太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
ウォルタート王城には、闘技場がある。
魔獣が現れる前の昔、『魔兵器大戦』の最中におけるこの場所は、王の御前で武勇を披露して軍全体の士気を上げる儀式場のようなものであったと、あたしは騎士団長から聞かされていた。
その場に、あたしはこれから立つ。
控室として用意された石造りの部屋には、衛兵の鎧やら武具が装飾のように置かれているが、今のあたしには必要ない。
必要なのは、柔軟体操とイメージトレーニング。
昼食を兼ねたお茶会の場で、あたしはエメルや騎士団長、そして彼女の後輩だったジークからゲジーネさんの情報を教えて貰っていた。
ペガサスに乗らずとも、彼女の槍捌きは他の追随を許さなかったという。
そして、彼女の契約型マキナ……嵐極槍《らんごくそう》『ドゥリンダナ』。
その槍から放たれる風の魔力は、その名が示す通りの嵐のようだ、と。
おそらくは広範囲殲滅系のマキナだと予想される。
槍としてのリーチ差、近付くことすら許さない波状攻撃の嵐。
あたしの戦闘スタイルで取れる最適解は――。
「……よし」
久しぶりの対人戦、しかもマキナを用いた公式試合。
不思議と緊張はなかった。
待ち焦がれたとばかりに武者震いしただけ。
きっと前世の兄も、格ゲー大会の初戦はこんな気分だったのだろう。
アウェー上等、観客の度肝を抜いてやる。
そんな意識があったのかもしれない。
そしておそらく今世の父も、似たような機会があって、騎士団長が戦友と呼ぶほどの信頼を得たんじゃないか。
右手甲の魔法陣を左手でなぞりながら、そんなことを想像していたところに、扉がノックされ、誰かが入ってきた。
黒のボブカットに眼鏡……見覚えのある顔だ。
「レヴィンちゃん。準備が整ったみたいッスよ」
「わかったわ、ノルンさん。今行く」
あたしを舞台まで先導するのは、元ジークリンデ小隊副隊長・ノルンさん。
ジークが一旦抜けてからは、サンズさん、マグさん、バングさんと共に、他の隊に転属されたと聞いている。
先導役をやらせてくれたのは騎士団長の采配らしく、こういうのは知り合いの方がいいだろうという判断から来るものだったという。
舞台までの道を、ノルンさんの先導で歩く。
こうして喋るのも、前女王生誕祭以来久しぶりだ。
「なんとも不思議な気分ッス。助けてもらった恩人が『勇者』になって、その『勇者』を先導しているって……弟や妹たちに一生自慢できるッス」
「ノルンさんの家庭、兄弟姉妹が多いってジークから聞いたんですけど、それでですか」
「まあそりゃあ、元隊長から当然聞いてるッスよね。ウチの家督は貧乏な男爵家でして、騎士になったのも親がだらしないのと、小さい弟や妹たちを食わせてやるってのが理由で。元隊長は健気だって泣いてくれましたよ」
なるほど、ジークらしい。
アレでも人付き合いは大切にする方だからね。
「そっちでの元隊長はどうッスか? よく食べて、よく寝てます?」
「ノルンさんの気持ちがわかるくらいには手を焼いてますよ。肝心な時にしか役に立たない辺りも、多分そっちと同じです」
「相変わらずで安心していいやら、ッスね……。でも、案外あの人が性に合っている環境なのかもしれないッス」
「騎士をやってることが誇り、みたいな人だったのに……不思議なもんね」
「そうッスね。願わくばこれからも、ジークリンデ・シグルドをよろしくお願いしまッス」
「その言い分だと永遠の別れみたいになっちゃうし、この後ジークに会ってきたらどうです? ちょうど皆と一緒に観客席で見てるハズだから」
「それもそうッスね。三馬鹿も誘って、最近の話に花を咲かせてくるッス」
ノルンさんとジークの話で盛り上がっているうちに、外の明かりが見えてきた。
戦の舞台へと上がるための光が。
「ベルスタイン副隊長は強いッスよ」
「知ってる。ジークからも聞いた」
「だったら問題なさそうッスね。武運を祈ってるッスよ、レヴィンちゃん」
あたしはノルンさんに背を向けて、返事代わりにサムズアップを返しつつ、光の中へ。
視界が開けた先には、日差しに照らされ白銀に輝く演武場という名の石畳があった。
よく見ると魔法陣が描かれており、何か仕掛けがあるのかと思わせるが、おそらくイカサマの類ではないだろう。
そんなことを気にするよりも、あたしは浸っていた。
このシチュエーションに。
闘いの舞台で浴びる歓声に。
エメルの誘いを断っていたら、味わえなかっただろう。
衆人環視の中で入場する今のあたしは、まるで格ゲーのファイターだ。
