんだ」

 

「私は座席に座っていたため、その女性へ席を譲ることにしました。彼女は非常に足腰が悪いようで、歩行にも難があるように見受けられました。そうした者には席を譲るよう、私にはプログラムされています」

 

「うんうん」

 

「私がその女性へ、『こちらの席にお座りください』と伝えました。その時、該当の女性から『私は高齢者ではない。従って、そのような扱いは非常に不愉快だ』という旨の発言をされました」

 

「………………」

 

ここまで聞いて、僕はなんとなく状況を察した。嫌みなおばあちゃんに当たってしまったみたいだな、神崎さん。

 

「中村さん、少々お待ちください。今、当時の映像を遡ってみます」

 

「え?」

 

「私は、網膜に映ったものを映像として記録できるんです。朝方の女性が放った言葉を、原文ママにお伝えします」

 

「……………………」

 

彼女は静かに眼を閉じて、しばらくじっと動かなかった。そして、「映像、確認できました」という言葉とともに、彼女は説明を続けた。

 

「原文ママにお伝えすると、『私をババア扱いするな!ムカつく!』と、そう言われました。息遣いや言葉の乱れ、そして表情筋の変化から、彼女は怒っていると判断できました」

 

「……………………」

 

「中村くん、彼女はなぜ怒っていたのか、分かりますでしょうか?彼女が後期高齢者であることは、紛れもない事実です。彼女はその事実を誤認しているのでしょうか?」

 

「うーん、そうだなあ……」

 

僕は腕を組んで、少しだけ苦笑した。そして……粗方自分の意見をまとめてから、彼女にこう話してみた。

 

「……神崎さん。人間ってね、結構面倒臭いところがあるんだ」

 

「面倒臭い?」

 

「うん。今のは……そうだね、その人もね、自分がおばあちゃん……高齢者であることは、自覚しているんだよ。でも、それを認めたくないんだ」

 

「認めたくない?しかし、事実は事実のはず。事実を湾曲して認識するのは、適切な精神状態とは言えないのでは?何らかの精神疾患があるのでしょうか?」

 

「いや、ただ単に、そのおばあちゃんは認めたくないんだ。自分が高齢者であることを」

 

「それは、一体なぜですか?」

 

「……人は、特に女性は顕著だけれど、老いることに対してネガティブなんだ。顔もシワシワになるし、体力は落ちるし……。今までできてたことができなくなることに対する苛立ちと、次第に忍び寄る死への恐怖が相まって、自分が高齢者であることを認めたくなくなっちゃうんだ」

 

「しかし、老化現象というのは、生物として当然のことです」

 

「うん、君みたいに割り切れられたら、そのおばあちゃんも楽なんだろうけど……そう上手く生きられないのが人間なんだと思う」

 

「……………………」

 

「これから神崎さんは、人の心を学んでいってくれるから、いつか分かるかと思うけど、心って……理屈だけど、理屈じゃないんだ」

 

「理屈だけど、理屈でない?それは矛盾している表現に聞こえます」

 

「ふふふ、そうだよね、僕もそう思う。でも、今の僕には……これ以外に上手い言い方を思い付かないや」

 

「……………………」

 

「今日は、なんだか災難な朝だったね。大丈夫、そのおばあちゃんが頑固なだけだよ。神崎さんの行動は間違っていないと思う」

 

「……分かりました。教えてくださり、ありがとうございます」

 

「うんうん。あ、僕の言ったことも、ただの憶測だからね?概ね間違っていないとは思うけど、本当の気持ちを知ってるのは、そのおばあちゃんだけだから」

 

「承知しました。曖昧な情報としてインプット致します」

 

神崎さんの悪気ないストレートな物言いに、僕はただただ笑うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

……雨は1日中、止むことはなかった。

 

延々と静かに、しかし確かに降っていた。

 

放課後前の、教室を掃除している最中に、神崎さんがクラスメイトの栗田さんと話しているところを目撃した。箒を手に持ち、床を掃いている。

 

「あ~あ~、雨ダルいね~」

 

「雨天時は好みではありませんか?」

 

「なんかアタシさ、昔っから雨降ると痛くなんだよね~。テーキアツってやつ?」

 

栗田さんは、ポニーテールの髪の毛を明るい茶色に染めていて、やや薄く化粧もしているギャルだ。

 

そんな彼女は、窓の外から見える雨を、憎たらしく眺めていた。

 

「ねーねー愛ちゃん、いつ頃晴れるとかって分かったりする?」

 

「承知しました、検索してみます」

 

神崎さんは箒を持ったまま、その場で数秒ほど固まった。

 

彼女はネットにワイヤレスで接続できるらしく、『歩くスマホ』なんて言うあだ名を彼女へつけている人もいるくらいだ。

 

「……現在地の降水確率が30%を下回るのは、午後9時23分以降になります」

 

「げー!夜9時まで学校いられるかってのー!はあ~、雨止んでから帰ろうかと思ったけど、仕方ないか~」

 

栗田さんはうんざりした顔で、眼を閉じてぶつぶつ愚痴を垂れていた。

 

 

 

 

 

 

……掃除が終わり、帰りのHRが終わると、蜘蛛の子を散らすように、生徒たちは部活だの家だのへ向かう。

 

僕も帰宅部なので、真っ直ぐに下駄箱へ向かい、自分が履いていた上履きを脱ぎ、外靴へと履き替える。

 

