悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 本当にお久しぶりです。
 時間がかかりすぎた……。


第3話 雫の翳り

ヒュ! ヒュ! ヒュ!

 

「疾っ!ふっ!はっ!やっ!」

 

 空気を裂く鋭い音と、それに同調した短い呼気。それらの音が響く度に、薄く掛かった朝霧を散らすように黒線が宙を奔る。

 円を描くように木の葉舞い落ちる森の中で踊る黒刀と黒髪。彼女の作り出した剣界に入った木の葉が四散し、玉の汗が飛び散る。

 

「………ふぅ」

 

 ゆっくりと息を吐き、チンッ!と小気味いい鍔鳴りを響かせながら納刀する少女──雫。瞑目が視界を闇に閉ざすが、汗を掻いた肌は視覚以上に朝の爽やかさを伝えてくる。頬に張り付いた一房の髪もそのままに熱い息を吐く姿は、どこか艶かしい。

 

(この世界に来てから、もう一週間……)

 

 雫は腰に携えた鳴刀の柄を指で撫でながら朝焼けの空を見上げ、この世界に来てからの日々を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課のロビーでは、部隊長八神はやての収集によって全ての職員が集められていた。

 

(ここが、機動六課……)

 

 機動六課の茶色い女子制服に着替えた雫は、ロビーに集合している機動六課の職員達に目を向ける。

 そこにいたのは、ライダーコロシアム事件で見た『入間』達の他に、エリオと同年代のように見える桃色の髪の少女や赤い髪の少女の姿もあれば、桃色のポニーテールの女性や白衣を着た金髪の女性と、年齢層も幅広い。

 そして何より目を引くのが、他の職員とは色違いの白い制服を着た茶髪の女性と黒い制服を着た金髪の女性。

 銀髪の青年や黒髪の青年の姿も見えるが、なんとなく女性の割合が多いように見える。

 一応、男性もいないわけではない。しかし、見渡してみれば、ライダーコロシアムで見かけたサリバンの他に、目付きが怖い男や、鉄製のマスクを着けた短髪の大男、赤い髪をした男か女か分からない人物等、実に個性豊かだ。その端には全身ピンク色の小柄な少女もいる。雫のよく知る入間が率いているチーム【バビル】も誰もが濃いキャラの集まりだが、人数が多い分、こっちの方が個性的なのではないのだろうかと、雫は場違いなことを考えてしまう。

 

「……ってなわけで、今日からこの子もこの機動六課で世話になる事になった八重樫雫さんや。では雫さん、皆に軽く挨拶してな」

 

 すると、自分の事を説明していたはやてに促されたことで、雫は顔を強張らせながら一歩前に出る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…八重樫雫と言います。私が前にいた世界に戻るまでの間、この機動六課で民間協力者としてお世話になります。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

 頭を下げると共に、ロビーに軽い拍手の音が響いた。

 こうして、八重樫雫は正式に機動六課の民間協力者として迎え入れられ、渡された端末に登録されているマップを手に隊舎内を散策していた。

 

(それにしても、“言語理解”ってトータス以外の世界にも通用するのね……)

 

 トータスに召喚された時に付与された“言語理解”の技能により、雫はマップに記載されているミッドチルダの文字で書かれた説明文を理解することが出来ていた。この技能がなければ、恐らく読み書きも出来ず困り果てていた事だろう。

 雫が案内文と隊舎に視線を交差させながらそのまま廊下を歩いていると、雫は前から近付いてくる足音を耳にして顔を上げた。

 

「……ん?ここで会うとは奇遇だな、八重樫」

 

 そこにいたのは、桃色の長い髪をポニーテールにした女性だった。目は切れ長で、自然体のように見えながらも全く隙が見当たらず、雫は一目で目の前の女性が並々ならぬ強者であることを悟った。

 

「貴女は……?」

「ライトニング部隊副隊長、シグナムだ」

「そ、そうですか。よろしくお願いします」

 

 桃髪の女性──【シグナム】が軽く名乗ると、雫は軽く頭を下げる。

 

「必要以上に畏まる必要はない。それより……」

 

