太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百二話 「合気道、じゃ!」

 あんなに目立っていた王都を覆う壁も見えなくなっていった頃。

 

 馬車の中では、ヤーナが荷物の中からとある物を見つけたことをきっかけに、話が盛り上がっていた。

 ヤーナが手に持って眼鏡越しに観察しているのは、片眼鏡《モノクル》だ。

 

「ふむふむ、凄いですわね。流石は若くして王国魔導顧問までのし上がった、ソフィアさんの魔導具ですわ」

「何がどう凄いんですか?」

 

 ミュウくんがモノクルに興味を持って、レンズを注視している。

 

「おおっ、それか。試しに使ってみてくれとソフィアから貰ったものだな。『魔闘力《まとうりょく》』、とやらを分析して数値化できる魔導具、とか何とか。私にはさっぱりだが」

「その、魔闘力とやらがイマイチわかんないんだけど」

 

 初めて聞いた専門用語だし。

 

「大雑把に言えば、個人の戦闘力みたいなものですわね。マキナのランクや潜在魔力、それに体力なんかを総合した数値、といえばわかりやすいかもしれませんわ」

 

 ヤーナが戦闘力、なんて単語を使うのが少し意外だったが、なるほど、そういうことか。

 

「このモノクルによれば、魔闘力はレベルという単位で数値化できているみたいですわね。例えばレンズ越しにジークを見てみると——」

 

 それにレベル、ときた。

 確かに強さを表す単位としてこれ以上のものはないだろうが、はて。

 この異世界《フロイデヴェルト》はいつからバトル漫画の世界になったのやら。

 

「レベル三九、と表示されましたわね」

「上限が不明確じゃから、どうコメントしていいのかわからんのう」

「そうですわね。ちなみにまるで戦えないリテラ様やリーネ、エメルのレベルはゼロ。足技覚えたてのニューは五。治療術式で魔法的アドバンテージのあるミュウが一二、と出ましたわ」

 

 試作品っぽいのに、中々それっぽい数字が出てくるとは。

 ソフィアさん、ヤーナを唸らせるだけはある。

 

「レヴィンさんは……レベル五三。百を上限と仮定しても、思ったほどではありませんでしたわね」

「むしろそれくらいで安心したわよ。あたしの『ソルマドラ』がロートルだったおかげね」

「どういう事ですかっ?」

 

 あ、そうか。

 リーネはあたしが傭兵ギルド入りたての頃、まだいなかったっけ。

 あの事、知らないわけだ。

 

「傭兵なりたての頃に、マキナのランクを測ってもらったことがあるんだけど……最低のF級だったの」

「そんな……レヴィンさんは、かなりの実力者ですよ」

 

 エメルも信じられない様子。

 まあ、当然そんな反応にもなるわよね。

 

「それなのに何故最低ランクのマキナなのか、と言いたい気持ちもわからんでもない。じゃが、古代のマキナは今のとは作りが違うと聞くからのう。それが評価の弱体に繋がっておるんじゃ」

「よくわかんないけど、姉貴が強いことに変わりはねえんだろ?」

「まあ、その通りですわね。あくまでもこのモノクル……ジーク、これの名前とかソフィアさんに聞いていませんの?」

「そういえば聞いていた気がするな。確か、『アウラ・シュペーア』といったか」

 

 そのモノクル、ちょっと名前の響きがカッコいいんだけど。

 

「あくまでもこの、『アウラ・シュペーア』がひねり出すレベルの数値は目安でしかない、ということでしてよ。試作品ならではの味ですわね」

「味って……それ実はクッキーだったのか?」

「ニュー、言葉の綾って知ってる?」

 

 とにかくそのモノクル……『アウラ・シュペーア』があれば、魔闘力を分析してレベルとして数値化できる、と。

 余計な戦闘を避ける程度には役立ってくれそうではある。

 

「とはいえ、アタクシは既に自前の眼鏡がありますので……ミュウに差し上げますわ」

「えっ、ボクですか?」

 

 驚いたミュウくんの疑問に、ヤーナは当然と言わんばかりに眼鏡を押し上げる。

 

「単純な消去法ですわ。ジークはまず数字を気にしない、レヴィンさんは戦法から考えても割れるリスクの方が大きい。ニューは既に魔眼を持っていますし、リテラ様は当然サイズが合わない。そう考えると、後方で戦局を俯瞰できる治療役の貴方が持っていた方が、都合が良いということになりますわね」

「なるほど……そういうことなら、ありがたく使わせていただきますね。ニューとお揃いって感じで嬉しいですし」

 

 少し照れくさい顔で、ミュウくんがモノクルを受け取った。

 

 お揃い、か。

 思えばモノクルの魔導具って魔眼っぽさはあるわよね。

 

「私がレベルゼロ、ですか。ヤーナに改めて言われると、己がいかに無力であるかを思い知らされますね」

 

