ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか   作:ユーグクーロ

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正義との出会い アリーゼ編

 未だ闇派閥(イヴィルス)が跋扈し、後に『暗黒期』と呼ばれるオラリオを蝕んでいた時代。

 住民は怯え、半ば無法地帯と化していた中、正義を掲げるファミリアは今日も街を巡回、警護していた。

 来る日も来る日も破壊と混乱を招く狂信者と戦い、民を守り、家路へと足を進める。それが彼女達の最早日課とも呼べる日常だった。

 夜明けから日が落ちるまで戦い抜いた彼女達はゆっくりとホームへと戻っていた。

 

「んー! 今日もオラリオの平和を守れて良かったわ!!」

 

 泥と煤と汗にまみれなった体と裏腹に今日も今日とて団長の活気溢れる声が響く。

 

「ったく、我らが団長様は元気なこと、この上ねぇなぁ?」

 

「何言ってるのライラ? こうしてオラリオの平和がまた守られたのよ? 嬉しいに決まってるじゃない!」

 

「アリーゼの言う通りです。街の平和を守るという私達の使命を全うしたのですから当然喜ぶべきことです」

 

「団長さんはともかく、そこの軟弱エルフ様はもう少し立ち回りというものを勉強した方が良しいかと思いますが?」

 

「か、輝夜! 貴様…………!?」

 

「あーはいはい、喧嘩はホーム戻ってからにしろよお前ら、こっちはくたびれ儲けでヘトヘトなんだ。今くらい静かにしてろ」

 

「確かに今日は疲れたぁ、早く帰って水浴びしたいよー」

 

「同感、飯の準備もあるし、早くしないといつ寝れるか分かったもんじゃない」

 

 各々、愚痴を零しつつ和気あいあいと談話を挟む様子にアリーゼは満面の笑みで張り返る。

 

「それだけ頑張っている証拠よ? それに大丈夫! そんなに疲れてる皆にはこの場の誰よりも美少女である私の笑顔で癒してあげるから! キラ☆」

 

 リオンただ1人を除き、大半の団員が青筋を浮かべながら笑顔になった。

 

「さーて! 皆も笑顔になれたことだし、早くホームに帰って、アストレア様に報告よ!」

 

 ある意味元気を取り戻せた団員達を引き連れ、アリーゼは再び帰路へと進み始める。

 

 此処までは普段と何も変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正気ですかアストレア様!? 見ず知らずののこの少年を住まわせるなどと!!」

 

 アストレアファミリアのホーム《星屑》にて真っ先に荒げた声が響いた。

 

「ええ、少し訳ありの子でここに来て未だ間もないから暫くの間は居候という形で連れてきたの」

 

 敬愛する主神の提案に苦虫を噛むような表情を浮かべるエルフはホームに戻って以降ずっと抗議の言葉を返そうとする。

 

「ごめんね。てっきり不審者だと勘違いちゃって……怪我はない?」

 

「大丈夫だ」

 

 少年は無機質に答えた。

 その傍らで今もなお抗議は続いている。

 

「い、いくらアストレア様でも流石に男を此処に…………」

 

「おやおや、情弱エルフさんは自分の美貌に自信があるようで羨ましい限りで♪」

 

「そんなんじゃありません! 私はただ_____」

 

 嘲笑うかのような笑みを浮かべる大和撫子、それに対し頬を少し赤らめ恥ずかしそうに否定するエルフを他所に赤髪の少女は両手を腰に当て、精一杯胸を張った。

 

「私はこのオラリオで一番の美少女! アリーゼ・ローヴェルよ! こっちに居るエルフがリオン!」

 

「流れるように挨拶しないでくださいアリーゼ!」

 

「良いじゃない。ほらほら、皆も初対面の人には挨拶しなきゃ! それにアストレア様が連れて来たんだもの、私ほどじゃないにしても、きっと清き心の持ち主の筈よ♪」

 

「ですが!!」

 

