Genshin Impact ~第五の降臨者~   作:三枝愛依

11 / 17
そろそろ、まじでいい加減。
カルミアちゃんの第一能力を解放したい。

戦闘に飽きが出てきたし、パターン化もしてきた。


序章 第二幕 涙のない明日のために
陰の下のモンド、予期せぬ出会い。


『怪鳥』の一件が過ぎてから、カルミア達は再びトワリンの件に戻るべく西風騎士団から任務を与えられるのを待っていた。

 

「んんー! これ美味しい!!」

「このクリームも甘くて美味しいぞ!!」

「私もこれを買って正解だった。」

 

待っているとは言え、ただ宿で待機する訳ではなくモンド城内を自由に歩き回っていた。

モンド城内であれば、歩き回っていても西風騎士団の見える範囲なのですぐに任務を任せることが出来るとジンに言われたためだ。

 

まぁ、もっともカルミア達は西風騎士団の一員ではないので受ける義理はないのだが、彼女たちは『正義のヒーロー』なので困っている人達は助けるのがモットーなのである。

 

「はむはむ……ん? あれ、ジンじゃない?」

 

彼女たちはスイーツを食べながらモンド城内をぐるぐると歩いていると仮面をつけた女と建物の前で話しているジンを見つけた。

 

「本当だ、ジン団長が誰かと話してるぞ!」

「うーん、あの仮面見た事ないなぁ……」

 

仮面をつけた女、それだけで今のモンドでは少し不審者である。

『怪鳥』だったり『神剣を信じる宝盗団』だったり『トワリン』だったりと色々と重なって危ない事件が起きているモンドであからさまに顔を隠して過ごすなど、もはや騎士団に話しかけてくださいと言ってるようなもの。

 

それも相手が西風騎士団の代理団長、遺跡守衛を素手で破壊するジンとあればあの女が危ない人物とわかった途端、それが彼女の最後だ。

 

