太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第九十六話「魔獣教団は王国から完全に撤退していった模様です」

「陛下も席に着かれましたので、これより第十三回御前議会定例会議の開会を宣言致します」

 

 宰相であるフィンさんが進行を勤めるこの会議、エメルが即位してからもう十二回もやってたのか、などと思いながら、あたしはチラチラ辺りを見渡す。

 誰も彼もがあたしに痛い視線を向けていく中で、ひとりの貴族が待って欲しいとばかりに手を挙げた。

 

「宰相殿、その前に。ラグナ族の傭兵とその連れをここに呼んだ意図を聞かせていただきたい。いくら勇者の称号を得た者とはいえ、御前議会に出席させるのは如何なものかと」

「レイナード卿、その指摘はごもっとも。ですが陛下は、彼女が必要と思いここに呼んだまでのこと。今は余計な詮索を控えていただきたい」

 

 レイナード卿と呼ばれた貴族のおじさんは、フィンさんの隙のない返答に苦い顔をして、椅子に腰を据え直す。

 

 フィンさん、流石にお偉いさんの扱いが上手い。

 エメルの補佐に彼以上の人材はいないと思わせるプロの対応だ。

 

「では気を取り直しまして。まずは天馬騎士隊隊長、ゲジーネ・ベルスタイン卿による広域調査の報告から」

「御意」

 

 フィンさんの進行に従い、ゲジーネさんが席を立つ。

 

「拙らは前女王陛下の命により、王国領全域を対象に魔獣教団の調査を虱潰しに行っておりました。先に結論から申し上げますと、魔獣教団は王国から完全に撤退していった模様です」

 

 ゲジーネさんの調査報告を聞いて、あたしは納得した。

 ここ最近魔獣教団の情報を聞かなくなったのは、やはり王国から出て行ったのが原因なのだろう、と。

 

「おお、やはり!」

「それを聞いて安心しましたぞ」

 

 貴族側からは安堵の声が上がる。

 

「あらゆる拠点を突き止めても、そこにいたという痕跡が残るばかり……そういう調査の旅でした。拙としては信者のひとりくらいは捕縛して、尋問に掛けたかったのですが——」

「奴らの方が一枚上手だったようだな」

「遺憾ながらその通りです、団長。痕跡からして雲隠れ先はやはり、帝国かと」

 

 どうやらゲジーネさんも、リテラと同じ推論に行き着いたようだ。

 おそらく調査していく中で、帝国製の魔導具やマキナを見つけたりしたのだろう。

 

 とはいえ、そんなにハッキリと痕跡を残しておいて大丈夫なのか、という疑問は残るが。

 

「やはりそうですか」

「陛下、そちらでも何か情報を?」

「ええ。叛逆罪で幽閉中のドルマ元大臣から、少しばかり」

 

 エメルの言うドルマって人のことは知らないが、名前だけはエメルから聞いている。

 前女王暗殺——無事未遂に終わったが——の仕掛け人で、魔獣教団に繋がる証拠品を持っていたことから逮捕された人だ。

 

「彼にお母様暗殺の話を持ってきたのが、帝国の人間だったらしいのです。皇帝への忠誠を誓う者の証として彫られた、『黒竜の刺青』が見えたとか」

 

 現女王から発信された情報に、議会全体がどよめいた。

 

 アインハイト帝国って予想以上にきな臭そうね。

 黒い竜の刺青なんて趣味の悪いことやるんだから。

 太陽竜の鎧使ってるあたしが言えたことじゃないけど。

 

「まさか魔獣教団は、帝国と手を結んで、再び『魔兵器大戦』を起こすつもりなのか?」

「いや、そんなまさか……魔獣を信仰しているのなら、王国と帝国の間に割って入った事実は存じているはず!」

「わからぬ……奴らの目的は一体……?」

 

 貴族の皆さんの憶測が飛び交う中で、彼らの動揺にメスを入れるかの如く、エメルが声を張った。

 

「皆様、どうか静粛に。彼らの目的が何であれ、この国から撤退したというのは喜ばしい事実です。それ以上に、いずれ戻ってくるという危険性も孕んではいます」

 

 ですが、と言葉を切って、エメルはこう続ける。

 

「我々とて、ただ手をこまねいているわけには行きません。この親書が届けられて、ますますその気持ちが強くなりました」

 

 するとエメルはフィンさんに予め合図を送っていたのか、フィンさんが懐から取り出した封筒を受け取り、議会の全員に見えるようにそれを掲げた。

 

