Genshin Impact ~第五の降臨者~ 作:三枝愛依
風、勇気と翼
あれから少し経ってモンドに戻ると神像の前にアンバーがいた。
特に用事もなく暇を持て余していた三人は暇そうにしているアンバーのもとに歩み寄って話しかける。
「おーい! アンバー!! そのお乳をもませ──ぐふぅ!」
「おーい、アンバー!! そんな所で何してるんだ?」
カルミアは横にいた蛍に慣れたと言った表情で鳩尾を殴られ、地面に膝をついて倒れた。
「旅人! パイモン! それと……大丈夫?」
アンバーはカルミアを心配した目で見るが彼女はぴくぴくと震えながらグッと親指を立てて見せる。
「良かった。そうだ! 私は旅人たちを探してたんだ! この前あげた風の翼はどう?」
アンバーは風の翼に関わる話で蛍とカルミアを探していたらしい、あれから暫く風の翼は愛用しているが凄く便利である。
カルミアの場合、怒らせた蛍の竜巻に呑まれ遥か高みまで打ち上げられても風の翼があればゆっくりと降りられる、蛍の場合はカルミアよりも風の翼の精度が高いので暴走したカルミアから逃げる時に高所から飛んでカルミアを簡単に撒くことが出来る。
「いい感じだよ。」
「結構、楽しんでるみたいだね!」
カルミアは立ち上がって付着した土や汚れを叩いてアンバーたちの話に加わる。
「けど、飛行免許はまだ持ってないよね?」
「め、免許……ぐふっ!」
カルミアは免許という単語に謎に反応し、パイモンと蛍は首を傾げる。
「飛行免許……なんだそれ?」
「名前のまんまなんだけど、その飛行免許を持っている人だけが、このモンド城内を飛行できるんだよ。」
「うっそ……法律違反だ! 罰金だ!! うわぁ、モラが減っていく!!」
「ぐっ! カルミア、わたし今月は厳しくて……代わりに!!」
「いやいや! あの時は免許も渡さずに風の翼を渡した私が悪いんだし罰しないよ!!」
「なぁんだ……てことは今日は飛行免許を届けに来てくれたのか?」
「まさか! 騎士にだってちゃんと規則があるからね!!」
てことは何しに来たんだ? と蛍とパイモンは疑問を浮かべるがカルミアだけは違った。
カルミアはかつて別の世界を旅している時に『免許』『試験』という単語に苦しめられた、自由である彼女を縛った二つ目の失敗。
「飛行免許はテストに合格してから騎士団が発行するの。」
「うぐぅ! 免許試験、合否!! 怖い! 自由があった私でさえ苦しんだのに自由がない私にはちょっと……。」
「じゃあ、風の翼は没収ね?」
「受けます! 受ける受ける!!」
「よし! 今日は試験官として、あんたの飛行免許のテストを監督しに来たんだ!」
アンバーは胸に手を置いて微笑み、カルミアを見る。
「それに簡単な試験だから安心して、風魔龍を撃退した時の飛行ができれば問題ないはずだよ。」
だが、その笑みもカルミアのほっと撫で下ろした仕草も全てを裏切る一言がアンバーから飛んでくる。
「でも、規則と飛行基準は守らないとダメだからね。」
「ぐふぅ!! 規則、基準……こ、怖い! 怖すぎる!!」
アンバーはポーチから一冊の本を取り出す。
「この『飛行指南』をあげる。覚えなくてもいいけど、理解はしておいてね──例えば、二人で風の翼を使うのは禁止とか、重い荷物を持って飛ぶのは禁止とか、風スライムを使った飛行は禁止とか……とにかく、よく読んでおいて、リサさんに魔法を教えてもらった時だって、私も厚い本を読んだんだから!」
「分厚いなぁ……仕方ない、とりあえず読んでみるか。」
「よく読むよ! これを全て暗記してテストに出てきても絶対に答えられるように、今日から一週間! 免許合宿だ!!」
「お、おぉー?」
カルミアの謎に沸いているやる気に戸惑いながらも蛍は乗って共に腕を掲げていた。
~~~
「西風騎士団の『飛行指南』、タイトルからして難しそうだ……」
「とりあえず、四の五の言わずに読むんだよ!!」
カルミアはパイモンから『飛行指南』の本を取り、一頁目を開く。
~~
───世界に最初の風が吹いた時、世界に羨望を抱いたスズメは翼があるにはかかわらず、飛ぶことができなかった。
彼らは風神に問いかけた。
──『どうすれば、大空を抱きしめられるのか』と。
『一番大切なものがまだ見つかっていないから』──
そう風神は答えた。
風は草原を撫で、蒲公英の種を彼方へと飛ばす。
彼らは必死に翼を広げた──ただ草原の風はあまりにも優しく、足をもつれさせるだけだった。
そして 彼らは峡谷を訪れる、吹き荒れる狂風は彼らに自らの力を見せつけた。
彼らは勇気を振り絞って谷から飛び降り、うなる風の中で翼を動かす。
あの空を自由に飛べるようになるまで、ただひたすらに──
そして彼らは嬉々として風神に言った。
『なるほど、風の強さが足りなかったんだ』と。
風神は答えた──
『いや、大事なのは強き風ではなく勇気だ。それが君たちをこの世界で初めて飛ぶ鳥にした』と──
~~
「いい話だったな……けど、騎士団の『飛行指南』ってこんな感じなのか?」
「勇気が望みを叶えるってことか……」
「ロマンチックだね……」
蛍とパイモンは首を傾げているが、カルミアは何か思うところがあるのか、遠くを見つめた目で空を見る。
「とにかく、アンバーのところに行こう!」
これを読み終えたらアンバーが『風立ちの地』に来てくれと言っていたので、『飛行指南』をしまって『風立ちの地』へと走り出す。
「夢……望み、それを叶えようとする勇気……私は望んだら叶ったからなぁ、いい勉強になるかも。」
カルミアは走り出した蛍たちの後を追った。
~~~
カルミア達が『風立ちの地』へと足を運ぶとそこには崖の上からモンド城を眺めるアンバーの姿があった。
「おーい! アンバー!!」
「あ、来たね! 『飛行指南』は読み終わった? 規則や制度も理解した?」
蛍はポケットから『飛行指南』を取り出すとまじまじと見つめて頷く。
「一応、読み終わったけど……うーん。」
「うん、その渋々って感じ……分かるよ。」
正直、規則や制度なんかなく物語が主に描かれていた。
これを指南にして良いのだろうか? それならまだ風の翼の由来とか誕生秘話とか書いて出した方がいいのでは? とカルミアは思っていた。
「『飛行指南』はつまらないからね、わたしも読みたくな……あっ、この事はジンさんには内緒ね!」
「そうか? このお話、結構面白かったけどな。」
物語自体はとても興味深いものだった、唯一の疑問はこれが何故指南に書いてあるのかだ。指南書にしてはちょっと趣旨がズレている本ではある。
「面白い? あっ──もしかして、付録の実例集のこと?」
実例集? そんなものあっただろうか?
