太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
王都グナーデンの石畳の道を、王家の紋章を刻まれた馬車が通る。
別にそれ自体は珍しいことではない。
王室関係者はこういう馬車に乗って、広い王都の方々を移動しているらしいから。
だがそれでも、馬車内部の光景はあたしにとっても異常に見えた。
あたしの両隣にはニューとミュウくんがいて、向かいの座席には、ジークとヤーナという旧友に囲まれたエメルがいる。
いつものようにあたしの肩に座っているリテラは置いておくとしても、これ半分は自警団の同窓会では?
なんとも、居心地の悪さを感じてしまうあたしなのであった。
「それでさ、あたしらをわざわざお茶会って体で呼んだ理由、きちんと説明してくれるんでしょ?」
「何の話です? お茶会はきちんとやりますよ」
「いや、やるんかい」
エメルさんや、あっけらかんとした顔でボケをかますな。
こちとら朝からツッコミ疲れしたくないんですけど。
「そうですね、まずは三ヶ月前の王都襲撃事件について経過報告をしなければと思っていて。街の復興は王都民の皆様の協力もあって比較的早めにケリがついたのですが、その分事後処理に手間取りまして、先日ようやく一区切りがついた次第です」
王都襲撃事件といえば、魔獣教団がやらかしたあれやこれやのことだ。
おそらく事後処理が遅れたのは、前女王生誕祭目前といった時期の悪さもあったのかもしれない。
「ちょうど『天馬騎士隊』にも帰還する旨の伝書を頂いたので、レヴィンさん達を呼び出すいい機会だと思いまして」
「その、天馬騎士隊ってなんだ?」
「王国騎士団において、広域の調査や遊撃を担当する、やたらと小回りの利いた空戦部隊ですわ。騎乗する馬が全てペガサスという、他にない特色が一部の民や兵に人気だとか」
ニューの疑問に、ヤーナが答える。
ペガサスといえば、あたしでも知ってる神話上の生き物だ。
馬に翼が生えてるとかそんなやつ。
だから天馬騎士隊か。シンプルで覚えやすい。
「うむ。そして天馬騎士隊の隊長は、王国騎士団の副団長であり、騎士学校で私がかつて憧れていた先輩なのだ」
「そうなのね。副団長って割には、初めて騎士団の本部に来た時は居なかったみたいだけど」
「まあ、騎士団の中でも特に忙しい部隊なので。半年は本部にいないこともザラみたいですし」
騎士団内ではレアキャラ扱いってところか。
ペガサス乗りの部隊って話だし、地球の軍隊とかに例えれば人数分の戦闘機があるようなものだから、急な増援要請を受けて寄越す部隊としては適切だし、そう考えると忙しくなるのも当たり前なのかもしれない。
「で、その天馬騎士隊とやらが帰ってくると、どう都合がいいわけ?」
「よくぞ聞いてくださいました!」
待ってエメル、その謎のハイテンション怖い。
「これからレヴィンさんには、その天馬騎士隊隊長にして王国騎士団副団長……ゲジーネ・ベルスタイン卿と戦っていただきます!」
「……はい?」
いや、戦っていただきます、じゃないんだわ。
仮にも正義を語る女王の口から何でそんな台詞が出てくるのよ。
強そうな肩書きの相手と手合わせ出来そうな降って湧いたイベントより、過激な扇動者にならないかどうかの心配が軽く勝るわ。
「なるほどのう。つまり、いつぞやの会議で『御前試合をやろう』という流れになったんじゃな?」
「えっ、そうなの? どういうわけで?」
「三ヶ月前のお母様の生誕祭で、私はレヴィンさんに『勇者勲章』を授与しました。しかし、襲撃事件の事後処理を優先していたのもあって、勲章授与の正式な書面手続きを疎かにしていたことがバレてしまいまして」
何を言ってる、このうっかりさんは?
あとちゃっかりてへぺろ顔してんじゃないわよ。
「ただ、それ以前の問題として、ラグナ族が『勇者勲章』を受け取るべきではないと反発する保守派の方々も多く、私がやらかした勲章手続きの後回しを笠に着せて、勲章の授与を白紙に戻そうとする動きも出ているらしいのです」
政治に疎いから保守派がどんな集団なのかはよく知らないが、ラグナ族を嫌っている派閥なのは確かなようだ。
もしかしたらその連中がいなければ、父だって『勇者勲章』を与えられていたのかもしれない。
「だからこそ保守派陣営の騎士との御前試合をセッティングし、レヴィンさんに勝たせることで、堅物な保守派を黙らせよう、と。なんとも、エメルらしい力業ですわね」
「そのベルスタイン卿という方は、保守派貴族の血縁……ということなんでしょうか?」
「冴えてますね、ミュウくん。その通りです。ベルスタイン伯爵家は、建国当初より王家と関わりのある、由緒正しき家系。これまでも優秀な騎士を多く輩出し、保守派からの支持も厚い、まさに騎士の看板とでも呼ぶべき名家です」
なるほどね、そんなブランドバッグみたいな人を相手にしてこっちが勝てば、『勇者』としてのあたしを国としては認めざるを得ない、と。
やっぱりロクなモンじゃなかったわね、『勇者勲章』なんて。
一歩間違えれば内乱の火種になりかねないじゃん。
「レヴィンさん、私の不手際からこうなって本当に申し訳ないのですが、どうか勝っていただけませんか? 私としても、レヴィンさんは『勇者』のままでいて頂きたいので」
「勝ってくれないかって言われると、八百長持ちかけられたみたいで気が引けるけど……しょうがないわね」
「引き受けていただけるんですね?」
「どうせこの馬車、王城に行くんだから、選択権無いようなモンでしょ。一応は傭兵だし、頼まれたからにはやってやるわ。でも、条件がある」
「何でも仰ってください!」
「傭兵ギルドでの正式な依頼手続きと、アインハイト帝国に入国する方法をあたし達に教えること」
「喜んで!」
えっ、前者はともかく後者は割と無茶な要求だっただろうに、この女王あっさり許諾しおった。
どうやらまだ何か裏がありそうな予感がする……今から怖くなってきた。
そんな交渉と呼ぶのも怪しくなってきたエメルとの対話を尻目に、窓の景色を眺めていたニューが突然声を上げた。
「姉貴、外凄いって外!」
「外? せめて何があったかぐらいは――」
ニューに促されて窓から外を見てみると。
「ほら、あれがペガサスってのだろ?」
噂をすれば何とやら。
十数頭単位のペガサスの群れが、王城に吸い込まれるように帰還する神秘的な光景が見えた。
「もしかしてアレが、例の?」
「ええ。ゲジーネ・ベルスタイン卿が指揮する、天馬騎士隊の御帰還です!」
なるほど、アレが。
帰ってくるタイミングが良いんだか悪いんだか。
件のベルスタイン卿が何者であれ、この疼きを止めてくれる人だったらいいんだけど。
いやいや、狂戦士じゃないんだってあたしは。
そんな葛藤を巡らせているうちに、馬車は王城の正門を優雅に通過していたのだった。