太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
御前試合が開始される、少し前。
女王エメラリアより『勇者』の称号を与えられたレヴィン、対するは騎士団一とも称される槍術の使い手たるゲジーネ。
この前代未聞の顔合わせによる御前試合は、単なる武の競い合いという枠組みを優に超え、王国の今後の行く末を占う代理戦争としての政治的な側面を色濃く孕んでいた。
保守派の貴族たちが固唾を呑んで見守る中、そんな重苦しい背景など意にも介さぬ様子で、リテラ、ジーク、ヤーナ、ニュー、ミュウといった、試合に参加するレヴィン以外の面々は、ジークの元部下であるサンズ、マグ、バングの案内で観客席に先導されていた。
「流石はエメルだ、間近で見やすい特等席を用意してくれている」
ジークは眼下に広がる白銀の石畳を見下ろしながら、満足げに腕を組んで頷いた。
「エメルと一緒に見れないのは名残惜しいですけど。もう少しなんとかなりませんでしたの?」
「しょうがないじゃろ、女王には女王の特等席ってモンがあるんじゃ」
リテラが天幕で覆われた観客席の一部を指差して、ヤーナを諭す。
指差した先には、ひと際豪奢な天幕で覆われた王族専用席が設けられていた。
そこにはエメラリアを筆頭に、ルビィやサンドラといった王族たちの姿が確認できる。
「こんな前の席まで来ちゃって、大丈夫なんですか?」
ミュウがふと、不安げな面持ちでサンズに問いかけた。
「ああ、大丈夫大丈夫。演武場は結界に覆われてるんだ、戦闘の余波はこっちに来ないようになってる」
「そっかぁ。こっちに魔法が飛んで来たら危ないもんな」
サンズの丁寧な説明に、ミュウの隣で身を乗り出していたニューが深く納得したように頷く。
そんなギラソール傭兵団の背後から、突如として不機嫌極まりない男の声が降ってきた。
「オイオイオイ、マジかよ……」
その男の名は、バルドゥール・ハンネマン。
かつてジークとひと悶着あった小隊長である。
彼の周りには、副隊長ロビンをはじめとした部下が勢ぞろいしていた。
ハンネマンの独り言が聞こえていたのか、ジークが振り返って、明るい眼差しで見つめてくる。
「おお、久しいな騎士ハンネマン!」
「そんなに久しぶりでもねえだろ。何でよりにもよって小隊揃って非番って時に、近くの席になるかね」
無精髭を撫でつつ悪態をつくハンネマン。
機嫌が悪そうな彼を察することもなく、ジークは馴れ馴れしく話を続ける。
「まあいいではないか。そちらもレヴィンを見に来たのだろう?」
「馬鹿言え、テメェと違って王国騎士団なんだぞこっちは。副団長を見に来たに決まってんだろ」
ハンネマンの棘のある言葉を宥めるように、隣に座っていた副隊長のロビンが柔和な笑みを浮かべて補足する。
「ま、副団長は中々忙しい方だから、最近技を見せる機会がてんで無かったって聞いてるし。だったら見に行こうって満場一致で決まったってわけですよ」
「確かにな。私も副団長の槍技を久しく見ていない」
「ジークさんも気になるのは一緒ですか。あ、そういえば市場で観賞の足しにって買いすぎた肉饅頭が余ってるんですよ。食べます?」
「おお、いいのか!? 謹んで頂戴いたす!」
「おいロビン、テメェ! それ俺の分じゃねえか! ちゃっかり餌やってんじゃねえ!」
「えっ、そうだったんですか? 名前くらい書いててくださいよ、紛らわしいなぁ」
「うるせえ! こっちはまだお前が遺跡に魔石落としたこと忘れてねえんだぞ!」
ハンネマン小隊の会合に交じるジークを横目に、一方のヤーナはつい先程向こう側の扉から現れたゲジーネを、単眼鏡越しに観察していた。
右肩にはリテラが鎮座している。
「流石は王国騎士団副団長。相応しい潜在魔力をお持ちのようですわね」
「じゃが、若干イラついておるようにも見える」
「ジークによれば生真面目すぎる故の融通の利かなさがあるとのことでしたが、それが魔力の乱れに影響してるんですの?」
