太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
幕間その十二 「最高にロックだとは思わねェか?」
東のウォルタート王国と、西のアインハイト帝国。
その、かつてぶつかり合っていたふたつの国の国境、その南の海に位置する諸島群から成り立つ島国。
名をパライソ中立公国。
この国では、ひとりの王が実質全てを掌握していた。
公国宮殿、謁見の間。
玉座に座するその男の出で立ちは、絢爛なこの場において、異様な空気を放っていた。
パッション全開な橙色のツンツン頭に、黒の革ジャケット。
およそ王という立場には似つかわしくないパンクスタイルが、彼の性格そのものを表しているかのようである。
玉座の両脇には、彼を守護するかのようにふたりの美女が佇む。
そんな『両手に花』を体現する男を前に頭《こうべ》を垂れるのは、小太りの中年男性。
「ロータス……国王陛下。本日の定時報告になります」
「おォ。手短にな、大臣」
「昨日の時点で、過労死した労働員が二十人増加しました」
大臣と呼ばれた中年男の声色は、不安を募らせているかのような深刻さを秘めている。
にも関わらず、ロータスと呼ばれし若き王は、退屈そうな表情を崩さなかった。
「ハァ〜、まったくだらしねェ。タフな奴が少ないんじゃねェのか、この国は?」
玉座の肘掛けに足を乗せるロータスが、退屈そうに鼻を鳴らす。
「そう申されましても、彼らは休みなしでスタジアムの設営に駆り出されておりましたし――」
「軟弱だからそうなっただけだろうがァ。ビートに乗れなかったってのはそういう事だ」
ロータスの革ジャケットにあしらわれた無数の金属スタッズが冷たい音を立てる。
「ビート……ですか」
「あァ、ビートって波に乗れなきゃ生きられねェ。ヒトってのはそう出来てるらしい。お前はどうだァ、大臣?」
「と、申されますと……?」
「家庭を捨ててまでビートに乗ろうとするお前は、どうだって聞いてンだよォ」
「ひっ……! そ、それはもう! 身命を賭して陛下に傅かせていただきますのは、国家の繁栄のためでありますが故! そこに家族など不要ッ!」
萎縮しつつも脂肪は揺れる。
大臣はこの場における精一杯の忠誠を示しつつも、ロータスの顔色には退屈の二文字が未だ抜けない様子だった。
「ハッ、なにが繁栄だァ。パライソって国は王国と帝国の大戦を止められなかった時点で、とっくに落ち目なんだよ。そんな小綺麗な理屈を並び立てるくらいなら、オレは繁栄より熱狂を選ぶね」
「だからこその『マキナ・ランブル』……ですか」
「おうよォ。血湧き肉躍る闘争……ワクワクすンだろ?」
するわけがないだろう。
大臣には王の狙いがわからない。
まだ魔獣が蔓延る世だというのに、こんなことをしている場合なのか。
金と人材の無駄遣いなのではないか。
彼の憤りは、目の前の暴君を相手にして、徐々に絞られて出力されていく。
「お言葉ですが、陛下……その闘争の舞台設営に無理矢理駆り出された人員が、休みを与えられず死んでいるのです……。いずれ暴動が起きますぞ」
「構わねェよ。労働力はいくらでも代わりが利く」
「王たる御方がそのように民を見るものではありませぬ」
「あのなァ、オレは指南書見ながら王をやってるわけじゃねェんだ。どう国民を使おうが王の勝手だと、初対面ン時に言ったハズだぜ」
「ですが――」
あくまでも王を諫めんとする大臣の声を遮るように、玉座の両脇にいた人影が大臣に迫る。
まるで姉妹のように似た顔、桃色の瞳。
左は鮮やかに彩った金髪をなびかせ、右は長い銀髪をツーサイドアップにして結び、いずれも、一癖も二癖もある装飾で己を着飾っている。
「もぉ~、古い古い。古すぎて笑えんし。オジサンの王政っていつの時代で止まってんの?」
「ア、アンリ様……」
大臣がアンリと呼んだのは、金髪の女。
相手を翻弄するその様は、まるでギャルのようだった。
「ざぁこ、ざぁこ、ざこ大臣♡ そんなんだからロータスのビートに乗れないんだ」
