太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
第百六話 「あたしとは反りが合わないタイプと見たわね」
ウォルタート王国における商業の中心地であり、海の玄関口である商都グランツァイト。
敷地面積こそ王都には少し劣るが、店の多彩さは王国随一だと、出身者のリーネは語った。
勿論商都のことをご存知なリテラからは、「まるでショッピングモールがひとつの街を形成したかのようじゃった」と、お墨付きを頂いている。
その比喩が本当なのかどうかは些か疑問だったが、実際に到着して、目にしてわかった。
「確かにこれは……凄い賑わいね」
馬車を降りたあたしは比喩通りの光景を目にして、思わず呟いてしまう。
綺麗に区画整理された石畳の大通りには、レンガ造りの立派な建物が立ち並び、その一階部分は色とりどりのテントや日除けを張り出した店舗で埋め尽くされている。
そこを行き交う人々の服装も多種多様で、王都で見慣れた衣服だけではなく、地方民族のような意匠を凝らした鮮やかな衣装を纏う人も多い。
どこからか聞こえてくる海鳥の鳴き声と、鼻をくすぐる潮の香りが、ここが港町であることを強く主張していた。
「確かに、思った以上の賑やかさですね」
「すげぇよなあ。活気があるっつーの? 王都以外じゃこういうトコは初めてだな!」
ミュウくんとニューが商都の空気に圧倒されている。
「おおっ、早速辺りから香ばしい匂いが――」
「はいはいジークは勝手に行動しない!」
何か美味しそうな出店の匂いに釣られそうになったジークの首根っこを引っ張る。
「しかし、立ち往生してもいられませんわよ。乗船券を手に入れないと、公国行きの定期船には乗れませんし」
冷静な台詞とは裏腹に、ヤーナの動作は挙動不審だった。
あちこちをキョロキョロしたりして、賭場でも探しているのだろうか。
「それなら心配無用です。ザイゼル卿に伝書で予め頼んで、全員分の乗船券を確保してもらっています」
うーんエメルめ、手回しが早い。
「そのザイゼル卿って誰よ?」
「フェリクス・ザイゼル侯爵様のことですねっ。商都全体を統括していらっしゃる御方ですっ」
リーネはそのザイゼル卿という人を知っているらしい。
まあこの街の地主みたいなものなら、出身者に名が知れていても不思議じゃないか。
「なんや、ザイゼル卿と知り合いなんか? だいぶええトコのお嬢さんみたいやな、あんさん」
カノーネさんが探りを入れるように関係を聞いてきた。
エメルはいい所どころか王国の女王様なんだけど、今バレると困るわね。
一応秘密裏の外交ってことにはなってるし。
「ええ。私が小さい頃、母様がお世話になりまして。その伝手で手を回していただきました」
「さよか。パライソには観光で、っちゅう話やったけど、それにしては用意周到過ぎて少し引いてまうな」
「エメルは思い立ったらすぐ行動するタイプなのよ」
それとなくカノーネさんにはバレないようにフォローするのも難しいわね。
細心の注意を払わないと……特に口が軽い面々。
「大変やな、レヴィンはん達も。行動力の化身みたいなお嬢ちゃんに雇われて」
「別にそれほどでもないわよ。ある程度許容は出来てるし」
「ま、色々あるやろうけど頑張りや。流石にウチの分の乗船券は無いやろうし、自腹で買いに行って来るわ」
つまり、吟遊詩人カノーネとはここで一旦お別れということ。
ようやく肩の荷が降りそうでほっとする。
「船ん中で会うたら、今度はおひねり頼むわな」
そう言って手を振りながら、カノーネさんは商都の雑踏に混ざろうとするかのように去って行った。
「またなー、詩人の姉ちゃん!」
去って行く吟遊詩人の背中を、ニューが手を振って見送る。
「なんともまあ、油断も隙もない女じゃったな」
あたしの肩に座るリテラが、カノーネの印象をそう口にした。
「確かに、ボクらみたいな子供が相当好きなんだな、っていうのは伝わりましたけど」
ミュウくん、そうだけどそうじゃないのよ多分。
アイツは勝手に他人の子供のママを自称するくらいのヤバい奴なのよ、絶対。
そこまで考えて、ふと昨夜のカノーネさんが脳裏を過る。
——災害に言葉は通じへんし、人の心もわからへん。
——それでもあんさんは……その仇を殴るだけで済ませられるんか?