「話が終わったら挨拶しとくか?」

「そうだね、私たちは色々と西風騎士団に助けられてるし、礼儀は重んじないと。」

 

~~~

 

「……それが我々の立場だ──直ちに魔龍を滅ぼすことが出来ないのなら、モンドの防衛を『ファデュイ』に渡した方がよいかと。」

 

どうやら、彼女とジンの会話は平和的なものではないようだ。

それに仮面をつけている彼女が所属する組織は『ファデュイ』と言うらしい。

 

「モンドの龍災はなんとかなる、我々があのケダモノを……」

 

「『ケダモノ』?」

 

モンドの守護は西風騎士団の管轄だ。それをモンドという国と深く親しい仲があるわけでもない『ファデュイ』とかいう組織に渡すなど、モンド国民も許さないだろう。

 

それに『ファデュイ』がどんな組織かは不明だが、皆はジンを信じている。西風騎士団を信じている。

その現状で西風騎士団がモンド国民を裏切るような事をすればこの国は終わるだろう、民の信頼を失った国など、治安もクソもない。

あるのは『自由』という言葉を掲げて起こすデモ、モンド内で戦争さえも起こるかもしれない。

 

「おや? 代理団長殿は違うとでも?」

 

ジンは『トワリン』を『ケダモノ』と言われたことが癇に障ったようだ。

 

「はぁ……」

 

『ファデュイ』の女が強気に出てはいるが、それも全て軽くあしらってしまうようにジンは深いため息を吐いて、腕を組む。ジンは彼女に完全に呆れている。

まぁそれもそうだ、魔龍と呼ばれる彼はかつてモンドを守った四つの存在のうちの一つ『東風の龍─トワリン』なのだから。

 

「貴国の外交官には、もう少しまともな態度を示していただきたい。」

 

ジンの言っている事がごもっともだ。

ジンは、その身から代理団長と呼ばれる相応しい覇気を放ち、その顔は少し怒りへと変わっている。

 

「モンドの四風守護、その一つを『処理』したいだと? ──西風騎士の前でそういう戯言はやめていただきたい。」

 

『ファデュイ』の女は口元を手で隠して嘲笑う。

 

「はっ……はははっ……戯言など滅相もない──よかろう、今日の協議はここまでだ。」

 

あれが協議? ただただ、ジンを煽っているようにしか見えなかった。

 

「今回の成果は『双方が誠実に建設的な意見を交わした』、それでいいかな?」

 

嘘の塊じゃないか……皮被るのはその顔面だけにしておけよ。

 

「事実通りに……記録させてもらう。」

 

事実とは? って思わせてくるような発言だな。

カルミアたちは『ファデュイ』を名乗る仮面の女が去ると同時に額に手を当ててため息を吐くジンに歩み寄る。

 

「あぁ、旅人とカルミアか……おかえり。」

 

「おう! ただいまだぞ!」

 

あれから四風守護の神殿を攻略してから、モンドの元素循環はやっと落ち着いた。

 

「風魔龍の襲撃による余波も、一段落ついた。」

 

あれから、灰のように汚れていた空は蒼、橙、紺の三色が交代して描かれる鮮やかなものへと戻った。

だが、根本的な『トワリン』の暴走を止めることは出来ていない。

 

だから、さっきのような過激派が口うるさく騎士団の仕事に首を突っ込んでくる。

騎士団だって全力で解決に向かおうとしているのに、いい迷惑だ。

 

カルミアは「はぁ……」と深いため息を吐いて肩を竦める。

 

「私がジンの立場なら、間違いなくあの仮面女をぶっ飛ばしてたよ。ジンは心が広いね。」

「ありがとう。でも、西風騎士団はモンド国民を守るための存在、仮にも使節団だからといって守るべき存在に危害を加えては騎士団としての存在理由も矛盾する上に、私も余計に頭を抱えることになるだろうからな。」

 

ジンの言うことは間違ってないし、それがもっともである。

騎士団とは民を守る、いわばこの国の警察のような立場である。