 魔闘力議論で蚊帳の外にされたエメルが、半ば寂しそうに独りごちる。

 

「自警団時代だって、私の正義感でジークとヤーナを振り回した挙句、守ってもらうばかりでしたから」

「そんなことはないぞ。エメルの行動力は、自警団の活動には欠かせない指針になっていたのだからな」

「ありがとう、ジーク。でも、ふと考えてしまうのです。もし、私を守ってくれる人が全ていなくなる状況に陥ってしまったら……と」

 

 それはつまり、あたし達とはぐれて孤立してしまった場合、自分を守る術が足りなくなって危ない、ということか。

 考えたくはないが、エメルがそんな状況になってしまう可能性もゼロとは言い切れない。

 

「パライソへ行くと勇み足で出てきたはいいものの、どんな不測の事態が起こらないとも限りません。だから——」

 

 それ故にまた、彼女の口からこのお願いを聞くことになる。

 

「レヴィンさんの技を、私に教えていただけませんか?」

 

 参った、またこれだ。

 三ヶ月も前に心を鍛えた方が向いてるってアドバイスしたというのに、それでもあたしから学びたいというのか。

 

 公の場で女王が暴力沙汰というのも避けたいし……でもエメルの眼は真剣そのものって感じだから断りを入れづらい。

 母親のガーネット前女王様から後押しされたのも影響してると思うし、どうしたものかと悩んでいたら、何も言ってないのにリテラが助け舟を出してくれた。

 

「もうこれで弟子入り志願も何度目かのう。レヴィンの使う流派は、お主の体力では厳しいかもしれんというのに」

「……ですよね。ロクに鍛えられてない私なんて——」

「じゃが、エメルのような非力でも、大男すら相手取れる技術……それなら教えてやれんこともないじゃろ?」

 

 おっと、雲行きが怪しくなってきたぞ。

 

「大男すら相手取れる……その技術とは一体何なのですか!?」

「それは究極の護身術。攻めよりも守りに特化した武道。その名も——」

 

 リテラが唐突に構えを取る。

 

 ()()の武道を象徴するようなその構えは、あたしの知る日本武道の構えそのもの。

 その技術の名前は。

 

「合気道、じゃ!」

 

 恨みますよ、植芝盛平先生。

 非力でも身を守れる技術を生み出してくれたことに。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 馬車が街道沿いの少し開けた草地に停まる。

 馬の定期休憩の時間を利用して、あたしはリテラの発案から、エメルに合気道を教えることになった。

 まったく、ニューに続いて厄介な弟子を持ってしまったものである。

 

 あたしの目の前には、やる気満々のジーク。

 その光景を皆が見守っている。

 まずはエメルの前で実践という流れだ。

 

「リテラさん、そもそもそのアイキドーというのは何なのですか?」

「遥か東の国に伝わっているらしい、武術のひとつじゃな。わしも詳しくは知らんが、相手の力を利用する技術としては最高峰、という話は耳にしておる」

 

 リテラの奴、なにが詳しくは知らん、よ。

 格闘ゲームやってたり格闘技の試合を見ていればこのくらいは常識、みたいな知識を「素人質問で恐縮なのですが」なんて言ってひけらかすレベルじゃないの、アンタの知識は。

 

 まあ、地球の日本に伝わる武道って言われても、この世界じゃ誰もが首を傾げるだろうからしょうがないんだけど。

 

「あれこれ講釈を垂れるよりも、見てもらった方が早いのう。ジーク、ひとまずレヴィンに思い切り突進してみてくれんか?」

「心得た! 牛になりきればいいのだな?」

「そこまでは言ってないと思うけど……もうそれでいいや」

 

 あたしはジークの攻めを受ける側になる。

 

「では行くぞ! ぶもおぉぉっ!」

 

 文字通り猛牛になりきって、ジークが突進を始めた。

 いや、そこまで忠実に真似しなくても。

 きっとジークが形意拳を学んだら、いの一番に伸びるかもしれない。

 

 そんなどうでもいいことを考えつつも、あたしの動きはスムーズに受けの準備を整えている。

 ジークが近づくその瞬間、足を半歩斜め前に踏み込み、自分の身体を反らした。

 

「おっ!?」

 

 目標を見失い、しかし急には止まれないジークの腕を下から軽く掬い上げるように添え、そのまま彼女の突進する勢いにあたしの動きを同調させる。

 己の筋力を使わずに、ジークの進みたい方向へと円を描くように誘導していった。

 

「おぉっと!?」

 

 その瞬間、ジークの身体は自分自身の勢いに飲まれるが如く宙返りし、草地に転がっていった。

 

「す、すごい! 全く力を使ったようには見えなかったのに……」

「力を力で制するのではなく、力の()をずらす。相手の力を利用するとはこういうことじゃ。少々コツはいるが、逆に言えばコツさえ掴めれば、今のように相手を無力化することが出来るようになる。それが合気道……究極の護身術と呼ばれる所以じゃろう」

