太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第九十九話「アイアン・ブレイク」

 最初にあたしが選んだ手は、先手必勝。

 開始の号令と共に足を踏み込んで、一気に急接近。

 槍のような長物相手には、懐に潜り込むに限る。

 

 だが、流石に王国騎士団副団長。

 己の弱点を理解していないハズがなかった。

 すかさずあたしの突進右ストレートを槍で防ぐ。

 

「ぐっ……大した拳だ……だがっ!」

 

 刹那、ゲジーネさんの槍が回転する。

 膂力では返せないと悟り、己のマキナに魔力を送って再び距離を離す、もしくは場外まで吹き飛ばす魂胆か。

 

 咄嗟に拳を引っ込めることも叶わず、あたしは小さな竜巻に拳を弾かれる。

 このままでは吹き飛ぶ……その前に!

 

「しゃッ!」

 

 弾かれた勢いを逆に利用し、左のハイキックをゲジーネさんの顔めがけて繰り出す。

 彼女はキックを咄嗟に籠手でガードした。

 

「なっ……!」

 

 蹴られたゲジーネさんの身体は向かって右に転がる。

 まるで受け身を取っていたかのように、ゲジーネさんはすんなり起き上がった。

 

「弾かれた態勢で蹴りを入れてくるとはな……魔力防御がなければ右腕が折れていたところだ」

 

 おそらく思ったより平気そうなのは、蹴られた方向に身体を傾けていたからだろう。

 ゲジーネさん、思ってたより戦闘センスがキレている。

 

「しかし、これ以上は近づけさせんぞ!」

 

 再びゲジーネさんの嵐極槍《らんごくそう》『ドゥリンダナ』が回転し、小さな竜巻を纏っていく。

 

 早期決戦で片を付ける作戦は失敗してしまったが、ここからは時間との勝負だ。

 持続時間は約三分。

 

 あたしの『ソルマドラ・オリジン』が保っている間に、再びインレンジへ持ち込み、場外へ吹き飛ばす。

 そのための奥義を、あたしは既に習得している。

 

 叩き込む隙を、どうにかして見つけたい。

 

「『嵐の塊よ、降り注ぐ棘となれ!』」

 

 しかし、向こうの詠唱が始まった。

 ゲジーネさんの背後に、ドリルのように廻る嵐の棘が五つも出現する。

 いずれもそのサイズはスイカ一個分といったところか。

 

「『シュツルム・スピッツ・レーゲン』!」

 

 ゲジーネさんが槍を突き出す動作に合わせて、ミサイルのような軌道で嵐の棘が飛んできた。

 

 石畳を抉る嵐の棘のひとつを見て、あたしは確信する。

 これは掠るだけでも致命傷にならないか、と。

 

 だったらこの手で!

 

「『サンライト・ウェイブ』!」

 

 太陽の魔力を込めた拳を、石畳に叩きつける。

 いつも使っている魔力の分量より多めに叩きつけたことで、火山の噴火のようになった魔力が、壁を作るかのように噴き上がった。

 

 五つの嵐の棘は太陽の魔力に触れて、無事に霧散。

 アドリブではあったが、飛び道具の迎撃には役立った。

 

 風と太陽の魔力がぶつかった跡には、土煙が立ち上る。

 この視界の悪さを利用して、少しでも接近できるかもしれない。

 

 迷わずあたしは石畳を蹴り、煙幕を晴らすほどに土煙の中を突っ切る。

 おそらく視界が悪い中で、ゲジーネさんは足を止めているのだろう。

 あたしを迎え撃つために。

 

「——『穿て、嵐の一閃』」

 

 土煙から抜け出す寸前、またしてもゲジーネさんの詠唱が聞こえる。

 

 当然か。

 あたしが近付かなきゃダメージを与えられない以上、風魔法を撃ちまくって迎撃するのが最善。

 大技をカウンター気味に放てば、あたしは必ず場外へ吹き飛ぶ。

 

 なんて自信の現れなんだろう。

 応えたい。

 今持っている全てで、彼女の本気に応えたい。

 

「『シュツルム・ランツェ』!!」

 

 ゲジーネさんの『ドゥリンダナ』から放たれる竜巻が、ドリルのように唸って、あたしに迫る。

 おそらくまともに食らえば終わり。

 それでも、突っ切る方法はある。

 

 あたしは両腕でガードする態勢を取り、前にジャンプする。

 風属性のマキナを前にして跳ぶなど自殺行為……誰もがそう思うことだろう。

 しかし、あたしにはこれがある。

 

「『エクスプロード・ジャンプ』!」

 

 太陽の魔力を靴底に集中、形成された小さな太陽を踏んで、爆破。

 二段ジャンプを応用した技術により空中で加速を得る、あたしだけのやり方。

 

「ぐうううぅぅぅッ!」

 

 竜巻ドリルが、あたしの籠手とかち合う。

 固有能力《アビリティ》の『属性付与・太陽(エンチャント・サン)』が、あたしを嵐から守るべく機能する。

 