彼女が犯罪者であるなら話は別だが、悪事を犯した訳でもない彼女を無差別に拘束したり、殺傷してはその時点で警察も警察としての意味をなさなくなる。

 

この国から民が逃げていく、そんな事があれば風神・バルバトスも涙を流すだろう。 まぁもっとも、もう長い年月も彼はこの国の統治を放ってどこかへ消えて行ってしまっているので彼がこの国にまだ思い入れがあるのかは別だが。

 

「さて、それよりも使節団側の圧力はもう無視できないほど大きくなっている……。」

 

「使節団……?」

 

まぁ、恐らくはあの『ファデュイ』と名乗っていた仮面女とその組織たちの事だろう。服装から見てどこの国のものかは察しが付かなかったが、ふんぞり返っていた事からろくでもない国から来たのは間違いないだろう。

礼儀というものを知らないようだ。

 

「外交の使節団か……璃月港か? 稲妻城か?」

 

いや、璃月の神は礼儀を欠かさない男だから恐らくは違う。

契約を重んじる国とかいう、えらく堅苦しそうな国で礼儀がないなんて事は考えずらいしあの男を思い出してもないだろう。

 

稲妻もありえないと思う……彼女は確かに自分が神であるが故に少し上から目線な所もあるが、それでも彼女も礼儀を欠かさないし一度言った事は違わない人間、そのようなまともな神が統治している国の使節団があそこまで品のないものとは思えない。

 

まぁ、彼らの話ではなく使節団なので逸れてしまったが、少なくとも私の知っている彼、彼女の性格を引き継いだ国であるならば有り得ない。

 

「スネージナヤ……七神の中で氷神を祀る国家からだ。」

 

スネージナヤ……氷神といえば、あの女か………大層な思想を掲げていた女だったけ。

 

「その使者には名前があってだな……『ファデュイ』、聞いたことはあるか?」

 

「あー、ファデュイか! 聞いたことはあるぞ!!」

 

なるほど、てっきり別の『ファデュイ』かとも思ったけどスネージナヤの『ファデュイ』か。そりゃとんでもなく面倒な奴らに目をつけられたと思う、ジンも苦労してるなぁ。

 

カルミアはジンを同情の眼差しで見る。

 

「パイモンは『ファデュイ』を知ってるの? あんな感じで柄が悪い人たちなの?」

 

蛍は『ファデュイ』の事を知っているパイモンにより詳しくと尋ねる、まぁ彼らに良いイメージはない。

 

「あまりいいイメージはないな。」

 

「風魔龍を殺すことが正しいと、私は思わない。」

 

ジンの言う通りだ。今は暴走しているけれど、『トワリン』も元は神の眷属であり、このモンドを守護してくれた存在。

それを用済みだからだの暴走したからだのという理由で捨ててしまうのは『トワリン』と『風神・バルバトス』の思いを踏みにじるようで、とてもモンド民は出来ないだろう。

信仰心が薄れていようとも、仮にも自分たちの神様で、自分たちの神様の眷属なのだ。

 

「それに、『氷の神』が率いる『ファデュイ』は風神眷属の力を望んでいる。」

 

やっぱりか。『トワリン』を殺すのは十中八九、それが狙いだからだろう。

彼らはモンドの安全や治安維持などではなく、ただただあの女の命令かなにか知らないが風神眷属の力を奪ってこいと言われたのだろう。

 

「はぁ………私の自由だけじゃなくて、同族の神の力さえも奪うのか。」

 

「そうだよな、カルミアは神様と面識があるんだったな。氷の神はどんな奴なんだ?」

 

「会えばわかるよ。いずれ出会うんだから、その時にどういう奴なのか感じ取ればいい。」

 

蛍はあっと何かを思い出した顔を浮かべてポケットの中を探る。

 

「力といえば……騎士団の皆に見せたいものがある。」

 

「うん? ああ……騎士団本部に戻ってからにしよう。──こんな所で大事な話をすべきではないな。」

蛍の『見せたい物』を見せるために、ジンは腕組みを解いてカルミアたちとともに騎士団本部へと戻った。

 

 

 