 その存在を知らなかったであろうゲジーネさんや貴族の皆さんがどよめく。

 無論、あたしも親書のことを今初めて知った。

 

「宰相、その親書は一体? 拙は聞いていないぞ」

「つい先日、パライソ中立公国から届いたものです。無用な混乱を避けるため、今日の会議まで黙っていて欲しいと、陛下のお達しでしたので」

 

 ウォルタート王国、アインハイト帝国に続く第三の国、パライソ中立公国の名前がフィンさんから挙がる。

 確かリテラにこの世界の地理を教えてもらった時に出てきた名前のような……。

 

「パライソって確か——」

「うむ、王国と帝国の狭間に出来ただけの、可哀想な島国じゃ」

 

 あたしが小声で呟いたところをリテラが返してくれる。

 

「マギニウム資源が豊富だったために、両国から格好の標的にされて、モロに被害を被ったが、魔獣が現れてからの停戦後に新王が即位。その影響かは知らんが、現在は一大リゾート観光地として生まれ変わっておるらしいぞ」

「今はそんな風になってたのね」

「本当に、随分な変わりようですわね。どれだけのドス黒い金が蠢いていたのやら」

 

 不機嫌そうにヤーナが呟く。

 裏の目線で金の流れを疑ってしまうのはヤーナの悪いクセではあるが、いつにも増して不機嫌そうなのは気のせいだろうか。

 

 その一方でジークは何も喋らずに眼を輝かせ、閉じられた口からヨダレを漏らしている。

 あっ、もしかしてリゾートと聞いて豪華ディナーとか想像してるな?

 

「では、親書の内容を読み上げさせて頂きます」

 

 あたしが周りに意識を向けている間に、フィンさんによる封筒の開封が終わっていたらしい。

 フィンさんが透き通りつつも張りのある良い声で、封筒に入っていた手紙の文面を音読し始めた。

 

「王国の女王陛下及び下々の皆様、ご機嫌麗しゅう。この度我がパライソ中立公国は、いずれ来る『魔獣大乱波《モンスター・スタンピード》』に備え、優秀なマキナユーザーを集め、強化するための催しとして、多国籍親善試合『マキナ・ランブル』を開催する運びとなりました。つきましては陛下直々に御観覧いただき、世界の行く末を考えていただく一助になれば幸いです。帝国の要人との接触も、可能な限り援助致しますので、御来島を心よりお待ちしております……以上です」

 

 本日の会議室がどよめいたのは今ので何度目だろうか。

 貴族の皆さんが、やたらと顔を見合わせているような。

 

 いや、そもそも。

 多国籍親善試合、『マキナ・ランブル』。

 その響きが、妙に引っかかる。

 

 子供の頃置き去りにしていた何かを、掘り返されたような感覚。

 あたしはもしかして、ワクワクしているのだろうか。

 

「多国籍親善試合……?」

「かつては落ち目であった国が、こんな時に血迷ったか!」

「しかし新たな王の考えることだ、『魔獣大乱波《モンスター・スタンピード》』という事象を持ち出したのだから、何か意図があるに違いない」

 

 会議室が再び貴族の皆さんの動揺で騒然となる。

 いや、でもちょっと待って。

 

「そもそも『魔獣大乱波《モンスター・スタンピード》』って何よ?」

「魔獣研究者の間では、割と広まっている仮説のひとつだと聞いたことがありますわ。魔獣の数がネズミ算式に膨れ上がり、その結果大量発生した魔獣が世界を蹂躙する、なんて陰謀論めいた仮説ですけども」

 

 解説ありがとう、ヤーナ。

 つまり、有り得ない線の仮説ってことね。

 そりゃそういうのを持ち出されたら、血迷ったって意見も出るか。

 

「皆様、静粛に。確かに、こんな時に親善試合の招待状を寄越すなど、という懸念もあるでしょう」

 

 エメルの声を受けて渋々口を閉ざす貴族の皆様。

 その様子を気にすることもなく、女王は話を続ける。

 

「しかし、文面の中に『帝国の要人との接触も、可能な限り援助致します』とあるように、これ以上ない機会であることも事実」

 

 ふと、エメルが深呼吸した。

 なんだか良くない流れのような……。

 

「私、エメラリア・フォン・ウォルタートは……多国籍親善試合『マキナ・ランブル』の招待を受け、帝国勢力との対話と、可能であれば魔獣という脅威に対抗するための同盟関係を結ぼうと模索しています!」

 

 あっ、なるほど……。

 あたしの出した条件、秒で承諾した理由ってこういうこと!?

 

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