太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十九話 「必死で生きようとする命は尊い」(9)

 エルヴィン族の隠れ里は、森の木々をそのまま利用した家々が点在している。

 その間を縫うように、あたしは全速力で道無き道を跳び回り、駆け抜ける。

 

 さっきヤーナが消火したとはいえ、まだ焦げ臭い匂いが鼻につく。

 森火事を起こした紅飛竜(ロート・ワイバーン)の群れは、見上げれば上空にあちこち点在していた。

 

 紅飛竜(ロート・ワイバーン)は火炎袋を持っている、飛竜(ワイバーン)の亜種。

 奴らが本気でこの森を燃やすつもりなら、今頃は隠れ里全体が火の海になっていたハズだ。

 元々はあたし達に狙いを定めていたと仮定しても、あぶり出しが目的なのは想像に難くない。

 

 だがそれでも、万が一イグドラシルが見つかってしまったら。

 格好の餌として吐息に焼かれ、この隠れ里は、間違いなく滅ぶ。

 

 まったくアイツときたら、なぜひとりで突っ走ってしまうのか。

 アイツはいつもそうだ。

 自分の信念……特に「物語」や「命」が関わると、途端に周りが見えなくなる。

 

 今回とて、里長に避難を促しに行ったに違いない。

 あくまでも里長の娘……シルヴィアさんのためを思ってとか、そんなところだろう。

 

 だが、あたしはふと息を呑む。

 

「――ッ!?」

 

 全身の皮膚が粟立つような、強烈な熱気と魔力圧。

 足を止め、上空を見上げる。

 

 煙が立ち込める空の向こう、その暗がりの中心に、ひときわ巨大な影が浮かんでいる。

 これまで見てきた紅飛竜(ロート・ワイバーン)の、倍はあろうかという巨体。

 その全身を覆う紅蓮の鱗は、まるで煮えたぎる溶岩のように不気味な光を放っていた。

 

「ようやく『王』のお出ましってわけね……!」

 

 間違いなく、『眷属』を率いる『王』クラスの魔獣だ。

 森火事はコイツの仕業に間違いない。

 

 これまでの推測をなぞるかの如く、『王』の視線は隠れ里そのものではなく、里の中心にそびえ立つ、イグドラシルに向けられていた。

 

 『王』の怒号とも呼ぶべき咆哮が響く。

 同時にその巨大な顎は開かれた。

 

 炎熱が凝縮され、奴の喉奥で渦を巻く。

 マナの加護とかそういうのはあれど、イグドラシルどころか隠れ里まで無事では済まないのは確実。

 

「まずい!」

 

 あたしは反射的に『ソルマドラ』を解放(リリース)しながら跳躍しようとした、その瞬間。

 里長の家がある方角から、『王』とは異なる魔力圧を感じ取る。

 

「――『聖樹の護りよ、芽吹き、集え! 我がモルガーナの名において、仇為す炎を拒絶せよ! イグリオル・シュッツ!』」

 

 凛とした、それでいて威圧感のある女性の声が響いた。

 里長のモルガーナさんが、魔法を使っているのか。

 空に放たれた光は瞬く間にイグドラシルの上空で広がり、巨大なドーム状の魔法障壁を形成、イグドラシルを丸ごと包んだ。

 

 直後、『王』が放った極大の火球が障壁に着弾する。

 刹那、里全体が揺れるほどの轟音と爆風。

 障壁は火球の直撃を受け、激しくきしみながらも、その形状を維持している。

 

 これが魔導具の、魔法の祖たるエルヴィン族、その里長が使う魔法……。

 あたしはスケールのデカさに狼狽えながらも、障壁が展開された里長の家へと再び走り出す。

 

「モルガーナ様! 我らの魔力も!」

 

 距離はあっても聞こえる厳格そうなこの声は確か、シルヴィアさんのお兄さんの声だろうか。確かハーキンとかいう名前の。

 どうやらモルガーナさん一人ではなく、護衛のエルヴィン族たちも魔力を供給して、あの巨大な障壁を支えているらしい。

 