~~~

 

 

 

騎士団本部に戻ってからジンの部屋に入り、リサとの二人に『トワリン』を最初に見た時に残していった『赤い石』を見せた。

 

「これはある力が含まれた結晶だ……リサ、これの構造分析を頼めるか?」

 

リサさんはしばらくその結晶をじっと見ていたが、腕組みを解いて結晶に手を近づける。

 

「ええ、ちょっと確認するわね。」

 

決して触ることはなく、ただ近づけるだけであったが、それでも蛍たちは少し心配していた。

あの『トワリン』が残していった力、それもここまで不吉なオーラを放っていては爆発してもおかしくはない。

 

「結晶の中に穢れた不純物があるわ。でも、これ以上は……」

 

リサはこくっと頷くとジンの方へ顔を向き直す。

 

「ごめんなさい、今はまだ結論を出せないわ。少し時間を頂戴、禁書エリアで資料を探してくるから。」

 

「ああ、ではリサ、その研究は任せた。」

 

「ええ、何か進展があったら、皆に知らせるわね。──まぁ、あまり古代の文献には期待しないで、それに──いたっ?!」

 

リサは穢れた結晶を研究するために触れようとした途端に起きた。

 

リサは研究のためにこの結晶を受け取らなければならない、その為に手で触れようとさらに近づけた途端に彼女は苦しそうな声を上げた。

 

「あっ……くっ! 結晶の中の不純物に近づくと、痛みが……」

 

リサはその痛みから原因を探るために冷静な分析をしていく。

 

「なるほど、これは『神の目』との相互排除ね。」

 

相互排除? 『神の目』と対になる存在、それならリサが触れられなくて蛍が触れられるのは納得出来る。

 

「この穢れの力は、わたくし達の体内にある元素の力と相殺し合うの。」

 

体内にある元素の力と相殺し合う? ならば、少し疑問が出てくる。

そもそも、蛍の元素の力は体内にあるものではなく体の外側、世界にある元素を引き寄せて使っているということなのか?