 シグナムはチラリと、雫の腰に携えられた鳴刀・音叉剣に目を向けると、先程まで浮かべていた硬い表情に変化が現れ、興味深そうな視線を雫に向けた。

 

「……その刀、かなりの業物だな。お前は剣を使うのか?」

「え?えぇ、まぁ……実家が八重樫流という道場でしたので」

「なるほどな。それは期待できそうだ……模擬戦がしたくなったら、いつでも声をかけてくれ」

「も、模擬戦?」

 

 戸惑う雫を他所に、シグナムは横を通りすぎて行く。雫はその後ろ姿を眺めながら、乾いた笑みを浮かべた。

 

(私、ここでやっていけるのかしら……)

 

 初日早々、不安を感じる雫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう考えたものだったが、この一週間の内にそれも杞憂であったと考えながら、雫は機動六課の廊下を歩く。 

 道行く女性局員は、雫の姿を目にすると「お姉様ぁ」と熱い視線を送ってくる。年上の女性からお姉様呼ばわりされるのは地球やトータスにいた頃の雫の悩みの種だ。

 雫はその視線に内心諦めにも似たため息を吐きつつ廊下を歩いていると、曲がり角から緑色の小さな影が飛び出した。

 

「ホッパァ!」

「きゃっ!?」

 

 驚きながらもその物体を受け止める。

 目をパチパチさせながらその物体に目を向けると、雫の手の上にはデフォルメされたような大きな緑色のバッタ──ホッパー1が乗っていた。

 

「ホッパー1……鈴木さんはどうしたの?」

 

 「鈴木君」は雫がよく知る方の入間の呼び方であり、下の名前で呼ぶのも気が引けたため、雫は『入間』の事をさん付けで呼んでいる。

 

「ホッパー?」

 

 対して、相棒の居所を聞かれたホッパー1は、雫の手の上で首をかしげる。その仕草に「可愛い……」と頬を緩めそうになる雫だが、どうやら『入間』の居場所が分からないと判断すると、ホッパー1の相棒を探して歩き出す。

 

 しばらくして、雫は訓練所に足を運んだ。その時、訓練所から凄まじい爆発音が聞こえてくる。

 

「ッ、この音は……」

 

 その爆発を聞いても、雫は大した驚きを見せずに音源に目を向ける。森林を再現した風景では、所々から爆煙が立ち上っている。数秒後、森林の一角から爆発が起こり、再び立ち上った爆煙の中から、二つの影が飛び出してきた。

 

「ッ!ホッパァー!!」

 

 その影の姿をみて、ホッパー1が歓喜の声をあげた。

 飛び出した影をよく見てみると、そこには仮面ライダーダブル・サイクロンジョーカーと仮面ライダーオーズ・タトバコンボが融合した頭部に、両肩には旋風で形作られた「C」のロゴデザインマークと道化師の靴を模した「J」のロゴデザインマークが刻まれ、その上にはタカ・トラ・バッタといった3種類の生物の図柄が描かれたメダル型の装飾が着いている金色のアーマーを上半身に纏った姿をしたガッチャード──【仮面ライダーガッチャード・サイクロンタトバ】と、赤みがかった桃色と白の騎士甲冑風のバリアジャケットに身を包んだシグナムの姿があった。ガッチャードは“メダジャリバー”を、シグナムは“レヴァンティン”を手に、凄まじい攻防戦を繰り広げている。

 

「……相変わらず、スゴいわね………」

 

 シグナムの剣術もそうだが、それと対等に渡り合えるガッチャードの力も驚くばかりだ。

 

「レヴァンティンッ!」

『Explosion!』

 

「ッ!だったら……!!」

 

 

トリプル!スキャニングチャージ!!

