ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか 作:ユーグクーロ
ある日の夜。
今日も今日とて奴等が無辜の民を襲い、血肉を貪ろうと暴れ回っていた。
「懲りずにまたか!!」
街の治安を守ろうとする派閥の一つガネーシャファミリアの筆頭を担うシャクティ・ヴァルマと団員数名を連れ、現場に急行していた。
「急ぐぞ! これ以上奴等の好き勝手にさせるな!」
自身を除き、3名の団員達を鼓舞しながら現場に急行していると向かう先から争っている音が聞こえてくる。
金属がぶつかり合う音、石を砕く音、そして幾重にも重なる悲鳴。
「誰かが…………戦っている?」
「アストレアファミリアか?」
いや、そんな筈はない。
彼女達は今頃、工業区で対応に追われている。
こちらに来るだけの余力は無い。
なら何処のファミリアだ?
向かう先にたき登る数々の煙、巻き上がる土埃の中から二つ、何かが飛び出し…………いや、ふっ飛ばされてきた。
黒いローブに覆面、血がこびりついた剣、
少し先には同じように倒れている輩が何人もうめき声を零しながら悶え苦しんでいる。
「こいつは……」
「全員…………生きてるのか?」
「シッ! 油断するな!」
今注意すべきはこいつ等ではなく、これをやってのけた者は何処だ?
少なくとも増援の報告は一切聞いていない。
断言は出来んが、私達の仲間ではない。
「あ、あそこ!!」
もう一人の団員が指を指し、注目させる。
その先に吹き荒れる土埃が晴れていくと形容し難い輩が連中を相手に戦っていた。
全身には白い奇妙な鎧を纏い、体のあちこちには見慣れない武器と思われるものを持ち、戦っている。
右手に備わっている大きな刃を軸に数で勝る闇派閥の連中を圧倒していた。
とても見た目からは想像出来ない軽い足取りで攻撃を避けては踏み込み、斬る。
右手に直接大きな刀身が備わり、腰部には二対の変わった直剣、背中には鎖で繋がったハンマー。
どれも見慣れない武装だ。
観察を続けているとソレは既に連中を制圧しており、悠然と立ち尽くしている。
まるで退屈だという強者の余裕を持った素振りだと錯覚する程に。
間違いない、こいつが『星屑』だ。
向こうも気付いたのかゆっくりと顔を向けてくる。
顔面さえ覆う兜を被っているのにうっすらと目が光り、こちらを見ている。
「…………お前達は指示があるまで待機していろ」
部下には下がらせ、臨戦態勢を整えたままゆっくりと星屑との間合いを測る。
「貴様が星屑だな?」
「………………」
「何処のファミリアに属している? 貴様の目的は何だ?」
「………………」
だんまりか、やはりアリーゼ達の報告通りというわけか。
「連中を制圧してくれたことに関しては感謝する……だが貴様が正体不明の不穏分子である事には変わらない」
「…………」
「一緒に来てもらおう。抵抗すれば…………分かるな?」
左手を掲げ、部下達に星屑を包囲させるよう指示した。
完全包囲され、退路を断たれたというのに星屑は焦る素振りはおろか、周囲の団員達を見回す。
問題ない。そう言い表しているかのような落ち着いた態度…………
まるでフレイヤファミリアのオッタルを相手しているかのような錯覚に陥る。
頭数はこちらが上でも戦力差が分からない以上、慎重に動かなくては。
「これが最終警告だ!」
「……」
「言葉を発せないなら武装を解除し、両手を挙げて投降しろ!」
数秒間、炎の爆ぜる音だけが静かに響く。
先に動いたのは星屑だった。
やはりと思っていたが投降の意思はなかった。
体の節々から少しずつ景色と同化し始め、瞬く間にその場から消えた。
「き、消えた!?」
「転移魔法だと!?」
慌てる団員達は周囲を見渡し、動揺する。
「落ち着け! 消えたわけではない!」
確かに少し虚を突かれたが、気配は感じる。
消えたわけではなく、擬態の類…………何かしらのマジックアイテムを使って逃げ去ろうとしているのだ。
先程、星屑が居たであろう場所を凝視すると微かに空間が歪んでいる。
「そこだ!!」
一気に駆け抜け、抜刀と共に振り払うと何も無い空間に激しい金属音と火花が生まれた。
向こうも意味を成さないと察したのか再び姿が現れる。
右手に備わっている大きな剣で応じた。
数秒程、鍔迫り合いが続いた後、これ以上膠着することを嫌ったのか、星屑が無理矢理振り払った。
幾度も斬撃を与えようとするも簡単に受け流されてしまう。
「こいつ!!」
「これならどうだ!」
左右から襲いかかろうとする団員に焦ることなく腰にあった二刀で対処、それも人一人相手に片腕で受け止め、弾いた。
余程この場に留まリたくないのか戦う素振りはなく、こちらに背中を見せ逃亡を図った。
「逃がすものか!!」
すぐに後を追いかけるもフルプレートの相手はまるで斥候の如き軽い足取りで走っている。
中身は誰だ? 少なくともレベル自体かなり高い方なのは分かりきっている。
他の
あれこれ考えていると星屑は背中にあった鉄球を手に取り、振り向きながら空気を切裂く轟音と共に振り回し始めた。
