太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
しかしあたしに助けてもらったというのに、エルヴィン戦士隊の反応はまだ冷たい。
「いいか、ラグナの娘。我々は長の命令でヒトの余興に付き合ってやる、というだけだ。つまらぬ内容であれば、お前も処刑の対象になるということを覚えておけ」
シルヴィアさんの兄ハーキンからも未だこんな言葉が出るくらいだ。
やはり溝は相当深いのだろうか。
席についてもエルヴィン族の反応は様々で、ヒトの余興などそれほど期待はしていないだの、少なくとも暇つぶしにはなるかだの、劇に対する期待値は最底辺と言ってもいい。
だが、モルガーナさんの表情はどうだろう。
あたしから見れば、少しワクワクしているようにも見える。
厳つい表情はそこまで変わってないのに、なぜかそう見えたのだ。
これはまだ脈がある、かも?
期待と不安が入り混じる中で、遂に劇団『フルンケライ』渾身の演劇が幕を開けるのだった。
〜・〜・〜
華の都リバーナに、肩を並べる名門ふたつ。
古き恨みがまた弾け、街を巻き込み血染めの闘争。
敵同士の親を持つ、不運な星の恋人たち。
これより御覧に入れますは、先行き不安な恋の道行き。
二時間ほどの御清聴頂きますれば、役者一同、力の限り務めます。
『ロミィとジュリアス』
長らく対立し、血で血を洗う闘争を繰り返す、モンタリオ家とギャブレー家。
モンタリオの娘・ロミィは、この状況に辟易していた。
父親はどうして、ギャブレーの血を目の敵にするのだろう。
失うばかりの闘争には、何も意味がないというのに。
本当にギャブレーは悪い人間の集まりなのだろうか。
疑問を抱いたロミィは友人を連れて、ギャブレー家主催の仮面舞踏会にこっそり参加した。
そこで、彼女は出逢う。
バルコニーで黄昏ていた青年、ジュリアスと。
ロミィが興味本位でジュリアスと接してみると、彼もまた親に生き方を縛られた子供なのだとわかり、ロミィは確信する。
きっとこの出会いは運命。
自分の生は、この人の苦しみを受け止めるためにあったのだ、と。
しかし、境遇は同じでも、敵同士の娘と息子。
呪われた血の運命は、ふたりの逢瀬すらも許さなかった。
それでもふたりは、出会う機会をどうにか増やし、互いの気持ちを深めていく。
ある時の逢瀬、庭に忍び込んだロミィを見下ろして、バルコニーからジュリアスが心の叫びを訴えた。
「おお、ロミィ。何故君はロミィなんだ。どうかモンタリオの名を捨てて、自由になって欲しい。敵が家の名前だけだというのなら、僕は喜んでギャブレーの名を捨てよう!」
「ならば私はその名の代わりに、貴方の全てを受け止める恋人となりましょう!」
そう返すロミィの心に燃え上がる、情愛の炎。
〜・〜・〜
観客席がどよめいたのは、シルヴィアさん演じるロミィが登場した辺りだった。
真っ先に反応したのはハーキンであり、即座に隣のモルガーナさんに囁く。
「母上、どういうことです? 何故筋書きを書いただけのシルヴィアが舞台に?」
「黙って見ておれ。シルヴィアの気が散る」
瞬時に黙り込むハーキン。
まあ普通驚くわよね。
それにしてもシルヴィアさん、演技は初めてであるにも関わらず、今のところ見事にロミィを演じきっている。
確かシルヴィアさんって憑依型作家なんだっけ。
役に入り込む演技ができているのはその影響かもしれない。
〜・〜・〜
それでも血の縛りと家同士の因縁は、ふたりの愛の障害となって立ちはだかる。
街中で起きた些細な喧嘩は、そのうち両家を巻き込む凄惨な殺し合いに発展。
その最中で仲裁に入るロミィだったが、友人を守るための不幸な事故から、ジュリアスの従兄弟を手にかけてしまった。
本来ならば死刑だったところを、正当防衛の証拠が提示されたこともあり、情状酌量の余地があるとされ、ロミィの刑は軽くなった。
しかし、追放刑。
運命のいたずらが、ロミィとジュリアスを引き裂いていく。