「よし、帰ろっと」

 

傘置き場から自分のビニール傘を取って、いざ外に出ようとしたその時……。

 

「ん?」

 

僕は、雨の中で傘もささずに歩く神崎さんの姿を見つけた。

 

朝と同じように、濡れた制服を透き通らせて、彼女の肌がぼんやりと見える。ブラジャーなどをしていない分、なんだか余計に性的だった。

 

「わっ……!ちょ、ちょっとちょっと」

 

僕は傘をさして、彼女の元に走っていった。

 

「神崎さん!傘……持ってきてないの?雨に濡れちゃってるじゃないか」

 

「ああ、中村さん」

 

彼女はいつものように、口許に微笑をたたえていた。

 

「私はボディも制服も特別製なので、雨に濡れても何ら問題ないのです」

 

「いや、でもほら……その、結構肌がさ……がっつり見えちゃってるよ?」

 

「?ええ、問題ありません」

 

「……そ、そっか。まあそうだよね、そういう羞恥心とかはきっとないよね。でも……うーん……」

 

「?」

 

「……その、ちょっと……なんていうか、これ!傘あげる!」

 

「傘を?」

 

「あと、はい!これ上から着て!」

 

僕は学ランを脱いで、彼女の肩から羽織らせた。こうすれば、透けた肌が外に見えることはない。

 

「あの、中村さ……」

 

「傘と学ランは、明日返してくれたらいいから!じゃあね!」

 

そう言って、僕は彼女に手を降ってから、雨が降る中を走って帰った。

 

正直、お節介だったかも知れない。無意味な善意の押し付けだったかも知れない。

 

だけど……なんとなくやっぱり、放っておくことができなかった。 あんまりにも彼女が、人間みたいな見た目をしているからだろうか?

 

わからない。

 

 

ザーーーーー……

 

 

「やばい!雨、強くなってきたかも!」

 

僕はさらに足を早めた。ぴしゃぴしゃと水溜まりの跳ねる音が響いた。

 

「相合傘とかして、僕も入らせてもらうべきだったかな……?い、いや、それはそれで恥ずかしいかも……」

 

女の子と満足に相合傘すらできない自分の弱虫具合を、心底僕は呪った。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~、やっぱり雨止まなかったか~!ちぇ~、メンドイけど帰るか~」

 

アタシはでっかいため息をつきながら、傘をさして外に出た。

 

ザーザーと降り注ぐ雨の音がうるさくって、早く家に帰りたくなる。

 

スタボで新作が出てるみたいなんだけど、それはまた今度かな~。

 

「ん?」

 

アタシは、雨の中ぼーっと突っ立ってる愛ちゃんを見つけた。 なんでか知んないけど学ランを羽織ってて、そのまんま動かない。

 

「愛ちゃーん、どったのー?」

 

アタシがそう尋ねると、愛ちゃんはこちらに振り向いた。そして、珍しく無表情で「どうも、栗田さん」と言ってきた。

 

「なになに?どうしたの?誰か待ってんの?」

 

「いえ、誰のことも待機してはいません」

 

「ふーん?」

 

「……………………」

 

「ていうか、その学ランどーしたの?誰のやつ?」

 

「……中村さんが、私にこれを羽織らせました。私の制服が透けて、素肌が見えるのを憂いたみたいです。この傘も、彼が貸してくれたものです」

 

「え!?じゃあ、中村くんどうやって帰ったの!?」

 

「……そのまま、濡れて帰られてました」

 

「へー!優しいー!あんま中村くんと喋ったことなかったけど、いい人じゃん!」

 

「優しい、ですか?」

 

「うん!そー思うよ!普通、傘も学ランもくれないって!」

 

「……私の制服もボディも、特別製です。濡れても故障をきたすことはありません。私よりも、生身の人間である中村さんが濡れないよう努めるべきです」

 

「もー!そういうのじゃないって!確かに理屈はそーだけど!中村くんはそうじゃなかったってこと!愛ちゃんが女の子として恥ずかしくないように、それをくれたんだよ!」

 

「……………………」

 

愛ちゃんは、手に持っている傘と羽織っている学ランを、じっと見つめていた。

 

「人の心は、理屈であって、理屈ではない」

 

「え?」

 

「中村さんから、以前そのように伺いました。私にはまだ分かりませんが、栗田さんも……そのように認識していますか?」

 

愛ちゃんは、アタシのことをじっと見つめた。いつもみたいに笑ってる愛ちゃんじゃなくて、ちょっと真剣っていうか……真面目な眼をしてた。

 

「うーん、なんか難しい話はよくわかんないけど、まあ心ってなんでもかんでも理屈で解決するわけじゃないっていうのは、分かるかな」

 

「……………………」

 

「なに?どーかしたの?」

 

「……分かりません」

 

「え?」

 

「私の網膜には、映像を残せるんです。ドライブレコーダーのように、見たものを記憶できるんです」

 

「へー!凄いね!さすが最新型!」

 

「……私は、今、何故なのか全く理解できませんが……」

 

愛ちゃんは、静かに眼を閉じた。

 

雨音に混じって消えそうなくらいに、愛ちゃんの声は小さかった。

 

だけど、アタシは確かにはっきりと……愛ちゃんの言葉を耳にしていた。

 

「中村さんの映像を、網膜上で何度も、リピートしてしまいます」

 

 

 

 

 

 

 

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