 

 

 やがて、シグナムのレヴァンティンの刀身が炎に包まれ、ガッチャードは三枚のセルメダルを装填してからオースキャナーでスキャンしたメダジャリバーを構える。

 

「紫雷……一閃ッ!!!!」

「セイヤァーーーーーッ!!!!」

 

 二つの刃から放たれた斬撃が衝突し、凄まじい爆発が起こった。

 離れた距離にいる雫にも届くほどの衝撃波が襲い、雫は髪を押さえる。そして一旦おいてから目を開けると、そこには互いに変身を解除された『入間』とシグナムの姿が見えた。二人はなんらかなやりとりを終えると、こちらに向かって進んでいく。

 

「ホッパァー!!!」

「きゃっ!?」

 

 すると、ホッパー1が雫の腕から飛び出して、一直線に『入間』のもとへと飛んでいく。『入間』はホッパー1を受け止めると、「ホッパー」としか喋れないホッパー1と会話を交えた後、自分に目を向けて、此方に歩み寄ってくる。

 

「八重樫さん、ホッパー1を連れてきてくれたんですか?」

「え、えぇ。鈴木さんを、探してたみたいだったから……」

「そうなんですね、ありがとうございます」

 

 満面の笑みを浮かべる入間に、雫は相変わらず違和感を抱いてしまう。彼女のよく知る鈴木入間は、こんな顔を自分に向けることなどないのだから。

 

「あっ!入間さーん!!」

 

 そこへ、聞き覚えのある声に雫と『入間』の視線がその声の方に向けられると、そこにはこの世界の『アメリ』と、バリアジャケットを纏っているスバルの姿があった。スバルは大きく腕を振りながら、駆け足で入間の前にやってくる。

 

「あっ、スバルちゃん。訓練は終わったの?」

「はい!アメリさんとの二時間の組手で、ようやく一撃入れられました!!」

「そっか。やっぱりスゴいんだね、スバルちゃんは」

 

 そう言うと、『入間』はスバルの頭に手を伸ばし、その蒼い髪の上に手を乗せる。

 

「えへへ……」

「お、おい!イルマ!!そういうのは………」

「アメリさんも、ありがとうございます」

「~~~~~ッ!!!!!?????」

 

 頭を撫でられてフニャフニャと頬を緩ませるスバルに、『アメリ』はモジモジしながら何かを言おうとすると、『入間』は背伸びをしながらアメリの頭にも手を乗せると、『アメリ』は顔を真っ赤にした。

 

「どぉおーーーんっ!!!!!」

「わぁっ!!?」

 

 その時、横から飛び込んできた緑の影が『入間』に飛び付く。

 『入間』は抵抗する間もなくその影の重みに倒れ、背中を打ち付けた痛みに眉を潜めながら顔を上げると、そこには『入間』の腹の上に尻を乗せている『クララ』の姿があった。

 

「ク、クララ……」

「お疲れ、イルマち♪ねぇねぇ!遊ぼ遊ぼ!!」

「ちょっ、ちょっと待って…一旦、落ち着いて……」

 

 黄緑色の髪を左右に揺らし、『入間』のお腹にグリグリと額を押し付ける『クララ』。『入間』は苦笑して身体を起こしながら、『クララ』を一旦どかしながら立ち上がる。

 すると、『入間』の顔を覗き込む金色の影が現れた。

 

「お疲れさま、入間くん。差し入れを持ってきたわよ」

「あっ、シャマル……ありがとう」

 

 金髪のショートカットにおっとりとした雰囲気を持つ美女──【シャマル】が水筒を差し出してくる。『入間』はわずかに頬を赤くしながらそれを受け取る。二人の間の空気が、一気に桃色になった気がした。

 すると、『入間』の腹部に、再びクララが飛び付いた。

 

「むぅ~!イルマちとシャマりん、ズルい!!私もラブラブした~い!!!」

「うぐっ!?」

「イ、イルマ?その、だな……ヤエガシもいるこの状況で、それはどうかと……」

「あ、あの!入間さん、その……」

 

 クララが『入間』の腹部を力強く抱き締め、スバルが自分もしてほしそうに近付く。アメリは頬を赤くして止めるように声をかけるも、チラチラと視線を行き来させており、自分もやってほしそうなのは明確だ。

 『入間』を中心に桃色の結界が構成されていることに雫は遠い目をしていると、その場に新たな影が現れた。

 

「…あれ?ディエチちゃんに…セッテちゃん?どうしたの?」

 

 外側にハネている茶色の長髪を薄黄色のリボンで細く結わえてる少女──【ディエチ】と、さらりと流れる薄桃色の長い髪にシアやティオに引けを取らないスタイルを持つ長身の少女──【セッテ】に、『入間』は首をかしげる。