〜・〜・〜
「嘘……どうしてこうなったの!?」
エルヴィン族の観客が口を両手で覆って、ロミィの追放を嘆いている。
「だが、まだ生きているだけマシだ。問題は――」
そう、問題はここから。
ジュリアスの手番が回ってくる。
〜・〜・〜
その一方でジュリアスは、親の言いつけで愛してもいない令嬢との結婚を迫られていた。
せっかく親に隠れてロミィと式を挙げたというのに。
結局親は自分の面子しか考えていない。
僕は親にとって、ギャブレーの血を遺すための道具でしかないのだ。
もう我慢ならないと、ジュリアスは行動を起こす。
まずは自分たちのために式をしてくれたシスターに、己の悩みを打ち明けた。
「シスター、僕は……僕らはどうすればいいのでしょう? 血の運命が僕らの愛を縛りつけるのなら、いっそのこと死んだ方がマシだ!」
「落ち着きなさい、ジュリアス。確かに血の運命は抗えぬもの、簡単には断ち切れません。死ねば楽になれる、それもまた事実なのでしょう。ならば、死んだことにすればいいだけのこと」
シスターはふたつの小瓶を取り出した。
それは、仮死の薬。
「一日と半日の間、死んだように眠れる薬です。片方は貴方、もう片方はロミィのもの。ジュリアス、貴方はこれを飲んで親を欺きなさい。ロミィにはこちらから使いを寄越して、薬を届けさせます」
「おお、神よ! この出会いに感謝します。式に立ち会ってくれたのが、貴方で良かった!」
このシスターとジュリアスの計略が吉と出るか凶と出るか。
舞台はクライマックスへと向かって動き出す。
〜・〜・〜
「愛のために命を捨てるほどの覚悟……」
劇が次のシーンに移ろうという時に、ハーキンの呟きが聞こえた。
「ヒトとはそこまで命を燃やせるものなのか?」
「ヒトの一生は我らより短いと聞く」
その呟きを、隣のモルガーナさんは独り言のように返す。
「それ故か? 刹那の輝きに魅入られてしまうのは……」
そうですよ、モルガーナさん。
きっとシルヴィアさんはヒトのそういう生き方に感銘を受けたのだろう。
悔しいが、リテラの言う通りだ。
必死で生きようとする命は、尊い。
だからこそ舞台の上は、輝いて見えるのだ。
さて、劇はそろそろ最高潮。
あたし達も意見を出し合った、ロミィとジュリアスの命運が決まる。
〜・〜・〜
ジュリアス・ギャブレーが、結婚式を控えた前日に死んだ。
ギャブレー家全体を震撼させたこの報せにより、結婚式は急遽葬式へと塗り替えられる。
死因は服毒自殺とされ、死んだように眠るジュリアスの身体は棺に入れられ、霊廟に埋葬されることなった。
そしてギャブレー家が葬式を終えた夜。
ひとりの女が、霊廟に保管されたジュリアスの遺体に忍び寄る。
街から追放されたはずの、ロミィ・モンタリオだ。
「ジュリアス……」
棺を開けて、愛する人の尊顔を見る。
およそ死んだとは思えぬその顔に、ロミィは微笑みかけた。
「私も、覚悟を決めました。貴方と同じ道を歩むために」
懐から小瓶を取り出したロミィは、それを一気に飲み干す。
「ジュリアス、また逢いましょう! 向こう側の世界で!」
まるで遺言らしからぬ声を上げて、ロミィはジュリアスの身体に寄り添うように倒れた。
モンタリオ家とギャブレー家には、そんなシナリオが伝わるようになっていく。
〜・〜・〜
両家の和解のきっかけになった、愛する者たちの心中という惨劇から一年の月日が流れた。
かつて自分を助けてくれたロミィが死んだことを、未だ信じられずにいたロミィの友人・シオンは、差出人不明の手紙を受け取る。
内容は、『よかったら村まで遊びにいらしてください』という類のもの。
怪しく思うも、招待を受けて田舎の村まで馬車を飛ばしたシオンが見たものは。
そう、一年前のあの時、シスターの使いは追放されたロミィを見つけ出し、計略の内容と仮死の薬を伝えていたのだ。
そして仮死の薬の効果が切れて起床したふたりは、シスターの計らいで遺体を既に埋葬したことにされ、かつて結婚式を挙げたこの村で駆け落ちに成功していた、というわけなのである。