カルミアと蛍、パイモンは首を振って物語を話す。
「それじゃないぞ! 鳥が空を飛ぼうとする話だ。」
「うん、そして風神が初めて飛んだ鳥と彼らを呼んだ物語……」
「うん……えっ?!」
アンバーは慌てた様子で蛍の持つ、西風騎士団の『飛行指南』を受け取ると表紙を見る。
「ちょっと見せて……あっ、これ私が小さい頃に大好きだった童話の話だ!」
「やっぱりそうだよね、安心した……私はてっきり西風騎士団の指南というのが物語を教えることなのかと思ったよ。」
カルミアは皮肉混じりに言ってほっとした様子で胸を撫で下ろす。
「ご、ごめん! 飛行指南書と同じところに置いてたから、出掛ける時に取り違えたんだ!」
「全然違う本なのに……取り違えたりするか?」
「パイモン、人には誰だってミスがあるよ。」
「そうだよ、パイモン! 私たちが間違えてパイモンを獣肉だと思って調理しても恨まないでね。」
パイモンは「ひぇっ!」と声を上げてアンバーの後ろへと隠れる。
「怖いこと言うなよ! おいらを食べようとしたら天地が割れてその隙間から魔王が出てくるんだぞ!!」
「なんだそりゃ……それ、七神より凄くない?」
「当たり前だぞ! おいらを食べようとしなければそいつは出てこないけどな!! な!! お、おい! 近付くなよ!! 魔王が出てくるぞ!! 良いのか?!!」
カルミアと蛍はニヤニヤと笑いながら、口をあーんと開けてパイモンに近寄る。パイモンはひぃいいと恐怖に声を漏らしながら、自慢の羽? 翼? で旅人たちが手の届かないところまで飛んでいく。
「こ、ここならおいらを捕らえることは出来ないぞ!!」
「違うよ、パイモン……ここにはモンドの精鋭、優秀な偵察騎士にして弓の名手であるアンバーがいるんだよ? 撃ち落とされるぐらいなら自分から降りよう。」
「ぬぁあああ! お前ら、おいらを食べようとするなんて最低だぞ!! 大切な旅仲間だろぉ!!」
蛍とカルミアは少し泣きかけているパイモンを見てクスッと笑い、手を招くように振る。
「冗談だよ、パイモン! おいで!!」
「うん、流石の私でもパイモンを食べたりしないから安心して。」
「ほ、本当か?」
「もちろん! ほら、アンバーの話の続きを聞こう。」
パイモンは恐る恐るカルミアたちの元へと戻り、カルミアが抱き寄せたことでパイモンは胸と腕の間ですっぽりとおさまってしまった。
「えっと……こんな話をするのは恥ずかしいんだけど、間違えた原因は、わたしに飛び方を教えてくれたのがこの本だったから……」
つまり、アンバーはこの本を読んで望んだ空の世界を旅すること、それを勇気を出して試み、やがて成功に終わったと……。
「大事なのは強き風ではなく勇気だ、それが君たちをこの世界で初めて飛ぶ鳥にした──
この言葉が、わたしに飛ぶ勇気をくれた…偵察騎士や飛行チャンピオンになれたのも。」
「ま、まぁ、この話はおしまい!さっそくテストを始めようか!」
え? 飛行指南の本を読んでいないのにいきなり試験ですか?
教科書でテスト範囲の勉強をせずしてテストに受けるぐらいに無謀である。
「緊張しないで、いつもと同じように飛べばいいから……」
まぁ、はっきり言えば『飛行指南』を忘れたアンバーが悪いのだから、間違っても一発で不合格を喰らうことはないはず……だよね? アンバー?