「あくまで要因のひとつ、というだけじゃろうがな。これはあくまでわしの見立てじゃが――」
リテラの瞳が、獲物を狙う鷹のように鋭く光る。
「おそらくあやつはレヴィンに勝てんじゃろう」
「なるほど、その根拠《エビデンス》は?」
「単純にゲジーネが真面目すぎて、見ていてつまらんからじゃ!」
「つまり、真面目すぎてセオリー外の流派を考慮出来てないから負ける……ということですの?」
「堅苦しい環境で育ってきた人間にはよくある話じゃ。想定外のイレギュラーには脆い」
「そもそもの話、レヴィンさんの存在そのものが初見殺しですものね。潜在魔力がロクにないラグナ族かと思いきや、マキナと契約できていますし、マキナそのものも属性付与の鎧、しかもメイン戦法がよくわからないステゴロの流派……。確かにこれは詰みですわ」
単眼鏡を下ろして、ヤーナは同情すら混じった苦い顔をする。
そこへ、二人の会話に耳をそばだてていたハンネマンが、信じられないというような顔で割って入った。
「そんなに強いんだな、レヴィンの嬢ちゃんは。ま、『勇者』の称号貰ってるくらいだ。それくらい強くなきゃ、副団長と同じ舞台には上がれねえわな」
「そういえば貴方は、彼女に股間を蹴られただけで、ロクに実力を知りませんでしたわね」
「タマ蹴りを掘り返すな、忘れろ」
ばつが悪そうな顔のハンネマンを気にする様子もなく、リテラが不敵に笑う。
「まあ見ておれハンネマン、わしの推しは救世主じゃ。騎士団副団長といえども、負けはせんよ」
「そうかい。見定めさせてもらうぜ」
「とはいえ、念には念を、じゃな」
「何をするおつもりですの?」
「こういった試合には、応援団が必要じゃろ?」
「いや、要らねえだろ。御前試合なんだから」
「空気の読めん男じゃのう」
ハンネマンの至極真っ当なツッコミを鼻で笑い飛ばし、リテラは羽をはためかせて宙へと舞い上がった。
彼女の鋭い視線は、観客席の端で警備に当たっている見覚えのある衛兵の姿を捉えていた。
一直線にその衛兵の元へと飛んでいくリテラ。
「な、なんだあっ!? 妖精!?」
「お主、確かあの時王城の中庭で応戦しておった衛兵ではないか?」
「あの時の中庭? 確かに俺は化け物相手に応戦した衛兵だが——」
「やはりそうか。さしずめ、助けてもらったレヴィンを身に来たってところじゃろう?」
「それはまあ……女王陛下が認めた勇者だしな」
「結構結構。わしは今、レヴィンを応援する同志を集めておってな。共に推しへエールを贈らんか?」
「その推しってのはよくわからんが、応援したい気持ちはある。乗ったぜその誘い!」
そこから先は、まさに燎原の火のごとき勢いであった。
あれよあれよという間に、かつてレヴィンに命を救われた衛兵たちが次々と集結し、少人数ながらも確固たる意志を持った応援団の陣形が完成していた。
「どうしてこうなった」
「レヴィンさんが罪な女だからとしか言えませんわ」
瞬く間に組織された応援団の姿に、思わずツッコミを放棄したハンネマンへ、ヤーナは呆れ半分、感心半分の言葉を投げかける。
突如発足した応援団の面々に、リテラはどこから調達してきたのか、発光する不思議な棒状の魔導具――ペンライトを配り始めた。
衛兵たちは最初、その未知の物体を手にして戸惑っていたが、リテラに言われるがままに折り曲げてみると、眩い光を放ち始めたため、意味も分からずやたらとハイテンションになっている様子。
それからリテラによる独自の振り付け指導が手短に行われ、観客席の一部が異様な熱気に包まれる中、いよいよ演武場の扉からレヴィンが姿を現した。
瑞々しい若葉を思わせる小柄な体躯のレヴィンと、白百合のようにすらりとした長身のゲジーネ。
両者が演武場の中央で相対する。
すぐさまレヴィンを見つけたニューは、身を乗り出してエールを贈る。
「姉貴ーっ! がんばれーっ!」