 

まぁ、蛍の力の性質はともかく。リサの言うそれが正しいのなら、神の目を持つ物はこれには触れられないという事だ。

 

「でもおかしいわ……旅人も元素の力を使いこなせるのに、影響を受けないのね。」

 

おっ、リサも気付いたか……私も疑問に思う。

彼女が特殊体質だからと言えば、その一言で片付けられるが、このような未知の存在を分析する上でそのような大雑把な結論は許されないだろう。

 

「とにかく、この結晶は可愛い子ちゃん達に持っていてもらおうかしら。わたくし達が持っていても痛みが増すだけですもの。」

 

リサの下した決断がもっともだ。結局、この結晶の分かることは『トワリン』が残していった『穢れた不純物』の混じる『神の目』と相互排除の関係にある結晶だということ。

リサに話す前までは『赤い石』だということしか分からなかったのに、彼女は流石だ。流石、私の嫁候補である。

 

カルミアは自慢げにリサを心の中で褒めた。

 

「不思議な現象だ……」

「とりあえず、少しでも分かったことがあったのは収穫だね。ありがとう、リサ。」

 

蛍は結晶をしまうとジンの投げた質問に答える。

 

「これら君自身の特殊性について、何か心当たりは?」

 

蛍は左右に首を振って否定する。

彼女は自分が外の世界から来たことは知っているが、自分の力についてはイマイチという感じだ。一部の記憶が欠けているのだろう。

 

「そうだろうと思った……では、無理な願いではあるが──旅人よ。」

 

ジンは胸に手を当てて言う。

 

「西風騎士団の『栄誉騎士』の爵位と……代理団長の感謝の気持ちを受け取ってくれ。」

 

「西風騎士団の……栄誉騎士っ?!」

 

パイモンは驚きの声を上げる。蛍が騎士としての爵位を授かったのだ、当然の反応だろう。

 

あ、あれ? 私は? 私には騎士爵位の授かりはないんですかね?

 

「カルミアは……色々とモンド住民へのセクハラ等で問題視されているからな、騎士爵位をあげることは出来ない、今の君は騎士としての器ではないのだ。」

 

「ぐっふ……セクハラだなんて、人間の本能と言ってほしい!」

「そういう所だぞ……。」

 

「はぁ……それから、この謎の答えを探すのに、もう一度力を貸してほしい。」

 

それは蛍に限ってではなく、カルミアにも向けられた言葉であった。

 

「風魔龍の暴走、変わった結晶……その答えはきっとモンドの平和とも関係があると思う──真実に辿り着けるように、風の加護が君達にあらんことを願っている。」

 

「えぇ……なんの褒美もなしにお手伝いなんて………私、騎士の爵位はいらないけど欲しいものがあるなぁ! いやぁ、すこーし我慢してもらったらすぐ終わるのになぁ!」

 

カルミアはどこか不満げに申し立てる。実際、彼女はジンから何も受け取っていない、無償で風魔龍の問題を解決するの手伝ってくれは都合がよすぎる。

 

それに、こんな大きな問題を頼める相手は確かにカルミアと蛍しかいない。でもカルミアに頼むのは間違いだった。

彼女はその両手の指先をワナワナと曲げたり広げたりしていやらしい手でジンに近寄る。

 

「ジンの風圧剣は遺跡守衛を一撃でバラバラに分解したこともあるわよ? 可愛い子ちゃん。」

 

カルミアはリサの言葉にピタッと足を止めて、ジンの顔を見る。

彼女は「はぁ……」と深いため息を吐いて、でも自分の言っていることが都合の良すぎることであると納得したのか、カルミアの手を引っ張って部屋を出ていった。

 

「着いてくるといい。」

「ちょちょ、ジン?! ま、ほ、蛍ぅ!!!」

 

カルミアとジンは反省室に入るとその扉はカチッと施錠された。

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「すごく、大きかった……です。」

反省室に閉じ込められたカルミアがその扉の施錠を解いたのは、二人が入ってから一時間は経過した後だった。

 

