太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百一話 「仲直りと誓いの証です」

 傭兵ギルド本部での手続きを終えてからは、出立の準備を整えるのに一日を費やし、あっという間に翌日。

 あたし達がエメルをパライソ中立公国まで送り届ける準備は、整った。

 

 再びやって来た、王城の正門。

 王家の紋章が刻まれていない方の馬車を譲り受け、あたし達ギラソール傭兵団は、見送りの対応に追われていた。

 

「フィン、しばらく私の代理として王都を……国をお願いしますね」

「わかっていますよ。陛下こそ、くれぐれも無理はなさらぬよう。女王としての自覚を忘れてはなりませんよ」

 

 フィンの言葉には、宰相としての忠言と、長く彼女を傍で支えてきた者としての深い気遣いが入り混じっていた。

 というかガチめに、切実に、心配しているような気がしてならない。

 

 しかし当のエメルは、そんな彼の心配を軽く受け流すかのように、ふわりと微笑んでみせる。

 

「フィンったら心配性なんですから。そこは大丈夫ですって。頼れる直衛の友人たちがついてますし、大船に乗ったつもりで吉報を待っていてください」

「その大船の羅針盤が狂わないかというところが、一番心配なんですけどね……」

 

 フィンさんが小さくため息をつくのを横目に、あたしは思わず苦笑いした。

 なんというか、重い責任を押し付けられたような気分になる。

 

 ただでさえ行動力の化身みたいな女王様だ。

 気性の荒い馬を乗りこなすように、あたし達で守り、抑え込まねば。

 

「別にいいじゃない、狂ったって~」

 

 ふわりとした、それでいてどこか周囲の空気を和らげる声。

 前女王、ガーネット様の声だ。

 

「どれだけ迷っても、最終的に辿り着くのがエメルの望んだ結果になるのなら、それでもいいと私は思うわ~」

「お母様、ありがとうございます」

「ただし、用心はすること。いざって時に自分の身を守れるように、お友達のレヴィンちゃんに護身術を教えてもらうのも、いいかもしれないわね~」

「そうですね、前向きに検討します! お土産、期待しててくださいね!」

 

 おいおいエメルさんや、すっかり観光気分じゃないですか。

 でも緊張するよりは、これくらいでいいのかもしれない。

 

「お姉様ったら、もうお土産の話だなんて。緊張感がまるで無いんだから」

「あはは……エメル姉さんらしいや」

 

 当然、ルビィちゃんやサンドラ君も見送りに来てくれている。

 このふたり、御前試合を見てからはあたしを認めてくれたようで、ルビィちゃんからは称賛を、サンドラ君からは憧れの眼差しを向けられているのだが、ファンが増えたみたいで少し気恥ずかしくなる。

 

「まあ、あんな姉なので危なっかしいったらありゃしなくて。レヴィンさん、くれぐれもお姉様を悲しませる真似だけはなさらぬように」

「僕からも。エメル姉さんをよろしくお願いします」

「なるべく善処はするから、そっちもそっちで頑張りなさいよ」

「わかっていますわ。わたくしはローラから経理学を——」

「僕は騎士団の指導者になるために兵法の勉強、ですよね」

 

 ウォルタート王国では、王位継承から外れた王族が暇になるなんてことはなく、己の得意分野に関する公務をやり遂げることが義務付けられている。

 ルビィちゃんは算術が得意らしく、成人後は王室の経理係になることを希望していると、エメルに聞いたことがある。

 そして、実はエメルよりチェスが上手いと評判のサンドラ君は、騎士団を統括する指揮官を目指しているのだそうだ。

 

「シトリーはもちろん、えーゆーさまみたいになるでごぜーます!」

 

 そこへ末っ子シトリーちゃんが割り込んできた。

 

「気持ちは嬉しいけど、あたしみたいにはならないでね?」

 

 間違った方向に育っても困るから、一応釘刺しとこ。

 

「案外、謙虚なのだな。殿下方に称賛されるだけでも光栄なことだというのに」

 

 見送りに来たのは、王室の皆様だけではない。

 凛とした声を掛けてきたゲジーネさんや、ニコラウス騎士団長をはじめとした王国騎士団からも、数名がやって来ていた。

 

「ベルスタイン卿」

「ゲジーネで構わん。拙も貴殿をレヴィンと呼ぶ」

 

 あれっ、なんだか急にゲジーネさんの心の距離が近くなったような?