 己が身を盾にして竜巻の槍を耐え抜いた先に、()()()()が待っていた。

 その先に、ゲジーネさんの『ドゥリンダナ』本体が見える。

 竜巻と同期するように回転を続けていた。

 

「非常識な奴めっ!」

 

 戸惑うゲジーネさんの声が聞こえた瞬間、槍の回転が緩み、竜巻が納まる。

 あたしが竜巻の中に突入したことに勘付いて技を中止し、回避動作に入ろうとするみたいだが。

 

 その危機管理が仇になった今ならば、地に足をつけられる。

 石畳を踏み込んでブレーキングしつつ、あたしが放つ手はコレだ。

 

「『ライジング・ナックル』!」

 

 相手が回避に入る前に、太陽の魔力を込めたアッパーを打ち出す。

 狙いは、回転を緩めた『ドゥリンダナ』だ。

 

 籠手と槍……エーテルメタルのかち合う音が響き、腹に拳をぶち込まれた槍が、手から離れそうな勢いで上に弾かれる。

 

「なにっ……!」

 

 ゲジーネさんの胴元はがら空き。

 弾かれた槍を確認しつつ、すぐさまあたしは次の行動に移る。

 格ゲーで言うところの、必殺技キャンセルのような流れ。

 

「『我流・ライジングアーツ、奥義』——」

 

 ライジングアーツのベースになった型のひとつ、中国拳法の技術に、『発勁《はっけい》』というものがある。

 詳しい説明は省くが、要するに全身の筋肉を使って生まれたエネルギーを一点に凝縮して叩き込む技術だ。

 今より放つのは、その発勁を応用した、あたしの持ちキャラ・レントのゲージ消費技。

 

 相手の至近距離まで近づいて、両腕で気を……あたしの魔力を解き放つ、その名も——。

 

「——『アイアン・ブレイク』!」

 

 ゲジーネさんの丹田《たんでん》——お腹の上辺りの急所——の位置に、両手で掌底を放つ。

 軽装鎧でその身が守られていようが関係ない。

 衝撃は防具を通して、直接彼女の丹田に伝わった。

 

「がっ……!」

 

 そしてゲジーネさんの身体は発勁と太陽の魔力を受けて、石畳の中心から場外まで吹き飛ぶ。

 演武場を囲む芝生の上を数度バウンドし、やがて力が抜けたように横たわった。

 

 彼女の左手からは『ドゥリンダナ』がすっぽ抜け、光の粒子となって手甲に吸い込まれていく。

 

「ふぅ……」

 

 あたしも『ソルマドラ』を封印《シール》し、静寂の中で衛兵長マキシさんのアナウンスを待つ。

 短時間の攻防だったからか、勝者を告げるアナウンスは一拍遅れて響いた。

 

「……げ、ゲジーネ・ベルスタイン卿、場外! よってこの試合の勝者は、レヴィン・ゾンネとします!」

 

 マキシさんの上ずったような声が沈黙を破り、続けて観客席から悲鳴のような怒号が押し寄せる。

 

 勝った。勝って、しまった。

 今のあたし、意外と悪くない。

 実質作戦勝ちみたいなところはあったにせよ、王国騎士団副団長を場外まで吹き飛ばしたのだ。

 

 おそらく真っ当に挑んでいれば危なかった。

 それほどの相手に勝ったのだから、これ以上の喜びはない。

 

 あたしは演武場を降りて、芝生の上で倒れているゲジーネさんに向けて歩みを進める。

 

 彼女は左腕で目元を隠していた。

 無様な己を見るな、とでも言わんばかりに。

 

「レヴィン・ゾンネ……貴様は何者なのだ」

 

 おまけにとても悔しそうに、声を捻り出している。

 

「最後の一撃……見たことのない技術だった。鎧越しに弱点を突いて吹き飛ばすなど、喧嘩殺法ではありえない……。誰からその技術を学んだのだ……?」

「直接教えてもらったことはなくて。ただ真似ただけの、不完全な我流の流派です」

「我流だと……そんなものに、拙は……」

 

 なんだかゲジーネさんが自信をなくしそうになってきた。

 

 それもそうか。

 おそらくは長年世代を経て培われてきた彼女の槍技が、たった十数年の洗練で培われた元ネタありの我流拳法によって、グチャグチャに崩壊させられたのだ。

 魔獣の影響で徒手空拳の武術が廃れたこの世界では、さぞ屈辱的だったろう。

 

 それでも、あたしは手を差し伸べる。

 これは殺し合いではなく、試合だから。

 

「運が良かっただけです。場外《リングアウト》ルールがなかったら、槍と魔法のリーチ差で、きっと手も足も出なかった。ゲジーネさんは強い人ですよ」

「……本当に蛮族らしからぬ礼儀正しさだな」

「スポーツマンシップに則ってるだけです。試合ですから」

「なんだそれは……だがーー」

 

 起き上がる気力がなさそうだったゲジーネさんが、差し出したあたしの右手に向けて、右手を伸ばす。

 

「ーー悪くない」

 

 握手は、交わされた。

 互いの全力を称え合う、友好の握手が。

 あたしの心は満たされ、晴天のように晴れやかだった。

 

「ありがとうございました!」

 

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