カルミアたちの崖の前に風の輪が並ぶように現れる。
「これを通っていって! 安定した飛行で通ること!! カルミア、ふらふらしちゃだめだよ!!」
「ひぇええ……試験だ、試験のトラウマがぁ!!!」
蛍が初手で風の輪めがけて駆け出し、風の翼を展開する。
「ひゃっほ〜〜!!!」
蛍は風の流れに乗るように緩やかで華麗に飛行していく、決して軸はぶれず安定して風の輪めがけて飛んでいる彼女本人は飛行すること自体を楽しんでいるようだ。
蛍が行ったことで次は自分の番であることを自覚し、緊張と恐怖で足が震える。
「大丈夫だよ、カルミア。」
「すぅ……ふぅ、よっしゃあ!! いっけぇえええ!!!」
カルミアは助走をつけて自慢の脚力で一気に加速し、崖から飛び出した。
「カルミア、そこで風の翼をっ!!」
カルミアは背中から風の翼を展開し、全ての風を感じ取ろうと精神を集中させ、優しく吹いてくる風の流れを頬で感じる。
「ふぅうう!!! 安定、安定を維持して……。」
カルミアは落ち着いて、風の流れを感じとって風の輪めがけて通っていく。
「そうそう! 自分で風を感じとって流れるように飛ぶの!!」
カルミアはいつもより安定した状態でふらふらと揺らついている様子もなく、加速していく風の翼の流れるがままに飛んでいく。
カルミアは風の輪を順調に通って少し余裕が出来たのか、全身の筋肉に入った力を少し緩めた途端、一瞬にして風の流れを感じとれなくなり体の平衡感覚が消えて風の流れるがままにではなく、風に流されるがままに、彼女はふらつき、風の翼も体も左右に傾き、目の前の風域に辿り着けるか怪しくなってくる。
「カルミア! 落ち着いて!! 風を感じとってバランスを取るの!! その風域は乗ったら高く上がるからそれも気をつけてね!!」
「お、落ち着け! 落ち着け! 風を感じとれ、集中しろ……風は私、私は風……。」
カルミアは徐々な乱れたバランスを取り戻して、ふらつきがなくなったと同時に風域に乗り上げた。
「ふぉおおお!!! めっちゃ高い!!」
カルミアは大樹よりも高く飛び上がり、大樹の頭の上をすーっと滑らかに通り過ぎていく。
「カルミア、次は右! 右に方向転換してそのまま下へ!!」
「え? み、右?! わ、私まだ方向転換なんて、風の流れるがままなのに……」
「カルミア、流れを操るように自然と体を右に傾けるの!!」
「アンバー! こ、こう?」
後ろから追尾しカルミアにアドバイスを出してくれるアンバーに見せようとするが、それが良くなかったのか、バランスが崩れて右斜め下へ一気に急降下していく。
「あ、カルミア!! カルミア、落ち着いて──いや、あれはもう完全に流されてる!! カルミアあぁぁ!!」
カルミアは風の翼の制御を完全に失って取り戻すのも困難な状態まで陥り、そのままどんどん風の輪を通って加速し更に地面へと接近していく。
「や、やばいやばい! 助けてぇえええ!!」
カルミアは丁度、ゴールまで到着し地面に降り立ったと同時に両手を広げて自慢げにポーズを決めるがその背後でカルミアが風の速さで落ちてきていることを知らない。
「蛍ぅぅぅぅ!! 助けてぇえええ!!」
「カルミアぁあああああ!! 蛍、カルミアを受け止めてあげてぇえええ!!」
二人の声に反応した蛍は振り返るとカルミアがもう目の前まできていた。
「え──」
『──うぐぁっ!!』
カルミアはあの加速した状態から蛍へと突っ込み、二人同時に地面へと倒れた。
「んん! んんん!!」
倒れて直後に違和感を感じた蛍はカルミアの肩をバシバシと叩いて起こそうとする。
「だ、大丈夫?! 旅人、カルミア!」
そこには蛍の上を覆い被さるカルミアの二人の姿があるが、それはまぁ大惨事であった。
まず、カルミアは落ちた時の恐怖で気絶しており、蛍が肩を叩いても退く気配はない。
その上、蛍とカルミアは顔が丁度重なっており、倒れた状態で唇と唇を重ね合っていた。
きっとカルミアが起きていたら、ラッキースケベと声高らかに言っていただろう。
蛍はカルミアの体を押して、彼女を退かすと立ち上がって唇に指を押し当てる。
「カルミアが気絶してて良かったね、起きてたら絶対にあのまま変なことされてたよ。」
「間違いないね、でも正直いってカルミアは顔だけはいいから少しドキッとした。」
忘れてはいけないのは彼女は変態で美女に飢えているが当の彼女本人も究極な美少女なのである。
都会を歩けば、そこにいる全ての男の視線を集めてもおかしくはないレベルの変態でなければその美しさから女神として崇められていてもおかしくはない。
「あれ? 今回はカルミアに怒らないの?」
「うん、だってカルミアはわざとやった訳じゃないし。」
蛍は倒れているカルミアの元に歩み寄ると、彼女を背に抱えてモンドを指さす。
「残りの試験はカルミアはパスにしよう、それに暴風の中でバランスは取れて何でここではバランス取れないのかな?」
蛍の疑問は最もである、あの風魔龍がモンドを襲ってきた時はカルミアは蛍と同じく風の翼を用いて軽やかに動きながら戦っていた。
「状況によって能力が変わるとか? 覚醒するタイプなのかな?」
「ありえないことはないね、この前も神殿の中で私の胸を触ろうとした時にヒルチャールに邪魔されて激怒したんだけど、その時のカルミアは遺跡守衛が十体いても勝てない程に強かったよ。」
「うーん、まぁ彼女は特例で合格! うん、そうしよう! 騎士としてこんな事、本当は有るまじき行為だけど試験も最初はしっかりと飛行できてたし吹き荒れた環境でも安定した飛行は出来ることを知ってるし、合格の条件には十分だよ。」
「でも、旅人はしっかり試験を受けてね! とはいえ、旅人もその飛行技術は知ってるから最終試験だよ!!」
アンバーはモンド城を指さして言う。
