太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第九十二話「嫌な予感がする……」

 ルーティーンのジョギングから、傭兵団の皆とテーブルを囲んで朝食へ移行。

 

 本来ならば、何事もなく進んでいく日常。

 そんな中で、あたしは。

 

「ハァ……。非合法の拳闘クラブとかこの辺にないかなぁ……」

 

 パンをかじりつつ、あまりにもアウトローな独り言を呟いてしまっていた。

 

 あ、多分これ全員に聞こえてる。

 呑気にパンを味わって悦に浸っているジーク以外、やたらドン引きしてる感じだ。

 

「な、なに物騒なこと言ってんだ姉貴……?」

「そうですよ、何か悩んでるなら相談に乗りますから……!」

 

 ニューとミュウくんが変なものでも食べたのかってレベルで心配してくる。

 そんなにやたらと動揺されると、話しづらくて罪悪感が凄いんだけど。

 

「だ、大丈夫よ。大したことじゃないから」

「大したことですわよ」

 

 えっ、ヤーナまで心配するレベル?

 

「仮にも傭兵なのですから、多少は周りの荒くれ者の影響を受けるのも仕方ありませんわ。ですけど、まさか周りの荒くれ者と同等ラインまで思考力が落ちているなんて……」

「いやいや、流石にその辺りと一緒にされちゃ困るわよ」

「レヴィンは結局、何が言いたいのだ?」

 

 ジーク、ナイス軌道修正。

 

「実は、このところあたしなりの手応えがなくて。魔人王とかダリアを絶対殴ってやるって意気込んで始めた傭兵稼業だけど、この三ヶ月で全然魔獣教団の情報が入らなくなってきたし、ギルドで依頼をこなしても、歯応えのない魔獣とか悪党ばっかり。強敵案件がまるで無いのよ」

「まあ確かに、このところは強力な魔獣が出たなんて情報はギルドに入ってきていない、とは聞いておりますけども」

「良いことではないか。手を焼く依頼が無いということは、それだけ王都周りが平和になってきたという証拠だ」

「ジーク、わかっていますの? 平和だとアタクシ達傭兵は食べていけないんですのよ」

「なるほど、それは困るな!」

「困ってる顔してないぞジーク!」

 

 珍しくニューがツッコんだ。

 

「深刻なのはもちろんですけど、魔獣教団の音沙汰がないのは、ボクとしても気になりますね」

 

 ミュウくんは冷静に話を進めている片手間で、グラウの分の朝食を皿に乗せて目の前に置いてあげている。

 そのミュウくんの懸念に、ヤーナは推論で返した。

 

「ひとりの残党も残さずに、ここ三ヶ月の間で王国から逃げおおせたのなら、音沙汰がない理由にも説明がつきますけども」

「卑怯な奴らよね。どこへ逃げたのかしら」

「可能性があるとするなら、アインハイト帝国じゃろうな」

 

 ふと、今まで珍しく黙っていたリテラが口火を切った。

 

「……っ!」

「やっぱり、リテラさんもそう思ってたんですね」

 

 帝国出身の双子が、深刻な顔で帝国という単語にすぐさま反応する。

 

「曲がりなりにも隣国じゃし、帝国が魔獣教団の総本山と仮定しても辻褄は合う。その証拠に、奴らは帝国製の汎用マキナを持ち出しておったしな」

「魔獣を解き放った、あのランタンみたいなヤツだよな?」

 

 ニューの気付きで思い出した。

 確か教団の執行部隊とかいうのが持っていたアレだ。

 名前は『ゲフェングニス』。

 

 魔獣教団だから魔獣を従えていても不思議ではなかったが、あの持ち出し方はある意味脅威となる。

 リテラが頷いて、話を続けた。

 

「魔獣が現れてからの停戦により、王国と帝国は互いに不可侵の条約を結んでおるから、両国の輸入出に関しては制限が課されておる。特に帝国製の魔導具や汎用マキナは、条約の中で無断の王国領持ち込みを禁じられ、最悪の場合死刑を求刑されるほどじゃ」

「ま、あんな狂信者集団が条約なんかを守るとは到底思えないけどね」

「そんな奴らだからこそ、帝国は居心地がいいのかもしれん」

「その言い草、まるで帝国がまともな国じゃないみたいじゃない」

「まあ……まともな国じゃないよな、ミュウ」

「うん。ボクらが亡命する前から、色々と怪しかったですし……」

 