「な、なるほど。流れに逆らわず受け流す、と。道は険しそうですね」

 

 エメルが言うように、習得の道は険しいだろう。

 

 ただ殴るだけなら誰でもできる。

 だがそれを見切って受け流すカウンター技が多いのが合気道の特徴だ。

 さっきエメルに見せた四方投げだって、基本技なのにかなりの慣れを必要とするし。

 

「うむ、いつぞやレヴィンと組手した時に木剣ごと投げられた感覚に似ているが……やはり空は青いな!」

 

 どうやら仰向けに倒れているジークは、考えるのをやめたらしい。

 

「合気道とやら、受け流すという点では理に適った技術のようですわね。確かに、エメルには合いそうですわ」

 

 そんなジークを無視して、ヤーナが眼鏡を押し上げつつ合気道そのものを称賛する。

 

「まあ、それは認めざるを得ないわね。もしパライソ側が悪者だったとして、エメルの方から正義執行って感じであちら側を殴ったら、国際問題になりかねないし。合気道で正当防衛してくれた方が、女王のイメージアップには繋がるでしょ」

「レヴィンさんは、私を普段どんなイメージで見てたんですか……?」

 

 別にメンタルだけは暴れん坊将軍とか思ってるわけじゃないからね。

 

「ともかく、とある合気道の達人はこう言っておったそうじゃ。『合気道の真髄は、相手と友になること』じゃと」

 

 なんだかどこかで聞いたことのある名言がリテラから飛び出した。

 

「相手と、友に……まるで交渉ですね」

「そうじゃな。合気道が司るのは、和合や調和。暴力的な技術はそこまで使われておらん。争いそのものを無に帰すその技術は、どこかお主の正義と合致するところがあるかもしれんのう」

「……わかりました。ご指導ご鞭撻のほどお願い致します、レヴィン師匠!」

 

 知り合いに師匠って呼ばれるの、これで二人目。

 

「よし、まずは構えから」

 

 エメルは真剣な表情であたしの言葉に頷き、不器用ながらもすり足で構えを取る。

 

「右足を半歩前、重心は少し落として……そうそう、自然体で。力んじゃ駄目よ、受け流すんだから」

 

 あたしの指導に合わせて、エメルはぎこちなく手足を動かす。

 普段は優雅な所作が板についている彼女であるが、武術の構えとなってくると勝手が違うのだろうか。

 

「なんだか、不思議な気分です。地に足がついてるのに、まるで風魔法で浮いているような感覚というか」

「あたしにはわかんないけど、多分そんな感じでいいと思う」

「合気道は呼吸と『円』の動きが重要じゃ。自身の中心に導きつつ、受け流す。川の流れに逆らわず、程よく流されるぐらいがいいんじゃろうな。そういう点では、風魔法と似たようなものか」

 

 リテラがエメルの周辺をぐるりと回って、『円』の範囲を表してみせる。

 本当に風属性魔法と似ているかどうかは疑わしいが、エメルが理解しやすいラインの解説ではある。

 

「ともかくそういうイメージが大事ということじゃ。真正面から相手の力を受けようとは考えずに、調和するイメージを以って円運動でいなし、威力を受け流す。な、簡単じゃろ?」

「簡単……かどうかは、やってみないと何とも言えないわね。エメル、今からゆっくりパンチしてみるから、あたしの拳に手を添えて——」

 

 本格的に実践させようと思っていた、その時である。

 

「姉貴、森の方から何か来るよ!」

 

 魔眼で誰かの危機を予知したのか、桶の川水を馬にやっていたニューが声を掛けてきた。

 

「間が悪いわね、この辺の魔獣ときたら。解放《リリース》、『ソルマドラ』っと」

 

 あたしはニューの予知を受けて自分のマキナを籠手だけ顕現させる。

 街道を外れた深い森の奥から、木々をなぎ倒すような重い足音と、土煙が立ち上るのが見えた。

 

「レヴィン、手を貸すぞ」

 

 ケロッとした顔で起き上がっていたジークが加勢しようとするが、まあ必要ないだろうと思って、あたしはジークを止めた。

 

「大丈夫、足音は少ない。あたしだけでもやれる」

 

 徐々に迫る足音。

 足音が大きくなるにつれ、ただの魔獣の襲撃ではないことがわかってきた。

 魔獣の足音の前を、必死に走る小さな足音と、やけによく通る悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

「お助けぇぇぇぇッ!!」

 

 森の茂みを突き破って転がり出てきたのは、巨大な狼の姿をした魔獣・フェンリル。

 そして、その猛進から文字通り必死の形相で逃げてくる、場違いなリュートを背負った見慣れない女性。

 謎の女性の出現から、あたしの身体は反射的に動き、次の瞬間にはフェンリルの顔を殴り抜いて消滅させていたのであった。

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