 一度()り合っただけの仲なのに。

 

「正直なところ、貴殿のことを舐めてかかっていた。申し訳ない」

「謝る必要ないですって。舐められるのは慣れてますから」

「そうか……強いな、心も身体も」

 

 身に余る光栄でございます。

 

「目利きの良いジークリンデが認めるわけだ」

「それほどでもないですけど」

「謙遜するな、貴殿は強い。時の運こそあれど、な。陛下のこと、くれぐれも頼むぞ」

「まあ、仕事ですから。生きて必ず国にお返ししますよ」

 

 何にせよ、お堅い人のイメージだったゲジーネさんがあたしを認めてくれたのなら、御前試合も無駄ではなかったのかもしれない。

 そんなことを考えつつ、ゲジーネさんに向けて右の腕を差し出した。

 

「何のつもりだ、それは?」

「ウチの……ラグナ族に古くから伝わる、仲直りと誓いの証です。互いの腕をコツンって合わせる感じで」

「なるほど、こうか」

 

 ゲジーネさんが、腕をあたしの腕と交差する形で合わせる。

 ラグナ族に伝わる和解と誓約の儀式。

 奇しくもそれは、地球でのスキンシップに使われた『クロスタッチ』によく似ている。

 

「懐かしいな。レオンと戦友になった時も、それを教えられた」

 

 それに反応したのか、ニコラウス騎士団長が間に入っていく。

 

「大きな遠征の前だったかな。あいつと些細なことで喧嘩して不安になっていたところ、腕を差し出してきて――」

「騎士団長、思い出話はそれくらいで。陛下の出立に遅れをきたします」

「おっと、すまないなゲジーネ。レヴィン、再三になるが陛下を頼むぞ。王都の守りは我々に任せてくれ」

「お願いします」

 

 外様の傭兵であるあたしがお願いします、なんて言うのも変だが、王国騎士団はゲジーネさんをはじめ精鋭が揃っているという話だし、ウチの拠点の無事も確保されるだろう……多分。

 

「君ともしばらく会えないのが、寂しくなるな。ここはひとつ、私が君の父レオンから言われたこの言葉を贈らせてもらおう」

 

 父から言われた言葉、か。

 少し興味が出てきた。

 

 父レオンとニコラウス騎士団長は、立場は違えど戦友と呼べるほどの間柄だった。

 そんなふたりがどんな会話をしていたのかは、今まで想像することしかできなかったが、その一端が遂に明かされる。

 

「『答えは、一歩踏み出した先にしかない』。かつて立ち止まっていた私を、鼓舞してくれた言葉だ」

「……父らしいですね。余計なことを考えてない言葉って感じで」

「君もこの先、壁に道を塞がれたら、レオンの言葉を思い出すといい」

「そうします」

 

 あたしは騎士団長に深く頭を下げた。

 少しでも父を知ることができた感謝の意味も込めて。

 あたしもこの先悩んだら、父のようにとりあえず一歩を踏み出してみよう。

 

「レヴィン、荷物は全て馬車に積み込んだ! エメルも馬車に乗ったし、いつでも出発できるぞ!」

 

 そこへよく通るジークのハキハキとした声。

 どうやら出立の時は近いらしい。

 

「ふっ、ジークリンデは傭兵になっても変わらぬようだ」

「二人とも、ジークに何か伝言とかあります?」

「私からは何も。あれだけ生き生きとしているのだ、何を言っても無粋だろう」

「拙からは、まあ……あまり食べ過ぎるなとだけ」

「わかりました。では、お勤めを果たしに行って参ります」

 

 王国騎士でもないのに、あたしは礼儀よく敬礼してみせる。

 地球の軍隊とは違う、右拳を心臓の位置に置くタイプの敬礼だ。

 騎士団長と副団長も、同じ敬礼を返してくれた。

 

 ふたりと別れて馬車へと向かう。

 手綱を握って待っていたジークに、地図を手にしてルートを確認していたであろうヤーナとエメル。

 それにあたしと同じタイミングで馬車に乗り出したニューとミュウくん、それに記録員として乗り込んだリーネ。

 あたしの肩に舞い降りたリテラ。

 

 全員が馬車に集い、出立の準備は整った。

 

「リーネ、商都グランツァイトまでどのくらい?」

「はいっ。南西へ下る街道を順調に進んで行けば、三日もかからないといった感じですっ」

「まあ王国の玄関口みたいな所じゃから、王都からはそうそう長い道のりでもなし。街道の魔獣も、汎用型マキナで片付けられる程度と聞いておる。少しは平和な旅路にはなるじゃろ」

 

 平和な旅路、か。

 リテラの言う通りになるといいんだけどね。

 

「では、参りましょうか、皆さん」

「おおっ!」

「目指すは商都グランツァイト、ですね」

 

 エメルの号令に、双子が返事する。

 

「ジーク、出してくださいませ」

「心得た。ハイヤーッ!」

 

 ジークがヤーナに命じられて、慣れた手つきで手綱を引く。

 馬のいななきと共に、馬車の車輪が回り始めた。

 

 これまでも依頼で遠征したことはあったが、今回は女王という爆弾を抱えていることもあってか、少し緊張感のある旅立ちとなったのであった。

 

 まず目指すのは、港のある商都グランツァイト。

 船でパライソ中立公国へ向かうための、玄関口へ。

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