この世界《フロイデヴェルト》に生まれてきて、初めて思う。
こんなに心が滾る舞台を用意してくれて、ありがとう。
恥ずかしいから口には出せないけど。
「姉貴ーっ! がんばれーっ!」
ざわざわする歓声の中でひと際通る声が聞こえたので、観客席を振り返ってみると、我らがギラソール傭兵団のメンバーが見えた。
ニューが前のめりになって、あたしに向けて大仰に手を振っている。
その隣でミュウくんは控えめに手を振っていた。
双子の後ろの席に陣取っているジークは、肉饅頭を頬張ってすっかり観戦モードに。
隣のヤーナは単眼鏡のようなものを覗いており、あたしを見ていないようだった。
おそらくアイツが見ているのは、向こう側のゲジーネさんだろう。
いや、それよりも気になるのは。
「お主ら、救世主レヴィンの晴れ舞台じゃ! 推しに届け、このエール! ゆくぞぉぉッ!!」
「おおおぉぉぉッ!!」
どこから持ってきたのか、ペンライト二刀流でキレッキレのオタ芸を披露して、あたしのファンっぽい衛兵さん達を巻き込み、いつの間にか応援団っぽいのを結成していたリテラだ。
「レヴィンが一番! レヴィンが一番! レヴィンが一番! 強すぎるーッ!!」
えらく野太いエールが聞こえる。
マジでアイツは何をやってるんだろう……見なかったことにするか。
あたしは演武場に向き直って、エールの返答代わりに右拳を掲げた。
野太い歓声も気にするな。
今の相手は、目の前にいる。
演武場の階段を上り、その相手の姿を捉えた。
長い茶髪を結び、琥珀色の眼をぎらつかせる王国騎士団副団長、ゲジーネ・ベルスタイン。
改めて見ても、スラッとした美人さんだ。
「随分と、余裕そうだな。こういう機会は初めてなのだろう?」
「余裕だなんて……興奮してるだけですよ。こういうのに憧れてたので」
「やはり蛮族か……その滾り、鎮めさせてもらうぞ」
「やるつもりなら正々堂々、本気で来てくださいね」
おっと、返しが少々真面目すぎたか。
まあ別に煽る気になってたわけじゃないし、これでいいか。
ふと、あたし達の間に審判を任されたっぽい衛兵の人が割り込む。
鼻の下にあるちょび髭が特徴的な男性だ。
「本日の御前試合の審判は、この王城衛兵長、マキシが務めさせていただきます。早速ですが、双方共に規定のご確認を」
なんと、衛兵長自らが審判するとは。
ともあれ、試合ルールの確認である。
基本は決闘規定と同様。
殺害禁止、第三者の介入・妨害の禁止。
それに加えて、公式試合では敗北条件が追加される。
降参《サレンダー》宣言は勿論、審判の判断による戦闘不能、そして演武場の場外に出てしまっても負け。
ちなみに結界を演武場に張っているため、観客に戦闘の余波が飛んでいく心配はないとのことだ。
「双方の規定了承、確認しました。では、女王陛下にこの一戦を捧げる口上を述べてください」
衛兵長さんに言われて、あたしは魔法陣が宿る右手を握りしめて、心臓の位置に掲げる。
ゲジーネさんの方は、握りしめた左手を胸元に掲げた。左利きなのだろうか。
この試合前の口上というのは、控室に入る直前まで行っていたエメルとの茶会で教えてもらったものだ。
「「女王エメラリア・フォン・ウォルタートの名の下、ここに誓う」」
「我らは正々堂々を尊び」
「己の技と武を以って」
「「力と勇を示しましょう」」
口上というよりは、スポーツマンシップに則ったみたいな宣誓。
あまり血みどろって感じじゃないのは好感が持てる。
「双方、解放《リリース》!」
衛兵長の号令に従って、まずはゲジーネさんが左拳を突き出し、己のマキナの名を叫ぶ。
「解放《リリース》、『ドゥリンダナ』!」
風の魔力がゲジーネさんの左手に集まり、竜巻の槍になるが如く、その形を成していく。
強烈な魔力圧と共に収まっていく風と共に現れたのは、乗馬する騎士の武器としてよく見る騎槍《ナイトランス》。
しかしその槍の形は妙なものだった。
まるで回転タービンを取り込んだかのような螺旋状だったのだ。
おそらくこの槍は、ドリルのように廻る。
「解放《リリース》、『ソルマドラ・オリジン』!」
相手に失礼のないよう、全力で。
そう思って、あたしは最初から力を全開放する。
太陽の魔力があたしの身体を包み込み、太陽の鎧を顕現させる。
これで準備は整った。
目の前のゲジーネさんが槍を構えたのに合わせて、あたしも構える。
あたしが我流として模倣する、『ライジングアーツ』の構えを。
「いざ尋常に……御前試合、始め!」
闘いの号令《ゴング》が鳴った。
戦闘開始だ。