「次の試験場はモンド城! 準備が出来たらモンド城で待機しておくから呼びかけてね!」
アンバーはそれだけ言いのこし、颯爽と飛び去って行った。
「カルミア〜! 起きて〜!!」
蛍はカルミアを背に抱えている状態で軽く何度か跳躍し揺らすが、彼女はいっこうに目覚める気配がない。
「だ、大丈夫なのか? カルミア……おいら、こいつが起きないかもしれないと思うと心配で眠れないぞ……。」
「大丈夫だよ、パイモン。カルミアの心臓は動いているから生きてはいるよ、それにこの変態があんなちょっとの衝撃で死ぬような子じゃないって私たちが一番よく知ってるでしょ?」
蛍の言い方はとても友達に向けてとは思えないが、言ってることは事実だ。
カルミアは風の翼の加速に乗った状態で地面に追突しても死ぬような脆い体をしてはいない。
まぁ、ぷにぷにと柔らかい感触ではあるが……蛍は背にカルミアを抱えておもっていた。
美女に飢えていながら、自分も中々の体と顔を持っているって相当な欲張りじゃないかと。
正直、自分の胸を揉んでいればいいのに……とも思う程にカルミアは大きいし形も整っている。
「とりあえず、カルミアは疲れたみたいだから寝かせてあげよう。今までずっと動きっぱなしだったし。」
「そうだな! とりあえず、カルミアをどこかの宿で寝かせてからアンバーの所へ向かおうぜ!」
~~~
「お待たせ! アンバー!!」
「おっ、あれ? カルミアはどうしたの? 特例合格とはいえ、彼女も見学ぐらいは……」
「カルミアなら宿で寝てるぞ! 疲労が溜まってたことも相まってあのまま睡眠に切り替わったみたい。」
アンバーは納得したのか、頷いて、切り替える。
「最終試験はこのモンド城内を飛び回るんだよ! 家とかの障害物にぶつかったら即失格! 人の住む家だからぜぇええったいにぶつかっちゃダメだからね?」
「居住区域で試験なんてするなよ……それに人の家を障害物にするなんて騎士団も無茶苦茶だぞ……」
パイモンの言っていることは最もで、説明された蛍も一瞬「え? 本気で言ってんの?」といった顔で首を傾げる。
「本気だよ。準備が出来次第、その柵の上に立ってスタートね!」
蛍は周りから視線を集め、失敗に対する恐怖の緊張と本当に居住区で試験をしていいのかという疑問に包まれながらも脚をバネのように弾いて高く、そして前へ跳躍した。
「飛行免許、最終試験! れっつー!」
「ゴーっ!!」
~~~
「おーい! そこの飛んでる人! 降りてきてくれ!」
それは蛍が飛び始めてから暫くが経った頃、西風騎士団本部の上を飛行していると見回りの騎士に呼び止められた。
蛍は試験中とはいえ、過ぎ去ってあらぬ疑いをかけられない為にもその場で降り立った。
「西風騎士団だ、今いいか?」
「えっ、何かしたか?!」
パイモンと蛍は呼び止められる理由が分からず、首を傾げる。
「飛行免許を見せてくれる?」
「ウ、ウサギ伯爵に食べられた……」
蛍の意味不明な言い訳に騎士は額に手を当ててため息を吐く。
「免許なしか、モンド治安管理法第七条十二項に従い、騎士団まで来てもらおう!」
騎士は胸に手を当てて言う。
「君には黙秘権があるが、君の言葉は全て風が覚えている。」
いやいや、私は今その飛行免許を手にするために飛んでいたのに飛行免許無しで捕まるなんてあまりにも理不尽すぎない?!
「待って! 今、飛行免許のテスト中なの。」
蛍たちが焦っていると横からアンバーが騎士に弁明してくれる。
「あ、そうだったのか……このタイミングでテストとは、間が悪いな。」
「なにかあったの?」
「『怪鳥』が風の翼で逃げていったと、修道女から通報があってね、だから君もヤツの仲間かと思ったんだ。」
「怪鳥? 誰だそいつ?」
パイモンも蛍もモンドに来て日を跨いですらいない、『怪鳥』だったり『四風守護』だったりと覚えることが多すぎて二人は頭を唸らせる。
「モンドの犯罪者だ。いつも風の翼を使って犯行に及ぶから、『怪鳥』の名がついた。」
「飛行のプロか。なら、このアンバーの出番だね! どこへ逃げたか分かる?」
アンバーなら風の翼で逃げる犯人も簡単に捕まえられるだろう、なんたって彼女はモンドの飛行チャンピオン。
モンド発祥の風の翼で、モンドの風の翼のチャンピオンならテイワット一番の飛行チャンピオンと言ってもいい、そんな相手に追われては流石の『怪鳥』も逃げを諦めるしかないだろう。
「最後に目撃したのは清泉町周辺だけど、もう時間が経ってるからね……」
「安心して! ちょうど旅人もいるし、その怪鳥を捕まえてあげるよ!」
「あれ、飛行免許は……」
アンバーは「あっ」と思い出したといった顔になり、てへっと笑いながら言う。
「怪鳥を捕まえたら、直接発行して……ジンさんには説明してあげるから!」
「本当かよ! ま、まぁでもこんな所で留まってても犯人が遠くへ行くだけだし急ごう!!」
「そうだね、清泉町の辺りだって言ってたよね。」
アンバー、蛍、パイモンの三人は清泉町に向けて駆け出した。
~~~
「この先の清泉町に『怪鳥』の手がかりがあるはずだよ。」
着いた先は横に湖があり、その隔てりを越えた先にモンド城がある、報告された時点では犯人はそこまで遠くに行ってないという事が分かる。
それにここは人気が少ないが、それ以上に開けた場所も多いので身を隠すにしても場所が限られてくる。
さらに言うなら、清泉町に住む人はモンド城と比べて少ないので全員が全員の顔を覚えていてもおかしくはない、見ない顔がいるとすればそれは彼らにとって特徴的で聞き込みすればいずれその容姿も想像がつく。
「『怪鳥』が盗んだ物には風元素で目印がついてるから……」
「元素視角でこの辺りを探してみよう。」
元素力を残していくなんて何かの罠か? それとも純粋なバカなのか?