 双子の表情が少し青ざめる。

 怪しくなきゃ亡命なんざしないわよね。

 

 よし、切り替えていこう。

 

「とにかく、魔獣教団は帝国にいる可能性が高いってことよね」

「だからといって、簡単には行けませんわよ。不可侵条約の関係上、正式な手続きでの入国は出来ませんもの」

 

 切り替えた瞬間、どうしようもない現実が襲ってくる。

 ヤーナは大穴狂いではあるが、ギラソール傭兵団の中では最も物事を客観的に見られる女。

 彼女がそう言う以上、正式に切り抜けられる手段は存在しないといってもいい。

 

「このままではレヴィンさんの疼きが爆発して、手あたり次第に喧嘩を売りかねませんわ。何とか対策を講じなければ……」

「やめなさいよ変な妄想は。あたしも狂戦士ってわけじゃないんだから」

「よし、ならばまずは組手だな! 身体を動かせば、少しは疼きも収まろう!」

「それで疼きが収まるなら苦労してないって話よ。多分全然聞いてないわねジーク」

「はっはっはっ、返す言葉もない!」

 

 おそらくジークからすれば、場を和ませようとしていたんだろうけど、如何せん現実はどうしようもないのよね。

 はてさて、この先どうすればいいのやら。

 

 悩んでいたところに、何かガラスをノックするような音が聞こえたので小窓を見てみると。

 

「ハト……?」

 

 足に金色の筒をくくりつけられたハトが、小窓をくちばしでノックしていた。

 

「ここに伝書バトとは珍しいですわね」

 

 同じく窓のハトに気付いたヤーナが、小窓を開けてハトを出迎える。

 

 伝書バト、か。

 通信手段としては歴史を感じるけど、この世界は民営郵便のインフラが整ってないから、こっちの方が手紙とか小物を届ける主流になっているのかもしれない。

 おそらく騎士団時代のジークがニコラウス騎士団長と連絡を取っていた時に使った伝書も、こういうハトを使って届けられたものなのだろう。

 

「ウォルタート王家の紋章が筒に刻まれているということは――」

「おおっ、エメルからか!」

 

 えっ、何で王家の伝書がこっちに届いてるの? 怖っ……。

 エメルったら、女王に即位して忙しくしてるだろうに、何のつもりでこっちにハトなんか送ってんのよ。

 

「嫌な予感がする……」

「考えすぎですわよ、レヴィンさん。文通用の手紙かもしれませんし」

 

 ヤーナが金の筒から丸められた羊皮紙を取り出す。

 どうか当たり障りのない世間話の手紙でありますように。

 

 ~・~・~

 招待状

 ギラソール傭兵団 様

 

 迎えを寄越すので、是非王城にお越しください。

 高級なお茶菓子を用意して、お待ちしております。

 

 女王エメラリアより

 ~・~・~

 

 あ、怪しい……!

 何も事の詳細を書いていないところが特に……!

 

「茶会の誘いか。そういえば久しくエメルともやっていなかったな」

 

 お願いだからもっと疑いなさいよジーク。

 親友の誘いだからって文面をそのまま信じちゃいけない時もあるのよ。

 

「そうですわね。お茶菓子代が王家持ちなら、普段の紅茶代の節約にもなりますもの」

 

 ヤーナはヤーナで随分みみっちいことを考えてる。

 それはもうほぼ庶民の発想なのよね。

 

「ミュウ、お茶会って楽しいのか?」

「場所によるかもしれないけど、王宮でやるならまたシトリーとも会えるかもね」

「あ、そういやシトリーは王族だったな! あっしらも行くぞ姉貴!」

「ちょっとちょっと、待ちなさいって。落ち着いて考えなさいよ、皆」

 

 なんだかもう皆行くって流れになっちゃってるから、あたしは一旦猛獣をなだめるように皆を制した。

 

「どうしたんじゃレヴィン。エメルからの招待じゃぞ? 疑心暗鬼になるような要素なんぞ何ひとつ無いじゃろ」

「そりゃそうだけど、普通は何の理由もなしにあたしらをお茶会に呼んだりしないのよ、王族っていうのは」

「まあエメルだしな。なんとなくで私たちを呼ぶこともあるだろう」

「自分の立場を理解してたら、まずあり得ない線なのよ『なんとなく』は」

「疑り深いですわね。そんなにアタクシ達の親友が信用ならないんですの?」

「逆よ、かなり信用してる。絶対持ち前の行動力で振り回してくるであろうことに関してはね!」

 

