太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七章 公国道程編
第百話 「巨万の富とやらは俺たちが頂くぜ」


 貴族の皆さんから見れば衝撃だったであろう、王国騎士団副団長ゲジーネさんとの御前試合。

 

 その決着から一夜明けて、あたし達ギラソール傭兵団は、街行きの服に変装したエメルを伴って、お馴染みの傭兵ギルド王都本部にやって来ていた。

 

 無論、パライソ中立公国へ遠征するエメルの直衛依頼に関する正式な手続きを済ませるためである。

 

 応接室でギルド長のロッソママを前にして、エメルは手続き上最後の書類に親指で朱印を押して、全ての手続きを終えたのだった。

 

 ソファに座るロッソママの隣には、瞳が隠れるほどの前髪で緊張しいな受付員・パオリーネ——通称リーネ——が、もじもじしながらお盆を持って立っている。

 

「はい、これで最後ね。確かに受理したわ。お疲れ様、女王陛下」

「畏まる必要はありませんよ、ロッソさん。一度は緊急依頼を受理してくれた仲じゃありませんか」

「そうは言ってもねェ、粗相できるわけないじゃない。女王様なんだから」

 

 確かにロッソママの言う通りではあるのだが、件の女王様の現在の服装は優雅なドレスではなく、地味なワンピースの上にカーディガンを羽織った街娘スタイル。

 

 パッと見で女王には見えないはずなのだが、それでも生来の気品や所作なんかは隠せないため、独特のオーラか何かが出ているから、ロッソママが珍しく困っているのかもしれない。

 

「ともあれ、また依頼を受諾してくれてありがとうございます」

「いいのよ別に。護衛依頼はウチの十八番《オハコ》だから、ジャンジャン頼っちゃって。……ただ、今回は外交の護衛ってデカい案件だし、帝国も関わりそうなんでしょ?」

「まあ、いずれはそうなるかもって感じだけど」

 

 ロッソママの疑問に、あたしは曖昧ながらも返答する。

 今のところ潜伏の可能性が高いってだけで、帝国に教団がいるという情報はまだ確定じゃないしね。

 

 でも、『マキナ・ランブル』には帝国の要人も呼ばれているという情報は確かだ。

 親書にも接触を可能な限り援助する、なんて文面があったし。

 

「ここまで国際的政治的な案件ってことになると、傭兵ギルドの規約に引っかかるのよね。つまりは記録員が必要ってことなんだけど」

「きろくいん、って何だ?」

 

 ロッソママの口から出た聞き慣れない単語に、ニューが首を傾げる。

 

「記録員っていうのは、今回みたいな大きな案件で保険になれるような人のことを言うの。不祥事があっても、客観的な記録を提示することで申し開きができるようにね」

「ま、要はデリケートな案件でポカをしでかさないように、ギルドからお目付け役として傭兵団に一時派遣されるスタッフということじゃ」

 

 なるほどね、お目付け役か。

 リテラの補足で合点がいった。

 とはいえ、ウチには必要なさそうではあるけど。

 

「そういうことなら、あたしは構わないけど、誰が記録員になってくれるの?」

「あのっ、そのっ……私……でしゅっ」

 

 ロッソママの横でずっともじもじしていたリーネが、控えめに挙手した。

 また噛んだのは許容範囲だから流すとして、リーネが記録員って——。

 

「マジ?」

「マジもマジ。普段は挙動不審すぎて心配になるけど、これでも事務能力はピカイチだし、本部に登録してある傭兵の顔と名前を全員覚えられるくらいには記憶力抜群なのよ」

 

 そうだったのね。

 まあロッソママからの評価が良いということは、それだけ仕事ができるということの証左なのかもしれないけど。

 普段のオドオドっぷりからは想像もできない。

 

「おまけにパライソまで行くなら、港のある商都グランツァイトまで行かなきゃでしょ?」

「そういえば言ってましたわね。リーネさんはグランツァイトの支部から来たと」

「はいっ。船に乗るのが初めての方ばかりなのでっ、地元の土地勘がある私が選ばれた……というわけでしてっ……」

 

 人選も理にかなってはいるらしい。

 ただ顔なじみだからっていうのもあるかもしれないけど。

 

 というか、船に乗ったことがないってリーネに話したことあったっけ?