隣のミュウも両手を口に当てて控えめに声援を送る中、リテラが率いる応援団の集団だけが、周囲の荘厳な空気から完全に浮き上がっていた。
「お主ら、救世主レヴィンの晴れ舞台じゃ! 推しに届け、このエール! ゆくぞぉぉッ!!」
「おおおぉぉぉッ!!」
リテラがペンライトを両手に構え、空中でキレッキレのオタ芸を披露する。
それに呼応するように、屈強な衛兵たちからなる応援団が一斉に腹の底から声を張り上げた。
「レヴィンが一番! レヴィンが一番! レヴィンが一番! 強すぎるーッ!!」
静粛が求められる御前試合という環境において、この熱狂的な応援は、参列した保守派の貴族たちから見れば、まさに狂気の沙汰であった。
「な、何なのだアレは?」
「神聖な試合に、なんという暑苦しさだ」
「無駄な足掻きを。どうせ勝つのはベルスタイン卿だ」
困惑しているのはハンネマンも同様だった。
「うるせえ……」
「まあいいじゃないですか、隊長。そろそろ始まりますよ」
ロビンがハンネマンを宥める横で、ヤーナがおもむろに懐中時計を取り出した。
「レヴィンさんが本気を出すとして、『ソルマドラ』を全開放してからの持続時間は約三分……その間に決着がつけば御の字ですわね」
「どういうこった? そんなに燃費が悪いのか?」
「むしろ良い方ですわ。特にこの晴天の下では、レヴィンさんの魔力はほぼ無尽蔵と言ってもいい」
演武場のレヴィンとゲジーネが互いに敬意を表する口上を述べる中、ヤーナは何も知らないハンネマンとロビンに向けて、冷徹な解説を始める。
「逆を言えば、そこが彼女の弱点。全開放を三分以上保つということは、それだけ魔力を身体に循環させることを意味し、魔力酔いで倒れやすくなるリスクを背負っていると言えますわ」
「……思ったより厄介なマキナなんですね」
「まあ彼女によれば、昔ながらのマキナらしいので。人体の負担その他諸々は度外視されていても不思議ではありませんわ。しかし——」
演武場で向き合う二人が、同時に己のマキナを解放《リリース》する。
片や、膨大な風の魔力を纏い、螺旋状の竜巻を形成する嵐極槍《らんごくそう》『ドゥリンダナ』。
片や、黄金色の眩い光を放ち、己の肉体を包み込む太陽鎧《たいようがい》『ソルマドラ』。
傍から見ればその対峙は、まさに北風と太陽の寓話を彷彿とさせた。
だが、彼女らが選んだのは旅人の外套を脱がせるような悠長な手段ではなく、純粋な武と武、魔力と魔力の容赦なき激突である。
「この絵面の良さに勝るものはありませんわね」
ヤーナは太陽竜の鎧を纏ったレヴィンの姿を見て、口元に妖艶な笑みを浮かべた。
まさしく、莫大な富を生み出す金になる逸材であると確信しながら。
「いざ尋常に……御前試合、始め!」
王城衛兵長・マキシの号令が演武場に響き渡った、その瞬間。
空気が張り詰めるよりも早く、黄金色の軌跡が石畳の上を弾けるように駆けた。
「速ッ! いきなりかよ!」
ハンネマンが思わず素っ頓狂な声を漏らす。
それも当然である。
レヴィンが瞬きの間にゲジーネの懐へ肉薄していたのだから。
太陽の魔力を込めた右ストレートが、唸りを上げてゲジーネに迫る。
だが、ゲジーネとて伊達に騎士団副団長をやっていない。
レヴィンの速攻に反応し、『ドゥリンダナ』を回転させて小さな竜巻を生み出し、その剛拳を弾き返す。
「副団長も対応が素早い!」
「だが、この程度でレヴィンは止められん!」
驚くロビンと身を乗り出すジークの視線の先で、弾かれたはずのレヴィンがその反動すらも利用し、空中で身を捻って強烈な左ハイキックを放つ。
ゲジーネは咄嗟に籠手で防御したものの、その重い一撃に耐えきれず、横へと転がって受け身を取ることを余儀なくされた。
「滅茶苦茶だなアイツ……」
初めてレヴィンの戦い方を目の当たりにしたハンネマンが、信じられないものを見たような目をして呟く。
魔法文明が隆盛を極めるこの世界において、ラグナ族は潜在魔力が低く、実質劣化したヒトであるという常識が彼らの中には根付いている。