カルミアは夢を叶えたといった顔で満足そうに黄昏ている。

その隣でジンは顔を赤らめて胸元の衣服を正していた……。

 

蛍はその光景を見て「はぁ……」と深いため息を吐きながら、カルミアの襟首を掴む。

 

「ジン団長、ごめんなさい。うちのカルミアが。」

「いや、気にしないでくれ。私も報酬も無しで冒険者にものを頼むなんて無粋な事をした、それに……彼女は手慣れているのか?」

 

ジンは最後の一言を少し恥ずかしげに言う、どうやら彼女自身もカルミアへの『報酬』はまんざらでもなかったようだ。

 

カルミアのせいで西風騎士団の秩序が崩れていってると感じた蛍だった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「お、おい! 旅人! ちょっと話があるぞ!!」

 

騎士団本部を出てから少し歩いて、パイモンが旅人を呼び止める。

この間もカルミアはジンとのお楽しみの余韻に浸っていた。

 

「さっき、言わなかったことがあるよな?」

 

「言わなかったこと……?」

 

「あの時、おいらたちが見たのは、龍と結晶の他に……」

 

「でも、彼は悪い人には見えない。」

 

蛍の一言にパイモンはピクっと反応する。

 

「あぁ、やっぱり覚えてたんだな! あの緑のやつ!!」

 

パイモンは柵から見える下の噴水近くを指さす。

 

「──下にいるあの人と同じぐらい。」

 

そこには緑の人が噴水を横切って階段の方へと走っていく姿が見えた。

 

「いや、あれは多分本人だと思う。」

 

「なにっ?!───」

 

蛍とパイモンは余韻に未だ浸っているカルミアを引きずって走っていった緑の人を追いかける。

 

「もう! カルミア、走るよ!! ジン団長の期待に応えないと!!」

 

蛍の最後の一言がカルミアの心に火をつけたのか、まるで電池切れだった人形が電池を入れ替えてもらったかのように急に動き出した。

 

「よっしゃあ! 緑の人だね!! 探しに行くよッ!!」

 

カルミアはモンド城内をかつてない程の速さで駆け回り、すぐに一周すると蛍とパイモンのもとへ戻ってきた。

 

「ふぅ……神像の前にいたよ!!」

 

この間、十秒にも満たないのである。彼女の足の速さは最早、人の域を超えた異常なもの。 流石は自由を体現した存在、その速さも大陸の力に縛られない身体能力である。

 

「よ、よし! じゃあ神像のところに行ってみよう!!」

 

蛍とパイモン、カルミアの言われた通りに神像の方へと走った。

 

 

 

~~~

 

 

 

カルミアたちが向かった神像の前にはあの緑の人が立って、ライアーを弾いている。

そこには多くの人が集まっており、彼は恐らく吟遊詩人なのだろう。

 

カルミアたちはその並びの最前に来て、彼の詩を聞いた。

 

~~~

 

──ボクが話すは 古の始まり。

 

神々がまだ、大地を歩く時代の物語。

 

 

天空の龍が 空から降り立ち

 

世界の万に 好奇を抱く

 

龍は自ら 答えを探し

 

雑然とした世に目を回す

 

 

風の歌い手が 琴をつま弾き

 

天空のライアーが それに答えた

 

龍は好奇に駆られし幼子で

 

過去の苦悩を忘却せしと 飛翔しただけ

 

それは詩に耳を傾け 歌を諳んずる

 

万物に己が心を 理解させるために

 

歌い手と龍は伝説となり

 

暗黒の時代が やがて始まる

 

獅子の牙は朽ち 鷹の旗は落ち

 

一頭の悪龍が モンドに迫る

 

大聖堂は 辛苦の影に包まれ

 

溜め息は 詩人によって再び詩となった

 

天空の龍が 召喚に応じ

 

暴風の中 悪龍と殺戮に舞う

 

天空の龍は 悪龍の毒血を飲み眠りに落ちる

 

蘇りし時 知る者は誰一人いない

 

「今の人々は なぜ我を嫌う?」

 

天空のライアーは 答えず

 