 だが相手は『王』クラス、あれだけ大掛かりな障壁もいつまで保つかわからない。

 それよりもリテラだ。

 

 まったく、アイツは何をやっているんだか。

 里長の家に近づくにつれ、障壁から発せられる膨大な魔力にあてられたのか、あたしの脳に何やら会話が響いてくる。

 

《あれが魔獣とやらか……。まるで怨念の塊だな》

 

「えっ……?」

 

 『念話通信器(ヴィントリーファン)』から直接、モルガーナさんの声が響いたので、思わず足を止める。

 

 おかしい。この『念話通信器(ヴィントリーファン)』は盗聴器としても使えはするのだが、それはこれが二個一組の場合に限られる。

 まだ妖精サイズの『念話通信器(ヴィントリーファン)』が出来たとはヤーナから聞いてないし、だとすればマナの樹たるイグドラシルが近いのが原因なのだろうか。

 

《モルガーナ、イグドラシルはもうよい! ここから逃げるんじゃ!》

 

 リテラの声も聞こえる。どうやら無事だったらしい。

 

《逃げる、だと? お前は我に聖樹の守護から逃げよと言うのか?》

《お主は娘の晴れ舞台が始まる前に死ぬ気か!?》

 

 リテラが、焦っている……?

 どうやらモルガーナさんは、障壁の維持に相当無理をしているらしい。

 

 あたしは再び急ぐ。

 何故聞こえるかわからない会話に耳を傾けながら。

 

《知ったことではないな。我は里長として、聖樹を守る義務がある》

《あの座長に娘を取られたことを長々と根に持って、まだそんなことを言うておるのか!》

 

 このリテラの声色はマジな時のヤツだ。

 あたしが知る、創造神テラとしての、厳かな怒気を含んだ声。

 

《聖樹を守る義務も大事じゃろう。じゃが、母親としては落第点じゃ! 娘は今、お主らにも劇団という新たな家族にも、両方に認められようと必死で足掻いとるんじゃぞ!》

 

 流石にその言いようは酷いが、その通りだ。

 シルヴィアさんは今この瞬間も、覚悟を決めてロミィ役の演技を習得しているに違いない。

 全ては母親であるモルガーナさんに認めてもらい、今の家族を救うために。

 

《わしは常々こう思っておる、必死で生きようとする命は尊い、と!》

 

 なんとも、アイツらしい言葉だ。

 どんなに小さな命でも、それが輝こうとしている限り、全力で肯定する。

 たとえそれがフィクションでも、自分の世界の命でも。

 

《どれだけヒトを拒絶しようとも、お主とてわしにとっては大事な命! シルヴィアの……お主の娘の晴れ舞台を見せるまで、失うわけにはいかん!》

《勝手なことを……!》

 

 少し、震えた声。

 モルガーナさんにリテラの言葉が届いているのだろうか。

 

 紅飛竜(ロート・ワイバーン)の『王』が第二射に入ったのを、あたしは視界の端で捉えた。

 喉の奥で圧縮された炎が、槍のように研ぎ澄まされていく。

 

 もしや、一点集中型の火炎放射!?

 障壁の貫通は免れない。

 あたしは里長の家の前に躍り出たところで、全力を出して『王』を殴ることに決めた。

 

解放(リリース)、『ソルマドラ・オリジン』」

 

 息を整え、静かに太陽の鎧を全開放する。

 全身の筋肉に魔力は満ちた。

 狙うはただ一点、火炎の収束で無防備な『王』の顎。

 

「『我流・ライジングアーツ』」

 

 右の拳に魔力を集中、更に紅飛竜(ロート・ワイバーン)の滞空高度まで達するための跳躍準備。

 

 あたしは自身の跳躍力を正確に測ったことはないが、かつて王都でニコラウス騎士団長の剣を足場にして跳んだ時は、ものすごいスピードが出たのを今でも覚えている。

 

 だが今、この場に騎士団長はいない。

 あるのは自力と、イグドラシルによりマナが満ち足りている現状のみ。

 魔力でブーストさせれば、届く直線距離ではあるだろう。

 

 今行ってやるぞ、紅飛竜《ロート・ワイバーン》の『王』。

 あたしは深く沈み込み、バネのように縮めた全身の筋肉を一気に解放した。

 

「ふッ――!」

 

 大地に轟音を残して、大跳躍。

 あたしは鳥でも飛行機でもスーパーヒーローでもないが、空中戦の経験もそれなりにある。

 長引けば不利になる、故に一撃。

 

 大丈夫だ、あたしなら届く!

