太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第九十四話「皆様、ようこそ我がお城へ」

 ウォルタート王家の紋章を刻んだ馬車が跳ね橋を通過し、城内に入っていく。

 

 実のところ、あたしはこうやって正式に入城するのが初めての経験になる。

 これまでが裏口入城だったり、ぶっ倒れている間に連れ込まれた感じだから、改めて正面から入るとなると、少し緊張しちゃうかも。

 

 まあ今回は拠点から出る前になるべく身なりも整えてきたし、少なくとも田舎者扱いはされないだろう。

 それ以前の部族差別はどうしようもないけど。

 

 馬車を引いている馬の歩みが緩みだし、荘厳な装飾で彩られたエントランスの前で止まる。

 豪勢すぎて、すっごい、以外の感想が浮かばなかった。

 

 エメルが席から立ち上がって扉を開け、あたし達をエスコートするかのように降り立つ。

 普段の図々しさから一転、淑女然とした振る舞いが、彼女が上流階級の頂点に君臨する女王なのだと思い知らせてくれた。

 

「皆様、ようこそ我がお城へ。女王として、歓迎いたします」

 

 連行同然なことやっておいて、何を言ってるんだろうねこの子は。

 でも一応はお茶会に誘ったって大義名分があるから、この対応は正解なのかな?

 不敬じゃなけりゃ王権濫用ってツッコみたい。

 

 結局はエメルのエスコートに従ってぞろぞろと馬車を降りたあたし達。

 

「お待ちしておりました、女王陛下。そしてお久しぶりでございますね、皆様」

 

 その瞬間に聞き覚えのある凛とした声が聞こえたのでよく見ると、ひとりのメイドが出迎えに来ていた。

 王室のメイド長、ローラ・クノルさんだ。

 かつてあたしが王城に運び込まれた時に世話になった人ではあるが、ドレスを無理やり着させられた記憶が今でも頭にこびりついて離れない。

 

「お、お久しぶりですローラさん」

「些か小綺麗で安心いたしました、レヴィン様。王城の景観を損ねることはありませんね、この程度なら」

 

 そっちも相変わらずの倒置法交じりな喋り方で安心しましたよ。

 でも若干の大きなお世話感。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいんですけど——」

 

 あたしはちらりとローラさんから視線を反らす。

 馬車を出た時から違和感はあった。

 本当ならあたしなんかが王城で出迎えられる理由なんて無かったはずなのに。

 

「出迎え、ちょっと多くないです?」

 

 正確にはローラさんの隣に四人ほど。

 まあ三人くらいは知っている顔で安心した。

 三ヶ月前に生誕祭で見たことのある、エメルの妹と弟たち。

 

「おひさしぶりです、えーゆーさまぁー!」

 

 明るめの金髪を揺らしながら、可愛い生き物が嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。

 エメルの末の妹、シトリーちゃんだ。

 

「こらこら、お客様の前で騒がないの、シトリー」

 

 そんなシトリーちゃんを抑えに入ったのは、亜麻色の縦ロール髪が特徴的な少女。

 生誕祭で見かけたエメルの妹でありシトリーちゃんの姉……確かルビィちゃんだっけ。

 

「しょうがないよ、ルビィ。シトリーは英雄様の大ファンだからね」

 

 ルビィちゃんをなだめた、穏やかそうな桃色短髪の少年が、確か弟のサンドラ君だっけ。

 ここにモンド王子がいれば、兄弟姉妹揃い踏みだったんだけど。

 

「だからといって、ゾロゾロついて来ていいと言った覚えはありません、皆様方。まさかその中に混ざるとは思っておりませんでしたが、ソフィア様」

「まあまあ、ローラ氏。城を救った英雄が気になるのは、自分も殿下たちも同じでありますからして」

 

 それよりも問題は、ローラさんにソフィアと呼ばれた女の人だ。

 ロクにセットされていない藍色の髪、クマが目立つ目元、棒つきのキャンディを常に口にしているその姿は、到底王室の住人とは呼べない風格を放っていた。

 これはあたしよりもローラさんにこってり怒られるタイプ。

 

「紹介しますね、レヴィンさん。こちらは弟のサンドラと、妹のルビィです」

 

 エメルが率先して紹介を買って出てくれた。

 ありがたやありがたや。

 

「貴方がレヴィンさんでしたか。姉がお世話になったみたいで。何か姉が迷惑かけませんでしたか? 僕で良ければ相談に乗りますけど」

 

 うん、現在進行系で迷惑かけてますよ君のお姉さんは。

 どうやらサンドラ君とは仲良くなれそうな気がする、同じ被害者という共通点で。

 

「別に迷惑だなんて……むしろこっちが首突っ込んだ側だし」

「あら意外。いつもお姉様は巻き込む側だと思っていたのだけど、とんだ物好きがいたものね。改めてわたくし、ルビィ・フォン・ウォルタートと申しますわ。以後、お見知りおきを」

 

 ルビィちゃんの方はスカートの裾を掴んで、優雅に御挨拶してくれている。

 なんだか姉と同じ母の血を継いでるとは思えないくらい尖った態度しているように見えるのは、多分気のせいではないだろう。

 その証拠に、あたしを随分ガン見してくる。

 

「お姉様から口伝で貴方のことは聞いています。『勇者勲章』をお受けするに相応しい勇士である、と。今回の御前試合でお姉様が認めたほどの勇者かどうか、見極めさせて頂きます」

「う、うん……よろしく……」

 

 なんというか……圧が凄いわねこの娘。

 雰囲気だけならライバル系ツンツンお嬢様、みたいな。

 

「ルビィ、あまり睨まないの」

「でもお姉様、ラグナ族ですよ? 舐められないように睨み返して、何が悪いのです?」

 

 舐めてない舐めてない。

 思考回路が極道でいらっしゃる?

