太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百三話 「さすらいの吟遊詩人、カノーネ・メルケルや」

 フェンリルの消滅と共に、魔石が草原の上にぽとりと落ちる。

 草を踏みにじって転がり込んできた謎の女性は、仰向けに倒れたまま、しばらく空を眺めていた。

 

「……ハハッ。ウチ、生きとるやん。何とかなるもんやな」

 

 えっ、関西弁?

 いきなり関西弁が転がり込んできた女性の口から聞こえたんですけど。

 

「拳で一撃とか、えらい強いやん。あんがとさん」

 

 そう言ってゆっくりと起き上がる女性。

 ぱっと見は二十代半ばっぽいが、よくよく見れば彼女は関西弁以外にも異質な出で立ちをしていた。

 

 背負っているリュートから、なんとなくそういう職種の人なのかなと感じ取れはするものの、野暮ったいセミロング茶髪の上に被っているツバの広い帽子は、まるで荒野のガンマンを思わせるようなテンガロンハットで。

 赤いスカーフ、スイカぐらいはある豊満な胸を包み込む、飾り付きのスエード生地ベスト、足元は拍車こそついていないものの、頑丈そうな革のブーツを履いている。

 おまけに腰には拳銃を収めたホルスターがふたつもあるし、持ってるリュート以外は完全に西部劇の保安官か賞金首のようであった。

 

 なんかこの時点で相当要素が濃いんですけど。

 しかも狐みたいな細目が、更に怪しさを醸し出している。

 

「無事で何よりだけど……なんか引っかかるわね、その訛り」

「堪忍な。ウチ、見ての通り田舎育ちやから、まだ訛りが完全に抜け切らへんねん」

 

 その関西弁みたいなイントネーションで田舎訛りは、中々無理がない?

 

 でもよくよく考えたら有り得ない線でもないか。

 あたしの愛する格ゲー『ライジングナックル』シリーズには、イタリア育ちのイギリス人って設定のキャラがいたし、そのキャラはイタリア訛りの英語を喋ってるって設定を関西弁で表現されたりしたしね。

 

 この人の訛りが関西弁に聞こえるのも、きっとそういう傾向なのだ。

 そういうことにしておこう。

 

「で、そんなウチはさすらいの吟遊詩人、カノーネ・メルケルや。よろしゅうな」

 

 まあ、リュートを背負ってるからやっぱり吟遊詩人だったわけで。

 でもこういう西部劇ファッションのイメージじゃないわよね……。

 

「レヴィン・ゾンネ、傭兵よ」

「ほぉ、傭兵さんかいな。さっきの腕っぷしなら納得やな。そんで——」

 

 カノーネさんが周りを見渡す素振りを見せる。

 

「この旅の一団を護衛しとるって感じなんか?」

「まあ、そんな感じね。正確には——」

「ほあっ!?」

 

 うわっ、ビックリした。

 カノーネさんはどうしたんだろう。

 何かに視線が釘付けのような。

 

 軽く彼女の視線を追った先には、疑問符を浮かべるニューと、ニューに何かを教えているミュウくんがいた。

 

「なあミュウ、ぎんゆうしじんって何だ?」

「ボクも初めて見るけど、各地を巡ってる音楽家だって聞いたことがある」

 

 あたしには双子が普段通り話している様子にしか見えないのだが、再びカノーネさんの方を振り返ってみると。

 

「双子の天使やん……」

 

 何かに心を射抜かれたような顔の女が、頬を赤らめた状態で子供を見つめている。

 

「レヴィンはん、不躾で申し訳ないんやけど」

「何よ?」

「あの子らを抱かせてくれた上で、頭わしわしほっぺムニムニさせてくれへん?」

「マジで不躾じゃないの!」

 

 ニューとミュウくんを見るなりヤバい方向に豹変したカノーネさん。

 変態か? 変態なのか?

 子供に欲情するタイプの変質者はもうちょっと考えてよ、コンプライアンスをッ……!

 

「いや、ちゃう……ちゃうんや。これはあの子らがドチャクソ可愛いから、ウチの中のクソデカ母性が漏れ出とるだけなんや」

「クソデカ母性!?」

 

 何だそのとんでもないパワーしかないワードは。

 

「そんなもん抱えてよく今まで生きて来れたわね! 王都なら異常性愛者は打ち首だっていうのに!」

「いくら何でもそこまで異常とちゃうよウチは! せいぜいがちっさくて可愛いモンをモフりたいぐらいの健全な衝動やって!」

 

 うーん、それくらいなら……いいのかな?

 

 いやいや、騙されるな。

 こういうタイプは常習犯って相場が決まってる。

 とりあえずニューとミュウくんの教育には悪そうなので、この人を近寄らせないようにしなくては。

 

 とりあえず話題を逸らそう。

 

「あんまり信用できないし、健全かどうかは置いといて」

「置いとくんかい」

「吟遊詩人だっていうのに、ひとりで魔獣から逃げてたのは気になるわね。この辺、そこそこ強い魔獣が出るって聞いてはいたんでしょ? 守ってくれる連れとかいなかったの?」

「護衛の傭兵雇う金、ウチが持ってると思うか?」

 

 懐事情が寂しいタイプの吟遊詩人だったか。

 

「しゃあないやん、当たり外れの差がデカい商売なんやから! 路銀と身を守るためのコレで精一杯や」

 

 カノーネさんはそうぼやいて、腰のホルスターから二丁の銃を引き抜いた。

 両方ともグリップに白の石が埋め込まれた、銀色のダブルアクションリボルバー、と呼ばれるタイプ。

 