どちらにせよ、得られる情報は得るまで。
蛍は目を閉じて元素力を肌で感じとる、瞼の先で同じ世界が映し出され、そこに映る全ての元素を見分けていく。
「あれは炎元素……料理鍋か。 あれは水元素……池か。 あれは草元素? 木箱かな。」
「旅人、風元素だ! 風元素を見つけてくれ!!」
「あった! そこに落ちてる木の枝? に元素力が!」
蛍は目を開けて駆け寄るとそこには折れた木の枝のようなものが落ちていた。
蛍の元素視角ではその枝が風元素を纏っていると示しており、それを見たパイモンが冴えているのか、鋭い推察をする。
「折れた木の枝に見えるね?」
「風の翼の骨かもしれない! もしや……」
さらに進むと風元素を纏うボロボロな布切れが落ちていた。
「この、ボロボロの布切れ……風元素の痕跡がある。」
次はアンバーが元素視角を用いて発見したもので、それは風の翼の風を感じるのに一番大切な羽の部分であった。
「この模様と編み方からして、風の翼が破けたものかも。」
「そんなんで風の翼だって分かるのか? さすが偵察騎士……」
パイモンはアンバーの鋭い推察に驚いているが、パイモンもまた最初に風の翼の部品ではないかと言っていた。
蛍から見て、アンバーもパイモンもこういう推理系の依頼に長けているのでは? と思い、推理の時は二人の後ろで戦闘の時だけ前線に加わろうと思った。
「これが怪鳥のなら、ヤツの風の翼はもう壊れてるみたいだね。」
元素視角を持つアンバーと蛍が周囲を見ながら歩いていると、風スライムに似た痕跡が落ちていることに気付いて歩み寄る。
「風スライムは飛べるから、これを踏んで飛ぼうした人がいない限り怪鳥のだろうね。」
アンバーはポケットから紙と筆を取ると痕跡を見ながらメモに記していく。
「とにかく、痕跡がはっきりと残っているから記録しておこう。」
元素視角を用いて見ていれば、その痕跡は先まで続いており、それを辿ればこの痕跡の主が分かるかもしれない。
「旅人、痕跡を追ってみよう。」
蛍たちが痕跡を辿っていこうとした矢先、少し先の方で大きな音が頻繁に鳴り響いている。
「ん? なんだか騒がしいな……」
アンバーはすぐにその音の正体を理解すると、慌てた様子でその場にいた二人も驚く事を言う。
「戦いの音だ。まさか怪鳥っ?!──早く行こう!」
~~~
戦いの音がする方へと駆けるとそこにはヒルチャール二体に襲われている男の人がいた。
「アンバーは左! 私は右をやる!!」
蛍はそれを見た途端、戦闘態勢へと切り替わって『降臨の剣』を構えて加速していく。
「了解っ! チャンピオンの凄さは飛行だけじゃないんだからッ!!」
アンバーの放った炎元素の矢は突き進んでいき、抵抗で襲ってくる空気を利用し更にその炎は燃焼していく。
「風刃ッ!!」
蛍は『降臨の剣』をヒルチャールに投げ、それを躱した彼の硬直を狙って片腕を突き出し、真空の渦を生成してヒルチャールを高速回転する渦の中に呑み込んだ。
「ふぅ……百発百中!」「んん、降臨の剣を投げちゃった。」
アンバーと蛍は戦闘を終えて襲われていた男性のもとへと歩み寄る。
「よかった! 西風騎士団の人がいれば、ヒルチャールも手を出せないはずだ……」
何故、この男性はヒルチャールに襲われていたのだろうか?
風魔龍の影響もあって、近辺で魔物の被害が続出しているからそれと同じ偶然であることも否定しがたいが、今遂行している任務と相まってどうしても『怪鳥』という存在を疑ってしまう。
「何があったの?」
「はぁ……ヒルチャールに襲われてね。俺は足が速いから何とかなったけど………。」
「ヒルチャールに襲われた? でも、ヒルチャールの集落がほとんど潰したのに……。」
アンバーは共に集落を潰した仲間なので一番よく知っている。
「小さな集落なんだ。町から離れてないから、俺も普段はそこを避けるようにしている。」
蛍やアンバーたちもモンド全域を把握しきれている訳ではないので、彼の言っていることを一概に否定はできなかった。
そして、彼が放った次の言葉で二人は確信する。
「でも、そのヒルチャールの集落に、空から人が降ってきたんだよ!」
空から人が落ちたというのは、恐らく『怪鳥』が飛行中に風の翼が故障し、空中でパーツが分解されて痕跡として各地に残り、本人はヒルチャール集落に落ちたと。
「それでヒルチャールが暴れだして、その人を追ってヤツらが出てきたんだ!」
興奮状態のヒルチャールが手に負えず、『怪鳥』とその現場の近くにいたこの人はヒルチャールから逃げた……。
「俺は逃げれたけど、果物を運ぶ車は全部壊されちまった。明日からどうすればいいんだ──」
「お気の毒に……。」
蛍は同情の眼差しを向けて慰めるが、そんなのどうでもいいと言わんばかりにアンバーは尋ねる。
「その人ってどんな感じ?」
「何かを抱えてたな、ふらふらと飛んでいて……ああ、その抱えていた物のせいで落ちたんだな。」
「重い荷物……文化財を抱えて逃げた怪鳥かもしれない。」
重い荷物を抱えての飛行は規則違反だ、これはどう足掻いても犯罪者である。
「その人が何処に逃げたか分かる?」
その男は先程までの微かな記憶を必死に思い出して、森の方へと指をさす。
「俺も逃げるので精一杯だったからな……あっちの方に逃げた気がするけど。」
これで方角が分かれば、後は全力疾走あるのみだ。
「何とか手掛かりは掴めたね! 旅人、さっそく追いかけよう!」
蛍とアンバー、パイモンが手がかりを元に辿っていくと、その先で数人の宝盗団が待ち構えていた。
「くっ! 旅人、怪鳥の手がかりがなくなる前に倒して追いかけよう!!」
「任せて。」
蛍は『降臨の剣』を構えて、弓と投擲瓶を構える宝盗団たちめがけて風の乗った飛ぶ斬撃を放った。
「はァッ!!」
その風の斬撃は容赦なく弓と瓶を持つ数人の宝盗団たちを薙ぎ倒し、蛍の身にできた硬直の隙を突くように残った刃物や鈍器を持つ宝盗団たちが群がる。
「蛍! 絶対に避けてよ!! 雨のような矢をッ!!」
「っ?! 風よ、来たれ!!」
蛍は頭上から降り注がれる炎の矢に気付き、自身の足に風元素の球体を生み出し、爆発させてその場から離れる。
「ぐわぁああ!!」「うぐっ! 相手を間違えたぁ!!」
正直いって、今のアンバーの攻撃は蛍でなければ味方もろとも焼け死んでいた、蛍が相当な熟練者である事が成功に繋がったのである。つまるところ、蛍なら必ず避けられるのでさほど問題ではない。
それをまるで分かりきっていたかのようにアンバーはピースサインを向けてくる。
「旅人、さっきみたいに待ち構えてるヤツらがいるかもしれないから警戒してね!」
「分かってる、それよりも私はアンバーの攻撃の方が怖かったりする。」
アンバーは頭の後ろをかきながら舌を出す。
「ごめんね、次からは気をつけるよ。」
~~~
「ここが怪鳥の逃げ込んだ先だと思うよ、アジトかな?」