「あ、そうだ! アストレア様、確か空いてる部屋がありましたよね? そこを使えば___」

 

「聞いてください!!」

 

「無駄だリオン。こうなったウチの団長様は止められねぇよ。なぁ輝夜?」 

 

「私に聞くな…………」

 

 我が道を行く団長に必死に食い下がろうとするエルフ、それを傍から見て笑う者が居れば呆れて眉間をつまむ者もいた。

 

 正義の団長は大手を振って自分に続き、団員達を紹介した。

 

「…………よし! 今のところはこれで全員ね! それじゃあ、今度は貴方の名前を聞かせてくれないかしら?」

 

「名……前…………?」

 

「ええ! 貴方の名前は?」

 

 呆気にとられている少年はしばし瞬きした後、女神アストレアへと顔を合わせた。女神は柔らかな微笑みで頷くもそれに相反するかのように少年の表情に曇りが差し込む。

 

「どうしたの?」

 

 アリーゼが再び問いかけるも少年は反応を示すことなく俯く。

 

 すると女神アストレアは苦笑いを浮かべながら少年の肩に手を置いて代弁を始めた。

 

「ごめんなさい皆、この子はまだここに来たばっかり、それも闇派閥(イヴィルス)に襲われて動揺してるの……この子の名前はせつ___」

 

「ソラン…………」

 

「え?」

 

 女神は少し驚いた表情を浮かべるも少年はそのまま言葉を繋げた。

 

「ソラン…………イブラヒム…………それが、俺の名前だ」

 

 少年は真っすぐとアリーゼへと視線を向け、そう答えた。

 

「ソラン…………うん、良い名前だわ! これから宜しくね! ソラン!」

 

 ソランと名乗った少年が正義の館に居候してから間もない頃のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーゼSide

 

 

「え、館での雑務を手伝いをしたい?」

 

 少年改め、ソランからの唐突な願いに私は珍しくも素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「ここに住まわせてもらう以上、それなりの対価を支払うべきだと考えた」

 

「なるほど、それで…………」

 

 少年の提案に対し、私はうーんと顎に手を乗せながら数秒考えに浸る。

 

 彼としてはただ棒立ちしているという現状に不安を拭えないのかもしれない。

 今この状況ではどんな形であれ、人手は欲しい。

 

 しかしどうしたものかと唸らせているとソランが再び口を開いた。

 

「女神アストレアから許可は得た」

 

 頼むと頭を下げられ、アリーゼはニッコリと笑顔を浮かべた。

 

「それじゃあ、早速お願い出来る?」

 

「了解した」

 

 特別疑うような要因は無いものの、暫く様子を見ることに決めた。

 

 アリーゼの予想とは反して少年の動きは不思議なものだった。

 

(部屋を貸して、様子を見てみたけど、アストレア様が言ってるほどそこまで動揺している様子は殆んど感じられなかった………………)

 

 それに自分達とはそこまで年の差はないはずだというのに、言動がどこか大人びたものを感じる。

 子供の背伸びなどではなく、自然に振る舞っているようなそれだ。

 

 ソランが手伝い始めてからというもの、次第に料理、洗濯、掃除といった家事全般を任せるようになるまで1週間程度しか掛からなかった。

 

 そのお陰かファミリアの活動にも余裕が生まれたとまではいかないけれど、闇派閥(イヴィルス)との抗争に専念することが出来た。

 

 泣き言はおろか、愚痴の一つも零さず黙々とやり遂げていく内に私以外の団員達も打ち解けていった。リオンに関しては……まだ少しだけ時間が必要かもしれない。

 

 とはいえ、流石に本人も無茶をしていたらしい。ある日のことだった。いつも通りに街の警護から戻ってきてみればソランが倒れたとアストレア様から聞いた時は酷く心配した。

 

 当の本人は問題ないの一点張りで再び作業を進めようとするものだから、流石に皆で強引にでもベットに縛りつけた。今思い返せば面白可笑しい光景で笑みが零れそうになってしまうかもしれない。

 