彼女に何があったかは知らない。
でも、近しい誰かの命を奪われたのかもしれない、ということは理解できる。
その上で、彼女の印象を端的に表すのならば。
「子供好きなのは本当みたいだけど、厄介で掴みどころがないっていうか。本性をまだ見せてない分、あたしとは反りが合わないタイプと見たわね」
そういうことにした。
これ以上アイツに後ろ髪を引かれてもしょうがないので、あたし達はリーネの案内でザイゼル卿とやらの邸宅へと向かうのだった。
※※※
商都の石畳を歩いていると、風が独特の香りを運んできてくれる。
露店の香ばしい匂いが潮風と混ざり合ったような、港町独特の空気感。
そんな香り漂う喧噪を抜けて、街の中心から少し離れた小高い丘の屋敷に辿り着いた。
「ここがザイゼル卿の邸宅ですねっ」
リーネが先頭に立ち、観光ガイドのように屋敷に向かって手を広げる。
「うむ、流石は侯爵家。見事なものだな」
ジークが語彙力のない感想を述べていたところに、知らない声が聞こえてきた。
「お褒めに預かり、恐悦至極にございます」
邸宅の門の方を見ると、燕尾服を身にまとった初老の男性が立っている。
この老人がザイゼル卿……なわけないし、おそらくは執事だろう。
「ローレンツ執事長! お久しぶりですね」
「久しぶり……ということは、エメラリア陛下でございますか!」
ローレンツと呼ばれたお爺さん執事は、エメルの顔を見るなり明るい表情になる。
そりゃあここの貴族と旧知なら、執事さんだって旧知よね。
「女王に即位されたと聞いた時は気が気ではありませんでしたが、なんとも立派になりましたな」
「十年近くもご無沙汰だったのです。私とていつまでも子供ではありませんよ」
ふふん、と自慢げに胸を張るエメル。
そういうところ子供っぽいって言われたことない?
「そのようですな。ご主人様より話は伺っております。そちらの皆様は、陛下のご友人でいらっしゃいますか?」
「ええ。そこの女王様に護衛を頼まれまして」
ローレンツさんの疑問に答えたのはヤーナだった。
「良ければ一緒に通していただけると嬉しいですわ」
「左様ですか、ご主人様と話し合って検討してみましょう。少々お待ちください」
そう会釈をして、ローレンツさんが門に戻る。
彼が門の柱にある小窓を開けると、占い師が使うような水晶玉が現れた。
そして水晶玉に手を置いて、静止したようにじっとしている。
「なあ、あの爺さん何やってんだ?」
「念話通信ですわね。おそらくあの水晶玉が、ザイゼル卿の部屋に念話を届けているのでしょう」
ローレンツさんの仕草に疑問を抱いたニューに向けてヤーナが解説する。
要は
しばらくして水晶玉から手を離したローレンツさんがこちらに向き直る。
「皆様、申し訳ございません。陛下の同行者を二名まで絞らせて頂いても構いませんかな?」
「むっ、全員では駄目なのか?」
「大所帯すぎると落ち着いて話せない人なんでしょ」
ジークは疑問に思っているが、こちらはエメルを除けば六人プラス一匹と妖精。
流石に客間に呼ぶには多いし、妥当な判断かもしれない。
「だったらあたしとヤーナがギラソール傭兵団を代表してってことで」
「ご配慮、痛み入ります」
ローレンツさんが深く会釈した。
「じゃあボクらはその間どうしましょう?」
「それはまあ……観光ではないか?」
「観光かぁ。あっしらも商都は初めてだし、リーネに案内してもらおう!」
「えっ、あのっ、お気持ちは嬉しいんですけどっ……私に務まりますかっ!?」
「心配せんでもわしがフォローするわい。わしもここには来たことあるしのう」
残りのメンバーがどうにかして暇つぶしするだろうとは思ってたけど、まさかリテラも参加するなんてね。
普段はアレだけど、あたし達の代わりに引率はできそうだし、ここは任せておこう。
「じゃあ引率お願いね、リテラ。どこで落ち合う?」
「そうじゃな、商都の傭兵ギルド支部辺りがええじゃろう」
その場所知らないんだけど。
まあ後で知ってる人に聞いてみればいいか。
「では陛下、こちらに。お二方も、どうぞ中へ」
あたしはヤーナと共にエメルの背中を追うように、ローレンツさんの案内に導かれて、ザイゼル卿邸宅の門をくぐった。