あれから複数回、待ち構えていた宝盗団との戦闘をして追いかけてを繰り返していると怪鳥が逃げ込んだ洞窟を見つけ、いよいよこの逃走劇もファイナルを迎えそうである。
「私たち、二人でいけるかな?」
「大丈夫だよ、旅人! それとももう目の前にいるのにカルミアを呼びに戻る?」
蛍はぶんぶんと首を振って剣を構える。
「そうこなくっちゃ! バックアップは任せて、前線はお願いね!」
「任せ、任された。」
彼女達は、怪鳥のアジトと思われる洞窟へと足を踏み込んだ。
~~~
「ここから一本道だから、怪鳥はこの先にいるはず……」
アンバーの空間把握能力の凄さに引きながらも、入口の高所から降りた先で待ち構えている弓ヒルチャールたちを睨む。
「でもこの様子じゃ、追いつくには飛ぶしかなさそうだね。」
「おい! 下に敵がたくさんいるぞ! 飛んだら攻撃されないか?」
パイモンの言うことが最もである。中途半端な低空飛行をしようものなら下で弓ヒルチャールが待ち構えているのでその上を飛ぼうものなら、確実に射抜かれて終わりだ。
「うん、先に進むには飛びながら敵を倒すしかないようだね。」
アンバーは弓ヒルチャールたちを指さして言う。
「最後と言ったけど、特例の最終テスト! これを突破したら確実に合格!」
「えぇ?! 敵を倒しながら飛行するのをテストに組み込むなんて鬼畜すぎるぞ! カルミアが見たら気絶しそうだな。」
「ふふん、じゃあ飛ぼう! 拒否権はないよ? 旅人、全ての敵を倒してね! 怪鳥と飛行免許はこの先だよ!!」
アンバーのにこやかな笑顔で言われるド畜生な言葉に蛍とパイモンは言葉を失う。
だが、ここで留まっていても何も始まらないので蛍は片手剣に風の力を乗せて、風域めがけて一気に加速し跳躍した。
「よーい! スタート!!」
アンバーの合図と共に蛍の空中敵殲滅試験は始まりを告げる。
早速、三体の弓ヒルチャールに見つかった蛍は風元素の刃をひたすらに飛ばして攻撃する。正直いって、これ以外に蛍ができる遠距離での攻撃はないのだ。
とはいえ、蛍も戦闘の熟練者であるが故に攻撃手段が絞られても不利になる事はなかった。
ただひたすらに風の刃を放つのではなく、一度に重い風の刃を放ち、着弾と同時に広範囲にダメージをのこしていく範囲攻撃型にしたのだ、これならば出鱈目に撃って外すよりも確実に当たる。
「Upa! yaya!!」
それでも、蛍一人に対して待ち構えているヒルチャールは三体に限ってではなく、少し進めば高所にいる弓ヒルチャールや群れで固まっている弓ヒルチャールがいた。
彼らが蛍の存在に気付くと一斉に矢を放ち、そのほとんどが蛍に当たりはしなかったが一本だけが蛍の腕を掠った。
「いたっ! もういいや……これぐらい固まってるなら使える──」
蛍は自身の剣にありったけの風元素を集わせ、それを刀身の中で回転する小さな竜巻へと変えていく。
「消えるんだッ──」
蛍はすっと剣を振り払うと溜められていた風元素の竜巻が弓ヒルチャールたちのもとへ落ちていき、そのまま着地地点で弓ヒルチャール達をまとめて吸い込み、高速回転の渦で彼らの生命力を奪っていく。
やがて、晴れた竜巻からは絶命したヒルチャール達が放り出され、灰と化して消えていった。
最初から使えばという話ではあるが、たかが三体のヒルチャールに元素爆発を放つよりかは後に備えて、このようなピンチな時に使うのが一番である。
ヒルチャールを殲滅した蛍とアンバーは開いた扉を潜って風の輪を通り、加速しながら離れた先の崩壊した遺跡に入る。
入った矢先で再び、ヒルチャールが弓を構えて待っていた。
「うわ! ヒルチャールがいっぱいいる、旅人! 当たらないように気をつけてね!!」
蛍が風の刃を放つ隣でアンバーも自分の弓で飛びながらヒルチャールを射抜いていた。 飛びながら的を当てるなど、常人には不可能な程の弓術ではあるがそれを平然として可能とするアンバーもとい清風騎士団は恐ろしく感じる。
蛍はジンジンと痛み、血が垂れる腕を片手が剣を握ってるので押さえることも出来ず、その痛みを風に晒されて顔を歪ませる。
「すぅ……はぁッ!!」
蛍はその痛みに苦しみ、風の刃の狙いが定まらず溜める事さえもしていないので着弾時に爆発するエネルギーもなく、地面に衝突したと同時に小さな風を吹かして消えていく。
「旅人ッ!!」
蛍は空中でゆらゆらと飛んでいたが、そこを弓ヒルチャールたちが一斉に狙いを定めて放った。
「あ……アンバーッ!!」
蛍が受けるはずだった矢のほとんどをアンバーが咄嗟に前に出て庇ったおかげでアンバーの四肢を掠り、血を流しながら痛みに顔を歪ませる。
「っ! はァッ!!」
蛍は爆弾樽の存在に気付き、その樽めがけて風の刃を放ち、弓ヒルチャールたちをまとめて爆散させる。
「アンバー! いたッ!!……」
ヒルチャールを全部倒したことでさらに開いた扉を蛍はアンバーを抱えながら潜った。
「よし……後は怪鳥を追って地上戦だよ。」
地上戦、ようやく蛍の本領を発揮できるというところで既に彼女とアンバーは怪我をしており、それもただの掠り傷ではなく視界がゆらゆらと揺らいでいる事から何か弱い毒のようなものが塗りこまれた矢だと思える。
「あ、アンバー……これ、まずいかも………!」
「旅人、しっかりして……後は怪鳥を追いかけて捕まえるだけだよ!」
平衡感覚が安定しない旅人を抱えてアンバーは足を引きずりながら、先へと進んでいく。
いつも戦闘には加わることの出来ない非戦闘員のパイモンが二人の後を追って来たが、あまりにも辛そうな二人を止めに入る。
「お、おい! そんなフラフラじゃ危ないぞ! 勝てる相手も勝てないぞ!!」
パイモンが必死に訴えるが、二人にとってはここまで進んできて引き下がり、被害をさらに拡大化させたくはないという思いが強く、歩みを止めなかった。
「yaya!」
遺跡の曲がり角で振り返ると、呆然と立ち尽くしていた赤い肌の松明を持ったヒルチャールがその松明に火を付けて振り回し始める。
「くぅッ! 風刃ッ!!」
蛍はぐらぐらしながらも片腕を突き出して真空の渦を作り出し、松明ヒルチャールを吸い込む。
「あっつぃ!!」
松明ヒルチャールが吸い込まれる時に奪われるように吸い込まれた松明の火が蛍の腕に触れ、小さな火傷となった。
「旅人! 下がるぞ! カルミアを呼んでもう一回来たらいいじゃないか!!」
蛍はアンバーと共にパイモンの声を押しのけて突き進む。
蛍の中でひとつ、思うことがあった。
カルミアがいればこの旅の中での私の存在理由って何? と、そもそもこの旅は私が始めてそこにパイモンとカルミアが着いてきたが今となっては私とカルミアは同じ旅であり、戦闘能力や生活力、そういった冒険者としても旅人としてもその実力は私を超える程に優秀であり、もはやカルミアにとって私はいらなくて自分一人で完結しているのでは? と思ってしまう。
こう思わされるということは、それだけ彼女が『自由』であり『自由だからこそ自分一人で完結する』という言葉を体現しているのだろうか?