 二人とも、元々は次元犯罪者であるスカリエッティの部下であり、本来の歴史ではこの時期の機動六課とは敵対関係にあるのだが、この世界では六課(主に入間軍にアメリ、フォワードメンバー)とスカリエッティは非公式の協力体制を取っている。

 

「あ…いえ、その……久しぶりに入間さんに会いたくなって………」

「…………」

「……え?セ、セッテちゃん?」

 

 ディエチは頬を赤くしてモジモジしてる中、セッテはそそくさと『入間』の隣に立った。特に何か言うわけでもなく、ジッと『入間』の姿を見ているが、心なしか無機質なその瞳には強い感情があるように伺えた。

 それを見たディエチがハッとした表情になり、ディエチは意を決して、『入間』の右腕に抱きついた。周りから、「あーっ!」という叫び声が聞こえてくる。

 

「ッ!ディエチちゃん…?」

「え、えへへ……」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせるディエチに、『入間』はついつい優しい目で彼女を見下ろし、笑みを浮かべる。

 …そんな桃色全快な空間を前に、完全に蚊帳の外に置かれてしまった雫は、死んだ魚のような目で『入間』達を見ていた。

 

ミッドチルダ(こっち)でもトータス(あっち)でも……鈴木君って、ハーレムの星の元にでも生まれたのかしら?)

 

 思わずそう考えてしまう。

 というのも、この世界の『入間』も入間と同様に、複数の女性と恋人関係にあるのだ。そしてそのメンバーが、シャマル、アメリ、クララ、スバル、ディエチなのだという。セッテは違うらしいが、無表情ながら『入間』を見つめる目の熱量や、六課に来た際には必ずと言って良いほど『入間』の側にいたがるため、彼女が抱いている想いは一目瞭然だった。

 

 すると、なにやら話を終えた『入間』達の視線が自分に向けられたのを見て、雫は現実逃避を止めた。

 

「八重樫さん。これから皆でお昼に行くんですけど、八重樫さんも一緒に行きませんか?」

 

 行ったとしても入間と同様に桃色空間を前に口から砂糖を吐く羽目になりそうな気がするが、折角の誘いを無下にするのも気が引ける為、雫は頷きながら、食堂を目指す『入間』達について行く。

 しかし、そんな予想とは裏腹に、雫の心はとても穏やかだった。

 

(こんな感じだけど、この世界はとても居心地が良い……)

 

 それは雫の本心だった。

 機動六課のメンバーは良い人ばかりだ。異世界人である自分にも優しげに接してくれる。時折シグナムから手合わせを申し出されたり、『入間』達のイチャイチャに胸焼けしそうな時とあるが、それも日常の一部だと思えば、不思議と微笑ましく感じる。

 

(けど……私はいつまで、この世界にいるのかしら?)

 

 しかし、それと同時に、雫の胸には「ここは自分の居場所ではない」という否定的な気持ちが滞り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫は、暗闇の中にいた。光源もないのに、自分の姿だけが鮮明に見える不思議な世界を、雫は宛もなく歩き続けていた。

 その時、歩き続けていた雫の瞳に、人影が写り出す。雫はしばらくその人影をジッと観察していると、その人影の正体を察して、眼を見開いた。

 

「ッ!辻さん!?」

 

 そう、それはかつてオルクス大迷宮で、仮面ライダーガイに殺された筈のクラスメイト…辻綾子であった。

 香織達程の付き合いではないが、共に大迷宮の攻略のために切磋琢磨した仲間の姿を見て喜ばない雫ではない。彼女はすぐに辻に駆け寄り、体に異常はないかと心配して手を伸ばしたが、その手は冷たく振り払われた。

 

「………何のつもりなの、八重樫さん?」

「えっ?」

 

 突然の言葉に、眼を丸くする。しかし、吉野は敵を見るような鋭い視線を雫に飛ばし、口を開いた。

 

「私達を戦争に巻き込んで、私を含めた大勢の人を死なせておいて……なんで平気そうな顔ができるの?」

 

 その言葉に、雫は氷河期のど真ん中に放り投げられたような寒気に襲われる。あまりのショックに倒れそうになってしまうのをどうにか堪え、必死に言葉を紡ごうとする。

 