怒りと悲しみ 命と毒が

 

涙となって 龍の目じりから流るる粒となる

 

詩は沈黙し 腐敗は進み

 

天空のライアーは 話せなくなった

 

~~~

 

「おや、君たちは……」

 

緑の吟遊詩人はカルミア達の姿を見て、歩み寄る。

吟遊詩人の詩が終わると集っていた人達はすぐに散っていった。

 

「ふーん……あっ! あの時、『トワリン』を驚かした人達だ!」

 

一瞬、彼はカルミアを見てすぐに蛍たちに視線を戻した。

 

「『トワリン』?」

 

「風魔龍の本来の名前だよ、パイモン。」

 

「あぁ! 思い出したぞ! でも、普通の人は『風魔龍』って呼ばないか? ──なんで名前を……仲がいいのか?」

 

パイモンの鋭い勘に緑の吟遊詩人はにっと笑って答える。

 

「さぁね。」

 

吟遊詩人のいい加減な回答にカルミアは「はぁ……」とため息を吐いて肩をすくめる。

 

「おい、旅人! カルミア! こいつなんか怪しいぞ!」

「怪しいね、とても怪しい。うん、すごく怪しい。」

 

カルミアはまるで敵視しているかの如く、彼に言う。

 

「名前を教えてくれないかな?」

 

蛍の問いに吟遊詩人は柔らかな笑顔を向けて答える。

初見で、彼を見るとものすごく優しそうで温かな雰囲気の吟遊詩人だ。

 

「ボクは吟遊詩人、ウェンティさ。」

 

カルミアはウェンティをじっと見つめて問う。

 

「あなたは『風神・バルバトス』が突如、姿を消したことについてどう思いますか?」

 

いつものカルミアとは変わって、丁寧口調で質問していた。

彼女から伝わるオーラもお巫山戯など一切感じられない、真面目なオーラ。

 

「うーん、ボクは吟遊詩人だから『風神・バルバトス』についての物語はよく知ってるけど、彼が突如姿を消したことについてボクは何も裏切りとかって思ったりはしてないよ?」

「モンド出身ですか?」

 

「まぁ、モンドと言われたらモンドかな? れっきとした古くからのモンド人だよ?」

「自分の国の神が統治を捨てて、あまつさえ苦しんでいる眷属を救いもしないなんて神としてどうなんでしょうね?」

 

「救いもしないは言い方が酷いんじゃないかな? ボクは『風神・バルバトス』が救わないんじゃなくて、現在進行形で救おうとしているんじゃないかなと思うんだ。」

 

「ほう、それは『風神・バルバトス』がモンドに帰ってきたと、そう言いたいのですね?」

 

「……はぁ、ボクはなんて運のない哀れな吟遊詩人なんだろう? こんなにも自由で我儘な子は見たことがないよ、自由の国よりも自由してるよ、君は。」

 

「まぁいいでしょう。 それよりも、風魔龍の件で……」

「うーん? 風魔龍……なんだいそれは?」

 

「おい! 記憶喪失のフリするなよ!!」

 

パイモンは蛍の方に向くと、あれを見せようと提案する。

蛍はこくっと頷いて、赤いあの結晶を取り出した。

 

「おや、これは──」

 

それは赤色ではなく、水色の綺麗な涙を象った結晶に変わっていた。

 

「あれ? 結晶が浄化されてる? いつの間に……」

「前まで濁って赤色だったのに……何故?」

 

「こんな事もあるんですね、風神の加護って凄いや。」

 

「これはトワリンが……風魔龍が苦しんで流した涙だ。」

 

やはりか。これは『トワリン』の涙、それも赤く濁っていたのは恐らく彼そのものが暴走状態、すなわち侵食されているからそのような色になっていたのだろう。それが浄化されているのだ、先程と変わるのはリサ、ジンと交代してウェンティが現れたこと。

 

すなわち、この涙の浄化の原因は彼にあると考えてもいい。

 

「優しい子だったのに、今はこんな風に悲しみ、怒りに満ち溢れている……」

 

ウェンティはポケットから赤色の涙を取り出すと、蛍に渡す。

 

「お、おい! その涙に触れて痛くないのかよ?!」

 

「彼も私と同じ、特殊体質?」

「いずれ分かるよ、彼が何故『トワリン』の涙を触れても痛みが発生しないのか。」

 

どうやら、浄化の原因はウェンティではないようだ。

ウェンティに浄化の原因があるならば、彼の持っている涙は浄化されているはず……となれば、蛍か。

 

「浄化をお願いできるかな……?」

 

蛍はその赤い涙を手にとり、見つめていると涙は彼女に反応するかのようにその輝きの色を変えていく、怒りを表す赤から優しさと静かさを表す蒼へと。

 

浄化された結晶は静かに降りてくると蛍の手のひらで受け止められた。

 

「君、本当に不思議な力を持っているんだね──かつての自由の星女(アスナーメ)のようにね。」

 

ウェンティはカルミアを見て、ふっと笑う。

 

「君のような人が、吟遊詩人の詩に登場させられるのはある種の運命だと思ってくれ──日向にいれば英雄に、日陰にいれば災いに。」

 

ウェンティは「はっ」と何かを思い出したかのように焦り出す。

 

「あっ……今は君のために新しい詩を書いているヒマないんだった!」

 

ウェンティは悲しそうな目で空を見つめて言う。

 

「たとえトワリンは討伐されずとも、その生命力はもの凄い勢いで消耗していってる。──彼は怒りの中で、自分を燃やし尽くそうとしているんだ。」

 

ウェンティの言葉に蛍は心配そうに問う。

 

「何か手伝えることはある?」

「そうだぞ! おいらたちを頼ってくれてもいいんだぞ!」

 

「涙の結晶を浄化してくれただけでも助かったよ……本当にありがとう。」

 

ウェンティは顎に手を当ててニッと笑いながら言う。

 

「でも今は、新しい作戦が思いついたんだ。」

 

「作戦って、なんだ?」

 

「龍の涙を見ていたら、ある故人のことを思い出してね。」

 

「故人?」

 

ウェンティは先程の高い声とはかわってあからさまに気分を落ち込ませた低い声で言う。

だが、それもすぐに彼は笑って吹き飛ばす。

 

「へへっ、それじゃあお先に失礼するよ!」

 

「おい、どこ行くんだよ!!」

 

ウェンティはパイモンの問いに答える。

 

「モンドの『英雄の象徴』だよ、またね!」

 

彼は蛍たちに手を振りながら、モンド城の外へと走り去っていった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「むぅ……旅人、カルミア、どう思う?」

 

「変わった人で、観察が必要ではあると思うよ。」

 

蛍の意見は彼の正体を知らない者にとって最も重要視すべき行動、それの提案であった。

 

カルミアは走り去っていった彼の方角を見て吐き捨てるように言った。

 

「今はあんなにも貧弱なのか……正直、能力無しでも勝てそう。」

 

それはウェンティの戦闘能力の低さをその目で見抜いて出た台詞だった。

 

「あいつからしたら、お前も十分変わってるだろうけどな。」

 

「それに声を知ってるかも……いつも、どこかで聞こえてくる謎の声と似てる。」

 

物語の語り手としてはこれ程になく優秀な彼である。聞き覚えもあるだろう……。

 

カルミアは、ウェンティを侮辱したが彼の必死に『トワリン』を救おうとする姿を見て、もう一度彼に対する評価を変えるべきなのではと思った。




ウェンティと出会うところまで進んだ! ここまで進んだらもうあとは一直線!! びゅーんとトワリンまで行きますよ!!

作中におけるカルミアたちの下ネタや暴言をどこまで許します?

  • ち─こみたいな伏字があるなら許せる。
  • ち○こみたいな伏字があるなら許せる。
  • ────って完全に─で伏せて欲しい。
  • ちんこってもろに言って欲しい。興奮する
  • カルミアは下ネタを言う変態じゃない!
  • カルミアは伏せたら何も残らない!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。