太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
馬車は再び街道沿いに南西へ進路を取る。
エメルの厚意で変な吟遊詩人のカノーネさんが相乗りすることになる、というイレギュラーなイベントこそあったものの、大した魔獣の襲撃もなく、商都グランツァイトへの旅は滞りなく進んでいた。
堅い壁で守られた王都から遠ざかるにつれて、吹き込む風もどことなく潮の匂いが混じってきているような気がする。
微かな揺れを繰り返す荷車の中で、カノーネさんはニューとミュウくんの真向かいの位置に座って、愛用らしきリュートを手入れしている。
仕草だけなら普通に見えるのだが、その顔は悦に浸っているようで、少し気持ち悪く感じてしまった。
「ムフフフ……♡」
「姉貴、あの人やけに嬉しそうだな」
「多分、商都までタダ乗りできてる今の状況が嬉しくてニヤついてるのよ」
「まあ、気持ちはわからなくもないですけど……」
とにかくカノーネさんが双子に邪な感情を抱いてそうなのは事実なので、ニューとミュウくんにはトラウマを植えつけられる前に嘘の分析を伝えることで、純粋な精神を守っていくことにしよう。
「いやいや。貧乏なのは事実やけど、そこまで矮小な女とちゃうで、ウチは」
おっと、本人に聞こえてたか。
聞かれたところでスタンスを変えるつもりはないけど。
「ウチも吟遊詩人の端くれ、受けた恩は詩で返すことにしとるんや。乗せてくれた礼に適当なの聞かせたる」
「ふぅん、リュートはファッションってわけじゃなかったのね」
「商売道具担ぎ歩いとるだけやのに、やたらと辛辣やねレヴィンはん」
「別に気にすることはありませんわ。素直になれない質《タチ》なだけなので」
ヤーナ、余計なこと言わない。
「で、何聞かせてくれるんだ?」
「ニューちゃんやっけ。そのホクホクな待ちの表情、たまらんなぁ♡ ほな折角やし、ここ最近で一番好評やった詩にしよか!」
「どんな詩なんです?」
「それはな、ミュウきゅん……『五英傑』の冒険譚や!」
ご、ごえいけつ……?
魔弾銃に続いて未知の単語がまた出てきたわけだけど、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?
「五英傑……ときましたか」
「エメルさん、ご存知なんですかっ?」
「私も詳しくは知らないのですが、母の世代にゆかりのある伝説の五人、という話は聞いています。なんでも、『魔兵器大戦』において最も王国のために尽力した勇士の皆様だとか」
へぇ、そうだったのね。
それにしてはリーネが知らないっていうのも変だけど、地方によって知名度にバラつきがあるとか、そういうヤツなのかもしれない。
「ほうほう、そういう風に伝わっとるんやな」
「少なくとも王都では、そうですわね。ただ、唐突に現れて唐突に何処かへ消えた集団ではありますから、あくまで象徴としての英傑像しか伝わっておりませんけど」
「つまりほぼ功績のガワだけってことやね。ホンマに勿体ないなぁ」
ヤーナの言っていることが事実なら、外様のカノーネさんにそう言われてもしょうがない。
でも地球にも実在したのかあやふやな偉人の名前がいくらか知られてはいるし、そんなものなのだろうか。
「せやから、ウチら吟遊詩人はその伝説に脚色を加えて詩にするんや。ひとつの物語として成立するようにな」
カノーネさんがリュートの弦を軽く爪で弾く。
馬車の中に緩やかな音色が響いた。
「これからウチが紡ぐのは、旅の中で拾い集めた記憶の断片。五人の若者が刻んだ、冒険の証」
これは弾き語り、というやつか。
なんとも吟遊詩人っぽい前口上。
さっきまでのハイテンションな訛り口調はどこへやら、しっかりやることはやってるんだな、などと察せるくらいには声のトーンが柔らかくなっている。
なるほど、これが普段の吟遊詩人ってヤツですか。
「今は昔……王国と帝国の衝突が冷めやらぬ中で、突如として頭角を表した五人の男女がいた。王国精鋭部隊の窮地を救った彼らは、その功績を王より称えられ、勇者の称号を得た」
それが五英傑とやらの原点。
触りだけ聞くとありきたり感は否めないけど、英雄譚とはこんなものなのだろう。
「型破りな義賊《シーフ》、聡明な魔導師、剛健な女戦士、可憐なる神官、そして彼らを束ねる剣士。五人の出自は全くの謎なれど、多くの戦場に駆り出された彼らは、その戦の尽くで勝利を収めた」
そして負け知らずであった、と。
実際には負け戦もあっただろうに、都合よく脚色してくれちゃって。
心地良い音色を乗せた詩は続く。
「義賊《シーフ》はその狡猾さを遺憾無く発揮し、魔導師の頭脳はどんな劣勢をも覆した。女戦士は大きな体躯と身の丈ほどの大剣を振り回して戦場を無双し、神官は卓越した治癒術式で彼らを支える後衛の要となった」
やや抽象的ではあるものの、彼らがバランスの良いチームであったことは雰囲気で感じ取れた。
そんな彼らをまとめた剣士は何者なのか、少し興味が湧いてきちゃったな。
「しかしそんな奇異な才能を持つ彼らに比べて、勇士を束ねる指揮者である剣士は、元々非力な男であったという」
興味が疑問に変わった。
あれだけの推定強キャラのリーダーをやっておいて、その彼自身が非力なのはどういうことなのか?
謎が謎を呼びすぎるぞ五英傑伝説。
「だが彼の心は強かった。他の英傑に並び立つべく、必死に努力してみせたのだ。大いなる力を手に入れるほどに」
大いなる、力……?