此方の追っ手を振り払おうとするのは分かっていた。ならその隙を突いて身柄を拘束すればいい。
そう思っていた矢先、星屑は此方にではなく、周囲の建物を豪快に破壊し始めた。
「なっ!?」
飛び散る石や木材の瓦礫が無差別に飛び散り、辺り一面の視界が悪化する。
「嘘だろ!」
「こんな出鱈目有りかよ!?」
「ちょ、ま_____!!」
「しまった!!?」
奴はこれが狙いだった。
運悪く、他の団員にも被害が被り
一瞬意識を割かれてしまった。
次に星屑を捉えようとした頃には時すでに遅し。
姿も、気配もない。完璧に逃げられてしまった。
「くそっ…………覚えていろ! 星屑!!」
一筋の流れ星が描く虚しい夜空に向かい、そう吠えるしか無かった。
この日は厄日だった。
先日、シャクティ・ヴァルマ達から貴重な戦闘データが得られたのは僥倖だったが。
いつもと変わらずアストレアファミリアのホームで雑……家事全般をこなし。
いつもと変わらず皆の目を盗んでガンダムの整備と粒子補充に勤しむ。
それが日課にも似た日々だった。
だが繰り返す日常は時に心が退屈で蝕んでしまう。
せめて一休みにとホームの前で休憩がてら座っていると足音が一つ近付いてくる。
「ねぇ! そんなところで何してるの?」
一瞬、驚いてしまった。
不意に声を掛けられた部分もあるが、まさか話しかけてきた人物が彼女だったとは。
アーディ・ヴァルマ。
青い髪と瞳が特徴的な見るからに天真爛漫な少女だった。
思い返せばアストレアファミリアの面々とは親しい仲だ。
いつかここに来てもおかしくは無かったのだが、今の今まで顔を合わせることが無かったのは偶然にも等しい事だ。
「何も‥‥‥少し休んでいた。それだけだ」
短絡的に答えると目の前の少女は訝しそうに人差し指を唇に当て、考え込む素振りを見せた。
「俺に何か用か?」
「君ってひょっとして‥‥‥前にアリーゼや皆が言っていた居候さん?」
「……そうだ」
「そっか! 初めまして、私はあのシャクティ・ヴァルマの妹で! 品行方正で! いつも笑顔を忘れない! ガネーシャファミリア所属のレベル3! アーディ・ヴァルマだよ!!」
「ソラン・イブラヒムだ」
「やっと会えて嬉しいよ! アストレアファミリアの皆から色々聞いてていつかお話しできたらなって思ってたんだ!」
「そうか」
寒暖差の激しいやり取りになってしまったが許せ、極力キャラ崩壊は避けたいのだ。
「ね、さっき此処で休んでいたって言ってたけどこの後って用事ある?」
「いや、これから‥‥‥」
「?」
「これから‥‥‥」
「これから?」
「‥‥‥暇を持て余していた所だ」
言えない。言えるわけがない。『今夜もまた
「そうなの!? じゃあお願い! 今凄く困ってるんだけど、手伝ってもらっても‥‥‥良いかな?」
両手を合わせ、後生だと言わんばかりに目を輝かせてこちらを見てくる。
ここで無闇に断ってはアーディはもちろん、アリーゼ達から(=主にリオン)からの心象に悪影響が出る可能性が高い。
ここは止む無しか……
「了解した」
「ありがとう! それじゃあ、早速行こ!!」
言質は取ったと言わんばかりに腕を引っ張られ、半ば強制連行という形となった。
‥‥‥途中で妙に男性陣から罵詈雑言の小言が幾つも聞こえた気がした。
そんな事は我関せずとアーディは道すがら事の成り行きを説明し始めた。
なんでも西の教会で両親が重傷を負って身動きが取れなかったり、或いは亡くなってしまった子供達の面倒を見ているらしい。
今日はアーディとガネーシャファミリアの団員が一人、子供達の面倒や怪我人の世話をする手筈だったのだが、先日の抗争で相方が怪我を負ってしまい、今も治癒魔法の順番待ちの真っ最中とのこと。
流石に一人では捌ききれない内容だった為、急ぎ人材募集に各ファミリアへと声を掛けていた所、俺に遭遇して今に至るとのことだ。
「その団員は災難だったな」
「そうだね、でも命には別状がないらしいから良かったよ!」
とはいえ、まったくとんだとばっちりを喰らったものだ。
「そうそう! 最近噂になっている『星屑』って聞いたことがある?」
「それがどうした?」
「何でも何処からとも無く見慣れない鎧を全身に纏って悪党だけを倒す存在って皆の間で噂になってね? まだ会ったことがないんだぁ」
アーディから思いもしなかった話題を振られて危うく上擦った声が出そうになった。
だが、この際良いタイミングかもしれない。
彼女から見るガンダムの印象とやらが聞けるかもしれない。
「その『星屑』という奴は___」
「元々担当する筈だった団員が大怪我した理由がなんでも
「…………」
…………なんか‥‥‥‥‥‥すいません。
「吹き飛んできた瓦礫に当たって骨が折れちゃったみたいでね?」
わざとじゃないんです……‥‥‥
「倒された
…………手助け出来たらいいなぁと思ってました。
「この間なんかお姉ちゃんが今度見つけたら承知しないって張り切っていたんだよ!」
此処に居ます…………
いやほんとマジで勘弁してください。
「あれ、どうしたの? 顔色が悪いよ?」
「大丈夫だ、問題ない」
問題しかねぇよ!