 その日からアストレア様からソランも連れて外出するようにとお許しが貰えた。

 

「さて! 今日はソランの初のオラリオ巡りよ!」

 

 今日も今日とて街の巡回に変わりはないのだが、運良く街復興を目的とした出店、もとい炊き出しがいくつか出店している。

 お世辞にも美味しいと呼べるものは多くはないのだがそれでもないよりは活気を取り戻せるに必要なことだ。

 

 ここに来て以来、久しぶりの外出が叶ったのだからきっと喜ぶのだろう。そう思っていた。

 

 彼は落胆していた。表情は普段と殆んど変わらない筈なのに、瞳から悲哀が溢れているのが見えた。

 

「どうしたの? 折角外に出られるようになったのに」

 

 何気なく探るように言葉を投げた。しかし、少年は辺りを見渡す。

 

「…………闇派閥(イヴィルス)は此処まで活動を広げているのか?」

 

「え?」

 

 不意に返ってきた彼の疑問に私は虚を突かれた。

 

「……何でもない。忘れてくれ」

 

 何事もなかったかのように少年は真っすぐ向き直し、街の中心へと足を進めた。

 

 そんな彼の背中を見てもこの時の私は気付かなかった。

 

 その言葉の意味さえ気付こうとしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は特に進展するような出来事はなく、淡々と案内は終わっていた。

 

 どれだけ歩き回るもソランは街の風景を見渡すだけでその瞳が晴れることはなかった。

 

 時間もあっという間に過ぎ去り、昼へと突入しようとしていた。

 

 麦のお粥や野菜屑のスープ、最近考案されたばかりのジャガ丸くんという芋の揚げ物、様々な店が存在している。

 

 復興の為、半ば奉仕活動とはいえ、 ギルド主催の炊き出し以外には名目上の代金が設定されている。

 ファミリアの懐事情にそこまで余裕は無いが、アストレア様から折角だからと頂いた金銭を握りしめ、ソランと店に向かった。

 

 時間帯も相まって長蛇の列が生まれ、必然と少し遅めの昼食を取ることとなった。

 

「少し遅くなっちゃったけど空腹は最高のスパイス! 冷めないうちに食べましょ!」

 

「あぁ……」

 

 やっと順番が巡り、待ってましたと近くの枯れた噴水広場にあるベンチに腰を下ろした。

 

 空腹を満たそうと匙を手に取ったその瞬間だった。

 

「わぁ!?」

 

 幼い声が驚きの音色を零し、カランカランと小刻みに響いた。

 

 何事かと見上げるとまだ十歳にも満たないであろう子供が盛大に転んでしまったようだ。

 目の前には無残にも飛び散った粥と落ちた衝撃で潰れかけたジャガ丸くんが事の悲惨さを物語っている。

 

 慌てて近寄り、子供を優しくゆっくりと起こす。

 

「キミ、大丈夫? 怪我はない?」

 

「うぅ…………」

 

 見たところ軽い擦り傷程度で済んでいるようだ。大事に至らなくて安堵するも子供は目の前の惨状に唖然とする。

 

「やっともらえたのに…………」

 

 ポツリと呟き、小さな腹の音を鳴らす。

 

 長いこと待たされただろう。じわじわと涙と嗚咽が溢れ出そうとする子供に対し、擦り傷を手当てしながらどうにか落ち着かせようとする。

 

「大丈夫! 今私の分を___」

 

 言葉を言いかけたその瞬間、子供の目の前にまだ湯気が立っているお粥とジャガ丸くんが差し出された。

 

「持っていけ」

 

 ソランが子供にそう告げ自分が手にする粥とジャガ丸くんを差し出した。

 

「ソラン…………」

 

 目の前から香る微かな匂いに唾を飲み込む音が聞こえるも子供はどこか気不味そうに答えた。

 

「でも……これ、お兄ちゃんの…………」

 

