太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
ニューとミュウくんはシトリーちゃんの相手になってもらって、あたしはジークとヤーナ、ついでにリテラを伴い、エメルに先導されつつ王宮を練り歩いていた、
エメルの両隣にはルビィちゃんとサンドラ君が寄り添い、何やらあたしには聞いて欲しくないような話をヒソヒソ続けている。
もし政治の話をしているんなら、エメルのこと見直すんだけどね。
「僥倖《ぎょうこう》僥倖。やはり持つべきものはコネじゃのう。あれだけ疼いておったんじゃ、お主も御前試合、楽しみじゃろ?」
「疼いてたのは確かだけど、畏まった公式の舞台っていうのを急に用意されたから、楽しみよりも困ったって気持ちの方が勝ってる感じだけどね」
「だがしかし、相手が相手だ。一筋縄ではいかんぞ」
ジークが珍しく顎に手を置いている。
「そういえば、アナタの騎士学校の先輩でしたわね、ベルスタイン卿は」
「ああ。先輩は騎士の鑑のような御方……特に槍術においては、他の追随を許さなかった」
槍使いってことね。
騎馬兵って割と長物使ってるイメージがあったし、そんな人が相手となると、リーチの差をどう埋めるかが課題になってきそう。
「騎士となり部隊長になってからは、風の槍を授かったと聞く。確か名前は——」
「『ドゥリンダナ』……嵐極槍《らんごくそう》『ドゥリンダナ』、ですわね?」
「……何で騎士団に関係ないヤーナが知ってるの?」
「アラ、アタクシは王国一の名工の下でマキナ作りを学んだんですのよ。師匠の代表作ぐらい知っていて当然ですわ」
そうだったわね……。
たまにヤーナがシュミッツさんの弟子だったって忘れそうになる。
「『ドゥリンダナ』は、騎士団長様の聖焔剣《せいえんけん》『デュランダル』製作の過程で余った分のエーテルメタルで作られた槍。つまりは『デュランダル』の弟分ということになりますわね」
つまり姉妹機みたいな感覚なのだろうか。
「無論、埋め込んだ精霊石による属性の違いはありますわ。『ドゥリンダナ』は嵐極槍の名が示す通り、嵐を起こす風の属性。彼女が乗っているペガサスとは相性抜群な上に、単純な火力だけならアタクシの『シュツルムウォーダン』以上、と師匠から聞きましたわ」
「流石、あやつの作るマキナは上位ランクばっかりじゃのう。当たり前じゃが」
火力でヤーナのより上ってことは、もしかしてAランクより上の代物だったり?
いや、Aより上ってどういうことよ。
「まあ心配はないだろう。必ずしもマキナの良し悪しで勝負が決まることはないだろうしな!」
「そうじゃそうじゃ。レヴィンにはタフなフィジカルもあることじゃし」
まったく、タフな身体になったのは誰のせいなんだか。
あたしがため息をつきながらエメルの背を見ると、いつの間にか彼女が立ち止まっていた。
周りを見渡してみると、左に荘厳な扉がある。
どうやらここが会議室のようだ。
「おかえりなさいませ、女王陛下」
あれっ、この聞いたことある美声は、確かフィンさんの。
廊下の奥から二人の男性とひとりの女性が現れる。
そのうち二人の男性は、あたしも見知った顔だった。
「フィン、クロイツァー卿。ただいま戻りました」
「まったく、陛下はいつも無茶をなさる。私に言ってくだされば、御者の他に護衛の騎士も寄越しましたのに」
「使者を通すよりは私が来た方が話は早いかと思いまして。ベルスタイン卿も母からの任、お疲れ様でした」
あ、後ろの茶髪の女性が例のゲジーネ・ベルスタイン卿とやらだったのか。
スラっとした美人って感じでカッコイイな。
「いえ、他愛もない調査任務でしたが、お気遣い有難うございます」
でもこのゲジーネさん、騎士団の副団長って聞いてたけど、纏う空気がニコラウス騎士団長とは違う気がする。
おそらくは真面目寄りの人だろう。仲良くなれそう。
「して、そちらが例の?」
「ああ。私が先程話していたレヴィンとは、彼女のことだ」
ニコラウス騎士団長、さっきまであたしの話をゲジーネさんにしていたのだろうか。
