太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第九十七話「段階を飛ばさねば、成せない平和があるのです!」

 会議室は騒然としていた。

 困惑が困惑を呼び、貴族の皆さんが混乱している。

 王国の女王自らが、かつて敵対していた帝国へ手を伸ばそうというのだ。

 

 そうでしょ、普通そうなるでしょ。あたしも驚いたよ。

 確かに魔獣教団を追うために、どうにかして帝国に行きたいとは思っていた。

 

 でもそこまでしろとは言ってない。マジで誰も言ってない。

 パライソ側が血迷っているという意見も出たが、エメルも相当血迷っているんじゃないかな?

 

「おうおう、随分と攻めよるわ。肝の座りはガーネットによく似ておるが、やはりお主らの影響か?」

「少なくとも、エメルの素はこんな感じだと言わせていただきますわ。良くも悪くも、己の正義に殉じやすいのが彼女の本心ですもの」

「それにしては攻めすぎでしょ……」

「うむ、だがそれでこそエメルだ」

 

 リテラの皮肉めいた疑問に、ヤーナとジークは小声で自信満々に返す。

 この元自警団両翼、改めて考えてもエメルへの信頼がデカすぎる。

 

「へ、陛下! どうか考え直して頂きたい!」

 

 困惑しっぱなしの貴族の皆さんを代弁するかのように、ゲジーネさんがエメルに食いついた。

 

「先程申したはずです……魔獣教団は帝国に潜伏している可能性が濃厚であると。それを承知で言っておられるのなら、貴方は本当に大馬鹿者だ!」

「ベルスタイン卿の仰る通りですわ!」

「そうですとも。いくら公国の計らいとはいえ、帝国は何をしでかすかわかりませぬ!」

「望んで死地に赴くようなものです! どうか御再考を!」

 

 ゲジーネさんに触発された、おそらくは保守派貴族の皆さんが、口を揃えてエメルに意見する。

 あまりにも軽率だと言いたいその気持ち、あたしはよくわかるよ。

 でも一度言い出したら聞かないからなぁ。

 

「……常日頃から、考えておりました。母はなぜ、守りの道を選んだのか。それは愛する民を、国を、未曾有の脅威から確実に守る土壌を整えたかったから。王都を守護する壁と結界は、そのために造られました」

 

 エメルの声は、会議室の喧騒を黙らせるほどに凛と響く。

 

「ですが三ヶ月前、姑息な教団によって魔獣が持ち込まれ、王都に被害が及んでしまいました。これは、母が強固に積み上げた成果を踏みにじる所業……断じて許してはならないものです!」

 

 席を立ち、机を両手で叩く女王の姿に、否が応でも貴族の皆さんは見入ってしまう。

 

「今こそ我々は、魔獣や魔獣教団という悪を討たねばならない……その段階へ進むべきではないでしょうか。私の代で攻めに転じなければ、手遅れになるかもしれませんよ!」

「だからといって、帝国との同盟は段階を飛ばし過ぎではありませんか!?」

「段階を飛ばさねば、成せない平和があるのです!」

 

 ゲジーネさんの反論に全く負けてないエメル。

 女王らしい気概を身につけているというべきか、己が信ずる正義を貫いているというべきか。

 この場では、彼女が一端の戦士に見える。

 

「この機を逃せば次はないかもしれない……現在の帝国そのものを知るには、この機会を利用するのが最善なのです」

「それでも、陛下が自ら赴く必要は無いでしょう! 陛下が玉座を空けても、シェーンコップ宰相に国を任せればどうとでもなることは理解しております。ですが、無謀が過ぎる! 陛下には、御身を第一に考えていただかなくては!」

「私だからこそ、赴く意味があるのです。全ては信用を得るため——」

「故に守りを捨てると?」

「そうは言っていません。強固な守りなら、もうここに呼んでいます」

 

 あっ、エメルがこっち向いちゃった。

 

「紹介しましょう、大魔獣を撃退した『勇者』レヴィン・ゾンネ擁する、ギラソール傭兵団です!」

 

 やたらと自信満々に紹介されたのは、まあ許容範囲なんですよ。

 問題は……貴族の皆さんが揃って微妙な顔を向けてきて、些か空気が悪いところ。

 