「うぐっ……メアリ様まで……」
メアリと呼ばれた銀髪の女は、また違う言葉の暴力で大臣を責め立てる。
アンリと違って幼稚な語彙だが、大臣には刺さるようだった。
「オイオイ、ふたりとも。そう事実ばっかり言うモンじゃないぜェ。コイツはオレがその商才を認めて置いてるだけだ。使い物にならなくなったらオレが困る」
「んー、ロータスがそう言うんなら、駄肉揉むだけで済ませたげる」
「ちょっ、この脂肪をストレス解消に使われては困りますぞアンリ様!」
「でもタップタプじゃん、ざこ大臣のくせに♡」
「あっ、やめてくだされメアリ様も!」
屈辱。
大臣の脳裏には現在進行系でその二文字が刻まれている。
おかしい、最初は商機だと思って王国を出たのに。
今でも家族と会えない状況が続いているのは、間違いなくこの男が突然玉座に座ってからだ。
脂汗や冷や汗が滴り落ちる。
アンリとメアリの肉揉みがしばらく続き、やがて満足したのか、ふたりは玉座の左右という定位置に戻っていった。
「さァて、大臣。エンタメってのは小せェ犠牲を気にしてちゃ、やっていけねェンだ。王国も帝国も巻き込む気概でなきゃ、オレの望む熱狂は遠い」
両腕を大きく広げるロータスは、まるで大観衆を仮想して彼らに向けて煽るかのように天を仰ぐ。
「戦う本能を持って生まれたからには、誰でも一度は夢を見る。地上最強ってヤツを! そういう奴らの為の『マキナ・ランブル』だ。その身とマキナで勝ち抜いた者だけが、巨万の富と願いを叶えるッ! オレの望む熱狂は、その先にあるのさァ!」
「ですが、何故この時期なのです!? 王国の難攻不落と呼ばれた王都の内部に、魔獣が入り込んだという情報を聞いたばかりではないですか!」
「そんな眉唾情報なんか忘れちまえバァカ。この国に魔獣が出たことなンかなかったろ? なら心配ねェ」
「心配ない、ですと!? そういう問題では――」
「大臣、想像してみろ。スタジアムに迸る血と汗、観客の絶叫に怒号……その全てが混ざり合って生まれるグルーヴを。最高にロックだとは思わねェか?」
狂気という名の威圧が、大臣を襲う。
すぐに大臣はロータスという王に対する理解を改めた。
目の前のこの男は国家の安寧など微塵も考えていない。
王国と帝国の両方に良い顔をして体裁を保ってきたパライソ中立公国の歴史など、彼には何の関係もない。
ただ己が気持ち良くなるだけのマスターベーションを、国という大枠を使ってやっているだけだ。
だが、独り善がりだと反論するには至らない。
この男には逆らってはいけないと、生存本能が叫んでいる。
死なないためには、服従を選ぶしかなかった。
「……そう、ですな……。全ては陛下の御心のままにするのがよろしいでしょう……」
「わかりゃいいンだよ。で、スタジアムの完成度は?」
「九割ほどになります……。人員を補充すれば、早くて七日ほどで完成するものと……」
「よし、王国と帝国の両方に布告しとけ。とびっきりの奴らを期待してるぜェ」
「……御意」
王の顔をなるべく見ないように、大臣は玉座の間を立ち去る。
「頑張ってねぇ、オジサン」
「ざこなりにね♡ ギャハハハッ」
アンリとメアリの罵倒を背に扉が閉められる。
威圧から解放されて一息ついた大臣は、廊下の窓越しに空を見上げた。
(苦しい……まるで生き地獄だ)
何故、こうなったのだろう。
家族のため商機に飛び込んだハズが、暴君の下で己の商才を無駄遣いしている。
(何故金というものは、あんな若造の天下で回りやすいのだろうな……)
もう沢山だ。
そう思ったことも何度かあったハズなのに。
金と権力の前では、己はこんなにも無力だったのか。
(せめてひと目……ひと目だけでいい……置いてきた娘に会いたい)
「ヤーナ……お前は今どこで、何をして生きているんだろう――」
娘の名を呼ぶ悲痛の言葉は誰にも聞かれることはなく、パライソの時間は進む。
暴君による新たな波乱という、暗雲を立ち込ませながら。