名を変えてでも、血の呪縛を振り切ってでも、成し遂げたかった愛があった。
そんな夫婦のこんな台詞で、この物語は締めくくられる。
「ああ、ロミィ。今でも夢みたいだと思うよ。こうして家同士のしがらみから逃れて、家庭を築けているなんて」
「そうね、ジュリアス。でも、夢を見るのはこれから。死を装ってまで掴んだこの新しい幸せを胸に、これからも共に生きていきましょう。だって、私達は――」
この愛を、嘘にはできないから。
――劇終――
〜・〜・〜
幕は下りた。
血のしがらみから逃げる形で。
モンタリオ家とギャブレー家が互いの子を死に追いやってしまったことで和解する流れは、あたしの知るロミジュリや改稿前と同じ。
しかし、ロミィに使者からの手紙と仮死薬が無事届いたことで、物語は大きく分岐。計略によって、一度ウソの死を迎えたロミィとジュリアスの愛は見事に成就し、ハッピーエンドを迎えたのである。
ロミィを演じたシルヴィアさんの演技は少々拙かったが、とても気持ちのこもった迫真の演技だったと、あたしは思う。
問題は、そんなシルヴィアさんの気持ちが、母親であるモルガーナに伝わったかどうかだ。
「シルヴィア……」
彼女がそう呟く声が聞こえてから、時間差で手を叩く音が聞こえる。
これは、拍手か。
程なくして、劇を見ていた他のエルヴィン族からも拍手が伝播する。
あたし達ギラソール傭兵団も、思った以上の出来に、思わず拍手喝采。
「凄まじい……!」
「まさかヒト族の演し物で泣くとは思わなかった」
「これからも強く生きろよ、ロミィとジュリアス……!」
凄い、エルヴィン族が演劇で感極まっている。
価値観は違っても刺さるテーマだったのか、それとも――。
「我らはかつて、ヒトの底知れぬ欲望に恐怖した」
おっと、あたしの前の席に座っているモルガーナさんが突然語り出したぞ。
「だからこそ我は、ヒトに興味を持たせぬよう、シルヴィアを育ててきたつもりだった。どうやら、間違っていたのは我の方だったらしいな」
席からゆっくりと立つ里長。
なおも、語りは続く。
「シルヴィアは自らの意思でこの里を抜けた……。それは間違いないのだろう。我がヒトを嫌う故、逆に興味を持ってしまった。そう思う他ない」
「母上……」
モルガーナさんの隣席で共に劇を見ていた、シルヴィアさんの兄ハーキン。
彼もまた、劇を見て己を鑑みたのだろう。
少し寂しいような声が聞こえる。
「だが、シルヴィアは運が良い。舞台を見よ、ハーキン」
「おおっ……!」
舞台の上では、ロミィ役のシルヴィアさんと、ジュリアス役のリュカさん、そして他の劇団員たちが一列に並び、深々と頭を下げている。
拍手の音が響く中、劇団員たちに囲まれて満面の笑みを浮かべたシルヴィアさんが、そこには居た。
「あの光景を見て、全てのヒト族が怖いと誰が言えるだろうか?」
「文句のつけようが、ありませんな」
ゆっくりと、モルガーナさんは舞台に向けて歩む。
おそらくはあたしの頼み通りに、母親としての責務を果たすために。
「シルヴィアよ」
「は、はいっ!」
「拙くも、よくぞ演じきったな。母親として、誇らしく思う。我手ずからの成果ではないのが心苦しいが、な」
「お母様……」
シルヴィアさんの瞳に、涙が浮かぶ。
きっと久しぶりだったのだ。
母親に褒められて嬉しい、ということが。
「筋書きや演技越しに、お前の覚悟が伝わってきたぞ。お前はロミィのように、自らの意思で、嫌悪の対象であるはずのヒトと、共に歩む道を選ぶのだな。その道が、どれだけ過酷だと理解していようとも」
「自分はこの里を出て……結果的には良かったと思っています。実際に会ってみなければ、ヒトの全てが悪いわけではないと……そう思えたから」
「劇団一座が……ウルスラ・バッシュが、お前に良い影響を与えたようだな」
「そう言ってくれて……嬉しいです」