「ちがっ、私は……!」

「八重樫さぁ、いつも天之河のお目付け役みたいに振る舞ってるけど……それならなんでアイツの事を止めなかったんだよ」

 

 後ろから、男の声がかけられた。雫が振り返ると、そこには吉野と同じくオルクス大迷宮で仮面ライダーカイザの手により命を落としたクラスメイト、野村健太郎が立っていた。

 否、辻と野村だけではない。気がつけば雫の周りには、オルクスで命を落としたクラスメイト達や、王宮で何度もお世話になりながら恵里の毒牙にかけられた侍女(ニア)、更には自身の恩師でもあるメルド達の姿もあった。

 

「あ……あぁ……」

 

 その誰もが、冷たい眼で雫を見下ろしている。雫はその視線に恐怖を感じながら尻もちをつくと、雫の耳に、呪詛のような声がいくつも聞こえてきた。

 

「先生や鈴木の警告を聴いてれば、戦争に参加する必要もなかったのに」

「お目付け役ならちゃんと手綱くらい握ってくれよ」

「そのせいで私達は殺されたんだから」

「光輝に悪気はないっていつも言ってるけどさ、悪気はないで済まされる問題じゃないよな」

「雫様……貴女は、こうなった事に責任が持てるのですか?」

「俺は最悪の教え子を持ったよ。そのせいで、俺達は死んだんだからな」

 

 終わることのない罵倒の言葉。雫はこれ以上聴きたくないと言うように、目を瞑ひながら耳を塞ごうとした。しかし次の瞬間、罵倒の声が収まり、新しい声が聞こえてきた。

 

「雫」

「ッ!こ、光輝…?」

 

 それは、自身の幼馴染みである天之河光輝。しかし、光輝は冷たい眼で自分を見下ろしており、雫はうすら寒いものを感じて後退る。

 

「許せないよな、なにも悪くない俺達を罵倒するなんて!」

「えっ?」

「こんな事になったのは、周りの皆のせいだ!オルクスで皆が死んだのは皆が弱いせいだし……王都が滅んだのだって、鈴木達が助けてくれていれば滅びずにすんだ!!雫だってそう思うだろ!?」

「っ!?そ、そんなことないでしょ!!!」

「いいや、違う!俺は正しい!!俺はなにも間違えない!!!俺のやることは全て正しいし、全て肯定されるんだ!!雫もそれが分かってるから俺に賛同してくれたんだろ!?」

「違っ、私は……」

 

 雫が何かを言おうとした瞬間、突如として胸ぐらをグイッと掴まれ、雫がわずかに呻きながら目を開けると、そこには自身の胸ぐらをつかみ上げ、冷血な瞳で自分を見下ろすアメリの姿があった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 しかし、服が違う。それに、右腕には見覚えのある時計──ゲイツウォッチが取り付けられたガントレットが巻かれてある。

 

「あ、アメリさ……」

「いい加減、自覚したらどうだ?お前の行動は全て裏目に出ていることをな」

「ッ!?」

「貴様が戦争に参加する道を選ばなければ、お前の仲間達は死ぬことはなかったかもしれん。王都でもお前が余計なことをしなければ、お前の仲間により囚われたクラスメイト達を救うことは出来たかもしれないが……」

「あ……あぁ……」

「戦うことを選んだのは誰でもない、お前自身だ。そのお前達が守れず、そして邪魔をしたのだ。故に、お前の弱さが招いた全ての悲劇の元凶は───お前だ」

 

 その瞬間、アメリの姿が消える。

 同時に、雫の耳に、何処からともなく怨嗟と苦痛に満ちた声の数々が響き渡る。

 

「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」「お前のせいだ」

 

「……あ、あぁ……あ、あ、あ…………ッ!?」

 

 耳を塞いでも声は聞こえてくる。雫は耳を押さえながら踞った。普段の凛とした彼女からは想像もつかない、怯えた幼子のような姿。

 

「八重樫さん」

「ッ!!!」

 

 優しさに満ちたその声に、聞き覚えのあった雫は顔を上げる。しかし、そこに立っていたのは雫が思い描いていた人物──『入間』ではなく、全く同じ顔立ちをした青いコートを着た少年──鈴木入間であった。