 どうやらルビィちゃんはとびきり警戒心が強いみたいね。

 

「まあまあ、ルビィ殿下。それくらいで。大好きな姉を取られそうだからとそんな態度を取られては、向こうも困りますぞ」

 

 と、そこへソフィアさんが割り込んできた。

 

「……っ! 何を仰ってるのソフィア!」

 

 図星を突かれたのか、ルビィちゃんが顔を真っ赤にしてソフィアさんに抗議する。

 

「姉愛を拗らせるのは結構ですけども、そこまで顔に出ては立派な大人にはなれませんなぁ」

「そう言う貴方は立派な大人のつもりなの、ソフィア? お客様を前にして、そんなだらしない恰好で!」

「こちとら徹夜明けなんで、無茶を言わんでくださいませ。ぐっすり朝寝する予定だったのを撤回してまで来たモンで」

 

 もしかしてソフィアさんって、私生活がだらしないタイプ?

 まあ徹夜するぐらいだから研究職っぽいし、王室の中でも割と許容されている方なのかも。

 

「うむ、相変わらずだなソフィア。まだ仕事があるなら、一旦水で顔を洗うといい」

「えっ、ジークの知り合いなの?」

「知り合いというか、同じ寮の部屋で寝た者同士というか。あ、変な意味ではないですぞ」

 

 どこに配慮してるつもりなのよ、ジークの同室さんは。

 

「そこの英雄レヴィン氏とはお初ですかな。改めまして、自分は王室魔導顧問のソフィア・ケラーと申す者。そこのジークリンデ氏とは騎士学校の同期でしてな」

 

 このナリで騎士学校に在籍してたのか、ソフィアさん。

 そんなに鍛えてなさそうな体格なのに。

 

「魔法の研究で王室の役に立っているだけの凡人とでも思ってくだされ」

「もうそのラインは凡人と呼べないのでは……?」

「ミュウくん、この手の輩にツッコむのは野暮ですわよ」

 

 あんたがそれを言うのか、天才のヤーナさんよ。

 

 なんというか、この王城の住人って、意外に個性派が多いのかもしれない。

 随分とお堅いイメージが崩れていったが、よくよく考えるとガーネット前女王の時点で結構ふわふわしたキャラだったし、エメルも行動力お化けなので、そういうものなのかな……?

 

 いかんいかん、完全に感覚が麻痺している。

 

「ソフィアさん、レヴィンさんに興味津々なのはわかりますけど、流石に寝てください。今日で何徹目ですか?」

「五徹目、くらいですかな?」

 

 エメルに何日徹夜したのかを聞かされてソフィアさんがそう答えた途端、ローラさんの眉が一際真ん中に寄ったのが見えた。

 

「大変ですね、それは。健康のためにも寝てください、今すぐに」

 

 ローラさんの凍てつくような声色を恐れてか、ソフィアさんが咥えていたキャンディを落としそうな勢いで戦慄する。

 

「ひ、酷いですなぁローラ氏。こちとら、新しい実験のアイディアが閃いたばかりなんですぞ。それを忘れさせるおつもりですかな?」

「健康は優先すべきものです、何を差し置いても。ただでさえソフィア魔導顧問は有用な人材です、死なれては困るのですよ、貴方の都合で」

 

 気付けば、ローラさんは素早くソフィアさんの背後に回って、彼女を抱えていた。

 

「わっ、ちょっと! せめてレヴィン氏の触診だけでも——」

「問答無用です。では少しばかり分からず屋を寝かせに行って参ります、陛下」

「はーなーせー!」

 

 ローラさんはソフィアさんを抱えたまま、全速力で城の中へ。

 まるで嵐が過ぎ去ったかのような静けさが、しばしこの場に残った。

 

「この城の面子の健康管理も大変じゃのう」

「まあ、ローラの生きがいですから」

「ソフィア、骨は拾ってやるぞ」

「ジーク、その台詞の使いどころってここじゃないと思うわよ」

 

 寝かされに連れてかれただけだしね。

 少し変な空気にはなったが、エメルの咳払いが本題に戻るきっかけになった。

 

「では、ひとまず会議室まで案内させていただきます」

「そんな堅苦しい場所でお茶会やる気?」

「いえ、まずは今日の会議でベルスタイン卿と顔を合わせていただこうかと」

「……それ、あたしなんかが参加していいヤツ?」

「勿論です! 多少の罵倒は承知の上で参りましょう!」

 

 嗚呼、やっぱりそう来るのね……。

 会議ということは、件のベルスタイン卿は勿論、多数の貴族が出席してくるのは確実。

 

 どう足掻いたところで女王様の王権濫用は止まらないので、あたしは覚悟して王宮の中に足を踏み入れた。

 

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