パイモンやカルミアが私を不要といい、離れていって欲しくない。
正直、私はあまり喋るキャラでもなければカルミアみたいに個性豊かな性格でもない、だからこそ思う……いつか本当に私は捨てられてカルミアとパイモンは何処か遠くへ行ってしまうんじゃないかと。
そんな事が起こらないためにも、私も私なりに自分の存在価値を人に見せつけて、カルミアやパイモンに私は必要不可欠であると教えなければいけない。
ここでどれだけの傷を負い、例え片目を失っても、片腕を、片足を失っても歯を食いしばってこの依頼を達成し、きっと宿で眠っているカルミアに自慢してやるんだ。
君の仲間はこんなにも優秀なんだよ、と教えてあげるんだ。
『旅人ッ!!』
蛍の視界はふらつき、目の前に何がいるのかさえわかっていない。
彼女の柔らかく美しい腕に一本の矢が突き刺さった。
「あがぁッ!! いたい、何が起こって……?」
蛍の腕には一本の矢が綺麗に刺さっており、引っこ抜けば穴があき、血をダラダラと垂れ流すだろう。
「旅人、その矢は抜いちゃダメ! 止血できる環境になるまで頑張って!!」
蛍には目の前で何が起きているのか分からなかった。
ただ、自分の存在価値をカルミアに教えたかった、パイモンに教えたかった。
もう、お兄ちゃんみたいに二人が私から離れていってほしくなかった。
「ハハハッ! なんだ、この程度か! ここまで逃げて損したよ。 それに二人とも、中々に肉付きのいい体をしているな……これは高く売れそうだ、その前に楽しませてもらうがね!」
「あなたは……怪鳥ッ!!」
「ふん! 本当なら私の子分を使って弱らせてから倒そうと思ったが、その必要も無さそうだ。 もう十分に弱っているようだから、早速お楽しみといこうか!」
「くっ! パイモン、旅人を担いで逃げられたりしない?」
「が、頑張ってみるぞ! ふんぬぅううう! うううう!!」
アンバーは意識が朦朧としている蛍をパイモンに預けて、弓を構える。
「私の名はアンバー! 西風騎士団、最後の偵察騎士にしてモンドの飛行チャンピオン! そう簡単に倒れる程、やわな鍛え方はしてないわ!!」
「ふん、お前だけはまだ体力が余ってたか……仕方ない、お前ら! この小娘をやれ! 私はあっちの娘を楽しむ、お前らはこいつを好きにしろ。」
弓を構えるアンバーに大柄の男たちが容赦なく、ジリジリと迫ってくる。
「あ、アンバー……何が、起こって?」
矢が貫いた腕の痛みにもはや、感覚が麻痺しており、毒の影響で意識も緩い糸のように引っ張ってしまえば簡単に解けてしまう程に脆い意識の中で微かに見える赤と茶色の人のような影に手を伸ばす。
きっと、あれがアンバーで間違いない。
アンバーが危ない、助けないと! 私もまだ戦える、ここで倒れたらパイモンにカルミアに……嫌だ、もう離れないで! 私は頑張れる、もう負けない! 負けたから離れた、なら負けなければ離れることなんてない!!