 入間は、何処までも冷えきった眼で雫を見下ろし、ゆっくりと口を開いた。

 

「……全部。君のせいなんだよ。君は何もかもが中途半端。戦うと決めていても覚悟はない。幼馴染みのストッパーを自分で担っておきながら本気で止めようとする勇気もない。だからなにも守れない。全てが君の手からすり抜けていくんだ」

「ッッッッッ!!!!!!!???????」

 

 その瞬間、パリンッという音と共に景色がひび割れ、崩壊する。そして新たに見えたのは、悪の戦士達によって惨殺されたクラスメイト達……組織の襲撃を受け、犠牲となった人々の血肉で赤黒く染められながら崩壊していくハイリヒ王国。そして聞こえてくる、大勢の人々の悲鳴。

 

「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!???????????」

 

 あまりにも凄惨な光景に、とうとう雫の精神は限界を迎え、その場で頭を押さえながら絶叫を上げた。現実をみたくない、自分の犯した罪の重さに耐えきれない。雫はまるで、断末魔のようにただひたすら叫び続ける。

 その時、突然声が聞こえなくなった。雫がおそるおそる顔を上げると、そこには入間達の姿はなくなっており、代わりに一人の少女の姿があった。

 

「香織……?」

 

 バダンに行ってしまった筈の親友──白崎香織。

 彼女が浮かべているのは、自身のもとを去っていった時の冷たい顔ではなく、彼女がよく知っている優しい笑みを浮かべていた。それを見て、雫は確信した。香織が戻ってきてくれたのだと。

 

「香織…!かお──」

 

 立ち上がって香織を抱き締めようとした雫。しかし次の瞬間、ドスッという音と共に、腹部に痛みが走った。

 雫がゆっくりと、痛みが走る腹部に視線を下ろすと、そこには暗いマゼンタ色の腕が、雫の腹を貫いていた。

 現実感がないように、雫が腹部を見下ろしていると、その腕が引き抜かれる。噴水のように鮮血が流れだし、雫は膝を着いた。

 自身の足元が、自分自身の血で赤黒く染まっていく光景を見つめながら、雫はゆっくりと顔を上げる。

 そこには──悪魔が立っていた。

 

『───バイバイ、雫ちゃん』

 

 香織は───アナザーディケイドは、マゼンタの妖光を纏う手刀を、雫にむけて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────ッ!!!!!」

 

 雫は弾かれたようにベッドから体を起こした。

 

「はぁ………はぁ………今の………夢……?」

 

 先程の光景が夢だと判断すると、雫は大きくため息を吐いた。着ている寝巻きは汗でびっしょりと濡れており、肌に張り付く感覚が気持ちが悪い。

 

 雫は服を着替えてコップに注がれた水を一気に飲み干すと、再び大きく息を吐く。そして、脳裏に先程の夢の光景が繰り返して映し出されると、雫は思わず背筋を震わせた。

 

「………少し、歩いてみようかしら」

 

 窓の外は暗く、月が登っている。雫は少しでも気を紛らわせるために、隊舎内を歩いて回ることにした。

 

 普段は職員があわただしく動いている機動六課だが、夜中の3時を回っている時間に働いている物はいない。明かりが消された静寂の中、靴音だけが、隊舎内の廊下に響き渡る。

 宛もなく、理由もなく歩いていく雫。しかし、歩いても歩いても、底無し沼に沈んだような気持ちが落ち着くことはなかった。

 

『お前のせいだ』

 

 雫の胸の内にはずっと、この言葉が繰り返されていた。そのたった一言が繰り返される度に、雫の心は水銀を入れられたのような重圧が襲い、足取りはまるで死刑台に向かう罪人のように重くなっていた。

 

(私は……)

 

 その時、ぼんやりと虚空を見つめていた雫の視界の端──廊下に備えられた椅子の影に、黒くモゾモゾと動く影を見つけた。猫か何かと思い、雫は小走りに駆け寄って、椅子の影を覗き込んだ。

 

「あ」

 

 そこには──『入間』がいた。

 椅子の影になる場所で踞り、手にはお菓子の袋と食べかけのお菓子がある。

 