 今がどれだけ大変な時期なのか、今日を生きれば、食事ができるれば、どれだけ幸運かを、物心つき始めたであろうこんな幼子でさえそれを理解できている。

 その様子を無視するかのようにソランは言葉を続けた。

 

「お前が先に食べる必要がある。持っていけ」

 

 さぁ、と言わんばかりに手元のご飯を子供に差し出した。

 

 子供はすぐに泣き顔から笑顔へと代わり、皿を受け取った。

 

「ありがとう! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

 

 先程までの悲壮感漂う表情は何処へ飛んでいったのか、子供は元気良くその場を去った。

 

 子供を見送った彼は何事もなかったかのように座っていた場所に戻ろうとする。

 

「さてと…………はい! これ!」

 

 彼の行く手を塞ぎ、粥とジャガ丸くんを突き出した。

 ソランの分がなくなった以上、補填しなければならないけど炊き出しも限りがある。もう一度もらうなんて真似は出来ないだろう。

 なら、街に連れ出した美少女としては最後まで面倒を見る義務がある。空腹と闘いながら夜を過ごしたことだってこれまで何度もあった。

 自分は平気、大丈夫。

 

「……何の真似だ?」

 

「貴方の分よ!」

 

「それはお前の分だ。アリーゼ・ローヴェル」

 

「なら半分こしましょ!」

 

「不要だ」

 

 ソランにバッサリと断られ、突き返されてしまった。

 リオンとはまた違った意味で強情ね。

 

「そうもいかないわ。今回の外出は貴方の為でもあるんだから」

 

「お前はどうするつもりだ?」

 

「私は館に戻った後に沢っっっ山食べるわ! それに皆と一緒に食べるご飯は格別よ! なにより、ソランのご飯はみんな美味し___」

 

 高らかに宣言しようと、お腹を軽く叩くと元気よく返事が返ってきた。

 

「…………」

 

「…………」

 

『聞こえたぞ?』と訴えかけるソランのジト目(普段から無表情だからそう断言できないけど)が突き刺さった。流石に美少女の私でも顔に熱を感じる位の恥ずかしさを覚えることはある。

 

「あら、聞こえちゃったかしら?」

 

「……」

 

 ソランは少しだけ目を瞑り、少し呆れたような鼻息が聞こえた。

 急に歩き始めたと思いきや先程、子供が落とした粥の器と匙を拾い上げ、近くの水場で洗い始めた。

 

「えーと……ソラン?」

 

 一体何をしようとしてるのか見当もつかない内に洗い終えた器をこちらに差し出してきた。

 

「半分、貰おう」

 

「え?」

 

 つい素っ頓狂な声が溢れてしまった美少女としてはあるまじきこと。

 

「さっき、お前が言っただろう。一緒に食べれば格別だと」

 

 彼は終始無表情のまま器を向ける。

 

「だから半分だ」

 

 彼を気遣うつもりのお出掛けだったのに、逆に気遣われてしまった。 

 普段は無口で、大人しくて、感情を表に出すような性格とは裏腹に自分を顧みず他者に尽くす、こんな子、生まれてきた中で見たことなかったから、なんだが可笑しくなってきた。

 

 考えが溢れてしまったのか不意に笑いが込み上げてくる。

 

「…………何故笑う?」

 

 向こうは馬鹿にされたと思われたのか不貞腐れるように顔を顰めた。ある意味では珍しいかも。

 

「いいえ、何でもないわ! それじゃあ食べましょ!!」

 

 僅かな食事を済ませ、あっという間に街案内は終えた。

 

 

 

 

 後日、アストレアの許可の元で炊き出しの手伝いをしてもらうようになった。

 無論、ソランのホームでの勤務内容を改善した上で行っている。

 自分用の賄いのご飯さえ幼子達に分け与えようとして何度も注意しているが反省する様子は毛頭無かった。

 

 まだ一部の団員とは打ち解けていない(特にリオンと)ようだけど、きっといつかは分かり合えると確信に近い何かを感じた。

 

 そう……思っていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もっと早く気付いていれば…………助けられた筈なのに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

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