ともあれ紹介されたので、こちらも軽く会釈して名前を覚えてもらおう。
「レヴィン・ゾンネ。しがない傭兵団のリーダーをやっております」
「天馬騎士隊隊長ならびに王国騎士団副団長、ゲジーネ・ベルスタインだ。見たところ、まだ年若いな。城を魔の手から救ったというのが、ますます信じられなくなった」
「まあ、当然そう思いますよね。あの時はあたしも必死だったので、よく覚えてないんです」
「ですが、彼女の実力は確かです。彼女の戦いを間近で見ていた私が、保障いたします」
ふと、ジークが会話に割って入ってきた。
そういえばゲジーネさんはジークの先輩って聞いてたような。
「ほう、ジークリンデか。小隊長の座を降りて傭兵をやっていると聞いたが、そこの若輩の傘下にでもなったのか?」
「立場こそ傘下ではありますが、背中を預けるに値する戦友であると、私は認識しております!」
「戦友とはな。貴様の片思いでなければいいが」
いちいち引っ掛かる言い方をしてくるわね、ゲジーネさんは。
案外皮肉屋だったりして。
気付けばゲジーネさんは、既にジークへの興味を失くしたかのように、あたしへ視線を向けていた。
「若輩よ、いくら陛下から勇者の称号を賜ったからとはいえ、あまり調子に乗らない方がいい。その称号にはそれ相応の重みが伴うことを、試合の中で教えてやろう」
目つきだけでわかる、この威圧感。
まるで魔獣が獲物を狩る寸前のような。
それでも魔力圧を感じないのは、彼女が感情に身を任せずに魔力を自在に制御できることの証明だった。
このゲジーネさんは間違いなく、強い。
身体が少し震えてきた。
おそらくは、武者震い。
久しぶりに強き者に出会えた悦びが、あたしの身体を疼かせる。
「そっちこそ、調子に乗ってると痛い目見ますよ」
貴方から喧嘩を売ってきたんです、喜んで買わせていただきますよ。
あたしはそんな想いを込めて、ゲジーネさんを挑発した。
「フッ、肝の座った戦士の眼だな。せいぜい拙の期待を裏切らないでくれよ」
こちらを睨み返してくるゲジーネさん。
ああ、心が滾る。
今すぐにでもこの人と闘いたいなぁ。
「お二人とも、会議の前ですよ。試合もまだなのですから、落ち着いてください」
そんな仄かな激情は、割って入ったエメルによって鎮火された。
これまであたしとゲジーネさんの間でバチバチしていた火花が、嘘のように霧散していく。
エメルの凛とした声色には、お互いを鎮めさせる重みを感じたからだ。
「……失礼、陛下。柄にもなく熱くなってしまいました」
無事落ち着いたのか、あたしから一歩引いて姿勢を正し、エメルに会釈するゲジーネさん。
あたしも肩の力を抜いて冷静になる。
その瞬間、左肩に少し震えを感じた。
あたしの震えではなく、左肩に座っていたリテラの震えだ。
「……ハッ!」
「えっ、何? もしかして気絶してたの?」
「お主らが、あまりにも理想的な構図でメンチを切っておったから、興奮して……」
ありがとうリテラ、いつも通りすぎてクールダウンが一気に進んだわ。
「妖精憑きとはいえ、変な妖精に憑かれたものだな」
ほれ見なさい、ゲジーネさんもアンタに呆れてる。
「さあ、レヴィンさん達はこちらへ。既に席は用意してあります」
会議室の扉を開けて、フィンさんがあたし達を席へと案内してくれた。
思ったより室内は広く、重い空気に満ちている。
部屋の中央には大きな長円形のテーブルがあり、既に身なりの良い貴族やら、鎧を着た騎士団の重鎮っぽい人が既に着席している。
エメル、サンドラ君、ルビィちゃんといった王族に続く流れで用意された席に座ったあたしは、案の定貴族様の突き刺さるような視線で見られていた。
「あれが勇者とは、未だに信じられんな」
「陛下は本当に何を考えておられるのだ」
ヒソヒソした陰口に慣れていたつもりでも、やっぱり貴族ってお堅いんだなと思い知らされる。
はぁ、何であたしはこんな所に居るのやら。
ジークとヤーナがあたしの隣席に座り、微妙な空気の中で、本日の会議は始まるのであった。