「……」

 

 雫は目頭を揉みほぐした後、大きく息を吐く。

 そして、気のせいだと思うことにした雫は踵を返して歩きだし……

 

「こんばんわ」

「キャアッ!!?」

 

 椅子の影からスッと姿を見せた『入間』に、雫は悲鳴を上げながら尻餅をついたが、それも仕方のないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、中庭にやって来た雫と『入間』は、中庭のベンチに腰かけながら、何故あんな場所にいたのかを答えあっていた。

 

「……それで、鈴木さんは隠れておやつを食べていたと……?」

「最近、シャマル達まで厳しくなってきて……」

「そうですか………まぁ、この事は後でシャマルさん達に伝えますけど」

「そんなぁっ!!!!!?????」

 

 『入間』の悲鳴が聞こえるが、雫は無視した。彼の食べすぎはトータスでもミッドチルダでも変わらないらしい。なんだかバカらしくなってしまって、雫は月を見上げた。

 雫の母親のような宣言にションボリしていた『入間』は、ふと雫に視線をむける。

 

「………あの、八重樫さん」

「…何かしら?」

「八重樫さんは、どうしてここに?」

「………なんでもないわ」

 

 雫は目をそらしてなげやりな返事を返す。

 『入間』はそんな雫の横顔をジッと見つめている中で、ふと何かを察して、おずおずと問いかけた。

 

「………何か、辛い事でもありましたか?」

「ッ!」

 

 雫が反射的に『入間』に視線をむける。紺碧のように蒼い瞳が、赤みを帯びた雫の目をまっすぐにみている。下手に誤魔化しても意味がないと言うような、一切の曇りのない澄んだ瞳に、雫は言い淀む。

 

「よかったら、話してもらえませんか?本当に辛いなら、少しでも力になりたいんです」

「………」

 

 自分の知る鈴木入間が自分に向けることはない、優しい瞳。

 気がつけば、雫はポツリポツリと話し始めていた。

 

 入間や愛子を含めたクラスメイト達とトータスに召喚された事。

 魔人族から人間を救うための戦争に入間と愛子だけが反対する中、幼馴染みを放っておけないからという理由で、戦争に参加する事を決めたこと。

 オルクス大迷宮で、自分達を守ってくれた入間が奈落に落ち、下手人であった檜山の本性を見抜けず、土下座一つで彼を許したこと。

 大迷宮で、仮面ライダーアークゼロ率いるダークライダーの猛威の前に為す術もなく敗北し、10人ものクラスメイトや、恩師であったメルドが殺され、大迷宮を管理していたホルアドという町もバダンの刺客達の手により壊滅的な被害を受けてしまったこと。

 自分達が滞在していたハイリヒ王国が魔人族とバダンの連合軍の侵攻を受けた時、自分の親友である白崎香織と、クラスメイトであった中村恵里が自分達を裏切り、バダンに寝返った事。

 アナザーディケイドとなった香織が、クラスメイト達をアナザーワールドと呼ばれる世界に閉じ込めた事。

 ジオウ(入間)アナザーディケイド(香織)を倒してクラスメイト達を解放しようとした時、自分が入間の邪魔をした事でクラスメイト達はアナザーワールドに囚われたまま、バダンの兵器によりハイリヒ王国は滅び、香織はバダンに行ってしまった事。

 そして、先程見た悪夢の内容。

 

 話していく内に、雫の目からは涙が溢れていた。普段の凛とした態度で、周りからお姉様と呼ばれる彼女からは想像もつかない姿を、『入間』は静かに見つめていた。

 

「あの夢の通り……全部私のせいなのよ。光輝も香織も止められなくて、いつもその場しのぎばっかり。幼馴染みに嫌われるのが怖くて2人の事を本気で止めようともしないで、弱いくせに人類の守護者を気取って、そのせいで沢山の人を死なせてしまった……」

 

 やがて雫は顔を手で覆い、嗚咽が漏れ始めた。雫自身、何故出会って間もない『入間』にここまでの事を話し始めたのかは分からない。だが、度重なる不幸の数々の内に追い詰められていた雫は、一度吐き出した本音と、涙を止めることが出来なかった。