しかし、目の前で繰り広げられているのは、強靭な肉体と属性付与の魔力を完璧に連動させた 、常識外れのインファイトだった。
「ハナから飛ばしおるのぉ! じゃが、ここからじゃ! 踏ん張っていけぇーっ!」
リテラがペンライトを振り回して、熱烈熱狂エールを送る。
その後ろでは即席の応援団がリテラに続いて「いけぇーっ!」と声を張っていた。
一方の演武場。
一度距離を置いたゲジーネが、反撃の詠唱を開始していた。
ゲジーネの背後に、スイカ大の嵐の棘が五つ顕現する。
「風魔法お得意の範囲攻撃……!」
手元の懐中時計を横目で見ながら、ヤーナが呟く。
時計の秒針は、試合開始からまだ二十秒も経っていないことを示していた。
ミサイルのような軌道を描き、嵐の棘がレヴィンへと殺到する。
掠るだけでも致命傷になりかねない高密度の風の魔力。
それに対し、レヴィンは回避を選択しなかった。
太陽の魔力を込めた拳を、彼女は無造作に石畳へと叩きつけた。
直後、火山の噴火を思わせる魔力の奔流が壁となって噴き上がり、五つの嵐の棘を完全に飲み込み、霧散させる。
「やった!」
「普通そうやって相殺するか!?」
ミュウが興奮する反面、ハンネマンは常識外れの戦い方にただただ仰天している。
激突による土煙が演武場を覆い隠す。
視界が遮られたその空間で、しかしレヴィンは足を止めることなく、煙幕の中を猛然と突っ切った。
迎え撃つゲジーネの口から、決定的な詠唱が放たれる。
嵐極槍『ドゥリンダナ』から放たれた竜巻のドリルが、土煙を切り裂いてレヴィンに迫る。
真正面から受ければ、いかに太陽の鎧『ソルマドラ』を纏っていようと、無傷では済まない。
「あの技はまずい!」
「姉貴ィーッ!」
ジークが、ニューが、レヴィンの危機に叫ぶ。
誰もがレヴィンの絶体絶命を予感したその瞬間、彼女は信じられない行動に出た。
両腕をガードの体勢に固めたまま、前へと跳躍したのだ。
風属性の極大魔法へ自ら飛び込むという、狂気の沙汰。
「オイオイオイ、気でも狂ったか!?」
ハンネマンが叫ぶが、ヤーナだけは冷静に、単眼鏡の奥の目を細めていた。
「いいえ、これはおそらく――」
レヴィンの足元で小さな太陽が爆発した。
空中に足場を形成し、二段ジャンプの要領でさらに前へと加速する。
その身を盾にして竜巻へと突入し、暴風の壁を突き抜け、彼女は
驚愕に目を見開くゲジーネが、慌てて技を中止し回避行動に移ろうとする。
だが、もう遅い。
空中で静止したかのような一瞬の空白、そのコンマ数秒の隙を、レヴィンが見逃すはずがなかった。
太陽の魔力を帯びたアッパーカットが、ゲジーネのドゥリンダナを強引に跳ね上げる。
エーテルメタルが激突する甲高い音が響き、ゲジーネの胴体が完全に無防備に晒された。
そこへ、流れるような動作でレヴィンが両の掌底を突き出す。
鈍く重い衝撃音が、演武場を震わせた。
丹田に直撃を受けたゲジーネの身体が、まるで強風に煽られた枯れ葉のように吹き飛ぶ。
石畳の中心から放たれた彼女は、演武場を囲む芝生の上を数度バウンドし、力なく横たわった。
彼女の手からすっぽ抜けたドゥリンダナが、光の粒子となって手甲へと吸い込まれていく。
静寂。
数百人の観客が固唾を呑んで見守る中、演武場を包み込んだのは、あまりにも呆気ない結末に対する純粋な驚愕だった。
数秒の空白の後、衛兵長マキシの震える声が、ようやくその静寂を破る。
「……げ、ゲジーネ・ベルスタイン卿、場外! よってこの試合の勝者は、レヴィン・ゾンネとします!」
その宣言を合図に、観客席から地鳴りのような歓声と、悲鳴にも似た怒号が爆発的に巻き起こった。
「やったああぁぁ! 姉貴が勝ったぁぁ!!」
ニューが両手を挙げて飛び跳ね、ミュウが安堵の息を長く吐き出す。
「レーヴィーン! レーヴィーン! レーヴィーン! レーヴィーン!」