蛍はパイモンの引っ張る手をそっと優しく離して、左右にふらふらとなりながらも必死にアンバーのもとへ歩み寄る。
「た、旅人! もう無理だぞ!!」
「私は絶対に逃げない! 負けない!! もう誰も失いたくないんだよ!!」
蛍は朦朧とした意識の中で『降臨の剣』を宝盗団の影めがけて投げようとした。
その時、蛍の手を誰かの優しくそれでいて頼りがいのある手が包み、彼女に囁いた。
「捨てたりしない、蛍は私の大切な旅仲間なんだから。ここまでよく頑張ったね、あとは任せてゆっくり休んでて。」
彼女の温かい手と安心できる言葉に蛍の意識はぷつりと切れた。
~~~
「ふぅ……うちの蛍をここまでした挙句、捕らえて犯すとまで言ってたね?」
カルミアは黎明の神剣を地面に突き刺し、『降臨の剣』を拾う。
『降臨の剣』は前回と同じ拒否反応を起こすが、カルミアは表情ひとつ変えずに覇気のある声で言った。
「今だけはお前の主を苦しめた奴をボコすために私に力を貸せ。」
『降臨の剣』は彼女に力を貸すと思わせるように火傷痕がゆっくりと消えていく。
「お、お前は誰だッ! お前のような存在は報告にないぞ!!」
「そりゃそうでしょ、アンバーと蛍が前線張ってくれてたんだから、自慢の諜報員は全員私が潰せたよ。」
「ふん、まぁいい! お前ごとき小柄な女一人で何が出来る! お前ら、その女だけは絶対に捕らえろ、一番綺麗だからな……これは楽しみ甲斐が──」
カルミアが『降臨の剣』を一振り、下卑た笑みで迫っていた宝盗団めがけて払うと真空の刃に光の粒子が纏い、かつての風魔龍が起こした竜巻のような暴風を撒き散らして『怪鳥』の子分をまとめて全員、壁へ叩きつけるように吹き飛ばした。
カルミアの放った暴風は凄まじく、叩きつけられた宝盗団はその一撃で意識を失った。
「嘘……これがカルミアの本気……?」
蛍は既に意識を失っているが、アンバーとパイモンだけは未だ立っており、今の常人を超えた一撃にアンバーは驚愕する。
「な、何者だ、お前はぁッ!!」
「私? 私は自由の星女─カルミア、私の
彼女は『降臨の剣』を片手に『怪鳥』にジリジリと迫っていく。
「く、来るなッ!! 化け物めッ!! 神の目も持たずしてそんな力、お前のような人間がこの世界にいていいはずがない!! お前のような化け物に居場所なんてねぇんだよ!!」
カルミアはぴたっとその歩みを止める、今の彼女にとってその言葉はどの槍よりも鋭い突きである。
それでも、そんな槍を防ぐ最強の盾が私にはいる。
蛍が、パイモンが私に居場所をくれた。二人が私に仲間を教えてくれた、信頼を教えてくれた、独りの寂しさを忘れさせようとしてくれた。
「黙れ。もういい、自由なる星女が命ずる──とっとと早く、死ね。」
カルミアは『降臨の剣』が纏う光の粒子を剣先に集めて『怪鳥』に狙いを定める。
「ま、待って! その人は殺しちゃダメ、捕らえて情報を聞き出さないと!」
カルミアは剣先を『怪鳥』めがけて突き、剣先から放たれた光の粒子が矛となって『怪鳥』の片腕を吹き飛ばした。
「あがぁああああ!! い、いたい!! いたい!!」
「蛍が味わった痛みだ、そのまま悶え苦しんで死んでくれればいいのに。」
カルミアは『降臨の剣』を納め、倒れた蛍を背に抱えて洞窟の出口へと足を進める。
「アンバー、後処理お願いしていいかな? その体で出来そう?」
「う、うん……あ、応援だけお願いしてもいい?」
「分かった。まずは蛍を宿に寝かしてくるね。」
カルミアは人並外れた跳躍力で洞窟を後にした。
~~~
「ん……んん? ここは?」
目が覚めると霞んだ視界に塗装された木の天井が映りこむ。
蛍は体を起こして目を擦り、徐々に広がっていく鮮明で綺麗な視界で周囲を見渡す。
蛍はあの後、カルミアに運ばれて宿へと戻り、ベッドの上で寝かされていたようだ。
矢が突き刺さっていた腕とかすり傷の場所には包帯が巻かれており、痛みも先程の時よりは遥かに引いている。
ふと、感じた腕の温かみに目線を落とすとベッドに頭と手をもたれかかって寝ているカルミアと蛍の掛け布団とお腹の間で寝ているパイモンがいた。
二人は凄く幸せそうな顔で寝ており、きっとそのまんま幸せそうな夢を見ているのだろう。
蛍は両手で二人の頭を撫でる。
「ありがとう……カルミア、パイモン。 捨てないと聞いてすごく安心できた、もう無茶はしないよ。」
「んん……ん? 蛍?」
頭を撫ですぎたのか、カルミアが起きて目を擦り、こちらを向く。
「おはよう、助けてくれてありがとね! カルミア──」
「──バカ! 蛍が私に仲間だって言ってくれたんだよ! 私たちはずっとずっと、ずーっと一緒! 旅の最後なんてない、この先永遠に一緒!! 絶対に離れたりしない!! だから、一人で無茶しないで? 死んだら流石の私でもどうにも出来ないんだから……。」
カルミアはガバッと蛍に強く抱きついて、涙を流す。
「ごめんね……もう無茶なんてしない、私が仲間だって言ったのに私が忘れてたなんて阿呆な話だよね……でも、もう大丈夫! もう私は失う悲しみもないんだから。」
「当たり前じゃん、この超究極な完璧美少女であるカルミア様がいる限りは失うこともない! それに完璧とはいえ、私も持っていないものを蛍は持ってる。それだけで十分、あなたの価値はあると思うよ?」
「ふふ……そうだ、飛行免許は……?」
カルミアはポケットから二枚の『飛行免許』を取り出して、蛍に一枚、『飛行免許』を渡す。
「おぉ、これがあればもう騎士にも止められないね。」
「だね! まぁでも、暫くは無茶なことは出来ないかな?」
カルミアは蛍の腕を見て言う、彼女の腕は包帯に巻かれているがその中は穴の空いたグロテスクな状態だ。
「うん、でも風魔龍の件もあるし戦闘は任せてもいい? それ以外なら出来そう。」
「わかった、じゃあとりあえず……揉ませろッ!!」
「いやぁ! 私、今患者だよ?!」
カルミアは蛍の柔らかく整った双丘を揉みしだいて、ニヤつく。
「ふへへ、素晴らしきかなおっぱい!! これは誰もが羨む光景だ! いや、素晴らしい! やはり、私は自由だ!! いっその事、この乳を吸わせ──ぐえ。」
「それはダメ、もうそれはお巫山戯のレベルを超えちゃってる。」
蛍は口をムムムと寄せていたカルミアの首を掴んで押し離す。
「ちぇ、ママの味を堪能させろよ! まぁいいや、今日はもうこのまま寝ちゃお。」
カルミアは蛍の膝の上に頭を乗せてパイモンを抱き寄せると三人で一緒に陽の差す温かな布団の上で再び眠った。
二日、お待たせしましたー!
いや、今回は一万八千文字ですね!! 長い!!
次回からまた魔神任務の方に戻ります! 第二幕です!!
そしてそろそろ、カルミアの第一能力も解放されるんじゃないかなーと考えてます。
ようやく、カルミアちゃんの強さが少しだけ見れますよ!!
作中におけるカルミアたちの下ネタや暴言をどこまで許します?
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ち─こみたいな伏字があるなら許せる。
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ち○こみたいな伏字があるなら許せる。
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────って完全に─で伏せて欲しい。
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ちんこってもろに言って欲しい。興奮する
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カルミアは下ネタを言う変態じゃない!
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カルミアは伏せたら何も残らない!