 その時、雫の体が温もりに包まれた。

 

「え……?」

 

 雫は顔を上げる。そして、『入間』が自分を抱き締めている事に気付いた。生まれてこのかた、親以外で異性に抱き締められた経験のない雫は顔を赤くする。咄嗟に『入間』の腕から抜け出そうとした時、『入間』の声が耳に届いた。

 

「…辛かったんですね」

「えっ?」

「ずっと一人で、罪も責任も背合い続けて……。自分のせいで、沢山の人が傷付いてしまう…その気持ちは、僕にもよく分かります」

 

 『入間』も仮面ライダーとして、数々の戦いを経験した。

 そんな中、彼はクラスメイト達と共に遊びにきた遊園地が魔獣に襲撃を受けた時、逃げ遅れた人々を守るために、仲間達と共に危険地帯に足を踏み込んだ。しかし、子ども達を助けられた代わりに、危うく一人の親友を喪う状況に陥った。その時、自分がどれだけ『危険』というものを甘く見ていたのか、『入間』は心から思い知った。そしてそれは、きっと入間も……

 

「戦争に参加する事を決めたのは……正しくはなかったのかもしれません。守るためとはいえ、結局は殺し合いですから」

 

 仮面ライダーの道はどんな大義名分があろうと、結局は倒すか倒されるかの殺し合いだ。相手が人に害悪をもたらす『怪人』とは違い、戦争で戦うのは自分達と同じ『人』になるのが戦争だ。それを考慮して参戦を拒否した入間と愛子と、お仕着せで参戦を決めた雫達。どちらの方が正しいと聞かれれば、『入間』も前者の方だと納得せざるをえない。

 

「けど……それを後悔して、沢山の人が死んでしまった事に心を痛めているのは、貴女がとても優しい人だっていう証拠です。だから、自分を責めないでください」

「でもっ……でもっ……」

 

 雫は『入間』の言葉を否定しようとする。それ以上聞けば、耐えられなくなりそうだった。

 

「自分の選択で沢山の人が死んだことを悔やんでいるなら、これから償って行けばいい。だから、もう自分を許して上げてください」

「うっ……うぅ……!!」

 

 雫は『入間』の胸元に顔を押しつけ、嗚咽を漏らした。気がつけば『入間』の背中に腕を回して、彼の背中を強く握っていた。瞳から溢れる涙と共に、胸の中に淀んでいた靄が、少しだけ薄れていっていく気がした。

 

(そっか……この人は優しいんだ。だから、シャマルさん達は……)

 

 やがて、一通り鳴き終えた雫は恥ずかしそうに『入間』の胸元から顔を離した。

 

「その……服……」

「あぁ、別に気にしてませんよ」

 

 『入間』の着ていた服は、雫の涙と鼻水でひどい有り様になっており、雫は恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになるが、当の本人は何でもなさそうに答えた。

 

「ありがとう、おかげで少し気が楽になったわ」

「何か少しでも力になれたなら、それでいいです」

 

 やがて『入間』は雫を促して隊舎に戻ろうとした時、雫は思わず彼の背中に声をかけた。

 

「あ、あのっ!」

「?」

 

 振り替える『入間』に、雫は視線を右往左往させて言いにくそうに口をモゴモゴと動かしていたが、やがて『入間』に視線を定めた。

 

「その……これからは貴方の事を……『入間君』って、呼んでも構わないかしら?それから、私の事も……名前で呼んでほしいなって……」

「…えっ?まぁ、構わないです…よ?」

 

 『入間』からすればなんて事のないお願いだ。しかし、雫が少しでも自分に心を開いてくれたのだと思うと嬉しくなるため、『入間』は笑顔で答えた。

 

「これからもよろしくね、雫さん」

 

 その笑顔を見て、雫は何故か胸が高鳴った。

 その胸の高鳴りの理由は、頬を赤く染めた雫にはまだ分からなかった。

 




アメリ「スカリエッティのアジトで世話になるタニグチは、ナンバーズと交流を深めていく」

ミレディ「そして雫ちゃんの前に、時の王者が現れる!」

第4話「SIGNS」

アメリ・ミレディ「「テイク、オフ!!」」





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