リテラに先導された衛兵たちの野太いレヴィンコールが、会場の熱気をさらに押し上げていった。
一方、保守派の貴族たちは、己の信じてきた常識という名の堅牢な城壁が、音を立てて崩れ去るのを感じていた。
彼らは青ざめた顔で互いを見合わせ、言葉を失って沈黙を余儀なくされている。
「なんつー奴だよ……王国騎士団副団長だぞ。そんな御方をあんなアッサリと……」
ハンネマンは、芝生に倒れ伏すかつての先輩の姿と、演武場の中央で静かに息を吐くレヴィンの姿を交互に見比べ、ただただ呆然と呟くことしかできなかった。
彼の胸中にあったラグナ族への偏見は、この瞬間、完全に粉砕されたのである。
「それだけ頼りになる女だということだ、騎士ハンネマン」
彼の呟きを聞いていたジークが、腕組みして誇らしげに言い放つ。
一方でヤーナは、手元の懐中時計の蓋を、パチンと静かに閉めた。
「……試合開始から決着まで六十九秒」
彼女の口元に、妖艶な笑みが浮かぶ。
「レヴィンさんにかかれば三分も要らなかった、ということですわね。武の技術も更に洗練されている……彼女の価値がどこまで跳ね上がるか、 これからが楽しみになりましたわ」
賭けにすらならなかったギャンブルではあったものの、ヤーナは単眼鏡の奥で黄金色に輝く太陽の子を見つめ、ただ一人、優雅に拍手を送っていた。
※※※
その頃、天幕で覆われた王族専用席では、観覧していた女王エメラリアを囲むように、妹のルビィと弟のサンドラ、そして末妹のシトリーが興奮冷めやらぬ様子で身を乗り出していた。
後ろの席には、三ヶ月前に女王の座を退いたエメラリアの母、ガーネットも静かに腰を下ろしている。
彼女を守護するように、宰相のフィンと騎士団長のニコラウスが傍に控えていた。
「……流石です。私の見込んだ勇者は、こうでなくては」
エメラリアは誇らしげに胸を張り、会心の笑みを浮かべている。
「ほんと、桁外れに面白い娘よねぇ」
ガーネットもまた、扇子で口元を隠しながらも、その瞳には強い興味の光を宿していた。
「えーゆーさま、すっごぉーい!」
シトリーが無邪気に両手を叩いて喜ぶ中、フィンは信じられないものを見たとでも言わんばかりに、額の汗を拭っていた。
「なんという……ペガサスから降りても、ベルスタイン卿の白兵戦の実力は騎士団長に迫るものがあったハズです。それを短時間で退けてみせるとは……」
「リーチの差は歴然だったのに、それを圧倒的な身体能力と未知の技術で強引にこじ開けたって感じだったね」
「殴る蹴るなど邪道と思っていましたけど、剣などと同じように洗練された型があることを見せつけられると、なんとも言えない気分になりますわね…… 」
サンドラとルビィもまた、レヴィンの規格外の戦い方に深い衝撃を受けている様子だった。
「驚くのも無理はないでしょう。レオンの娘とはいえ、彼とは全く方向性が違う戦い方なのですから」
「騎士団長、もはや方向性が違うなどという生易しいレベルではないのでは?」
ニコラウスのどこか悠長な発言に、フィンが思わずツッコミを入れる。
「いずれにしろ、これで彼女の実力は白日の下に示されましたね。フィン、これからの面倒な手続きや根回しは全てお任せしますよ」
「……心得ました。それにしても、お堅い保守派の皆様はこれで納得してくれたでしょうか? 揃って唖然として、石像のように固まっておられる様子ですが……」
今後の政治的後処理の煩雑さを思い、胃の腑が鉛のように重くなるのを感じながら渋い顔をするフィンに、エメルが満面の笑みで返した。
「こうして疑いようのない結果は出たのです。彼らには、嫌でも納得して頂かなくてはなりません」
「……左様ですか」
参った、我が君は随分楽しそうだ。
傍に仕え始めた頃からエメラリアの強引な行動力と笑顔に弱いフィンは、これから山積みになるであろう気苦労に深い溜め息をつきつつも、新たな時代を切り拓こうとする若き女王の背中を、心の中で頼もしく見つめるのであった。