 ヒールレスラーもこんな気分で記者会見を乗り越えたのかと思うと、ちょっと感慨深い。

 我ながらアウェー感も慣れたもんですよ。

 

「ま、まさかその傭兵たちを……?」

「ええ。パライソへ赴く間、私の直衛とします」

 

 前代未聞。女王陛下、外交遠征の直衛に傭兵を採用。

 この世界に新聞があったら、一面の見出しはこれで決まりだ。

 実際は縁故採用みたいなモンだけど。

 

「傭兵ではありますが、王国騎士団に匹敵する実力者を直衛に据えれば、騎士団の主要戦力を国の守りに集中させることができます。いざという時に再び魔獣教団の魔の手が迫っても、十分に対処は可能です」

「なんということだ……正気の沙汰ではない!」

 

 最初にフィンさんに意見した貴族のレイナード卿って人が、顔を真っ赤にして反論を始める。

 

「騎士団を差し置いて、ラグナ族の傭兵団を直衛にするなどと! いくら『勇者』認定した者とはいえ、帝国に弱みを見せるようなもの! 王国の面子を潰すおつもりか!」

「面子など、今は捨てましょう。彼女の身分や出自が皆様の不安を煽っていることは、重々承知しております。しかし、今の我々に必要なのは確かな力と結果。過去の常識に縛られていては、前には踏み出せないのです!」

「だとしても、納得致しかねます」

 

 ゲジーネさんが、再び厳しい顔つきでエメルを見据えた。

 

「彼女らの武勇は騎士団長より聞かされておりますが、未だに信じられません。そこまで彼女を評価する理由は何なのですか、陛下? まさか親しい間柄だからと、贔屓しているわけでもありますまい?」

 

 うおっ、まさかそこまでの直球を投げ込んでくるなんて。

 まあそれだけゲジーネさんという人が真面目だということなんだろうけど。

 

 さて、エメルの返答は如何に。

 

「そこまで情に流されているつもりはありません、ベルスタイン卿。ですが、信じられないというのならば、実際に手合わせしてみてはどうでしょう?」

「なるほど、だから予め御前試合の予定を組んでいたのですか」

「貴方が勝てば、レヴィンさん達の直衛依頼を撤回し、『勇者勲章』を彼女から正式に取り上げましょう。ですが、もし負ければ——」

「心得ております。潔く引き下がり、陛下のお望み通り国の盾となりましょう」

 

 いつの間にか、ごく自然な流れで御前試合を受け入れていたゲジーネさん。

 エメルったら、半ばゴリ押しながらも上手く乗せたなぁ、という感想になる。

 

「ここに約定は成されました」

 

 満足げに頷いたエメルは、貴族の皆さんをぐるりと見渡した。

 

「本日の午後より、私の直衛の座を賭けた、傭兵レヴィン・ゾンネ対、王国騎士団副団長ゲジーネ・ベルスタイン卿による御前試合を執り行います。全てをこの一戦に委ねるということで……双方、よろしいですね?」

 

 おっと、双方ということは、あたしもう喋っていいのだろうか。

 今までは空気読んで黙ってたけど。

 

「大丈夫ですよエメ……女王陛下。折角お膳立てされたんです。胸を借りるつもりで、やってやりますよ」

「承知いたしました、陛下。王国騎士団の威信を、必ずやお守り致します」

 

 あたしに続いて、ゲジーネさんもエメルに向けて一礼する。

 流石は騎士団副団長、見様見真似のあたしより綺麗なお辞儀だなぁ。

 

「これにて第十三回定例会議、閉会いたします。皆様、午後の御前試合の準備がございますので、速やかな退室を願います」

 

 フィンさんの口から、定例会議の終了が告げられる。

 貴族の皆さんは未だ納得のいかない様子でヒソヒソ陰口を叩きながらも、ぞろぞろと退出していった。

 

 会議室に残されたのは、あたしとリテラ、ジークにヤーナ、それにエメルとフィンさん、ルビィちゃんとサンドラ君、ニコラウス騎士団長とゲジーネ副団長だけ。

 

 参ったね、どうも。

 あたしはどこまでエメルの掌の上だったのだろう。

 