 イグドラシルの全高を既に越し、『王』の全貌をしかと肉眼で捉えるよりも前に、右の拳は準備完了。

 全力を込めて、太陽の鉄拳を突き上げた。

 

「『ライジング・ナックル』ッ――!!」

 

 拳に伝わる手応え。

 鱗や皮膚で護られていない紅飛竜《ロート・ワイバーン》の顎に、渾身のアッパーカットと、太陽の魔力が注がれる。

 

 お前の火炎はその程度か。

 太陽の前では、勝負にすらならない。

 

 勢いよく顎を抉られた紅飛竜《ロート・ワイバーン》の『王』は脳を揺らされたが如く吹き飛び、太陽の魔力に燃やされて灰燼《かいじん》と化す。

 残されたのは、少し大きな果物サイズの魔石のみ。

 

 相変わらず、『念話通信器《ヴィントリーファン》』から里長と妖精の声が聞こえる。

 

《なんだ、アレは。ラグナ族が……エルヴィンに遠く及ばぬ者が、あれほどの魔力を放てるものか……?》

《いいじゃろ、わしの推しは……太陽の子、救世主レヴィンは》

 

 やめろ恥ずかしい。

 などとツッコもうとしたところに、自由落下の自然現象が訪れる。

 

 あたしは『ソルマドラ』を封印《シール》して、冷静に落下の先にあるものを見据えた。

 

 森の樹を三角跳びの要領で蹴って、程よく近い足場へ。

 横転して受け身を取り、落下ダメージを最小限に。

 転がる勢いを止めた身体は、大の字に寝転がった。

 

 ふぅ、ほぼ考えなしでやったにしては、上出来かな。

 多少の魔力酔いはあれど、隠れ里の大炎上は防げたわけだし、それに――。

 

「太陽の子……救世主か。言われるだけの力ではあるようだ」

 

 里長モルガーナさんの声。

 どうやらあたしは、里長の家にある庭先に倒れているようだ。

 周りには腰を抜かしそうになっている数名のエルヴィン族……おそらくは里長の護衛兵。

 

 モルガーナさんの傍には、後方師匠面で腕を組んでいるリテラが確認できた。

 うわっ、ものすごいドヤ顔。

 いやいや、あまり気にするな。里長の前だぞ。

 

「その力、我らエルヴィンのために振るう気はないか? 聖樹を守ってくれた礼だ、特別に客将としてもてなそう」

 

 えっ、まさかのスカウト。

 ヒトやラグナ族をいくら下等種族として見下していても、こちらにとって有用な力とみなせば、簡単に掌を返す、だなんて。

 里長としては有能寄りなんだろうけどなぁ、このモルガーナさんって人。

 

「あたしを雇えるだけのお金なんて、持ってないでしょ。だったらこの話はおしまいですね」

「俗物め……」

 

 はいはい、俗物で結構ですよ。

 あたしからすれば断るための口実でしかないし。

 

「ならば我手ずから褒美をやろう。何が望みだ? 言ってみよ」

「望み、ですか。だったら――」

 

 あたしは起き上がって、モルガーナさんを見据えた。

 今の彼女に一番やって欲しいことを伝えるために。

 

「"シルヴィアさんの母親"を、しっかりやり遂げてくれませんか?」

「……は?」

 

 モルガーナさんの後ろで、無言のドヤ顔サムズアップを決めているリテラに関しては、見なかったことにしよう。

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