浮かぶ涙を拭いもせず、シルヴィアさんが心からの笑みをこぼす。
そこへ、ハーキンが声を掛けた。
「シルヴィア、お前の仲間達を悪く言ってしまったこと……謝罪する」
「お兄様……」
「お前をそこまで笑顔に出来る者達だ、処刑など勿体無い。ですよね、母上」
「ああ。一晩以上も引き留めて悪かった、劇団の皆の衆。これより貴様らを解放すると共に、娘を一時預けることを許そう」
里長モルガーナからようやく聞けた、解放宣言。
劇団『フルンケライ』は、試練に打ち勝ったのだ。
「やったあああ!」
リュカさんを筆頭に、歓喜の声が渦巻く。
幸せな結末に改変した劇は大成功、シルヴィアさん親子の関係も修復されて、劇団はようやく本来の目的地へ向かえる。
うん、これは文句なしのハッピーエンドってヤツね。
「うむ! これにて一件落着、といったところか!」
「ジーク、アタクシ達にはまだ護衛の仕事が残っていますのよ。もう終わった気でいるとは、相当おめでたい頭してますのね」
「はっはっはっ、返す言葉もない!」
はい、ジークのいつものヤツ頂きました。
でもヤーナ、そんなこと言いつつ安堵が隠せてないわよ。
「あれっ、でも一時預けるってどういうことだ、ミュウ?」
「エルヴィンの時間間隔は曖昧みたいだから、結構長めに居座ることくらいは許すってことだと思うよ」
「つまり仲間が寿命でいなくなったり寂しくなったりしたら、いつでも帰ってきていいってことかもね」
「へぇ、意外と優しい母ちゃんなんだな」
ニューもモルガーナさんの真意を理解してくれて何より。
「昨夜、脚本の改訂に協力した甲斐がありましたね。納得いく形で収まってくれたみたいで、ほっとしましたよ」
「そうね……」
ミュウくんに言われて思い出す、昨夜のこと。
シルヴィアさんがあたし達にお願いしたのは、『ロミィとジュリアス』の結末についての話。
通し稽古で見せてくれたシーンは案のひとつであり、貴族層向けに考えられていた結末。
しかしリテラの言葉を思い出して、劇団を救うために結末を変える覚悟を決めたシルヴィアさん。
数ある己の草案を掘り起こしつつ、シルヴィアさんはあたし達と、観客目線での改訂案に関する意見を出し合うことになったのである。
そこであたしが出した意見が、全てを決定づけた。
――使いの人がロミィを見つけ出せば、どうにかなったんじゃない?
リテラとシルヴィアさんがふたり揃ってそれだ、って叫んだ時はビックリしたわね。
かくして、本来はジュリアスの従兄弟に刺されて死ぬはずだったロミィの友人であるシオンを、ロミィが正当防衛する形で生き永らえさせるエッセンスを加えて、使いの人がロミィを見つけるルートに分岐させたのが、今回の公演なのであった。
「とりあえずアイツの尻拭いは出来たってことで――」
いや、ちょっと待てよ。
ここまで思い出してようやく気付いた。
公演が終わってから、リテラのあのやかましい限界オタク声を聞いていない。
恐る恐る、隣の席に座っているハズの妖精を見やる。
これほどの光景を前にして、まさかとは思うけど。
「あっ……!」
「姉貴、どうしたんだ!?」
思わず口を覆ったあたしの背後から、ニューの声。
でもこれは、この状態はニューに見せてはいけない気がする。反面教師として。
「リテラに何か……何だコレ?」
結局見てしまったニューが少し引く。
そこにいたのは、席に安らかに身を預け、真っ白に燃え尽きたかのように変色した、一匹の妖精。
この世の全ての幸せを噛み締めたかのような、聖母も裸足で逃げ出すレベルの慈愛に満ちた笑みが、全てを物語る。
「コイツ、目の前の光景が良すぎて……気絶している!」
あっ、そうか。
リテラがよく言ってた尊みで死ぬって、こういうことだったのね。
文字通り安らかに眠っている光景はまるで、仮死薬を飲んだロミィとジュリアスのようでもあった――。
その後、劇団『フルンケライ』の出張公演は大成功に終わり、リテラも尊死から無事復帰しましたとさ。やれやれ。