 似たような話題はソロ時代にロッソママとの世間話で消費した、ぐらいの感覚だけど。

 

「皆さんの足を引っ張ることになるかもしれませんがっ、よろしくお願いしまひゅっ!」

 

 あ、また嚙んじゃった。

 相変わらず緊張しいよねこの娘は。

 いや、しかし緊張するのも無理ないか。

 エメラリアという女王が目の前にいるんだから。

 

「顔を上げてください、リーネさん」

「はひっ!」

 

 エメルに呼ばれたリーネが奇声を上げる。

 

「じょ、女王陛下様っ、この度はご機嫌麗しゅうっ」

「いいんですよ、そんなに肩肘を張らなくても。女王エメラリアとしてではなく、気軽にひとりのエメルとして接していただければ。こちらこそ、よろしくお願いしますね、リーネさん」

「あひゅっ……顔がっ……距離感がぁっ……」

 

 上品なオーラを纏った満面の女王スマイルがリーネに迫る。

 リーネは眩しすぎて直視できない。

 

 エメルの押しが強すぎるのは今に始まったことじゃないが、流石に供給過多というものでは?

 

「そういうわけでレヴィンちゃん、リーネちゃんのことお願いね。お目付け役とはいっても、いつも通り接してくれていいから」

「まあ、なるべく善処しとく。そこの女王様とうちのメンバーのせいで、胃に穴が開かないか心配だけど」

「が、がんばりましゅっ……」

 

 噛み噛みなのは相変わらずだが、リーネは両手で拳を作って必死に意気込みを見せている。

 まあ気概がある分マシってところね。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 リーネを伴って応接室を出たあたし達は、何故かやたらと賑やかになっているエントランスに降りてきた。

 

 ここはいつものように、血の気の多い傭兵たちでごった返しているはずだが、様子がおかしい気がする。

 喧嘩や酒盛りの騒音というよりは、何かひとつの話題で異様な熱気を帯びているような、そわそわとした空気が空間全体に蔓延しているような。

 

「なんだか、いつもより騒がしいですね」

 

 ミュウくんが不思議そうに首を傾げる。

 彼の服の襟元からグラウも顔を出し、「ぐらぁ」と警戒するように小さく鳴いた。

 

「お、なんだアレ? みんな紙切れ持ってざわざわしてないか?」

 

 ニューが指差した先で、傭兵たちが依頼を張り出す掲示板の前に群がり、何枚もの羊皮紙を奪い合うかのように覗き込んでいる。

 

「あっ、多分『マキナ・ランブル』とかいう催しのチラシだと思いますっ」

「えっ、それマジなの、リーネ?」

「今朝大量に送られてきたんですっ。オーナーの話だと、グランツァイト支部からの配布物らしくてっ」

 

 グランツァイトはパライソの玄関口。

 リーネの言う通りだとすれば、グランツァイト支部から発信されてから、昨日の今日で情報が拡散されたことになる。

 親書によれば『マキナ・ランブル』は多国籍親善試合とのことだったが、親書が届くより先に、参加者を集めるため既に各地に告知をばら撒いていたとしたら――。

 

「なんと……侮れませんね、パライソの広報は。手回しが早い」

「それだけこのビジネスに賭けている、ということですわね。悪趣味ですこと」

 

 エメルが驚きで漏らした声に返事するように、ヤーナは憤りを顕にする。

 

「ちなみにこれがそのチラシですっ」

 

 リーネが件のチラシを懐から取り出した。

 まあここの職員なら当然一枚くらいは受け取ってるか。

 

「どれどれ」

 

 リテラに釣られる形で、あたしはチラシを覗き込む。

 

「『優勝者には巨万の富と、いかなる望みをも叶える権利を与える』……手垢のついた謳い文句ね」

「まあしかし、唆られる響きではあるのう」

「うむ。もし本当であれば、食用肉一年分も夢ではないのではないか?」

「一攫千金も、ですわね。政治的な思惑が絡んでいなければ、すぐにでも飛びついてしまうところでしたわ」

 

 王道っぽいシチュエーションにニヤつくリテラはともかく、ジークとヤーナという食欲金欲コンビに関しては、会議を聞いていなければ止められなくなるほどに参加表明をしていたところだろう。

 

「何度でも釘刺しとくけど、仕事はエメルの護衛なんだからね」

「わかっているさ。友との約束は破らぬ主義だが、誰だってこの文面には心を惹かれてしまうものだ」

「巨万の富やら望みを叶える権利、ですものね。大抵の傭兵なら何も考えずに即参加、という流れになりますわ」

 

 まあ、そうなるでしょうね。

 仕事の内容によって報酬額が上下する不安定な金より、一番を勝ち取って手に入れる大金の方が確実。

 

 そんなに頭が回らない人ほど、シンプルなそういう考えに行き着きやすいものだ。

 

「ま、そういうこった。巨万の富とやらは俺たちが頂くぜ」

 

 そこへ、ギルド王都本部にいれば必ずと言っていいほど遭遇する男が、あたし達の話に割り込む形で声を掛けてきた。

 

 父レオンの知り合いにして悪人顔、魔獣教団の実行部隊と戦っていた時に加勢してくれた男、『狂犬』リバー・イーグルだ。

 彼の左右にはニヒルなジン・ジャガーと、ぽっちゃりなカール・ベアもいる。

 この三人が、熱き血潮のブランロート傭兵団。

 

「あら、噂をすれば一般傭兵代表のお出ましですわね」

「一般傭兵とは心外だな。オレたちはこれから『マキナ・ランブル』に参戦して、最強傭兵になるというのに」

 

 ニヒルなジンの口からイキリ発言が飛び出す。

 気の遠くなる話ですこと。

 

「いや、流石にフカしすぎだろジン。帝国からも猛者が来るって話なんだから、初手で最強宣言は初戦敗退の前触れにしか聞こえねえって」

 

 ジンのイキリにツッコむカールさんが半ば呆れている。

 もしやカールさん、ちょっとだけワクワクしてたり?