「剣士に相応しい大いなる力は、雪山の遺跡に眠っていた。仲間の力を借りて辿り着いたその先に、彼は大いなる力……聖鎧《せいがい》を纏うに至ったのである。その経緯を今語ろう」
せいがい……聖なる鎧ってことね。
遺跡に眠っていたってことは、あたしの『ソルマドラ』のような古代のマキナだったりするんだろうか。
「とても只人では立ち入れぬ霊峰、その奥深くの遺跡へ潜った五英傑は、聖鎧を守護するべく立ち塞がる強固なゴーレムと相対することに」
ゴーレムと聞くと、ナントカキマイラに変貌したカミュラとダリアを追うために王城へ向かっていた頃を思い出す。
あの時はニコラウス騎士団長の助けもあって、ゴーレムを踏み台にしてカミュラに追いついたんだっけ。
邪魔だとしか思ってなかったので印象は薄かったのだが、あれからあのゴーレムはどうなったんだろう。
「義賊《シーフ》の小賢しさは通用せず、魔導師のあらゆる魔法を弾き、女戦士の筋力を超える質量で圧倒する。ゴーレムの堅牢さは想像以上であり、さしもの彼らも苦戦を強いられた」
まあそれはそうだろう。
人数の差で有利とはいえ、単純なサイズ差では不利。
おまけに硬いとなれば、策を労さぬ限り勝ちは見えない。
「神官の治癒支援と、魔導師による脆い部位を狙う作戦が功を奏し、ゴーレムは一度沈んだように眠った。しかしゴーレムは再び立ち上がり、暴走を始める!」
展開が尻上がりに激しくなるに従って、リュートの旋律はより激しいリズムを奏でていく。
「嗚呼、彼らは満身創痍。もはやこれまでか! だが、こんな窮地においても、非力な剣士は挫けずに立ち上がった!」
おお、やるじゃない。
リーダーの剣士は力じゃ他で劣っていても、心がタフだったってわけね。
「そんな彼の勇気を認め、聖鎧は彼の一部となり顕現する。聖なる力に選ばれた剣士は、凄まじい威力の斬撃でゴーレムを両断したのでありました!」
ふむふむ。その聖鎧とやら、聞く限りではあたしの『ソルマドラ』と似ている気がする。
無論属性や固有能力《アビリティ》は違うのだろうが、そんな感覚がしてならない。
「大いなる力を手にした剣士は仲間からの称賛を受けて、次なる戦場へ——」
ふと、リュートの演奏が終焉を迎える。
どうやら区切りがついたらしい。
カノーネさんの詩に最初に拍手したのは、ニューだった。
「なんかすっげぇ! まるで姉貴みたいだな、ゴエーケツ!」
「ニューちゃんの姉貴がどんな人かは知らへんけど、とにかく五英傑は各地で伝説を残しとるからな。凄いのは間違いないで」
すいません、そのニューが言うところの姉貴ってあたしです……とは言わぬが花ってヤツで。
とにかく、カノーネさんは本当に吟遊詩人のようだった。
リュートを弾く指使いが洗練されているって感じだったし。
「英雄譚としては王道じゃったな。非力だった剣士が大いなる力を得て強敵を倒すカタルシス……好評になるのもわかるわい」
リテラがまるでレビュアーのように感想を述べる。
こいつもこいつで思うところはあるのだろうが、過程はどうあれ結果ハッピーならそれでいいってスタンスだし、普通に気に入りそうではあるわよね。
「うむ、まさしくロマンな英雄譚だった!」
馬の手綱を握りつつカノーネの詩を聞いていたジークはまあ、普通に気に入ると思ってた、
「気に入ってもらえて何よりや。吟遊詩人
「普段の訛りからは想像できないほど、語り口が流暢なのは気になりましたけど」
「ミュウきゅんは細かい事、気になるタイプなんやね。こういうのは数を重ねてたら、自然とこうなるモンやから」
要は場数を踏んでたら形になった、と。
わかる、反復って大事よね。
「カノーネさん、心に響く詩をありがとうございます。ところで、物は相談なんですけど——」
エメルがカノーネさんに相談……?
ま、まさか……。
「お、どないしたん?」
「こちらに詩にして頂きたいネタがございまして。レヴィンさんのことなんですけど」
「ほぉ、提供してくれるん? ええよええよ!」
「ええわけないでしょ! そんな予感してたわよ!」
そういうのは本人のいないトコでやんなさいよ!
実際やられたら困るけど!
「レヴィンさん、勇者の名が各地で詩として伝播することの、何がいけないんです?」
「何が、って……あるでしょ! 注目されると面倒なあれこれとか!」
「諦めい、レヴィン。普段から注目されまくっとる女じゃから、お主の苦悩がわからんのじゃ」
ぐっ、リテラの言うことにも一理あるけども。
エメルみたいな王族と一緒にされたくはないっていうか。
「ほほぉ。レヴィンはん、勇者って呼ばれとるんか」
「ちょっと、食いつかないでよ! エメルが勝手に呼んでるだけだから! あたしはそういう大層なモンじゃ——」
「名前聞いてそんなトコやろうとは思っとったんよ。風の噂で聞いとるで、王国公認勇者はん!」
時すでに遅し。
もう王都の外まで広まってたのか、あたしの名前。
嬉しいのかと言われればそうでもないけど。
ともかく場末の吟遊詩人にまで噂が広まっているとなれば、手はひとつしかない。
「ヤーナ」
「何か?」
「上手いこと人の記憶を弄れる魔導具とか作ってない?」
「どんだけ目立ちたくないんですの!?」
やいのやいのと言いつつも、馬車は進む。
商都グランツァイトまで、多分もう少し。