「では陛下、団長。早速ですが試合の準備もありますので、失礼いたします」

「わかりました、また後で」

「時間まで、英気を養っておけよ。武運を祈る」

「ありがとうございます。では、また」

 

 ゲジーネさんはあたしを一瞥しつつ、エメルと騎士団長に軽く礼をして、会議室を去って行った。

 さて、これで緊張の糸は切れた。

 

「エメル、これってどこまで図ってた感じ?」

「全部ですね。とはいっても、大半の策はフィンが練ってくれました」

「おかげで機密の漏洩には、随分気を遣いましたけどね」

 

 超絶有能宰相じゃないですかフィンさん。

 こういう人を敵に回さなくて本当に良かった。

 

「まったく、お姉様もフィンも人が悪い。予め聞かされてなかったら、こっちも反論するところでしたわ」

「本気なの、エメル姉様? 護衛の騎士を連れて行かないなんて」

 

 まだ機嫌が悪そうなルビィちゃんをよそに、サンドラ君が質問するも、エメルの代わりに問いに答えたのは、ニコラウス騎士団長だった。

 

「陛下とも相談した上での決定だ、変更はない。ゲジーネが勝った場合は、わからんがな」

「大丈夫ですよ、騎士団長。レヴィンさんは勝ちます」

 

 うーん、この自信満々のエメルの笑み。プレッシャーだなぁ。

 

「そうじゃな、勝ってもらわねば困る」

 

 エメル、お前もか。

 

「アンタまでプレッシャー掛けてくるの、やめなさいよ」

「負けず嫌いがプレッシャーに弱くてどうするんじゃ。それに魔獣教団の足掛かりが掴めるチャンスじゃぞ」

 

 それは確かに、そうだ。

 

 エメルの護衛としてパライソに向かえば、帝国の関係者にはほぼ間違いなく会えるだろう。

 そしてどうにか穏便に話が進めば、合法的に帝国の入国を許可してくれるかもしれない。

 帝国に雲隠れしたものと思われる、魔獣教団の行方だって——。

 

 貴族やらの政治的な色々はともかく、勝たねば前に進めないという状況は、格闘ゲームのアーケードモードと同じだと考えよう。

 勝ち続けなければ、魔人王《ラスボス》には挑めないのだから。

 

「……そうね。もう喧嘩は売られちゃったわけだし、買わなきゃ礼儀知らずだって思われる」

「うむ、レヴィンの腹が決まったようで何よりだ」

 

 定例会議が終わったからなのか、ようやくジークが口を開いた。

 

「勝負から逃げたら、負けたことになっちゃうから。それだけよ」

「改めて、御前試合を受けてくれてありがとうございます、レヴィンさん」

「そっちから退路を塞いだクセに、よく言うわよね」

 

 あっ、つい皮肉が口に出ちゃった。

 普通なら不敬だって怒られそうだけど、エメルならまあ……大丈夫か。

 

「だが、必要なことだった」

 

 あたしの不敬とも取れる発言をなかったことにするかのように、ニコラウス騎士団長の言葉が飛ぶ。

 

「保守派は伝統を重んじるあまり、変化を恐れている。言葉を尽くすよりも、彼らには武力の優劣を直に見せつけた方が手っ取り早い場合が多い。保守派に期待されているゲジーネも同様だ」

「そういうものですか」

「そういうものだ。こちらもプレッシャーを掛けるつもりはないが……レヴィン、どうか全力でゲジーネにぶつかって欲しい」

「騎士団長がそう言うなら……手加減しませんからね」

 

 前へ進むための決断を終え、身体の奥から沸々とモチベーションが湧き上がってくる。

 あたしは大きく伸びをして、肩の筋肉をほぐしていった。

 

「で、御前試合は午後って話だったけど。あたしは時間までどうすればいいの、エメル?」

「お茶会です」

「……なんて?」

「お茶会はちゃんとやるって言いましたよ。一緒に紅茶でも飲んでリラックスしましょう!」

 

 お茶会の件、どうやら結構本気だったらしい。

 何がエメルをそこまで駆り立てるんでしょうねぇ。

 

 そういうわけで、あたし達はエメル主催のお茶会に参加することになったのであった。

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