そりゃあ最初はガンダム作ることしか考えていなかったよ?
けど作って戦っていく内になんというべきか…………こう……どういう風に言えばいいか分からないけど少しは手伝ったらもう少しマシな結末を迎えることができるんじゃないかなぁと思ってたんだよ?
なのに、
隣で悪意無き天然発言に耐えながら俺は協会へと辿り着き、アレやコレやと手伝わされた。
特に子供達の対応に関しては酷く神経が擦り減った。
やれ転んで擦り傷だらけになって泣くだの、やれお腹空いたと裾を引っ張って駄々こねるだの、やれ英雄ごっこしたいから馬さんになれだの。
アストレアファミリアでの日常がなければ胃に穴が出来たかもしれなかっただろう。
フッ、俺も成長したな。
「ねぇねぇおにいちゃん! なんかオモシロイはなしない?」
また別の子供が
すると会話を耳にした他の子供達も釣られ、どんどん集まってくる。
「面白い…………話?」
「ここにいてもつまんないけどおとなたちはそとはキケンだからダメっていうんだ」
「なんかきかせて〜」
「えいゆうのおはなし! えいゆうのおはなしがいい!!」
「英雄…………か」
この状況を見兼ねたのかアーディが軽く手を叩きながら皆の注意を逸らそうとする。
「はいはい、そこまでにしよ! お兄さんも困らせたら駄目だよ? ほら、もうそろそろご飯の準備が出来るからお皿の準備してよっか!」
「ちぇっ」
がっかりした子供達が離れていく。
「待て」
「ん?」
流石にディ◯ニークオリティのお伽噺には自信がないが…………
「良いだろう。
「ほんと!?」
「ほ、補給って…………それに聞かせるって何を?」
少し脚色しなければならないが…………そこはアドリブでどうにでもなるだろう。
怪訝そうな表情をするアーディとは裏腹に心の中の俺はニタリと笑みを浮かべる。
「開示時刻までは秘密事項だ」
少しばかり賭けだが、少しでもファンの一人として布教活動でもしてみようか。
不思議な少年だった。
年齢は同じ…………じゃなくてもそこまで差は無い筈だ。
けど振る舞いからして年相応の反応ではなかったから、ちょっと反応に困った部分もあった。
喋り方も少し変だったり、少し特殊な性格をしているなぁとこの時はそう思った。
協会に着いて手伝いを黙々と始めるどころか子供達の相手も嫌な顔をせずに付き合ってあげて、少なくとも真面目な少年なんだなぁって思えた。
時折、意味不明な発言を挟んだりしてたけど今思えばアレって場を和ませるためのボケってやつだったのかな?
『無口で無愛想だけどすっごく面白い居候が居るの!!』
アリーゼがあんな風に豪語してるのも珍しかったが、あながち間違いではなかったみたい。
子供達にせがまれたとはいえ、急に
最初は困った雰囲気だったのに急に油を差した歯車のようにスラスラと言葉が出てきた。
創世記の『赤騎士と白騎士』のお話はちょっと子供達には難しかったようだけど、個人的には小耳に挟む程度のつもりが子供達の輪に混ざってしまった。
これだけでも長いのにまだまだ先があるみたい。今度聞きに行こうかな。
世界の種から生まれた少年がやがて世界を巻き込む戦争を終わらせる英雄となる『自由の翼』
子供達、特に男の子達には大好評だったみたい。
他にも創世記繋がりで青年と少年と少女、3人が険しい道のりを経て、世界を巡る『白き幻獣と黒き獅子』
どんな事があっても「それでも」か…………私達も頑張らなきゃね。
他にも感情を捨てた少年が平和を求める少女の為に戦う『天使と平和』
これも面白そうかも?
初めは暇潰しと思ってた子供達も話を聞くうちに段々と聞く耳の数が増えてくる。
最後辺りなんかは協会に居る人達全員を巻き込んだ読み聞かせの会となっていった。
……………………私が協会に来る度に「おにいちゃんはきてないの?」と聞かれ、がっかりさせてしまった日も続いた。
それから…………唯一聞けなかったお話もあるなぁ………………
彼がどの作品よりも好んでいる物語らしい。
どの作品も良いけれどそれだけは譲れないと。
どんな内容だったんだろう?
騎士物語かな? それとも平凡な主人公が成り上がっていくお話かな?
続き…………聴きたかったなぁ