 

「そう言うなよカール。漢《オトコ》たるもの夢はデッカく、ってな」

「こういう時だけは気が合うな、リバー。そう、夢はデカけりゃデカいほど良い。酒池肉林ハーレム御殿だって、優勝すれば必ず叶うと信じようぜ!」

 

 ハーレム御殿って……。

 流石は女の敵を地で行く男ジン・ジャガー。

 脳と下半身が直結していらっしゃる?

 

 一般傭兵って奴は本当に単純なのね。

 

「まあジンの妄言は置いといても、傭兵稼業ってのは、いつ死ぬかもわかんねえ因果なモンだしな。極上のチャンスがありゃ、掴みたいのは当たり前だろ」

「なるほど、だから今回ばかりは熊さんもふたりを止める気はないと」

「おれも同じ穴の狢《ムジナ》ってヤツだしな。アンタはどうなんだ、ヤーナさんよ?」

 

 カールさんがヤーナに話を振る。

 どう、というのはおそらく、『マキナ・ランブル』の謳い文句である『巨万の富』に惹かれないわけないだろ、金にはがめついんだから、ぐらいの意味合いなんだろう。

 

 しかし、今のヤーナは恐ろしいほどに冷静である。

 

「己の可能性に賭けたい気持ちもなくはありませんが、そちらはそちらでどうぞご勝手になさいませ。アタクシは昔馴染みの依頼を優先させていただきますわ」

 

 きっぱりと言い切ったヤーナの言葉に、あたしは少しだけ目を丸くした。

 

 ちょっと意外だったけど、義理堅いところはあるしねコイツ。

 エメルとはジークと一緒に自警団を組んでた仲だし、ヤーナはお金にうるさくとも、自分が納得しない不透明な賭けには乗らないって線引きがある。

 

 まあ、裏で何が蠢いているかわからない大会よりは、身近な友を取るのも当然か。

 

「夢がねぇなぁ」

「現実的と言ってくださいませ」

 

 カールさんの文句もさらりと返すほどの余裕があるヤーナ。

 でもよくよく考えたら——。

 

「大穴狙いは現実的じゃないでしょ」

「別腹というのをご存じ?」

「スイーツじゃないんだから」

 

 ともあれ、ヤーナは線引きの出来る女なので、きっと不透明な大会の賞金より、ウチのエメルが出す報酬金の方が高い、なんて考えではいるのだろう。

 

「ふむ、それじゃキミがヤーナの昔馴染みということか。ジン・ジャガーだ。そちらの依頼が終わった後でもいいが、一緒にお茶でもどうかな?」

「私はエメルといいます。お茶ですか……。うちの弟や妹たちと一緒なら、お家でお茶会するのもやぶさかではありませんよ」

「……すまない、今の話は無しということで」

 

 するりと流れるようにエメルをナンパしていたジンが、勝手に撃沈している。

 ちゃんと断り文句を用意しているエメルも流石だが、ジンのナンパがもし成功しちゃってたら危ないところだった。

 今は街娘の格好だけど、実は女王だからね。

 

「その様子じゃ、この嬢ちゃんの護衛に忙しくなるから、『マキナ・ランブル』には出られねえってことか」

「ま、そういうこと。あたしも出たかったけど、時期が悪いっていうか」

「傭兵やってりゃ、そういうこともあるか……。しょうがねえ、アンタらの代わりに最強傭兵の座ってのを持ち帰ってきてやるよ。またな!」

 

 リバー、そういうのをありがた迷惑っていうの、知らない?

 仮に最強を掴んで帰ってきたとして、あたしはどうすりゃいいのよ。

 三馬鹿、もといブランロート傭兵団の三人は、意気揚々とギルドを出て行った。

 

「気楽な奴らじゃのう」

「もしかしたら、ああいう馬鹿の方が意外と勝ち進むのかもしれませんわね」

「……否定できない」

 

 リテラとヤーナとあたしで三馬鹿の背中を見送ってから、改めてチラシを見てみる。

 

 『マキナ・ランブル』、か。

 パライソの王様とやらは本当に何を考えているのやら。

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