 このエメルの幼馴染コンビ、やっぱ駄目だ。

 あの子を信頼しきってるから、まるで警戒心がないでやんの。

 

「この際だから言うけど、あたしは国――」

 

 とにかく王家を経由した厄介な国際問題は面倒なので関わりたくない、という旨を伝えたかったところに、玄関に備えてあった呼び鈴の音が響き渡った。

 ちなみに呼び鈴の仕組みは、玄関の脇にあるロープを引っ張れば、室内の小ぶりな鐘が鳴るクラシカルスタイルである。

 

「こんな朝っぱらから誰なんだ?」

「噂をすれば……というヤツか?」

「流石にありえないでしょ、招待状が来た途端にお迎えが来るなんて……。一応あたしが出ておくわ」

 

 妙にお茶会を断りにくい空気だったのが心残りだが、朝から居留守を決め込むわけにもいかない。

 

 ダイニングを出て玄関に向かったあたしは、何か防犯系の魔導具でも買っておくんだったと後悔しつつ、玄関の扉を押し開けて来客の顔を拝む。

 

「はいはい、変な宗教の勧誘なら断ってます、よ――」

 

 それだけのはずだったのに、目の前の客人は。

 

「おはようございます、レヴィンさん! 今日もいい天気ですね!」

 

 満面の笑みを浮かべて挨拶してきた、女王エメラリアだった。

 

 条件反射で扉を引いて閉める。

 

 えっ、何よ今の……?

 いや、確かにお茶会の迎えが来る予感はあった。

 あったんだけど……普通そうはならんでしょ。

 女王直々って、どういうことよ。

 

「酷いじゃないですか、弟子の私が来たのに閉めるなんて!」

 

 気付けばエメルがドアノブをガチャガチャ引いて、無理矢理中へ入ろうとしている。

 こうなったら我慢比べだとばかりに、あたしはドアノブを握って抵抗した。

 

「弟子にした覚えないし、あんた女王でしょ! 公務はどうしたの公務は!」

「優秀な宰相に任せてあるから大丈夫なんです!」

「そもそも呼んだ本人が迎えに来るのは駄目でしょ、色々と! 何も変わってないんだからこの子はもう!」

「今回は正式に外出手続きを踏みましたし、馬車で皆様を城に連れ出す準備も整ってますから!」

「準備万端にすれば許されるってわけでもないでしょうが!」

 

 ぐぬぬ、エメルが思ったよりしつこい。

 こっちはデカい面倒に巻き込まれたくないだけなのに、なまじエメルのあたしへの好感度が高すぎるからチクショウ!

 

「何をギャーギャー喚いてますの?」

 

 そこへヤーナが来てくれた。

 おお、神の使徒よ。待ち侘びていた。

 

「ヤーナ、エメルを追い出すの手伝ってよ! このままじゃ国家の陰謀に――」

「諦めなさいな。言い出したら聞かない、行動力の化身なんですのよ」

「だからってさあ!」

「勅命に逆らえば、処罰は免れませんわ」

「うぐっ……」

 

 参った、そういう法律を傘に着せた正論を出されると弱い。

 ヤーナ、あんたは突き放すタイプの使徒であったか。

 

 精神的動揺から、あたしはうっかりドアノブを握っていた手の力を緩めてしまう。

 案の定、玄関の扉が現女王の手によって開け放たれた。

 

「ありがとう、ヤーナ。さあ、レヴィンさん。表に馬車が停めてありますので、支度を済ませたら色々とお話し致しましょうか!」

「あ、あははは……」

 

 もはや逃げ場は防がれた。

 片や桃のように鮮やかな髪の下で、屈託のない満面の笑みを浮かべて、職権乱用ならぬ王権乱用を躊躇なくぶちかますエメル。

 片やその幼馴染であり現実を客観的に見ることに長けるギャンブラーシスターとかいう変な奴。

 

 国家レベルの陰謀に巻き込まれる未来は、もはや確定のものとなってしまった。

 

「……殺してください」

「殺しませんて」

 

 ヤーナに無慈悲な言葉を言い渡されて、あたしは渋々とダイニングに戻るのだった。

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