 あたしはそれほど銃には詳しくないが、後でリテラがそういう系統だと教えてくれた。

 なのでリテラは今、カノーネさんの銃に興味津々だ。

 

「ほう、汎用型の魔弾銃《まだんじゅう》とは。珍しいマキナじゃのう」

「せやろせやろ? 右で持つ方を『カストル』、左で持つ方を『ポルクス』って名付けたんや」

「リテラ、そもそも魔弾銃って何?」

「魔力が込められた魔弾を撃てる、文字通りの銃なんじゃが……王国では見たことないのう」

 

 ということは、その汎用型マキナは帝国製ということになる。

 本来なら不可侵条約下にある王国と帝国は、自由に行き来できないハズだ。

 どこぞのコレクターのように、国境を無断で越えた闇商人から買ったのだろうか。

 

「あっ、もしかしてウチが帝国民やって疑っとる? そんなワケ無いやろ。ウチは王国生まれの王国育ちやで。この魔弾銃は、パライソ住まいの職人から譲り受けたんや」

「パライソに魔弾銃を作れる魔武器鍛冶師《マキナスミス》がいるとは、初耳ですわね」

 

 お、ヤーナも興味を示してきた。

 

「パライソは今や一大観光地やし、自然と人も集まってくる。表沙汰になっとらんだけで、変人も職人もゴロゴロおるもんや」

 

 まるで自分のことのように自慢しつつ、カノーネさんは両手で二丁の魔弾銃を手元で回してみせる。

 

「変人がゴロゴロいるなんて状況は遠慮したいけど、そんな良い物持ってて魔獣から逃げてたのって、もしかして……」

「恥ずかしながら、弾切れやね」

「そんなことだろうと思いましたわ」

 

 やれやれ、といった仕草でヤーナが呆れた。

 

「ただでさえ魔弾銃のリソース管理は大変と聞いてますのよ。自分の魔力だけではなく、魔弾の弾数も気にしなければいけなくなりますし」

「まるで経験者みたいに語るやん。シスターさん、何モンなん?」

「アタクシは傭兵のヤーナ・シェーファー。少し魔武器鍛冶師《マキナスミス》に弟子入りして、マキナを自作したことがあるだけの女ですわ。魔弾銃の知識も、自作マキナの参考程度に少しかじっていただけでして」

 

 ヤーナ本人の口から改めて要素だけを列挙されると、やっぱり彼女もカノーネさんに負けず劣らずの濃厚さがあると感じる。

 

「せやったんかぁ。だったら、魔弾製造の面倒臭さもわかってくれるやろ?」

「ええ、とっても。一度自分の知識で試作してみたら、運用の効率が滅茶苦茶悪くて驚きましたわ」

「ウチはロマンと割り切って運用しとるから、そこまで気にしたことはあらへんな!」

 

 おっと、いつの間にかふたりの間で魔弾銃談義が盛り上がってしまっている。

 

「ロマンか……。魔弾銃とやらのことはよくわからんが、カノーネとは気が合いそうだ」

 

 カノーネさんのロマン発言に感銘を受けたのかどうか知らないけど、ジークからの好感度が何故か高いし。

 一体何なんだこの吟遊詩人は。

 

「――で、魔弾を補填しよう思って、パライソの船が出る商都へ向かっとったんやけど」

「そこで魔獣に、ですかっ」

「災難でしたね」

 

 リーネとエメルもカノーネさんの身の上話を聞いていたのはいいとして、だ。

 彼女の目的地があたし達と一緒、ということは――。

 

「良かったら、私たちの馬車に乗っていきませんか? 幸い、目的地は同じようですし」

「えっ、ホンマ!?」

 

 当然なるわよね、こういう展開に。

 旅は道連れ世は情け、とは言うけども。

 

「私たちも観光でパライソに向かっていたところなのです。それに、困っているお方を見捨ててはおけませんし」

「聖女や……聖女はここにおったんや! 喜んで相乗りさせて頂きます! ありがたやありがたや……」

「聖女だなんて……褒めても何も出ませんよぉ」

 

 エメルがカノーネさんに聖女と呼ばれ崇められ、本人は満更でもなく。

 あたしは一体何を見せられているのか。

 

「やれやれ、口だけは達者じゃのう。流石は吟遊詩人といったところか」

「リテラだって似たようなモンでしょうが。それにしても——」

「どうしたんじゃ?」

「変な感じ。あの人とは初対面なのに、何故だか懐かしい気がしてならないのよ」

 

 それは、彼女の訛りが関西弁に聞こえるせいなのだろう。

 いつだったか夢に見た、名前も覚えてない前世の兄の友達。

 多分似てないだろうに、あたしは何故かその人の影を重ねている。

 

「奇遇じゃな、レヴィン。わしもそう思っとった」

「……えっ?」

 

 ただ、意外だった。

 知り合いの面影を見たあたしはともかく、リテラは何で同意したのだろう。

 偶然あの人と知り合っていたとも到底思えないのだが。

 

「雰囲気が似ておるんじゃ。イタリアから渡英してきたキックボクサー……オットリーノに!」

 

 いや、誰やねん……とは敢えて言うまい。

 カノーネの関西弁は田舎訛りで、イタリア訛りの英語を関西弁で表現された感覚に似ている。

 そのイタリア訛りの英語を喋る設定のキャラというのが、『ライジングナックル』シリーズに登場するキックボクサーのオットリーノ・スカリエッティという男なわけで。

 

「うん、まあ……そうなるわよね」

 

 あたしはリテラのデジャヴに拍子抜けしながら、荷車に同乗する吟遊詩人を注意深く見守るのだった。

 

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